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終章第四十三話 思い出のブーメラン

 

 視界を奪うほどの猛吹雪の影響で遅れをとったリリシア達であったが、ふと立ち寄った村でカレニアたちと合流することに成功した。しかしカレニアは村に来る途中、母親からもらい受けた赤い眼鏡をなくしてしまったらしく、ひどく落ち込んでいた様子であった。そんな彼女を助けるため、リリシアとブレアは来た道を戻り、なくした眼鏡を探しに行くのであった……。

 

 リリシアとブレアが眼鏡を探しに行っている間、老婆の家にいるレナードとカレニアは旅で起こった出来事を話し合っていた。

「まずは私がここに来るまでの出来事を話しておくわ。あの小娘の一軒の後、私とブレアは崩れ落ちる抜け道を抜けた後、廃墟と化した市役所らしき建物を見つけたわ。その中を調べている途中で雪の女王とかいう奴の部下が襲ってきたわ。なんとか退けた私たちは二階の事務所を探索したところ、ウォルティア領北の全域の地図と町長の日記を見つけたわ。日記の内容には100年前はこのウォルティア領北は緑あふれる大地だったけど、突如として現れた雪の女王によって極寒の地に変えられてしまったということが記されていたわ。詳しい手掛かりはメモに書き残しているから、後でリリシアたちと一緒に見てちょうだい。」

一通りいきさつを話した後、カレニアは重要な手がかりが書かれたメモをレナードに手渡す。

「いい情報をありがとう。私もここに来る途中、雪の女王の部下に出くわしたよ。リリシアのおかげでなんとか倒すことができたが、その後も氷の狼が襲ってきて散々だったよ。猛吹雪にあい、小屋の中で吹雪がおさまるまで立ち往生するしかなかったんだ。吹雪がおさまったのは夜ぐらいだった…そのあと私たちは旧ウォルティア城下町を目指していて進んでいたところ、この村を見つけたのさ。」

猛吹雪で立ち往生を食らってしまったとの旨を聞き、彼女もまたあの猛吹雪で苦しめられたことを話す。

「私もあの猛吹雪には苦しめられたわ。洞穴に避難していたが、ブレアと一緒に強行突破を試みたが、しばらく進んだところで魔力が切れて動けなくなったところをあのお婆さんに助けてもらったのよ。ところで、今あなたが使っている武器を見せてくれるかな?」

武器を見せてほしいとのカレニアの言葉に、レナードは鞘に納められた二つの剣をテーブルに置く。

「今私が使っているのは片手用の剣、メタルスライサーとクレセントマチェーテの二つさ。私が子供のころはブーメランを使っていたが、遊んでいるうちにこのように欠けてしまい、ブーメランとしては機能しないものとなってしまったのだ。」

レナードが鞄の中から黒ずんだブーメランの残骸をテーブルに置いた瞬間、強烈な臭気が部屋中を包み込む。ブーメランの残骸に手垢と汗が染みついた臭いであり、カレニアは思わず鼻をつまむ。

 「うっ…なんて臭いなのっ!!なんでこんなものを鞄の中に持っているのよ!!早くその汚い残骸を鞄の中にしまいなさい…!!

レナードが子供の頃に愛用していたブーメランの残骸から放つ強烈な臭いにカレニアが悶え苦しむ中、雪原に落としてきたカレニアの眼鏡を見つけたリリシアとブレアが戻ってきた。

「カレニア、あなたの眼鏡を見つけてきたわよ。」

見つけてきた愛用の眼鏡をカレニアに手渡すと、嬉しそうな表情を浮かべながら眼鏡をかける。

「ありがとう…視界の悪い雪の中で落として、もう見つからないと思ったわ。ところで、今先ほどレナードの武器を見せてもらったんだけど、種類の違う片手用の剣を双剣として使っていたわ。鞄の中には双剣のほかにも、子供の頃に使っていたブーメランの残骸を見せてもらったけど、ボロボロで手垢と汗にまみれて臭いが酷いものだったわ。今から実物を見せてあげるわ。」

カレニアはレナードの了承を得て、鞄の中からブーメランの残骸を取り出す。ブーメランの残骸から放たれる手垢と汗が酸化した強烈な臭気が部屋中に立ち込め、リリシアとブレアは思わず鼻をつまむほどであった。

「ば…場所を変えましょう。こんなところだと臭いが染みついてしまうわ!!

「なんだこの匂いは…鼻が曲がりそうだ!!

リリシアとブレアが強烈な臭気に苦しむ中、一行は老婆の家から村の離れに場所を移す。

 「さて、先ほど見せたこの強烈な臭いを放つこのブーメランの残骸だが、鍛えなおせば新たな武器に生まれ変わる可能性を秘めているわ。」

「確かにカレニアの言う通りね…子供の頃から大切に扱ってきた武器だからね。この手垢と汗の強烈な臭いがあるからこそ、磨けば光るかもしれないからね。」

ブーメランの残骸には可能性を秘めていたが、カレニアが現状を告げる。

「まず素材が足りない、鍛治設備もない、火種もない、武器職人もいない。そんな状況では武器を作るのは不可能よ。私は子供の頃に武器鍛治をしたことはあるけど、腕前は素人同然よ…火種は炎の術を使える私とリリシアとブレアがいるわ。素材はこの近辺で採れる鉱石を使えばなんとかなりそうだわ。みんな、そうと決まれば鍛治設備を作るところから始めるわよ!!

