終章TOPに戻る

前のページへ  次のページ

終章第三話 地獄からの脱獄

 旅人の酒場で情報収集を終えたセルフィたちはレミアポリスへと向かおうとしたその時、少女の悲鳴が宮下町の中に響き渡る。セルフィたちが悲鳴のあった場所に向かうと、そこにはテレポーターよりも巨大な魔物であるブラッドバーサーカーが街の人を惨殺し、今まさに一人の少女を捕食しようとしていた。セルフィたちは襲われている少女を救出しブラッドバーサーカーと戦うも、圧倒的な力の前に苦戦を強いられていた。レナードが負傷し一人戦うセルフィの前に、先ほど救出した少女が駆けつけてきた。

 

 ボルディアポリスの王宮の令嬢のミシュリアと名乗る少女はセルフィのもとに駆け付けるなり、魔力を集めてセルフィの助太刀に加わった。一方レナードは負傷した足を引きずりながらも見えない糸でブラッドバーサーカーを足止めし、術の詠唱に入る二人をサポートする。三人の力を集約させた連携攻撃により、強敵のブラッドバーサーカーを撃破することに成功した。ブラッドバーサーカーとの戦いで体力を消耗した三人は旅に備えて宿で一泊を過ごすのであった……。

 

 セルフィたちが宿屋で眠りに就く中、収容所ではひそかに脱獄計画が実行されつつあった。リーダー格のティエラが穴掘り要員のウルを起こし、収容所の外に続く穴を掘るように命じる。

「よし…この時間帯なら看守共の見張りも手薄になってきたようだな。ウル、そろそろ床に穴を開ける作業に取り掛かろうか。」

「はい!!ここから抜け出すためにも、頑張って穴を掘ります!!

ティエラにそう伝えた後、ウルは鋭くとがった爪を床に突き立て穴を掘る作業に取り掛かる。彼女の手にかかれば、分厚い石の壁に穴を開けるのは簡単なことであった。

「この調子で一気に掘り進んでくれよ…岩をも切裂く鋭い爪を持つお前だけが頼りだからな。収容所の外に出る穴が開通次第、奴隷たちを外へと脱獄させてからこれからのことを考えよう。」

ティエラが見張りの看守の動向を見張る中、ウルはひたすら外に出る穴を掘り続けていく。トンネルの掘削を開始してから数時間後、外に続くトンネルを掘り終えたウルが報告のために戻ってくる。

 「ティエラさん…外に続くトンネルを掘り終えました。」

報告を聞いたティエラは囚人たちを集め、ウルが掘った穴から出るように命じる。

「でかしたぞウル!!囚人どもよ、この私に続け!!こんな地獄のようなところからおさらばするぞっ!!

囚人たちは先を行くティエラとウルの後に続き、トンネルの中を進んでいく。収容所の囚人全員が脱獄を果たした時には、すでに朝を迎えていた。

「おお…外に出れたぞ!!

「ありがとう…本当にありがとうっ!!

ティエラとウルの活躍によって脱獄を果たした囚人たちが喜びの声を上げる中、リリシアが何者かの気配を感じ取り、囚人たちに伝える。

「みんな気をつけて…何かが来るわっ!!

リリシアの言葉の後、空から巨大な蜂が不気味な羽音をたてながらこちら側へと向かってくる。

「な…なんだありゃあっ!!

「皆の者…作戦変更だ!!正面から収容所に戻るぞ!!

突如として襲ってきた巨大な蜂から逃げるべく、ティエラは囚人たちを引き連れて収容所の正面入り口へと向かい、再び収容所の中に戻る。全員が収容所の中に入った瞬間、襲ってきた巨大な蜂は諦めたのか、再び空へと飛び去って行く。

「はぁはぁ…一時はどうなることかと思ったわ。さて、これから看守詰所に行って囚人たちの私物を取りにいくのだが、ここは私とウルに任せろ。看守を倒したら折り返し合図を送る。」

ティエラが囚人たちにそう伝えた後、ウルとともに看守詰所へと乗り込んでいく。リリシアは二人の助太刀をするべく、二人の元に駆け寄り一緒に戦わせてくれと頼み込む。

「ティエラさん…魔法を使えないので少々足手まといになるかもしれませんが、私も一緒に戦わせてくださいっ!!

「よかろう…とりあえずこの棍棒を持って行け。素手で戦うよりはましだろう。さて、そろそろ乗り込むかっ!!

ティエラから棍棒を受け取った後、三人はドアを開けて看守詰所に乗り込む。三人が中に入った瞬間、看守役のヘルズヒューマノイドたちがその気配に気づき、警戒態勢に入る。

「キ…貴様ラッ!!ドウヤッテアノ檻カラッ!!

