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終章第三十六話 銀世界に暗躍する影

 ウォルティア領北へと続く大空洞を行くリリシアたちであったが、その道中でウォルティア領北を極寒の魔力で支配する雪の女王の配下である氷の警備隊たちが現れた。物陰に身を隠して様子を見ていると、突如大空洞の奥から見事な二本の牙を持つ白い獣が姿を現した。その白い獣はすさまじい突進で氷の警備隊たちを蹴散らした跡、物陰に隠れていたリリシアたちの匂いをかぎつけ、大気を振るわせるほどの咆哮を上げながら襲い掛かってきた。

 

 リリシアが戦闘態勢に入る中、レナードは探心術を使い白い獣の目的が雪の女王に仕える者を排除すると言うことを知った二人は自分たちが雪の女王の手下ではないとの意思を伝えた後、自分は元々人間であったが100年前に雪の女王の配下の魔導士によって獣の姿に変えられ、雪の女王を討つために今まで戦ってきたと告げた後、怒りが静まった白い獣は大空洞の奥へと去って行った……。

 

 リリシアたちが大空洞の中を進む中、ウォルティア領北のとある雪原では雪の女王の配下と思しき氷の甲冑を着た何者かが氷の歩兵たちを集め、何やら思いつめた表情で話し合っていた。

「ぐぬぬ…偵察に向かった氷の警備隊たちの生命反応が途絶えた。一体何が起こっているのだ…まさかこの不毛の大地に人間がいるとでもいうのか!!

冬将軍が自慢の氷刀を砥ぎながら生命反応が消えたとの旨を伝えると、歩兵たちが次々と刀をかかげて冬将軍の言葉に賛同する。

「冬将軍様、ウォルティアの南の連中が北を取り戻そうと躍起になっているようだな。」

「人間どもにウォルティアの北側は絶対に渡さん!!我々も助太刀せねばならん!!

「全ては雪の女王様の計画のため…ウォルティアのすべてを極寒の世界にするためにも我々も立ち上がろうぞ!!

氷の歩兵たちの言葉の後、冬将軍の元に生き残った氷の警備隊から連絡が入る。

 「うぐぐ…冬将軍様、偵察の為に大空洞に向かったのだが、突如現れた白い獣の襲撃を受けて壊滅状態だ。生き残った者たちは命からがら洞窟の外に逃げのびて難を逃れたが、まだ安心できない状態であるのでぜひともそなたの救援をお願いしたい!!

同胞の危機を知った冬将軍は、すぐさま歩兵たちに生き残った氷の警備隊たちの救出に行くようにと命令する。

「むむ…同胞の危機は見捨てるわけにはいかん!!これから歩兵たちと共にこちらに向かうのでしばらくここで待っておれぃ!!

冬将軍たちは大勢の歩兵たちを連れ、大空洞で白い獣に襲われ散り散りになった氷の警備隊たちを助けるべく、進軍を開始するのであった……。

 

 一方その頃、雪に包まれた大地であるウォルティア領北を行くカレニアとブレアは降り続く雪に苦戦しつつも、目的地である旧ウォルティア城へと向けて足取りを進めていた。

「猛吹雪のせいで視界が悪くなってきたわね…もう目の前が雪しか見えなくなってきたわ。」

「まるでこの地に来た者を排除するかのような悪天候としか言いようがありませんね。」

猛吹雪の中を歩き続ける二人の目の前に、大きな古ぼけた建物が目に映る。

「ブレア、あそこに大きな建物があったわ。とりあえず吹雪が止むまでしばらくこの建物で雪風を防げるかもしれないわ。中に入って休みたいけど大体扉には鍵がかかってそうだけどね。」

カレニアが扉の取っ手をひいた瞬間、大きな扉が大きな音とともに開き始める。

「ラッキー、鍵がかかってないわ!!これで安全に吹雪がおさまるまで一休みできそうね。」

建物の中に入った二人が目にしたのは、カウンターの奥に書類が入っていそうな本棚が立ち並びいかにも人が集まりそうな役所のような場所であった。

「ここはどうやらかつて役場として栄えていた場所みたいね。調べれば何か手がかりが見つかりそうかも知れないから、少し調べさせてもらうわよ。」

二人が書類の入っている本棚を調べると、そこには古ぼけた住民票らしきものがあった。

「これはウォルティアの北側に住んでいた住民の住民票みたいね。しかし日付が100年前のものだわ…どうやら雪の女王によって氷に閉ざされてから時が止まってしまっているわね。」

「どうやら北側の住民たちは南に移住したようですね。待合室に置かれている読み物も100年前の物だったし。」

探索を終えたブレアがカレニアに結果を伝えると、彼女は物足りなさそうな顔でブレアにそう伝える。

 「ここだけではまだまだ情報不足だわ…さらに調べてみる価値はありそうね。この役場は三階建てだから、上の階層には重要な情報が隠されているかもしれないわ。」

一階の探索を終えた二人はさらなる情報を手に入れるべく、二階へと上がっていく。

「二階は役員たちの食堂と事務所があるから、一階よりも情報はありそうよ。ブレア、そうと決まれば情報収集よ!!

