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終章第三十八話 失われた女帝の力

 やっとの思いで大洞穴を抜けてウォルティア領北にたどり着いたリリシアたちであったが、雪の女王の戦闘部隊に所属する冬将軍が氷の歩兵たちを連れて待ち構えていた。どうやら彼らは謎の白い獣の襲撃を受け、壊滅的な打撃を受けた氷の警備隊たちを救助するべく、この大洞穴を訪れていたのだ。冬将軍は邪魔をするリリシアたちを排除するべく襲い掛かるも、二人の実力には敵わず胴体を吹き飛ばされてしまった。頭部だけとなった冬将軍は大洞穴へと逃げ込み、その場から姿を消した。

 

 大洞穴へと逃げ込んだ冬将軍は氷の警備隊たちと合流し、雪の女王の待つ旧ウォルティア城へと帰還することに成功した。頭部だけとなった冬将軍から彼女の支配下であるウォルティア領北に人間が入り込んだという報告を聞いた雪の女王はその人間たちを駆逐するべく、ウォルティア領北に支援軍を投入するのであった……。

 

 仲間たちが旧ウォルティア城を目指して行動する中、セルフィはロレンツォとミシュリアの包囲網を掻い潜りながら、なんとか城から脱出する方法を探していた。

「城の中にヘルズヒューマノイドたちがうろついているわね…どうやら私が牢獄から抜け出したことを知られたみたいだわ。急いで隠れなきゃ……。」

セルフィはヘルズヒューマノイドたちに気付かれないよう、物陰に隠れて様子をうかがう。しばらくすると、電撃鞭を構えたミシュリアが現れセルフィを拷問できない憂さ晴らしと言わんばかりにヘルズヒューマノイドに八つ当たりする。

「まったく…セルフィの奴はどこに行ったのよ!!あなたたち、もっとよく探しなさいっ!!

「ヤ…ヤメテクレェ!!俺ニ八ツ当タリシテモ何ノ解決ニモナランゾ!!

ミシュリアは容赦なく電撃鞭を振るい、そばにいたヘルズヒューマノイドを痛めつける。ミシュリア同様牢獄から逃げ出したセルフィを探していたロレンツォが現れ、ミシュリアに八つ当たりをやめるようにと諭す。

 「何をしているミシュリア…いくらセルフィが見つからないからといってヘルズヒューマノイドに当たるのはやめていただこうか。我々の目的は実験材料として捕えたセルフィの捜索だ。あの娘の持つ女帝の力は我々が利用させてもらうのでな。では私は捜索に戻る…。」

ロレンツォが再び捜索に戻った後、ミシュリアはセルフィを探すべくその場を後にする。物陰に息を潜めていたセルフィはその隙を見て、旧ウォルティア城の出口を目指して進んでいく。

「あと少し…あと少しで外に出られ……きゃあっ!!

城の外に続く門に手が届きそうな距離まで来たその時、セルフィは見えない糸に絡め取られ身動きが封じられる。いくらもがいても見えない糸はほどけず、セルフィは何が起こったかわからない状況であった。

「何っ!!何かに絡まったような感じで動けないわ!!

セルフィがもがき苦しむ中、ロレンツォが不気味な笑みを浮かべながら彼女のもとに現れる。

「フフフ…まんまと私の糸に絡まってくれましたね。自己紹介が遅れたね…私はロレンツォと申す、フェルスティアでは名の知れた豪商の一人でもありレナードに私の持つ糸術を教えた師匠であったが、今は全てを捨ててニルヴィニア様の配下となった。ひとつ君に教えておこう…私はニルヴィニア様より授かった洗脳術により、君の仲間の一人のミシュリアを強制的に精神を破壊し、私の命令に従う奴隷になったのだ。それでは本題に入ろう、私は君の持つ女帝の力が欲しいのだ。ミシュリアの電撃鞭での拷問を受けて瀕死の傷を負った状況で牢獄を脱出できたのも、その力があっての事だろう。さぁセルフィ、女帝の力を今ここで見せてくれたまえ!!

ミシュリアを洗脳したのがロレンツォだという事実を知り、セルフィは怒りに震える。

「あなたが…あなたがミシュリアをッ!!あなたのような悪人に女帝の力を見せるものか!!

「クックック…その力を使わないというのか。ならばこうするしかありませんね。」

ロレンツォが両手に魔力を集めたその時、セルフィの体の自由を奪う見えない糸から電流が走る。セルフィは歯を食いしばりながら激痛に耐え、抵抗するそぶりすら見せなかった。

「うぐぐぐ…絶対に使わない!!私は女帝の力を決して悪事のためなんかには使わないわ!!

「くだらん意地を張るのはよしたまえ…ならば強制的にでも女帝の力を吸い出して私の物にしてやる!!吸引細糸(ストロー・ドレイン)っ!!

ロレンツォは両手の指先から鋭い針のような糸をセルフィに突き刺し、セルフィの体に秘められた女帝の力を奪おうとする。しかし女帝の力の全てとはいかず、一部分だけしか吸い取れなかった。

 「くそっ…すべては奪えなかったが、小娘の持つ女帝の力の一部分を奪うことはできた!!想像以上だ…全身に力がみなぎってくるのを感じるぞ!!フハハハハハハッ!!!

ロレンツォによって女帝の力の一部を奪われたセルフィは、魔力を失いその場に崩れ落ちる。ロレンツォは地面に崩れ落ちたセルフィを背負い、その場を後にするのであった……。

 

 ロレンツォは気を失ったセルフィをかつて会議室であった部屋へと運んだあと、魔力を吸い出すための器具をセルフィの体に取り付け、女帝の力を我が物にするための準備に入る。

「むむ…私の吸収の術でも女帝の力を奪えないのなら、この魔導吸引機で貴様の魔力ごと女帝の力を吸い出してやる!!

