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終章第四話 魔を運ぶ者(キャリアー)

 囚人仲間のティエラとウルの活躍により、リリシアと囚人達は収容所から収容所からの脱獄を果たした。囚人たちが外の世界に出れた喜びに浸る中、突如空から巨大な蜂・デッドリーワスプが襲いかかってきた。強力な腐食毒を持つ毒針で囚人たちが次々と殺されていく中、リリシアと囚人たちは力を合わせ、死闘の末デッドリーワスプを倒すことに成功した。ティエラはデッドリーワスプから使えそうな部位を剥ぎ取った後、それぞれの故郷へと戻るべく足を進めるのであった……。

 

 リリシアが収容所からの脱獄を果たす中、ボルディアポリスの宿で一晩を過ごしたセルフィたちは船を手に入れるべく、砂漠の先にあるアドリアシティを目指していた。

「この砂漠にはボルディアポリスを襲った魔物の気配はないようだが…麻痺毒を持つ蟻地獄や炎を吐くデザートアリゲーターがいるようだ。それにしても暑さが酷いな…みんな、これを着て進もう。」

レナードはセルフィとミシュリアに砂漠の暑さを軽減する日除けの衣を手渡した後、セルフィたちは日除けの衣を身に纏い、アドリアシティへと続く砂漠を進んでいく。しばらく進んでいると、彼らの目の前に巨大な生物の姿が目に移る。

「むむ…あれはこの砂漠の主である砂鯨だ。しかし変だな…あいつから生命反応が感じられない。おそらくこの砂漠の生き物ではなく、他の魔物に殺された…といっても過言ではないな。セルフィ、砂鯨の死体を調べに行こう。」

レナードの言葉の後、セルフィたちは砂鯨の死体のほうへと向かっていく。砂鯨の腹部には大きな風穴が開いており、何者かが殺してから食い荒らしたと考えられる。

 「これはひどいな…腹部や内臓の大半を食い散らかしてから立ち去ったんだろうな。あの巨大な砂鯨を死に至らしめるほどの生き物がこの砂漠にいるはずがない!!つまり、何者かが送り込んだ可能性がありそうだ……な、何だっ!!

レナードが砂鯨の死体を調べている中、突如として大きな地響きが発生する。その地響きの後、砂の中から巨大な生物が姿を現した。

「出てきやがったな…砂鯨を食い荒らした犯人が!!しかも運が悪いことに囲まれてしまった…もう戦うしかないぞっ!!

砂をかき分けてセルフィたちの前に現れたのは、口の中に無数の牙を持つ巨大なミミズ型の魔物であるキングミルワームであった。セルフィたちが身構えたときには、すでに包囲されていた。

「キシャァァァッ!!

キングミルワームは口から砂の塊を吐き出し、セルフィたちに襲いかかってきた。セルフィは次々と吐き出される砂の塊をかわしつつ、キングミルワームの首元に拳の一撃を食らわせる。

「これでも…喰らってなさいっ!!

セルフィの拳から放たれる強烈な一撃が炸裂し、キングミルワームは態勢を崩しその場に崩れ落ちる。一方レナードは見えない糸を巧みに操り、態勢を崩し動けないキングミルワームに狙いを定める。

 「セルフィのおかげで奴は態勢を崩している。その隙に一気にたたみかけるっ!!

レナードの放った見えない糸は次々とキングミルワームの体に次々と絡みつき、キングミルワームの体の自由を奪っていく。絡みついた糸は身動きを封じると同時にキングミルワームの体を締め付け、じわじわとダメージを与えていく。

「相手の動きを封じつつ攻撃を与える…それが糸使いの戦い方だ!!さて、そろそろ止めといくかっ!!戦糸術(タクティカル・スレッド)・地獄の綾取り(ヘルズ・ストリング)ッ!!

レナードが見えない糸を引っ張った瞬間、キングミルワームに絡みついた糸が体に食い込んでいく。レナードは糸を引っ張る腕に力を込め、キングミルワームの体をズタズタに引き裂いていく。

「我が糸に絡めとられた愚かなものよ…八つ裂きになるがいいっ!!