カレニアとブレアが役場の二階で情報を探ろうとする中、役場の外では雪の結晶を思わせるような姿をした魔物たちが現れ、取り囲むように役場の周辺を包囲する。

「まさかこの凍てつく世界に人間がいたとは…無謀な冒険者か?」

「雪の女王様の命令だ…生きとし生ける者を一人残らず凍らせるのが我らスノースピリットの役割だからな、雪の女王様の支配下に入ってくるものには決して容赦はしないとな!!

雪の女王の配下であるスノースピリットは次々と連結し、役場の中にいる人間を凍らせるべく口から吹雪を吐き、建物内の気温を下げ始める。

 「おかしいわね…建物の中にいるのに外よりも寒くなっているわ。まさかこれも雪の女王の魔力のせいなのかもしれなさそうね。」

カレニアが異変に気付いたその時、何者かが役場の窓を破壊して役場の中へと入ってくる。

「何かの気配を感じるわ…ブレア、気を付けて…きゃっ!!

「いかにもその通り…この近辺は雪の女王の支配下だ。我々は雪の女王によって生を受けた邪悪なる雪の精、スノースピリットだ。雪の女王の統治領域に立ち入った以上、お前らを生ける氷像に変えてやろう!!」 

強烈な冷気を発しながら現れた無数のスノースピリットたちはカレニアたちを包囲した後、口から凍り付く息を吐き出して二人を苦しめる。

「いくら君たちが束になって僕たちを氷漬けにしようとしても無駄な事さ。なぜなら僕とお姉ちゃんは君たちの弱点である炎の使い手だからねっ!!

ブレアが炎の魔力を集めて燃え盛る火球を作り出し、それをスノースピリットの方へと投げつける。

 「たとえ炎の魔力を使いこなす奴でも、凍り付く風で……ッ!!

ブレアの放った燃え盛る火球が着弾した地点から火柱が吹き上がり、スノースピリットたちを次々と溶かしていく。数多く引き連れた仲間を溶かされていく現状に、スノースピリットは一目散にその場から立ち去ろうとする。

「は…歯が立たん!!このままでは我々は水蒸気になってしまう!!ここは一旦退却し、雪の女王様に報告に向かわねば!!

「あの結晶みたいな魔物、一旦その場から退いて雪の女王に私たちの事を報告するつもりだわ…報告されて雪の女王に目を付けられると厄介だわ。今ここで一匹たりとも逃がさずに始末するしかないわ!!

逃走を図ろうとするスノースピリットに追撃を加えるべく、カレニアは命中に特化した性能を持つ炎の矢を放ち、破壊した窓から逃げていくスノースピリットの体を貫く。

「し…しまったぁぁ!!おのれ小娘…雪の女王様の邪魔をしてただで済むと思うなよォォ!!

炎の矢に貫かれたスノースピリットは水蒸気と化し、跡形もなく掻き消えた。スノースピリットを退けた二人は、役場の二階にある事務所の探索に取り掛かる。

「二階の事務所にはたくさんの情報が眠っている可能性が高いわ。ブレア、一緒に手がかりを探すわよ!!

役場の事務所には役員たちが使っていたと思われる机と書類が入ったたんすがあり、情報収集をするには十分な情報量であった。二人が情報収集に励む中、カレニアが机の中から地図らしきものを発見する。

 「これは…ウォルティア大陸の全域地図っ!!しかもウォルティア領の北側も載っているわ。私が持っている世界地図には北の部分は山として描かれているが、これまで鮮明に描かれた地図を見たのは初めてよ!!これはとても重要な手掛かりになりそうだわ!!

