終章第四十一話 双炎の姉弟は吹雪の中を進む
旧ウォルティア城へと向かう途中、無人の民家を見つけたリリシアとレナードはウォルティア領北の手がかりを得るべく、レナードの糸術で鍵を開けて家の中へと入り探索を始める。レナードが二階の子供部屋を探索していたところ、子供が使っていたとされるウォルティア領北の地図を発見した。どうやらこの家に住んでいた子供は旧ウォルティア城下町にある学校に通っており、赤いペンで行き先が記されれていた。地図という重要な手掛かりを得たリリシアたちが再び旧ウォルティア城へと向かうべく家を後にしようとしたその時、外は視界が奪われるほどの猛吹雪であった……。
吹き荒れる吹雪は未だ止まず、二人は今も家の中で避難を強いられていた。
「もう我慢できない!!吹雪が止むまでこの家の中で足止めなんてしてられないわ!!」
「仕方ないな…あれだけの吹雪の中で出歩けば余計に体力を消耗してしまう。この家には暖炉があるが、火をおこす物がないな。火打石さえあれば火をつけることはできそうだが…。」
暖炉には古い薪が置いてあったが、火をおこす道具や貴重品などは避難する際に持ち出されていた後であった。
「大丈夫よ。私は炎の術を使えるから暖炉に火をつけることは可能よ。」
リリシアは赤き炎の魔力を使い、暖炉に置かれていた薪に火をつける。暖炉に火がともった瞬間、冬の寒さが支配する家の中が温もりに包まれる。
「ありがとう、これで少しは暖かくなったかな。では私は仮眠をとって体力を回復させるよ。君も少し休んだ方がいい、先ほどの戦いで魔力を大幅に消費しているからね。」
レナードは戦いで疲れた体を回復させるため、暖炉の前で横になり眠りにつく。
「私はまだまだ体力と魔力は残っているから、火の番だけはしなきゃいけないわ。私よりあなたが一番戦っているから、しばらく体を休めていいわよ。」
レナードが眠っている間、リリシアは火の番と敵が襲ってこないよう見張りを始めるのであった……。
リリシアたちが小屋の中で避難している間、旧ウォルティア城へと向かうカレニアたちも吹雪のせいで足止めを食らい、洞穴の中で避難を強いられていた。
「まったく、突然の猛吹雪のせいでこんなところで足止めをくらう羽目になったじゃないの!!私たちは一刻も早くリリシアたちと合流しなきゃならないってのに!!」
「それにしてもひどい吹雪だ、これでは先に進めないよ!!」
二人は町役場跡で入手した地図を頼りに雪原を進み、リリシアたちよりも先に旧ウォルティア領へと来ていた。しかし突然の猛吹雪のせいで、洞穴に避難せざるを得ない状況となってしまったのだ。
「あらゆる命を凍てつかせる猛吹雪の中で出歩けば凍え死んでしまうわ。吹雪が止むまでこの洞穴の中で待つしかなさそうね。」
しかしいくら時間が経っても吹き荒れる猛吹雪は止む気配はなく、ただ時間だけが過ぎていく現状であった。
「もう我慢ならないわ!!ブレア、少しばかり協力してもらうわよ!!こんなところで待っていてはいつまでたっても目的地には進めないわ!!」
「ま、まさかお姉ちゃん!!この吹雪の中を進む気かいっ!?」
痺れを切らしたカレニアの言葉に、ブレアは驚きの表情を浮かべる。
「やることはただひとつ…私とブレアの炎の魔力を合わせて炎の結界をつくり、その結界を利用して吹雪の中を進むと言う作戦よ!!」
「さすがお姉ちゃん!!これなら凍え死ぬことなく猛吹雪の中を進めるね!!じゃあさっそく行動を開始しよう!!」
洞穴を出た二人は炎の結界を発動させ、手をつなぎながら猛吹雪の中を進んでいく。
「わたしたちの魔力が切れる前に、少しでも目的地へ近づかなきゃ!!ブレア、ここは一気に突っ走るわよ!!」
炎の結界が発動している間に少しでも目的地への距離を縮めるため、廃墟と化した役場で手に入れた地図を頼りに旧ウォルティア城のある北をめざし、二人は全速力で駆け抜けていく。
