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終章第四十四話 操られしセルフィ

 

 レナードのブーメランの鍛冶を終えた一行は老婆の家へと戻り、就寝の準備を進めていた。レナードは生まれ変わったブーメランを手にとり、その内に秘める力を見定めていた。

「これが私の新たなる武器…仲間たちの絆と炎の力がこめられた逸品だな。試しに少し投げてみるとするか。」

外に出たレナードはブーメランを構え、大きく空へと放り投げる。空を裂きながら飛んでいったブーメランは赤い軌跡を描きながら、レナードの手へと戻ってくる。

「こいつはすごいや…子供の頃に使っていた時と比べれば飛距離と攻撃力も上がってさらにイカすブーメランに仕上がっているようだ!!

老婆の家の外でブーメランの試し投げをしているレナードの前に、寝る準備を済ませたカレニアが現れる。

 「あら、部屋にいないと思ったらこんなところにいたのね。ひとつ言い忘れていたけど、ブーメランはデリケートな武器だから、乱暴に扱い続ければぽっきりと折れてしまうわよ。」

カレニアからブーメランはデリケートな武器だということを聞かされたレナードは、笑顔でこう言葉を返す。

「はは…大丈夫さ。ブーメラン本体にかなりの負荷がかからない限りは折れることはないと思う。投げ方は子供の頃の記憶を思い出しながら練習してみるよ。」

「確かにね…いいブーメランを持っていても、投げ方が下手なら敵を倒すどころか自分に当たってしまって逆にケガする危険性もあるからね。このブーメランは私が始めて鍛治で作った力作だから、壊したりしたら承知しないからね。」

そのあとレナードはカレニアの指導のもと、ブーメランの投げ方を学んでいた。

「カレニア殿、私の練習に付き合ってくれてありがとう。あなたの作ったブーメラン、大切に使わせてもらうよ。」

「うふふ…少し練習しただけでずいぶん投げ方が様になってきたじゃないの。じゃあ私はそろそろ家に戻って寝るから、あなたも早く寝なさいよね。」

早く寝るようにとレナードに伝えた後、カレニアが老婆の家へと戻っていく。ブーメランの試し投げを終えたレナードはふと夜空を見上げ、セルフィとミシュリアのことを思っていた。

「待っててくれよセルフィ…そしてミシュリア、必ず助けにいくからな。」

ロレンツォによって囚われた仲間を必ず助け出すと心に誓ったあと、レナードも老婆の家へと戻り、決戦の日に備えて眠りにつくのであった……。

 

 老婆の家で一夜を過ごした一行は寝る場所を提供してくれた老婆に感謝の言葉を述べた後、辺境の村を後にし、廃墟と化した城下町の中を進んでいた。

「さぁて、これからいよいよ敵の本拠地の旧ウォルティア城に突入するわよ!!

「準備は万全…だが何事にも絶対という保証はない。気を引き締めないとな。」

廃墟と化した城下町を抜けた先には、旧ウォルティア城へと続く巨大な城門が現れる。城の外壁は長い間風雪にさらされていたせいなのか、あちこち氷柱が発生し不気味さを増していた。

「この城から膨大な魔力の波長を感じる…敵はロレンツォだけじゃなさそうね。」

城へと続く門を開け、一行が城内へと続く扉へと足を踏み入れようとしたその時、大人の全長ほどある氷柱が目の前に落下してきた。

 「はぁはぁ…危ないところだった。寒冷地帯ではこのようなことは日常茶飯事だからな。あれほどの大きさの氷柱がもし頭部に直撃すれば頭蓋骨を簡単に貫かれて即死だろうな。」

間一髪で大事を免れ冷や汗をかく中、一行は扉を開けて旧ウォルティア城の中へと入る。城の玄関に来た一行の目に、黄金郷でのニルヴィニアとの戦いの中でセルフィに託したリリシアの髪飾りと青いリボンがそこにあった。

「あ、あれは私がニルヴィニアとの戦いでセルフィに託した髪飾りとリボン……まさかセルフィの身に何かあったのかもしれないわ!!

