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終章第八話 大海を行く

 ティエラとウルが二頭の洗脳獣ヒュプナーと戦う中、第二収容所の探索に取り掛かっていたリリシアと囚人達は独居房と思われる地下牢獄を発見し、洗脳されていない囚人の捜索に入っていた。しばらく探索を続けていると、かつてのレイオスたちを束ねたリーダーである光迅将軍ファルスが牢の中に囚われていた。居房の鍵を持っている見張り役のヘルズヒューマノイドを探しに向かおうとしたその時、魔力稼働型の回転刃を持ったヘルズヒューマノイドが現れ、リリシアに襲いかかってきた。一撃で致命傷を与える武器に徐々に追い詰められつつあったが、リリシアが投げたデッドリーワスプの毒針が運よくヘルズヒューマノイドの心臓を直撃し、圧倒的な窮地から勝利しファルスを救出することに成功した。それと同時にティエラとウルが二頭目のヒュプナーを打ち倒し、洗脳されていた囚人を解放し新たな戦力に加えるのであった……。

 

 リリシア達が第三収容所へと向かう中、ニルヴィニアの腹心の一人であるキャリアーとの戦いを終えたセルフィは中央大陸へと行くための船を買うべく、港の一角にある造船所を訪れていた。

「船を買いたいのだが…出来るだけ安い船はないか?

「確かに船ならこの造船場にはあるが…魔物の襲撃で大半の船が使い物にならなくなってしまった。残った船といえばこの小型の船が3隻しか残っていないが、それでもいいか?

船が欲しいとのレナードの言葉に、造船所の職人は渋い顔で答える。

「わかった…とりあえず小型の船を一隻いただこう。代金はいくらになりそうだ?

「長旅に特化した部屋付きの小型の船なら15万Gで売ってやろう。小さい船だが性能は十分ある…どうだい、こいつを買ってみないか?

職人から薦められた小型船を見たレナードは、その出来栄えに購入を決意する。

 「そいつは素晴らしい船だ…ぜひとも買わせていただこう。この設備なら安心して船旅ができそうだからな。ミシュリア、支払いは任せたよ。」

ミシュリアは船の代金を職人に渡すと、造船所の他の職人たちが港に移す準備に取り掛かる。

「お代は受け取ったぜ。今すぐ港に移しておくから、街の中をぶらぶらしながら少し待っていてくれ。あ、そうだ…船旅には食料が必要だから、市場で買っておくことをおすすめするぜ。」

造船所の職人たちが購入した小型船を港に移している間、セルフィたちは旅に必要な物を買うべく造船所を後にし、アドリアシティの市場へと向かうことにした。

「私たちが乗る船を港に移すまでの間、必要な道具を買いに行くとしようか。まずは装備だ…充実した武器と防具がなければこの先の戦いで苦戦を強いられるかもしれないからな。」

アドリアシティの市場へと来た一行は、まず最初に武器と防具の店を訪れた。天界から来たセルフィにとって、地上界の装備は見たこともないものばかりであった。

「色々と武器があるけど、私は強力な雷属性を持つ雷帝の爪があるから別に要らないわ。それより防具は天界では見たことも無いものばかりね。買うなら身軽で動きやすいものがよさそうね。」

動きやすそうな武闘着を見つけたセルフィは、さっそく手に取り見定める。

「この服なら身軽で動きやすいわね。私はこれだけでいいわ…。」

セルフィが支払いを買い物を終える中、レナードとミシュリアはそれぞれ使えそうな武具を探していた。

「私は美しく獲物を倒せる武器…このクレセントマチェーテと脅威的な斬れ味を誇るメタルブレードを買おう。二本あれば手数も増えて威力も倍増というわけだ。」

「レナードさん、私はこのフォーススタッフが気にいったわ。この杖は使い手の魔力を倍増する効果を持っているから、魔法を使える私にぴったりだわ!!あとこの魔術衣も欲しいところね。」

レナードとミシュリアはそれぞれ気に入った装備を見つけ、支払いを済ませて買い物を済ませる。武具屋を後にした一行は必要なものを買うべく、道具の店へと向かうことにした。

 「これで装備品の買い物は終わったようだな…さて、次は長旅に必要な食料と道具を買いにいくとしようか。船を港に移すまでまだ時間がかかりそうだからな。」

道具屋に到着したセルフィたちは、これからの旅に必要な物を探し始める。

 「体力と魔力を回復させる道具はたくさん買っておいたほうがいいわ。あと毒や麻痺などの状態異常を回復させる薬も必要ね。」

セルフィは体力を回復させるグリーンポーションと魔力を回復させる魔力の果実を大量に買い込んだ後、長い船旅に必要な食料を選んでいた。

「セルフィ、肉ばかりでは栄養が偏る…野菜も食べることも大事だ。あと料理の美味さを引き立てる調味料の類も必要だ。食材の調理は一番良く出来るほうだ…腹が減ったら私に任せてくれ。」

レナードからアドバイスを受けながら、セルフィは船旅に必要な食材と調味料を買いこんでいく。

「知っているかセルフィ…料理は食材の組み合わせと使う調味料次第で食べた者の潜在能力を引き出すことができる。例えば攻撃力を上げる食材の組み合わせは肉+野菜+香辛料、魔法の威力を上げる食材の組み合わせは魚+野菜+香草という感じかな。さて、食材を買い終わったら造船所に戻ろうか…そろそろ港に船を移す作業が完了しているはずだからな。」

道具屋で消耗品と食材を大量に買い込んだ後、セルフィたちは市場を後にし造船所へと戻る。セルフィたちが造船所に戻ってきたときには、船を港に移す作業は完了していた。

「いいところに来たな。船を港に移す作業は完了したぜ…さぁ、乗ってみな!!

