終章第六話 囚人たちの逆襲
キャリアーの放った魔物を仲間たちが撃破した一方、セルフィはたった一人でニルヴィニアの腹心のひとりであるキャリアーと交戦していた。体を覆う包帯を自由自在に操る能力を持つキャリアーの能力に苦戦を強いられる中、ホイールキャタピラーとの戦闘を終えたレナードが加勢に現れ、見えない糸を巧みに操りセルフィをサポートに入る。二人は連携攻撃を仕掛け、ついにキャリアーを撃破することに成功した
一方黄金郷では王宮防衛係のヘルズヒューマノイドが現れ、キャリアーが倒されたことをニルヴィニアに伝える。
「ニルヴィニア様…地上界ニ送リコンダキャリアーガ何者カニヨッテ倒サレタソウダ。」
「報告ごくろうであった。地上界に派遣した妾の腹心の一人であるキャリアーが何者かによって倒されたか…まさか地上界にこれほどまでの力を持つ者がいたとはな。キャリアーが倒されてしまった今、これからは妾が直々に魔物を生み出し、地上界に放流しよう。だが妾も一日に魔物を生み出せる量にも限りがある。強いて言うならば一日に約50匹…大型の魔物を生み出すとなればその半分といったところかな。一つ言い忘れていたがキャリアーは死ぬ前に魔物をあちこちに放ってくれた…いずれにせよ妾の地上界制服計画は着々と進んでいるのだからな。」
ニルヴィニアの言葉の後、王宮防衛係のヘルズヒューマノイドがニルヴィニアを褒めたたえる。
「流石ニルヴィニア様ノ腹心ダケアッテ、死ヌ前ニ結構イイ仕事シテクレタヨウダナ。サテ、私ハソロソロ見張リニ戻ルノデ、ニルヴィニア様…地上界偵察用ノ魔物ヲオ願イイタシマス。」
「よし、心得た。ならば偵察に適した魔物であるストーカーアイズを地上に送り込む。こいつは空から地上界を偵察し、地上界の現在の状況を妾に知らせてくれる便利な奴だ。一応こいつも多少の戦闘力を兼ね備えておるが、通常の魔物よりも戦闘力は劣る仕様となっているが、身の危険が迫ると超念力で他の魔物を呼び寄せる能力を持っている。妾は地上界に送りこむ魔物を生み出す準備に取り掛かるので、お前は王宮の見張りを続けてくれ。」
王宮防衛係のヘルズヒューマノイドに見張りを続けるようにと伝えた後、ニルヴィニアは地上界に送り込む魔物を生み出す準備に取りかかるのであった……。
アドリアシティに到着したセルフィたちがニルヴィニアの腹心の一人のキャリアーと交戦している中、地上界から連れてこられた囚人たちとともに収容所を脱獄に成功したリリシアたちは地上へと戻るべくニルヴィニアが作りだした空中大陸を進んでいた。しかしその一方、脱獄した者達が第二・第三収容所の囚人の解放を危惧したニルヴィニアは触角から洗脳音波を放つ洗脳獣ヒュプナーを生み出し、囚人たちを無理やり洗脳させ新世界創造の人柱に変えてしまった……。
「なんとかあの巨大な蜂を倒したが…囚人たちが何人か犠牲になってしまった。ところでリリシアよ、看守たちがぼそぼそと話していたが、我々が収容されていた収容所とは別の収容所が二か所あることを聞いた。まずは戦力を集めなければならん…囚われの身となった者たちを集め、帰るべき場所へと戻るしか方法はないのだからな。」
「みんなで生きて必ず地上界に戻るためにも、私たちがやるしかないんだものね。そのためにも、収容所の囚人たちを解放しないとね。」
リリシアたちが先を進む中、ウルの鋭い嗅覚がが人間の気配を感じ取る。
「ここから西の方角に人の気配を感じるわ…どうやら別の収容所があるかもしれないわ。ティエラさん、行ってみる価値はありそうよ!!」
一行がウルの嗅覚を頼りに進んで行くと、その目の先に収容所らしき建物が彼らの目に映る。