その言葉の後、キングミルワームの長い体が一瞬にして八つ裂きになる。しかし胴体を失っても頭部だけはまだ生きており、鋭い牙をむき出しにしてレナードのほうへと向かってくる。

「こ、こいつめっ!!頭だけで襲ってくるとは…だが無駄なことだっ!!貫糸(ピアッシング・スレッド)!!

頭部だけでレナードのほうへと襲ってくるキングミルワームに、レナードが放った鋭い棘となった糸が突き刺さる。鋭い棘と化した糸によって串刺しにされたキングミルワームの頭部はしばらくうめき声をあげながらのたうちまわった後、ピクリとも動かなくなった。

「ふぅ…これで終わったようだな。さて、こいつの肉は食用の価値なしだ。死骸は放っておけばこの砂漠に生息する蟻地獄やデザートアリゲーター、そしてこの砂漠の主である砂鯨がその肉を食べてくれる。さて、アドリアシティに向かおう。」

キングミルワームとの戦いに勝利したセルフィたちはアドリアシティを目指すべく、再び砂漠の中を進むのであった……。

 

 砂漠を歩き続けること数時間後、セルフィたちはついに砂漠を抜けてアドリアシティまであと少しの所まで来ていた。

「道中で巨大なミミズに襲われたりもしましたが、ついに砂漠を抜けましたね。あとは道なりに進めばアドリアシティに着きそうですね。」

「そうだな。まず街に着いたら安い船を買った後で必要な装備や道具を買って旅に備えることが大事だ。これから我々は不可解な現象が起きているレミアポリスに向かうから、ベストな状態で目的地に向かうのが有効策といえるな。」

広大な砂漠を抜けたセルフィたちは、セルディア大陸の港町であるアドリアシティに到着した。しかし街にはいつもの活気がなく、人通りも無くさびれた雰囲気を醸し出していた。

「アドリアシティはいつもは賑わいを見せているが…大規模破滅の影響で街の雰囲気ががらっと変わってしまっているな。まずは船を買うために港へ急ぐとしよう。」

中央大陸に渡るために必要な船を買うべく、セルフィたちは港へと向かう。その一方、全身を血ぬられた包帯で覆った男がセルフィたちの動きを物陰から見ていた。

 「むむ…あいつらだな。私の放ったブラッドバーサーカーとキングミルワームを倒した奴は。まぁいい、ニルヴィニア様より頂いたこの筒には強力な魔物が封じられている。残りあと二体…この街に放つとしよう。地上界の街という街を片っ端から滅ぼし、ニルヴィニア様の望む理想郷を作るためになっ!!

包帯の男は懐からニルヴィニアから授かった魔物が封じられている筒を手に取り、港町のほうへと消えていく。その頃セルフィたちは船を買うため、港街の大きな造船所に来ていた。

「とりあえずこの造船所で船を買ったあと、装備品や道具など必要な物を買ってから出航しよう。しかし…この状況で造船所が稼働しているかどうか気になるな。」

レナードが造船所を訪ねるべく扉に手をかけようとしたその時、彼らの前に包帯の男が現れる。

「お前らか…私が放ったブラッドバーサーカーとキングミルワームを放った輩は。私の名はキャリアー、ニルヴィニア様の腹心の一人だ。ニルヴィニア様が生み出した魔物を地上界に放つ任務を受け、この地上界に来た。まさかこの地上界にこれほどの戦闘力を持つものがいたとはな…今ここで殺しておくか。」

ブラッドバーサーカーとキングミルワームを放ったというキャリアーの言葉に、セルフィとレナードは怒りを露わにする。

「本当にムカつく奴だな…あの砂鯨を殺ったのはお前かぁっ!!

「街を襲っていたあの巨大な奴も…あのミミズのような魔物も地上界の魔物ではないと思ったら、まさかニルヴィニアが生み出していたのね…許せないわっ!!