造船所の職人に言われるがまま、セルフィたちは早速購入した船に乗り込む。船を見るのが初めてのセルフィとミシュリアは、嬉しさのあまり抱き合って喜び合う。

「これが地上界の海を進むための乗り物…少し変わった形だがなかなかいい造りね。早く操縦してみたいわ!!

「ボルディア王宮でずっと箱入り娘の私は船旅は生まれて初めてですわ。この船があれば…中央大陸に行けそうね!!

嬉しさのあまりはしゃぐ二人に、レナードが仲裁に入る。

 「二人とも、初めての船にはしゃぐのはいいが…職人から船の操縦方法を聞いておかないと後で絶対後悔するぞ。すまないが、船の操縦方法を教えてくれないか?

操縦方法を教えてほしいとの言葉に、造船所の職人は船の動力と操縦方法をセルフィたちに伝える。

「この船の動力は熱エネルギーだ。石炭を燃やした時に出る熱エネルギーを消費して船が動く仕組みだ。一応稼働するための石炭は用意してあるが、中央大陸に到着するまでかなり消費してしまうだろう。そうだ…火山地帯が多く鉱石や燃料の生産が盛んなフレイヤード国に寄港すれば、より高度な燃料が確保できるかもしれないな。あと操縦方法だが…舵を回した方向に船が動く。船のスピードは上げれば上げるほど石炭の消費が早くなる…石炭を温存したければ普通の速度を保つことが重要だ。初めは難しいと思うが、慣れればうまく操縦できるようになるさ。要は習うより慣れろだ!!

レナードは船の操縦方法をメモした後、早速船の操縦席へと向かう。

「なるほど…操縦の仕方はわかった。まずは練習がてら港の運河を出て海へ向かうのが一番だ。職人さん、いい船をありがとう…ぜひとも大切に使わせてもらうよ。」

レナードは舵を握り、海へと続く運河を進んでいく。しかしまだ操縦が不慣れな為か、船は何度も運河の壁にぶつかり、船の部屋にいたセルフィとミシュリアは揺れに耐えきれず転んでしまう。

「うわっ…今何かにぶつからなかった?

「ごめ…船の操縦は初めてなので数回ほど運河の壁にぶつけてしまった。もう少しで海に出るから…それまで我慢してほしい。」

三人を乗せた船はアドリアシティの運河を抜け、ついに広い大海原へと突入する。レナードは二人を操縦室に集め、これからの旅の計画を伝える。

 「ふぅ…なんとか海に出ることができた。さて、燃料である石炭は造船所の職人が用意してくれた分はあるが、中央大陸にたどり着く前に燃料が切れてしまう。まずは燃料確保のためにフレイヤード大陸を目指そう。しかしフレイヤードもニルヴィニアとやらが放った魔物の襲撃を受けているかも知れないから、たとえ船の上であってもいつでも戦える準備はしておいてくれ。私から話せることは以上だ…二人は船の見張りを頼む。もし魔物が襲ってきたら私に連絡してくれ。」

セルフィとミシュリアに船の見張りを任せた後、レナードは舵を取りフレイヤード大陸へと船を進ませる。一方船の見張りを任された二人は海を眺めながら、何やら話し合っていた。

「うわぁ…海ってこんなに美しくて広かったんだ。私はずっと王宮の中にいたからこんな景色を見るのは生まれて初めてだから、とても嬉しい気分よ。」

「私も海を見るのは初めてよ。海の中にはどんな生き物がいるのかなって思うのよね。しかし海というのは予想以外に広いわね…少し進んだだけで一面同じ景色になってしまうから自分たちがどこにいるのかも分からなくなってしまいそうだわ。」

二人が仲良く話し合う中、イルカのような生物がセルフィたちの乗る船を横切っていく。

「見て、あれはイルカモドキよ。子供のころに生物図鑑で見たのですが…あの生き物はイルカのようなかわいい風貌とは裏腹に凶暴な性格をしていて、群れを作って自分よりも大きい魔物を襲う習性があるのよ。また、跳躍力も高く船に乗り込んでくることもしばしばあるみたい……!!

ミシュリアの言葉の後、突如船に大きな物音が響き渡る。二人が物音があった方に振り返ってみると、甲板の上に数頭のイルカモドキが乗り込んでいた。

「早速私たちの船に乗り込んできたわね!!船を壊されてはたまらないわ…一気に攻めるわよ!!