セルフィが今置かれている状況を心配する中、不気味な笑みとともにミシュリアが一行の目の前に現れる。

 「ウフフ…そのとおりよ。セルフィはここから逃げようとしたのよ。でもロレンツォ様からは逃げられず女帝の魔力を奪われ、ロレンツォ様の命令に従う操り人形になったのよ。」

麗しき白い髪を濃い紅色に染め、美しくも邪悪さを醸し出す黒いドレスに身を包んだミシュリアからは、おぞましいほどの混沌の魔力が渦巻いていた。

「う…嘘だろ!?セルフィがロレンツォの操り人形になったってどういうことだよミシュリア!!

「おのれ小娘…セルフィに何したのよっ!!

リリシアとレナードが怒りの表情で詰め寄る中、電撃鞭を構えたミシュリアがこう答える。

「嘘じゃないわよ…じゃあ今からセルフィをここに連れてきてあげるわ。 セルフィあなたの仲間たちが来てくれたわよっ!!

その言葉の後、城の奥からセルフィが現れ、ミシュリアのほうへと歩いていく。しかしその眼は光をなくしており、何者かに操られているようであった。

「セ…セルフィっ!!どうして君が……!?

「アハハッ!!どう、再会は喜んでもらえたかしらさぁセルフィ、侵入者たちを抹殺してちょうだい!!

リリシア達の抹殺をセルフィに命じた後、そそくさとその場を去っていく。

 「ミシュリア様…これより侵入者を排除します。まずはレナード…あなたから死んでもらう!!

凄まじい雷の力を含むゼオライト鉱石で作られた雷帝の爪を構え、セルフィは稲妻のような素早さでレナードのほうへと向かっていく。レナードは間一髪でセルフィの爪の一撃をかわし、ブーメランを構えてすぐさま反撃の態勢に入る。

「仲間だが…ここはやむを得ない!!セルフィ、私が正気に戻させてやる!!

渾身の力を込めたブーメランの一投がセルフィの頭をかすめた後、再びレナードの手へと戻る。今の一撃でセルフィが体勢を崩した隙に、カレニアがセルフィに詰め寄る。

「私的には仲間であるあなたとは戦いたくはないが、仲間に手を出すのならこの私が許さないわよ!!

「邪魔…しないで!!

強烈な脚力から繰り出される回し蹴りを腹部に食らったものの、彼女はすぐさま体勢を立て直して攻撃の態勢に入る。カレニアがセルフィと交戦する中、レナードは何かに気づいた様子でセルフィの頭上に目をやると、普通の人には見えない無数の魔力の糸がセルフィの頭から出ていた。

「見えた…人間の神経を操る糸が!!あの糸は人間の神経を支配し、意のままに操ることができる闇の技術、つまり糸術の暗技だ。どうやらロレンツォ様は遠くでこの糸を使いセルフィを操っていたのか。あの忌まわしき糸を断ち切ることさえできればセルフィは助かるかもしれない!!

人間の精神を操る魔力の糸を見抜いたレナードはブーメランを構え、セルフィの頭上に狙いを定める。

 「狙いは外さん…必ず命中させて見せる!!

力強く放たれたブーメランは空中で大きく回転しながら、セルフィの頭上に伸びる糸を切り裂いていく。精神を操る糸の呪縛から解き放たれたセルフィは、ふらふらと歩きながらその場に倒れる。

「セルフィの動きが止まったわ。一体なにが起こったの!?

カレニアがロレンツォの呪縛から解き放たれたセルフィを抱きかかえると、レナードは怒りに震えながらその経緯を話し始める。

「どうやらセルフィはロレンツォ様の精神を操る糸によって操られていたようだ。その原理は対象の脳を操り、意のままに操る糸術の暗技だ。だから私はセルフィの頭に刺さっている糸を切り、セルフィを呪縛から解放したというわけさ。ロレンツォ様は私と同じ糸術を使えるが、決してそのような暗技は絶対に人に向けては使わない人間だった!その優しかったロレンツォ様を忌まわしき洗脳術で非道な人間に変えた奴らが一番許せない!!

セルフィは心臓は鼓動を続けているが、人形のようにぴくりとも動かない状態であった。

「セルフィの体から魔力が感じられないわ。ロレンツォに女帝の魔力を奪われて抜け殻同然にされた挙句、操り人形にされていたのね!!奪われた女帝の魔力を悪用されたら大変なことになるわ!!

リリシアは女帝の魔力を失い抜け殻と化したセルフィを背負うと、すぐさま仲間たちを連れて旧ウォルティア城の内部へと進み始めるのであった……。

 

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