「脱獄スル者ハ許サン…皆殺シニシテヤル!!

看守詰所で労働のための準備をしていたヘルズヒューマノイドたちは武器を構えてリリシア達に襲いかかってくる。

 「皆殺しにしてやる…か。それはこっちのセリフだっ!!

ティエラはヘルズヒューマノイドたちの攻撃をかわし、棍棒の打撃を食らわせる。リリシアとウルはティエラの後に続いてヘルズヒューマノイドを次々と撃破し、詰所内にいたヘルズヒューマノイドを一掃することに成功した。

「囚人たちよ、看守共は私たちが片付けた!!

看守役のヘルズヒューマノイドを一人残らず仕留めた後、ティエラは正面入り口で待つ囚人たちを看守詰所に呼び寄せる。奪われた服などの私物を取り戻した囚人たちであったが、リリシアは何か不安な表情を浮かべていた。

「なんとか私物を取り戻すことができたが…先ほど私たちを襲撃した巨大な蜂がまた襲ってくるかもしれないわ。もしまたあいつが襲ってきたときは全力で追い払うか倒すしかないわ。」

「そうだな…収容所を脱獄したからには何が起こるかわからんからな。奴とはいずれ戦わなければならぬ時が来る。その時は覚悟を決めて戦うしかないな。」

リリシアにそう伝えた後、ティエラは囚人たちの前に立ち先導を取る。

「待たせたな囚人たちよ…ではこれより故郷へと帰還するぞっ!!

リリシア達が再び収容所の外に出た瞬間、先ほど襲ってきた巨大な蜂が再び襲いかかってくる。巨大な蜂は大きな顎をカチカチと鳴らし、獲物を威嚇する。

 「くっ…さっきの蜂がまた襲いかかってきたわ!!みんな、ここは全力で戦って追い払うわよっ!!

巨大な蜂はリリシア達が身構えるよりも早く、強力な猛毒を含む毒針で囚人に襲いかかる。毒針の餌食となった囚人の体は一瞬にして腐敗し、そのまま地面に崩れ落ちる。

「奴の毒は腐食毒だ…体の内側から腐らせ死に至らしめる強力な猛毒だ!!皆の者よ、毒針の一撃に気をつけるんだっ!!当たればたちどころにして腐ってしまうぞっ!!

巨大な蜂は腐敗した囚人を巨大な顎を使って肉団子を作り、胃袋へと運んでいく。ティエラはその隙に巨大な蜂の体をよじ登り、背中へと這い寄る。

「奴の羽根さえ斬ってしまえば機動力は格段に落ちる…飛行能力を奪えばこっちのものだっ!!

巨大な蜂の背中に辿りついたティエラは剣を振るい、巨大な蜂の羽根を斬り飛ばし飛行能力を奪う。一方リリシア達は武器を持った囚人たちと共に巨大な蜂の足を攻撃する。

「みんな、足を狙って攻撃してちょうだいっ!!

リリシアの掛け声の後、囚人たちは巨大な蜂の足を攻撃する。しかし足の甲殻は並の武器では歯が立たず、数十人が束になって攻撃しても怯む様子はなかった。

 「くっ…俺たちの攻撃が全く効いていな……ぐわあぁぁ!!

囚人たちが苦戦を強いられる中、巨大な蜂の毒針が無情にも囚人たちを貫く。その光景を目の当たりにしたティエラは、怒りと悔しさがこみ上げてくる。

「くそっ…これ以上犠牲者は出させんっ!!ウル、お前の爪で奴の足を一本ずつ切り落とせっ!!

「わかりました…やるだけやってみますっ!!

ウルは刃のように鋭い爪を振るい、巨大な蜂の足を斬り飛ばしていく。足を切り落とされた巨大な蜂は顎をカチカチと鳴らしながら、その場にうずくまる。

「ウルの奴、どうにか奴の足を切り落としてくれたな。奴の手足を切ってしまえばあとは止めを刺すだけだっ!!

ティエラは巨大な蜂の頭部に剣を突き刺し、止めの一撃を放ち巨大な蜂の息の根を止める。

「ふぅ…多くの囚人たちが犠牲になってしまったが、なんとか勝てたな。腐食毒を持つこいつの毒針はもしもの時の武器になりそうだ…相手の急所を一突きすれば相手を腐殺できるからな。」

戦いを終えたティエラは巨大な蜂を解体し、使えそうな部分を取り出していく。毒腺や腐食毒を持つ毒針の他、焼いて食えそうな肉をはぎ取っていく。

「こいつは虫だが、肉は取っておいたほうがいいな。腹が減った時に焼いて食えそうだからな。知ってるかお前ら?虫は見た目に反して牛肉よりも栄養が豊富なんだぜ。さて、ある程度使えそうな部位は剥ぎ取ったし、そろそろ行こうか。」