「イルカモドキは凶暴だが、肉は美味で漁師たちの間で人気の食材といわれているわ。食料確保のためにも、ここは倒しておきたいわね。私はレナードさんを呼んできますので、それまで持ちこたえてくださいっ!!

船に乗り込んできたイルカモドキを倒すべく、セルフィは水棲生物の弱点である強力な雷属性を持つ雷帝の爪を構えて群れに飛び込んでいく。一方ミシュリアは魔物が現れたことをレナードに報告するため、急いで操縦室へと向かう。

「はぁはぁ…レナードさん、甲板に凶暴な水棲生物、イルカモドキの群れが乗り込んできました!!今セルフィさんが一人でイルカモドキの群れを相手に戦っていますが…私とセルフィさんだけでは少し不安なので援護をお願いします!!

「話はわかった。一緒にセルフィの援護に行くぞっ!!

二人がセルフィの援護に向かう中、セルフィは次々と襲ってくるイルカモドキの群れを蹴散らしていく。セルフィが最後の一匹に止めを刺そうとしたその時、突如水面から鋭い爪と牙をもつ大型の水棲生物が船の上に乗り込んできた。どうやらセルフィが倒したイルカモドキを食べるために乗り込んできたようだ。

 「別の魔物が乗り込んできたわね…しかもイルカモドキより大きい奴!!しかも私が倒したイルカモドキの死体を食べているわ。長く伸びた鋭い爪と牙を見るからに、あいつは凶暴な魔物のようね…ここは奴が腹を満たして帰ってくれるのを待つしかないわね。」

セルフィがゆっくりと後ずさりしながら魔物の様子を窺っていたその時、セルフィの気配を察知した魔物は咆哮を上げながらセルフィの方へと振り向く。

「やばい…見つかったわ!!

獲物を発見した魔物は捕食の手を止め、素早い動きでセルフィの方へと向かってくる。セルフィは雷帝の爪を構えて魔物と応戦する中、レナードとミシュリアが加勢に加わる。

「遅くなってすまない!!私たちが来た時にはイルカモドキの群れは全て倒されているが、セルフィはそれとは別に海から出てきた奴と戦っているようだな。ミシュリア、加勢するぞ。」

「セルフィさんが戦っている魔物はシザーリーパーよ!!『海の殺戮者』と呼ばれる水棲の魔物よ。まずは物理的攻撃を与えて奴の武器である長く伸びた爪を破壊すれば、攻撃力はかなり落ちるはずよ。しかし奴は俊敏性に優れているから、何らかの形で動きを封じることができればフォーススタッフの一撃を食らわせて爪を折ることが可能よ。」

陸地でも水中でも俊敏なシザーリーパーの動きを止めるべく、レナードは見えない糸を束ねてセルフィと交戦しているシザーリーパーの方へと向かっていく。

「動きを封じることは簡単さ。糸使いである私が美しく縛りあげて見せよう!!ミシュリア…私が合図を送ったら奴の爪に一撃を食らわせてやれ。女性の力では爪の破壊は不可能だが、杖に自分の魔力を込めれば大きな力が生まれるはずだ。大丈夫さ…君なら必ず華麗に決められるさっ!!

ミシュリアにそう伝えた後、レナードは束ねた糸でシザーリーパーの体を縛り上げる。見えない糸に縛られたシザーリーパーは体を大きく揺らし、糸を振りほどこうとする。

 「奴の動きを封じた…ミシュリア、奴の爪を叩き折ってやれっ!!

レナードの合図の後、ミシュリアはシザーリーパーの爪に杖の一撃を食らわせる。自らの魔力が込められ威力が倍増したフォーススタッフの一撃は、長く伸びたシザーリーパーの鋭い爪を粉砕するほどの威力であった。

「レナードとミシュリアの加勢のおかげで奴の戦力は大幅にダウンしたわ!!さて…止めの一撃と行こうかしらっ!!

セルフィは雷帝の爪に魔力を込め、止めの一撃を放つ態勢に入る。強力な雷のエネルギーを含有するゼクロナイト鉱石で作られた爪は電撃を帯び、青白く光り輝きだす。

「雷帝の爪に込められた雷の魔力よ、あらゆる物を引き裂く爪を生み出さんっ!!

セルフィは強大な雷を纏った爪の一撃を放ち、シザーリーパーの腹部を切裂く。切り裂かれた箇所から凄まじい電撃が流れ、シザーリーパーの体を焼き焦がす。

「はぁはぁ…なんとか倒せたようね。二人がいなかったら確実に引き裂かれていたところだったわ。」

「襲ってきた奴の爪はいい武器の材料として使えそうだが、肉は引きしまっていて食えたものではないな。奴の死体はとりあえず海に放り投げておこう…そうすれば他の水生生物の餌になるだろう。私はそろそろ操縦に戻るので、二人は引き続き見張りをよろしく頼むよ。」

シザーリーパーとの戦いに勝利したセルフィたちは、燃料の確保のためにフレイヤードを目指すべく船を進めるのであった……。

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