「見て、ここから先は道が舗装されているわ。どうやらこの街道を進めば旧ウォルティア城下町にたどり着けそうだわ。」
目的地への道しるべを見つけて喜ぶのもつかの間、二人を包み込む炎の結界が徐々にヒビが入り、壊れ始めていた。
「た、大変だお姉ちゃん!!炎の結界にヒビが…!!」
「なんですって!!さっきから外の寒い空気が結界の中に流れ込んでると思ったら、まさか結界にヒビが入っているとは思わなかったわ!!ブレア、結界を修復できそう?」
ブレアも炎の結界を発動し続けたため、結界を修復するだけの魔力は残っていなかった。
「ダメだ…僕の魔力はもうあと少ししか残ってないよ!!」
「諦めるのはまだ早いわよ!!残りの魔力を注ぎ込んででも修復させてちょうだい!!」
カレニアの言葉を受け、ブレアは残った魔力を手のひらにあつめ、結界に注ぎ込み修復を試みる。すると一時的だがヒビが入っていた箇所が修復され、結界としての機能が復活する。
「ありがとうブレア。何とか持ち直せたけど、私の魔力ももう限界だから結界が壊れるのは時間の問題よ。それまでに何としてでも旧ウォルティア城下町まで辿り着かなければ…っ!!」
全速力で旧ウォルティア街道を駆け抜ける二人の目の前に、巨大な城がそびえ立つ。あの城こそが、ニルヴィニアの手下と成り果てたロレンツォの支配する旧ウォルティア城であった。
「あれが…旧ウォルティア城!!やっと目的地が見えて来たわよ!!」
「ダメだお姉ちゃん!!もうこれ以上は結界が持たない!!」
その瞬間、二人を包む結界が消え、猛吹雪と共に強烈な寒さが襲い掛かる。圧倒的な自然の驚異の前に二人は一歩も動けず、ただその場に蹲るしかなかった。
「そ…そんなところで、終わる訳には……いかないわっ!!」
二人とも魔力が尽きていたが、最後の力を振り絞って立ち上がり猛吹雪の中を進む。氷の礫のように吹き付ける雪に耐えながら進む二人の前に、雪の中をかき分けて歩く人の影が映る。
「お、お姉ちゃん!!あそこに人がいるよ!!」
「ま、まさかこんな猛吹雪の中で人が歩いているわけがないでしょ!!でも確かに人の気配がするわ。」
体力を消耗して幻を見ているかのようであったが、その人影が徐々に二人のもとへと近づいてくる。
「おや、この辺では見慣れない顔をしているけど君たち旅人かね?こんな猛吹雪の中疲れたでしょう…私の住む村に案内してあげるからついておいで。」
どうやら人影の正体は、旧ウォルティア城下町から少し離れた村に住む老婆であった。
「危ないところを助けていただきありがとうございます。私たちは旧ウォルティア城に向かう途中で猛吹雪に会い、ここで動けずにいました。ぜひとも吹雪が止むまで少しばかりお邪魔させていただきます!!」
近くの村に住む老婆に窮地を救われた二人は、城下町から離れた村へと向かうのであった……。
カレニアとブレアが意を決して猛吹雪の中を進む中、リリシアとレナードは今も小屋の中で吹雪が止むのを待っていた。
「吹雪、まだ止まないね。」
「相変わらず外の天気は未だにひどい荒れ模様だな。私たちよりも先に向かったあの二人も無事でいてくれればよいのだが…。」
ブレアとカレニアの身を案ずるレナードの言葉に、リリシアはそっとレナードの肩に手をかけてこう応える。
「大丈夫よ。あの二人ならそう簡単にはくたばったりはしないわ。今は吹雪のせいで進めないけど、必ずカレニアたちと合流し、一緒にロレンツォ様を倒しましょう。」
「そうだな…私たちはここであきらめるわけにはいかないからね。吹雪が止んだら急いで旧ウォルティア城下町に向かい、先に向かった二人と合流しないとな。」
リリシアとレナードは吹雪が止むまで、小屋の中で体力と魔力の回復に専念するのであった……。