「ウルの嗅覚のおかげで、なんとか別の収容所を見つけることができた。ここは我々が襲撃をしかけて囚人たちを解放し、私たちの戦力に加えるとしよう。」
地上界から連れてこられた人間が収容されている第二収容所へと足を踏み入れたその時、異様な光景が彼らの目に飛び込んできた。
「むむ…強制労働を強いられているな。これ以上囚人たちが苦しむ姿は見てられん、私が救いだしてやる!!」
囚人たちは過酷な労働に文句の一つもこぼさず、一心不乱にニルヴィニアの楽園建設の作業に取り掛かっていた。その様子を見るに見かねたティエラが剣を構え、すぐさま建設現場へと走っていく。
「この収容所に連れてこられた囚人たちよ…助けに来たぞっ!!」
洗脳獣ヒュプナーによって精神を支配されている囚人たちは助けに来たティエラにも目もくれず、ただひたすら建設作業に励んでいた。
「おかしいな…助けに来たぞと言えば囚人たちは私の方に来るはずだが、私の声など耳にも貸さず仕事を続けているとはな。しかし何かが怪しい…どうやら何者かによって精神を支配されているとしか言いようがない。そういった精神操作や洗脳術を解くにはその術者を倒さなければならない。収容所の中にも人がいる可能性が高い…とりあえず収容所に突入するぞ!!」
剣を構えて囚人の救出に向かうティエラの前に、見張り役のヘルズヒューマノイドが立ちはだかる。
「オ、オ前ハ第一収容所カラ脱獄シタ奴ダナ!!第二収容所ノ囚人ヲ解放シニ来タカ…ダガニルヴィニア様ガ呼ビ出シタ洗脳獣ヒュプナーノ洗脳音波ニヨッテ囚人タチハ完全ナ労働力トナッタ。モハヤオ前ノ声アイツラニハ届カンゾ。ヒュプナーヲ倒サナケレバ囚人タチハ永遠ニ我々ノ労働力ダ!!」
「な…何だと!!ならば貴様を人質にして呼び出すまでだっ!!」
ティエラは見張り役のヘルズヒューマノイドを羽交い絞めにし、ヒュプナーを呼び出すように命令する。
「コ…コンナ事ヲシテタダデ済ムト思ウナヨッ!!」
「さぁ今すぐヒュプナーとやらを呼べ!!呼ばないと私の剣で貴様の首を討ち取るぞ!!」
その騒ぎを聞きつけ、他のヘルズヒューマノイドたちが次々と集まってくる。
「オイ何ガ起コッテイルンダ…詳シク教エロ!!」
「第一収容所ノ脱獄者ガ見張リ役ヲ人質ニトッテイルヨウダ。奴ノ要求ハヒュプナーヲ呼ベトノコトダ。マサカアイツラ、ヒュプナート戦ウツモリカ!!」
ティエラの脅迫に観念したのか、見張り役のヘルズヒューマノイドは仕方なくヒュプナーを呼ぶことを了承する。
「ワカッタヨ…オ前ノ要求通リヒュプナーヲ呼ンデヤルヨ!!マ、オ前ラニ勝テル相手デハナイガナ…オ前モアイツラノヨウニヒュプナーノ洗脳音波ヲ受ケテ奴隷ニナルンダカラナ!!」
ティエラの拘束から解放された見張り役のヘルズヒューマノイドは懐から鈴を取り出し、ヒュプナーを呼ぶ準備を始める。
「さて、そろそろヒュプナーとやらを呼んでもらおうか…だが少しでも余計な真似をすれば斬るぞ。」
「余計ナ真似ハシナイ。コノ鈴ヲ鳴ラセバ数分スレバ二体ノヒュプナーガココニ来ル。」
ヘルズヒューマノイドは手に持った鈴を鳴らした瞬間、黄金郷にいる二体のヒュプナーが鈴の音に反応し、鈴を持つ者のほうへと向かっていく。
「ゲロロロロロロロォォッ!!」
二体のヒュプナーは不気味な鳴き声を轟かせながら、翼をはばたかせて第二収容所へと向かっていく。鈴を鳴らしてから数分後、第二収容所の前にヒュプナーが降り立つ。
「クックック…サァ洗脳獣ヒュプナーヨ、オ前ノ催眠音波デコイツラヲ奴隷ニシテク……ッ!?」