セルフィとレナードが怒りに震える中、キャリアーは不気味な笑みを浮かべながら嘲笑する。

「クックック…事実を知って怒り心頭のようだな。そんなに私が憎いか…私にとって人間や動物などクズ以下だ。そんな奴らはニルヴィニア様の生み出した魔物の餌になればいいのだ。おっと…話はそこまでにして、そろそろ貴様らを葬るとしよう…出でよ、ソーサリーバグっ!!ホイールキャタピラーっ!!

キャリアーが魔物が封じられている筒を放り投げた瞬間、煙とともに二体の魔物がキャリアーの前に現れる。

「あの包帯男は私がやるわ!!レナード…ミシュリアっ!!あの二体はあなた達に任せたわっ!!

セルフィが仲間たちにキャリアーが放った魔物を倒すようにと伝えた後、セルフィは雷帝の爪を身につけてキャリアーのほうへと向かっていく。一方セルフィの命を受けたレナードとミシュリアは戦いの構えをとり、キャリアーの放った魔物を迎え撃つ。

「私はあの芋虫を殺る…あなたはあのずる賢そうな昆虫人間を何とかして欲しいっ!!

「わかりましたわ…一つ言っておきますが、くれぐれも私の足を引っ張らないでね。」

両者お互い譲らぬ状況の中、セルフィたちとニルヴィニアの腹心の一人であるキャリアーとの三対三の戦いが幕を開けた……。

 

 セルフィたちが戦闘態勢に入り迎え撃つ中、ミシュリアはキャリアーが放った昆虫魔物であるソーサリーバグと対峙していた。

「キリキリキリ…お前のような小娘が私の相手とは笑わせる!!

「私をただの小娘だと思って油断していると…痛い目にあわせますわよっ!!

彼女が身構えるよりも早く、ソーサリーバグは口から炎弾を放ちミシュリアに襲いかかる。しかしミシュリアは自分のめがけて飛んでくる炎弾をかわしつつ、徐々に間合いを詰めていく。

「キリキリッ!!なんて速さだ…炎弾をかわしつつ間合いを詰めてくるとはっ!!

「吹き荒ぶ風の魔力よ、衝撃となって敵を打ち砕か…きゃあぁっ!!

ミシュリアが衝撃波の術を放とうとしたその時、突如突風が巻き起こりミシュリアは大きく吹き飛ばされる。

 「キリキリキリ…今の術は突風の術・エアシュートだ。私は全ての属性の術を自在に操ることができるのさ…つまり、お前の弱点をピンポイントで突くことも可能だ。さて…じわじわと地獄へと送ってやろうっ!!

ミシュリアが突風によって吹き飛ばされ態勢を崩す中、ソーサリーバグは全身に闇の魔力を集め、術の詠唱を始める。

「キリキリッ…闇の魔力よ、漆黒の炎となりて対象を焼き焦がさんっ!!シャドウフレアっ!!

詠唱を終えた瞬間、ソーサリーバグの掌から闇の炎が放たれる。ミシュリアは防壁の術を唱えるが、放たれた闇の炎は防壁を溶かし、ミシュリアの体を焦がす。

「そ…そんなっ!!防壁が溶かされるなんて……きゃああああっ!!

闇の炎の直撃を受けたミシュリアは漆黒の炎に包まれ、身を焼かれる痛みのあまり地面にのたうちまわる。

「キリリリリ…闇の魔力はあらゆる防壁を溶かし全てを焼き尽くす。所詮貴様ら人間の力などこの程度だ…身の程をわきまえぬ奴はおとなしく死ぬがいい!!

ソーサリーバグは再び闇の魔力を集め、ミシュリアに止めを刺すべく術の詠唱を始める。ミシュリアは身を焦がす闇の炎を振り払い、ふらふらになりながらも立ち上がる。

「まだよ…まだまだよっ!!こんなところで私は…負けないっ!!

「キリキリ…貴様のその根性だけは褒めてやろう。だが無駄なことだ…今すぐにでも楽にしてやるっ!!混沌なる闇の魔力よ…黒き雷となって全てを打ち砕かんっ!!ライジング・アビス!!

