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蘇生の章2nd第八十一話 鍛錬の成果

 セルフィの宮殿で一夜を過ごしたリリシアは朝食を食べ終えた後、セルフィの修行を受けるべく宮殿の地下にある鍛錬場へと向かっていく。まず最初に行うのは、セルフィが操るヘルヘイム兵の人形を相手にした体術の訓練であった。リリシアは武器と術で戦っていたせいか体術においては経験ゼロであり、ヘルヘイム兵の人形にダメージを与えられなかったが、セルフィの指摘もあり徐々に体術のスキルが上達していき、ヘルヘイム兵の人形に攻撃を与えることに成功した。

 

 ヘルヘイム兵の人形を使った訓練が終わった後、セルフィはリリシアに戦闘スキルをつけさせるべく組み手を始める。両者一歩も譲らぬ状況が続いたが、セルフィの強力な体術によりリリシアは一気に窮地に立たされてしまう。だがリリシアは負けじと体術で立ち向かうが、セルフィの素早い身のこなしによってかわされ、反撃をくらってしまう。相手の技をひとつだけでもいいから盗めとセルフィから指摘されたリリシアはセルフィの動きを読み、セルフィの使う体術の一つを盗むことに成功し、一気にセルフィを攻めるも、『女帝の障壁(エンプレス・リジェクション)』によって無力化されてしまうのであった……。

 

 修行の中で徐々に体術の基礎を身につけ、リリシアは快進撃を続けていくが、セルフィは止めの一撃である波動弾を放ち、リリシアに猛攻をしかける。魔姫は炎の防壁を張り防御を試みるが波動弾の一撃によって壊されてしまい、再び窮地に立たされていた。

「セルフィ様の使った全てを無効化するあの障壁の技…あれを発動させていた時、セルフィ様は高速で魔力を練り上げ、障壁を発動させていた…となれば、昨日の瞑想のように魔力を練り上げれば発動できるかもしれないわ!!

リリシアがそう呟いた後、セルフィの波動弾がリリシアの体に命中し大きな爆発が巻き起こる。しかし、波動弾の一撃を受けたのにも関わらず、リリシアはほぼ無傷であった。

 「まさか…あの一瞬の間で魔力を練り上げ、女帝の障壁を発動させて防いだようね。さすがはヘルヘイムの奴らと戦ってきただけのことはあるわね。」

セルフィが驚きの表情を浮かべる中、リリシアは拳を構えてセルフィに襲いかかる。

「どうよセルフィ様…女帝の障壁、私でも発動させることができたわ。セルフィ様、覚悟しなさいっ!!

リリシアの攻撃をかわすべく、セルフィは急いで回避の態勢をとりリリシアの拳の一撃をかわす。リリシアの攻撃をかわした後、セルフィは組み手を終了し次の訓練の内容を伝える。

「そろそろ組み手を終了するわ。それにしてもあなたは短期間の組み手でここまで成長したわね…これであなたは『体術』と『女帝の障壁』を使いこなせるわ。さて、次は飛行訓練を行うわよ。ところでリリシア、あなたは翼とか浮遊術(フロウ・スペル)は持っているの?

「浮遊術の類は覚えていないけど、私は背中に翼を生やすことができるわよ。それで、訓練とは一体どのようなことをするのですか?

飛行訓練とは何をするかとのリリシアの言葉の後、セルフィはこれから行う飛行訓練の詳しい内容を伝える。

 「じゃあ、飛行訓練の内容を伝えるわ。飛行訓練というのは浮遊術か翼を使い、いかに空中でバランスを崩さずにいられるかが問われる訓練よ。まずはフェアルヘイムの聖なる森で飛行訓練を行うから、私の所に来てちょうだい。私が転送陣を使って描き聖なる森に案内するわ。」

リリシアに自分のもとへと来るようにと伝えた後、セルフィは鍛錬場の床に転送陣を描きフェアルヘイムの聖なる森へと移動する。

 

 「フェアルヘイムの聖なる森に着いたわよ。ここはね、聖鳥セイントバードが住むといわれる神聖な森なのよ。この森であなたにやってもらうことはただ一つ…空を飛んで私についてくることよ。」

リリシアにそう告げた後、セルフィは背中に四枚の翼を生やし空中へと舞い上がっていく。セルフィが森の奥へと姿を消した後、リリシアは急いで背中に六枚の翼を生やしセルフィを追う。

 「ちょっ…ちょっと待ってよセルフィ様っ!!