襲ってきた巨大な蜂から使えそうな部位を剥ぎ取った後、リリシア達と生き残った囚人たちはそれぞれの故郷へと戻るべく足を進めるのであった……。

 

 リリシア達が収容所からの脱獄を果たす中、別の収容所にいたヘルズヒューマノイドがニルヴィニアのもとに駆けつけてきた。

「ニ…ニルヴィニア様ッ!!第一収容所ノ囚人達ガ脱獄シタ模様デス。ドウヤラ囚人タチが反乱ヲ起コシ、看守役ノヘルズヒューマノイドハ皆殺シニサレタトイウ悲惨ナ状況デス。タダチニ他ノ収容所ノ看守達ヲ召集シ、脱獄シタ囚人達ヲ収容所ヘト連行スルヨウニ伝エテクダサイ!!

第一収容所が襲撃されて脱獄者が出たという報せを聞き、玉座に腰かけるニルヴィニアは静かに口を開き、脱獄者を出さないための対策を話し始める。

「脱獄者など放っておけ…収容所を出たとしても我が楽園に棲む猛獣どもの餌になるだろうな。それよりも心配なのは脱獄した奴らが今後第二・第三収容所を襲い囚人たちを解放する可能性もありうる。その前に洗脳獣を用いて囚人たちを洗脳し、楽園建設のために働いてもらおう。」

その言葉の後、ニルヴィニアは光輪に創造の魔力を集めて洗脳獣を生み出すべく詠唱に入る。

「汝創造の魔力をもって…今ここに新たな生命を生み出さんっ!!

魔方陣から黒い煙が立ち込めた後、不気味な鳴き声が玉座の間にこだまする。

「ゲロゲロゲロォォォォォッ!!

不気味な鳴き声とともに現れたのは、洗脳を得意とする洗脳獣・ヒュプナーであった。

 「さぁ行け洗脳獣ヒュプナーよ、第二・第三収容所にいる囚人たちを洗脳してくるのだっ!!第一収容所の囚人を失った今、急ピッチで楽園を作らねばならないのだっ!!

創造の魔力によって生み出された洗脳獣ヒュプナーは第二・第三収容所へと向かった後、ニルヴィニアは

「まさか…止めを刺し損ねたあの小娘が脱獄の首謀犯というわけか…あれだけ痛めつけてもなおまだ牙は抜けていないか。収容所に入れる前に囚人どもの魔力は全て吸い取っているので魔力は使えぬはずだが…あの事件には少々謎が多いな。だが収容所の外は私が生み出した猛獣が徘徊している…そう簡単に地上界に戻れると思うなよ…フハハハハハハッ!!

高笑いを浮かべるニルヴィニアは創造の魔力を集め、新たな魔物を生み出すべく詠唱に入るのであった……。

 

 その数分後、レミアポリスの人々が収容されている第二収容所の前にニルヴィニアが生み出したヒュプナーが現れ、長い触角を伸ばして何やら不気味な音波を放ち始める。

「ゲロッ…ゲロォォォッ!!

その不気味な音波がこだました瞬間、収容所の中にいた囚人たちは何かに取りつかれたかのように楽園の建設作業へと向かっていく。その様子を見ていた看守役のヘルズガーディアンは、何やらひそひそと話していた。

「ドウヤラニルヴィニア様ハ洗脳獣ヒュプナーヲ投入シタヨウダナ。ヒュプナーハ触角カラ強力ナ洗脳音波ヲ放チ、人ノ心ヲ奪イ去ル能力ヲ持ッテイル。マァ意思ノ強イ人間ナラ別ダガナ。」

「囚人ハ日々ノ建設作業デ体力的ニモ精神的ニモダメージヲ受ケテイルカラ、簡単ニ洗脳デキルゼ。奴ラヲ洗脳サセレバ我々ノ手間ガ省ケルカラ一石二鳥ダナ。」

その一方、もう一体のヒュプナーが第三収容所の囚人たちの洗脳に取り掛かっていた。

「ゲロゲロ…ゲロロロォォッ!!

ヒュプナーは収容所内の囚人の洗脳を完了させた後、翼を広げて王宮へと戻っていく。

「第二・第三収容所へと向かったヒュプナーが戻ってきたか…どうやら囚人たちの洗脳が完了したようだな。囚人たちには死ぬまでこの楽園を建設するために働いてもらおうぞ!!楽園が完成した暁には…妾は二つの世界を統べる神となるのだっ!!

ニルヴィニアはそう呟いた後、玉座に深く腰をおろし瞑想に入るのであった……。

前のページへ 次のページへ

終章TOPに戻る