詠唱を終えたソーサリーバグは雷の波動を放ち、ミシュリアに襲いかかる。ミシュリアは精神を集中させ、相手の術を相殺する術を考えていた。

「相手の術の属性は闇と雷…相殺するには強力な光属性の術が必要になりそうね。ここは私の持てる魔力を一点に集中させ…術ごと相手を貫くっ!!

精神を極限まで研ぎ澄ませ、ミシュリアはソーサリーバグが放った雷の波動を相殺するべく素早く詠唱を始める。

「闇をかき消す光の魔力よ…一筋の矢となって悪しきものを討ち抜かんっ!!熾煌の矢(セラフィック・アロー)っ!!

ミシュリアの掌から放たれた煌めく光の矢はソーサリーバグの放った雷を貫きながら、そのままソーサリーバグの心臓に突き刺さる。

「キリ…キリ……ッ!!こ…この私がこんな小娘に破れるとはぁっ!!

その言葉の後、ミシュリアの放った光の矢に貫かれたソーサリーバグは力尽き地面に崩れ落ちる。しかしミシュリアは先ほどの戦いで体力と魔力を大幅に消費し、もはや戦える状態ではなかった。

 「はぁはぁ…勝つには勝ったけど体力と魔力を消費しすぎたわ。仲間たちの加勢に行きたいけど…ここは安全な場所で回復させなきゃいけないからね。」

疲労困憊のミシュリアは戦いで受けた傷を癒すべく、安全な場所へと身をひそめる。ミシュリアが死闘の末ソーサリーバグに辛勝した一方、別の場所ではレナードとホイールキャタピラーが激闘を繰り広げていた。

「くっ…奴の回転攻撃を何度か受けたせいで体力を消耗しすぎた。セルフィとミシュリアが必死で闘っているんだ…こんなところで負けてられるかっ!!

「シュシュシュシュッ!!

ホイールキャタピラーは体を丸め、回転しながらレナードに突進する。レナードは素早く糸を束ね、糸の防壁を作り出してホイールキャタピラーの動きを止めようとする。

「また体当たりを繰り出すつもりか…だがこれ以上ダメージを受けるわけにはいかんっ!!糸壁(スレッド・ウォール)!!

何層にも束ねられた強靭な糸の壁が、ホイールキャタピラーの突進の威力を弱めていく。レナードはその隙に見えない糸を束ね、ホイールキャタピラーを倒す策を考えていた。

「ただの糸では奴には勝てない…この場は糸を何層にも束ね、糸よりも太く切れにくい『縄』を作り、一気に決着をつけるしかないっ!!

レナードは見えない糸を何層にも束ねて強度の高い縄を生み出した後、ホイールキャタピラーに縄を放ち身動きを奪う。レナードが放った縄はホイールキャタピラーの体を締め付け、体の内側にダメージを与えていく。

「これが私の新たなる力…縄操術(ロープ・アクション)だ!!私の生み出す糸を何層にも束ねて作った縄は、太く頑丈な武器となりお前の体を締め付け…破壊するっ!!さて、今まで痛めつけられた分を倍にしてかえしてやるとしようかっ!!

レナードは近くに転がっている大きな石に縄を絡ませた後、ホイールキャタピラーの頭上へと振り上げる。

「操縄術(ロープ・アクション)・石槌(ストーンバッシュ)っ!!

レナードは石を絡ませた縄を力いっぱい振りおろし、ホイールキャタピラーの体に重い一撃を食らわせる。石の鉄槌をまともに受けたホイールキャタピラーは、口から緑色の体液を噴き出しながら息絶える。

「ふぅ…こっちは片付いたぜ。さて、ミシュリアの加勢に行くとしよう。」

ホイールキャタピラーとの戦いに勝利したレナードは傷ついた足を引きずりながら、ソーサリーバグと戦うミシュリアの加勢へと向かっていく。はたしてセルフィたちはニルヴィニアの腹心の一人であるキャリアーを倒し、港町の平穏を守ることができるのか……!?

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