セルフィより翼が二枚多いだけあって、リリシアが森の奥へと消えたセルフィに追いつくのにはそう時間はかからなかった。

「セルフィ様、やっと見つけたわ。」

「いいわよリリシア…その調子で私についてきてちょうだい!!この先は川になっているから、バランスを崩せば川に落ちちゃうわよ。」

リリシアにそう告げた後、セルフィは急降下を始めリリシアとの距離を一気に離していく。リリシアは六枚の翼をはばたかせ、再びセルフィの後を追う。

「セルフィ様の言うとおり、ここから先は川になっているわね。とりあえず今の状態を維持すれば、なんとかセルフィ様に追いつけそうだわ。」

聖なる森に広がる川の上空を、翼を生やした二人が鳥のように舞う。セルフィはリリシアの様子を見ながら、リリシアの飛行能力を見定める。

「よしよし…うまくついてこれているじゃないの。飛行能力はなかなか悪くない…急降下も使いこなせているわね。とりあえず初級コースは合格…ってところね。」

背中に生やした翼で飛行を続ける二人は聖なる森を抜け、草木が生い茂る草原に着地する。

 「うまく私の後を追ってきたわね。よしよし、これで飛行訓練の初級コースは合格よ。次は飛行訓練の中級を行うわよ。次の飛行訓練を行う場所はヘルヘイムの宮下町の前に広がる『荊の森』で飛行訓練を行うわよ。リリシア、私のもとに来てちょうだい。」

リリシアに次の訓練の説明を告げた後、セルフィは転送の術を唱えリリシアとともに次の訓練の場所へと向かっていった……。

 

 リリシアが飛行訓練に励む中、ヴァルハラで鍛錬を続けるクリスたちのもとに大臣が現れ、ヴァルハラにヘルヘイムの魔物が現れたと告げる。

「た…大変です!!ヴァルハラの中にヘルヘイムの魔物が侵入してきました。兵士たち今魔物たちとが応戦しているので、急遽応援をよこしてくれ!!

応援をよこしてくれとの大臣の言葉の後、クリスたちは仲間たちを集め大臣のもとへと集まる。

「大臣様…ここは私たちにお任せくださいっ!!

「魔物は宮殿に侵入してはいないが…広間には数十匹の魔物が送り込まれた模様です。どうやらジャンドラは第二次天界大戦(スカイマキア)が始まる前に天界の中枢であるヴァルハラをつぶそうとしているようです。そこの者たちよ、是非とも宮殿前の魔物を殲滅してきてくれっ!!

大臣から宮殿前の魔物の殲滅を頼まれたクリスたちは、戦乙女たちとともに鍛錬場を後にし宮殿前へと向かっていく。クリスたちが宮殿前にきたときには、兵士たちはすでに息絶えていた。

 「くっ…送り込んだ兵士たちは全滅か!!ジャンドラの奴…天界大戦を再び起こそうとしているようだな。皆の者よ、今すぐ戦闘態勢に入り魔物たちを殲滅せよっ!!

オルトリンデの号令の後、クリスたちは戦闘態勢に入りヘルヘイムの魔物たちを迎え撃つ。他の仲間たちが身構える中、クリスは天帝の剣を構えヘルヘイムの魔物の群れの中へと走っていく。

「私たちの鍛錬の成果…みせてあげるわっ!!

クリスの剣から放たれた天帝の一閃が、魔物たちを容赦なく切り裂いていく。クリスの攻撃の後、カレニアが手のひらに炎の魔力を集め、大火球を生み出す。

「ヴァルハラでの厳しい鍛錬を乗り越えた私は、リリシアの持つ赤き炎に匹敵する程の大火球を生み出すことができるのよ。その威力…あなたたちの体で思い知るがいいわっ!!

そう叫んだ後、カレニアは手のひらに集めた大火球を魔物の群れの中へと放つ。大火球が魔物の体に直撃した瞬間、巨大な火柱が発生し他の魔物たちを巻き込んでいく。

「おいおい…お前らだけで魔物を殲滅するなんてずるいぞ。ちょっとは俺の出番も残してくれよな!!

クリスとカレニアが魔物たちを相手にする中、ディンゴは半ばあわてた表情でクリスたちの前に立ち、ボウガンの発射口を魔物の方へと向ける。

「俺はヴァルハラでの訓練を経て、リリシアとゲルヒルデのように限定解除(リミットカット)を発動させることに成功した。さて、まずはお前らで試し撃ちといくとするか…。」

ディンゴは精神を集中させ、自分の魔力を徐々に高め限定解除の態勢に入る。

 「よく見ておけ、これが俺の限定解除だ!!限定解除(リミットカット)・極限連射(アルテマ・ショット)!!