魔導吸引機のスイッチが押された瞬間、セルフィの体から凄まじい勢いで魔力が吸引機の中へと吸い込まれていく。吸い出されたセルフィの魔力が赤い結晶となり、次々と吸引機の排出口から排出されていく。

「おお…これが小娘の魔力の結晶!!この調子だ…この調子なら女帝の力を我が物にできるぞぉっ!!

その刹那、ひときわ大きな桃色の結晶が排出口から現れる。どうやらこの結晶こそがセルフィの体に秘められた女帝の力の結晶であり、すべての魔力の源でもあった。

 「出た…やっと出たぞ!!これが女帝の力の結晶だ!!これさえあれば私はこの世界を俯瞰する知覚を得られるのだ…フハハハハハハッ!!

女帝の魔力をロレンツォに奪われたセルフィは抜け殻のように動かなくなり、その目は焦点を失いガラス玉のようへと変わり果ててしまっていた。ロレンツォはセルフィから吸い出した女帝の力の結晶を体に取り込み、男性でありながら女帝の力を手に入れた。

「おお…これで私は小娘の持つ女帝の力のすべてを手に入れた!!膨大な量の魔力が体中にあふれてくる!!これこそ私が求めた究極の理想の姿なのだぁっ!!

全身から溢れる力を解放した瞬間、ロレンツォの体が徐々に異形の姿へと変貌を遂げていく。頭部には禍々しいほどの尖角が出現し、全身の筋肉が異常なまでに隆起しもはや人間だった彼は凶悪な魔人へと成り果てた。

「この小娘の体の中にある女帝の力を手に入れたからもう用済みだ…と言いたいところだがまだ息がある。しかし彼女はもう我々に立ち向かうことすらできない廃人同然…何せ私があの小娘の力をすべてを奪ったのだからな!!

ロレンツォは女帝の力を奪われ抜け殻と化したセルフィを背負い牢獄へと向かう途中、牢獄から逃げたセルフィを探して旧ウォルティア城の中を駆け回っていたミシュリアが現れた。

「あらロレンツォ様…随分と遅かったわ…ってロレンツォ様!!いつになく凶悪なお姿になられたわね。」

「どうだミシュリア…これが私の新しい姿だ。先ほどこの小娘から女帝の力を奪い、私の物にすることに成功し、このの人間を超越するほどのエネルギーのおかげでこの通り私は魔人のごとき力を手に入れることができたのだ!!

女帝の力を奪われ抜け殻となったセルフィを見たミシュリアは電撃鞭をしまい、そそくさとその場から去っていく。

「あの小娘の力の根幹である女帝の力を奪われて抜け殻となったセルフィを拷問しても反応がないから面白くないわ…あとはロレンツォ様にすべて任せるわ。私は痛みで叫ぶセルフィの姿が見たかったのに…。」

「すまないミシュリア…お前の楽しみを奪ってしまったな。さて、この抜け殻となった体は私の糸術で操れば強力な戦力になりうる。実験材料としての器だ…これからは私のしもべとして働いてもらおうぞ!!絡操の糸(ブレイン・マリオネット)!!

ロレンツォの指先から放たれた見えない糸が、抜け殻と化したセルフィに突き刺さっていく。体に入り込んだ見えない糸は神経に巻き付き、ロレンツォの操り人形と化した。

 「まずは動作テストだ…私の操り人形よ!!

指を動かしたその時、抜け殻だったセルフィの体が起き上がりロレンツォの方へと歩き出す。意識を完全に失っているが、ロレンツォの意のままに操ることに成功した。

「フハハハハハハッ…面白い!!それでこそ私の操り人形だぁっ!!さぁセルフィよ…これからは私の命令に従い、ニルヴィニア様の計画を邪魔する者を排除するのだ!!

ロレンツォは不気味な高笑いを浮かべながら、ロレンツォの操り人形と化したセルフィと共にその場を後にするのであった……。

 

 一方時を同じくして、ただならぬ魔力の波長を感じた雪の女王は急遽配下たちを集めて緊急集会を行っていた。

「急にお前たちを呼び出してすまない。たった今旧ウォルティア城の玉座の間からすさまじい魔力反応があった…どうやら我が居城に不届き者が入り込んだようだ。我々が立ち向かったところで勝ち目などなかろう…奴は私たちよりもはるかに強大な力を手にしておるのだからな。しかしそんなこともあろうかと、私はこのウォルティア領北の北部にある氷河に氷の城を建設していたのだ。皆の者よ、これより新たな居城に移動を開始する!!スノースピリットよ、準備はよいか!!

女帝の力を手に入れたロレンツォの存在に脅威を感じた雪の女王は、旧ウォルティア城を離れて新たに建設した氷の城に移動するとの胸を配下たちに伝え終えたその時、数百匹のスノースピリットの集合体が現れる。

「準備は万全であります!!雪の女王様と配下たちよ…どうぞ我々にお乗りください!!

「もうこの城は入り込んだ不届き者に乗っ取られるだろう…だが新たな居城なら何者にも邪魔はできないだろう。我々は新たに建造した氷の城を拠点に、ウォルティア大陸のすべてを凍てつく大地にするために活動を行う!!

雪の女王たちを乗せたスノースピリットの集合体は旧ウォルティア城を捨て、北の氷河に新たに建造した氷の城へと向けて進むのであった……。

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