突然呼び出されて機嫌が悪いのか、ヒュプナーは触角から光線を放ち呼び出した見張り役のヘルズヒューマノイドを焼き尽くす。しかし怒りが収まらないヒュプナーは触角から光線を乱射し、騒ぎを聞きつけて集まったヘルズヒューマノイドたちをも攻撃する。
「ナ…ナゼダ!!ナゼ俺ヲ攻撃シタヒュプナー!!オ前ヲ呼ンダノハ俺ナノニ……!!」
「ゲロロ…ゲロロロロォォッ!!」
ヘルズヒューマノイドたちを蹴散らしたヒュプナーは、見張り役のヘルズヒューマノイドのすぐそばにいたティエラに襲いかかってきた。
「こいつは私がやる…他の者たちは収容所内にいる洗脳されていない囚人の探索を始めろっ!!ウル、お前は私を援護してくれっ!!」
ティエラとウルが二体のヒュプナーと戦う中、リリシアは囚人たちとともに第二収容所の内部へと向かっていく。
「ウル、奴は洗脳音波を使うと見張り役の奴が言っていた。耳栓をしておけば奴の洗脳音波を受けても脳がイカれるのを防いでくれる。とりあえず付けておけ。」
「いい物をありがとう。さて…そろそろ囚人たちに酷いことした奴らをやっつけるわよっ!!」
二人は戦闘態勢に入り、二体のヒュプナーに立ち向かっていく。
「ゲロロロロロォッ!!」
触角から雷の光線を放ち、こちらのほうへと向かっていくティエラとウルを攻撃する。しかし二人は素早い身のこなしで光線を回避し、ヒュプナーの懐へと向かっていく。
「二体同時に相手するのは厄介だ…ここは連携攻撃で一匹目を仕留めるのが先決だな。ウル、この場はコンビネーション作戦で行くぞっ!!」
ヒュプナーの懐に到達した二人は素早いスピードでかく乱し、攻撃のチャンスを窺う。そんな中、もう一体のヒュプナーは触角から洗脳音波を放ち、二人を洗脳しようとする。
「ゲロロロ…ゲロロロォォォォッ!!!」
「残念だったな…私は耳栓を付けているから貴様の洗脳音波など無意味だ。ま、洗脳術の類は本人の意思の強さが強ければ強いほど効きにくくなるのだよっ!!」
洗脳音波を強い意志と耳栓で乗り切った二人は、鋭い爪と剣の連携攻撃でヒュプナーを追い詰めていく。
「行くぞ…双牙の刃、クロスブレイクっ!!」
ウルの鋭い爪がヒュプナーの体を切り裂くと同時に、ティエラの渾身の斬撃が怒涛となって繰り出される。二人の連携攻撃を受けたヒュプナーは絶大なダメージを受け、地面へと崩れ落ちる。
「はぁはぁ…まずは一匹仕留めたぞ。後は残りの奴だけだ…ウル、まだやれそうか?」
「私はまだ戦えるわ。ティエラさん、くれぐれも油断しないでね。」
ヒュプナーを一体仕留めたティエラとウルは残り一体のヒュプナーを倒すべく、武器を構えてヒュプナーを迎え撃つ態勢に入るのであった……。
ティエラとウルが二体のヒュプナーと交戦する中、第二収容所の中に突入したリリシア達は洗脳されていない囚人を探すため、牢獄の中へと来ていた。
「囚人が収容されている牢獄に来たけど…ほぼ全員が洗脳されているみたいね。しかしなぜか人間の気配を感じるわ。みんな、この収容所のどこかにまだ洗脳されていない囚人がいるかもしれないわ。とにかく収容所の内部をくまなく探してみましょう。」
人間の気配を感じたリリシアは囚人たちにそう伝えたあと、囚人たちとともに収容所の内部の探索を始める。しばらく探索を進めていると、囚人の一人が隠し階段を発見する。
「おい、隠し階段があったぞ!!こいつめ、地下牢獄も作っていやがったか!!」
隠し階段を発見した囚人の言葉の後、リリシアがすぐさま現場に急行する。
「ありがとう…よく見つけてくれた。どうやらこの先から強い人間の気配を感じるわ…とりあえず行ってみる価値はありそうね。」
リリシアと囚人達はまだ洗脳されていない囚人を助けるべく、隠し階段を下りて隠された地下牢獄へと向かうのであった……。