ディンゴは上空へと飛びあがり、自分の魔力をボウガンの弾丸に変えて魔物たちを攻撃する。発射口から迸る弾丸は雨のように拡散し、魔物たちの体を次々と撃ちぬいていく。

「さすがディンちゃん!!ならばお姉さんも少し…頑張ってみようかしら!!

ディンゴの活躍を見ていたゲルヒルデは戦闘態勢に入り、残りの魔物たちに立ち向かっていく。鍛錬場の教官の厳しい戦闘訓練を経た彼女は、依然とは見違えるまでに成長を果たしていた。

 「教官の厳しい訓練の末に手に入れた槍術…見せてあげますわよっ!!聖光大車輪っ!!

ゲルヒルデは巧みな指使いで槍を回転させ、魔物たちの方へと突っ込んでいく。槍の先端に集められた聖なる魔力は刃となり、迫りくる魔物たちを真っ二つに切り裂いていく。

「うむ…あいつら、この一週間でかなり戦闘スキルを上げているようだな。ヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラに敗北を喫したことが、彼らを強くする原動力となっているのかもしれないな…。」

クリスたちの活躍を静かに見ていたオルトリンデは、シュヴェルトライテとともにクリスたちの戦いを見届ける。だがシュヴェルトライテには、ひとつ気になることがあった。

 「オルトリンデよ…だがひとつ心に引っかかるものがある。昨日エンプレスガーデンのセルフィ様から受け取った伝令によると、ジャンドラは新たに三人の部下を加えたみたいだと。一人目はヘルヘイム宮下町のならず者のボス『ベン・ザ・エース』…二人目はヘルヘイムの殺人狂『狂王ラダマンティス』…三人目は何かと謎の多い『バロール』という奴だ。セルフィ様はいつも活きのいいヘルヘイムの情報をくれるので、何かと役に立つ。むむ…ヴァルハラの中央広場に魔物の気配を感じた。オルトリンデよ、私は中央広場の魔物を殲滅するので、クリスたちの応援を頼む!!

シュヴェルトライテがセルフィから受け取った伝令を話した後、オルトリンデにクリスたちの応援に入るようにと命じ、その場を去っていく。

「まさか…ジャンドラが新たに三人の部下を集めてきたというのか。やはり奴は再び天界大戦を起こそうとしているようだな。よし、私もそろそろクリスたちの応援に入るとするか。」

オルトリンデがそう呟いた後、レイピアを構えてクリスたちの助太刀に入る。

 「クリスたちの活躍もあって魔物の数も減ってはいるものの、次から次へと魔物が湧いて出てくるとなればこのヴァルハラのどこかに魔物を召喚している奴がいるかもしれないな…。」

オルトリンデは静かに目を閉じ、魔物を召喚する者の気配を探る。宮殿の物陰に魔力反応を感じたオルトリンデは、物陰で魔物を召喚しようとするヘルヘイムの召喚士に攻撃を仕掛ける。

「見つけたぞ…どこから入ってきたのかは知らんが、侵入者は生かしてはおけんっ!!

「くっ…居場所がばれちまったか!!だが、私はそれ相応の術を持って……がはぁっ!!

ヘルヘイムの召喚士が術を唱えようとした瞬間、オルトリンデのレイピアがヘルヘイムの召喚士の心臓を貫く。オルトリンデのレイピアに心臓を貫かれたヘルヘイムの召喚士はその場に倒れ、ぴくりとも動かなくなる。

「あいにく私は魔力を放つ者の気配を察知することができるのでな…貴様の居場所などお見通しだ。さて、そろそろクリスたちのもとへと戻るとしよう。」

召喚士を打ち倒したオルトリンデはレイピアを鞘に収め、クリスたちのいる場所へと戻っていく。オルトリンデが戻ってきたときには、召喚士によって呼び出された魔物はクリスたちによって倒されていた。

 「助太刀に来たのはいいが、もうすでに魔物たちはクリスたちによって倒された後だったな。」

オルトリンデがそう呟いた後、中央広場の魔物たちの殲滅へと向かったシュヴェルトライテが戻ってきた。

「オルト厘でよ、たった今中央広場の魔物の殲滅を完了した。皆の者よ、宮殿へ戻るぞ。」

宮殿前の魔物の殲滅を終えたクリスたちは、オーディンに報告するべく宮殿の中へと向かっていった。第二次天界大戦の開戦を前に、ヘルヘイムによるフェアルヘイム侵略計画が徐々に動き始めていた……。

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