リリシア達が簡単な鍛治設備を整える中、レナードは採取道具を手に村の外へと向かう。

「ブーメランを作るとなればかなりの量の鉄鉱石が必要になるな…鍛治設備ができるまで私一人で素材の採取をしてくるよ。」

「わかったわ。夜も更けてきたから魔物が活発になっているわ。くれぐれも気を付けて。」

カレニアに見送られ、レナードは村を離れて採掘へと向かう。しばらく雪の中を進んでいると、いかにも採掘に適した大きな亀裂の入った岩を見つけた。

 「ふむ…この亀裂からわずかだが鉄の臭いがするな。ではいただくとしよう!!

レナードは鶴嘴を構え、一心不乱に岩に入った亀裂へと鶴嘴を振るう。亀裂から岩とともに鉄鉱石の塊がいくつか掘り出されたが、満足するほどの数ではなかった。

「なかなか純度の良い鉄鉱石がとれたな。だがこれではブーメランの生産にはまだ足りない…他の場所へと行くとしよう。」

材料の鉄鉱石を手に入れたレナードは、村の離れにある大きな岩壁へと場所を移し採掘を始める。岩壁からは大量の鉄鉱石とともに、光を放つ水晶が掘り出される。

 「これでブーメランを作るのに必要な量は集まったな。だが鉄鉱石と一緒に掘り出されたこの水晶からは何かしらの隠し味に使えそうな力を感じるな。一応こいつも鞄の中にしまっておこう。」

岩壁から掘り出された鉄鉱石と光を放つ謎の水晶を鞄の中に入れた後、素材採集を終えたレナードはブーメランを作るため、急いで村へと戻るのであった……。

 

 一方そのころ、村の離れではリリシアたちが作っていた鍛治設備が完成し、鉱石の採掘に出かけたレナードの帰りを待っていた。

「簡素な作りだが、鍛治設備が完成したわ!!私たち三人の炎の魔力を宿した火種なら、一定の温度を保った状態で鍛治ができそうね。あとは鉄鉱石を掘りに出かけているレナードが帰ってくるのを待つだけよ!!

鍛治施設の完成から数十分後、レナードがリリシア達の元へと戻ってきた。大きく膨れ上がった鞄の中には、この近辺で採掘された鉄鉱石と水晶が詰め込まれていた。

「みんなお待たせ…これだけあれば足りるかな?

「これだけあればブーメランを作るには十分すぎる量よ!!鍛治設備の準備は先ほど終わったわ。いつでも開発に取り掛かれるわ!!まずはレナードの持っているブーメランの残骸からしみ込んだ汗と手垢の成分を抽出させ、ブーメランの素体を作り出すことから始めるわよ。リリシア、分離をお願いね。」

カレニアの言葉の後、リリシアはレナードの鞄の中からすさまじい臭いを放つブーメランの残骸を取り出した後、両手に魔力を込めてブーメランの残骸に魔力を送り込み始める。するとブーメランの残骸から手垢と汗の成分が凝縮されたブーメランの素体が現れ、残骸は音もなく砕け散る。

「分離完了…次はレナードが持ってきた鉄鉱石を溶かして、ブーメランの形にする工程に入るわ。鉄を叩くためのハンマーなら私が持ってるから、リリシアとブレアは火種を大きくしてちょうだい!!

リリシアとブレアが火種に炎の魔力を込める中、カレニアはレナードが集めてきた鉄鉱石を溶かす作業に入る。高温を放つ火種の熱により、大量の鉄鉱石はあっという間にどろどろの流動体と化す。

 「さて、次はこのどろどろに溶かした鉄に先ほど抽出したブーメランの素体を細かく砕いて鉄の中に入れ、ブーメランの形になるまでひたすら叩く!!火種の温度が高ければ高いほど鉄の原石から性能の良い武器へと生まれ変わるのよ!!

ただひたすら地金にハンマーを振るい、地金をブーメランの形へと仕上げていく。だが何か物足りないのか、リリシアとブレアにさらに火力を上げるように指示する。

「まだよ…まだ温度が足りない!!リリシア!!ブレア!!もっと火種に炎の魔力を!!

「さらに温度を上げるですって…なら全力でやってやるわ!!

二人はさらに魔力を注ぎ込み、火種を黒炎を放つまでに成長させる。激しく黒炎が燃え上がる中、カレニアはさらに地金を叩き、鍛治の仕上げに入る。

「これで最後の仕上げに入るわよっ!!私の渾身の一打で叩きあげる!!

カレニアはハンマーに炎の魔力を宿し、地金に渾身の一発を叩きこむ。その凄まじい渾身の一撃が炸裂した瞬間、リリシアとブレアの魔力が込められた火種が黒き火柱となって天を焦がす。

 「はぁはぁ…最高の出来に仕上がったわ!!あとは地金を冷やして完成させるだけよ。レナード、急いで水を用意してちょうだい!

レナードは急いで水を用意し、ブーメランの形に仕上がった地金を水の中へと入れて冷却に取り掛かる。仲間たちとの協力で完成したブーメランは、赤き輝きを放つへ最高の武器へと生まれ変わった。

「子供の頃に使っていたブーメランが…君たちのおかげで強力な武器へと生まれ変わった!!みんな、私の為にここまでしてくれてありがとう!!

「私が初めて武器鍛治で作った武器よ…大切に使ってあげてね。」

「さすがに火種を作る作業で魔力を使いすぎたわ。早く睡眠をとって魔力を回復させなきゃね。」

レナードのブーメランを作り終えた仲間たちは、休息をとるべく老婆の家へと戻るのであった……。

 

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