重要な手がかりに等しいウォルティア大陸の地図の発見に、探索中のブレアもカレニアの方へと駆けつけ、発見した地図に目を通す。

「僕たちが今いるのはかつて村があった場所の役場ですね。目的地である旧ウォルティア城はここから北の方角にあるのですが…そこに行くまでに村と町が数か所描かれていますね。」

「だがこれは100年前の地図よ。地図上には村があった場所でも人が住んでいるとは言い切れないわ。ウォルティア領北は雪の女王の魔力によって極寒の世界に変えられてしまったからね。今は目的地である旧ウォルティア城へと向かうしかなさそうね。」

ブレアが探索を再開しようとふと壁の方に目を向けると、そこには役場の前で役員と村人たちが写った写真の他にも、風景画などが額縁に入れられた状態で飾られていた。

「この写真は…100年前の役場前で撮られた写真のようだ。雪の女王の怒りに触れる前は草も生えていて緑豊かな国だったのに、今では猛吹雪が吹き荒れる極寒の世界になってしまったんだ。また一つ手がかりを見つけたぞ。」

ブレアは壁に飾られていた100年前の写真の事をカレニアに伝えた後、彼女はこれまでに役場で見つけた手がかりを書き留めた後、三階の探索に向かうという旨をブレアに伝える。

「なるほどね…100年前のウォルティア領北には草木や緑が生い茂っていたというわけね。ブレア、いい情報をありがとう。次は三階にある憩いの場の探索に向かいましょう!!

二階での探索を終えた二人は、役場で働く役員たちが休憩や娯楽のための施設がそろう憩いの場がある三階へとやって来た。 

 「どうやら役員たちが日々の仕事で疲れた体を休めるための施設のようね。仮眠がとれるよう安眠のお香と二段ベッドが完備されているわね。本棚に置かれている本も100年前の物だわ。」

カレニアは本棚に置かれていた礼儀作法やマナーの本の中に混ざっていた不気味な本を手に取り、ゆっくりとページをめくり始める。

「いろいろな情報誌の中に混じって一冊だけ魔導書があったわ。なになに、古の時代に封印されし全てを粉々にするほどの膨大な爆発の術を再現するには、術者の経験豊富な魔力と研ぎ澄まされし精神力が必要だ。その術の名は、ギガロ・ドドメギアなり。」

不気味な魔導書を読み終えたその時、魔導書を持つ手を伝って彼女の頭の中に力が流れ込んでくる。

「私がこの古の術を使いこなすことができるか心配だけど、いい力を手に入れたわ。さて、他にも何か術式が書かれているかもしれ……あれ?」

カレニアが再び魔導書のページをめくったとき、魔文字が書かれていたところは白紙になっていた。どうやら先ほどの一件で魔導書は効力を失い、ただの白紙の本になってしまっていた。

「あれ…その先のページには何も書かれてない…しかも全部のページが白紙になってしまっているわ。少し道草を食ってしまったが、早く探索に戻らないとね。」

カレニアは白紙の魔導書を本棚に戻した後、ブレアと共に町長室の探索を始める。

 「ここは町長室…この町の統治者が座す場所よ。何か手がかりが見つかるかもしれ……ッ!?

二人が町長の席のほうへと近づいたその時、そこには白骨化した町長の姿がそこにあった。町長の机には古ぼけた日記帳が置かれていた。

「これはどうやら町長が書いた日記のようね。少し怖い気がするけど読んでみるわね。」

カレニアは机に置かれている日記帳を開き、恐る恐る書かれている内容を読み始める。

 

6月××日

清らかな川の流れとともに、この町にも夏が訪れた。

ウォルティア領南の方からも、客人たちがこの町に来るだろう。

我々も客人をもてなすためにも、祭りの準備をしなくては……

 

7月××日

夏が来てから、次々とおかしな出来事が起こるようになった。

ここ最近、雨に混じって雪が降ってきたり、どこからともなく冷たい風が吹くようになった。

この事態に町の人々も困惑している。

一刻も早くこの異常気象の原因を突き止めなければ…

 

8月××日

粉雪はやがて吹雪となり、緑があったウォルティア領北はついに雪の世界と化した。

異常気象の原因も未だ突き止められぬままである。

もうダメだ…この町は終わりだ……。

 

9月××日

私は憔悴のあまり幻覚を見ているのか……

美しき女が私の目の前に……

 

 それから先の日記には何も書かれておらず、町長はその月に雪の女王によって命を奪われたのだろう。二人が日記帳を読み終えた後、町長の机に日記帳を戻しその場を後にする。

「この日記帳に書かれている内容はウォルティア領北…そして町長の身に起こったことが書かれているわね。どうやら町長が死ぬ間際に見たのは、まさか雪の女王なの!!

「お姉ちゃんの言う通り、ウォルティア領北を極寒の大地に変えたのは間違いなく雪の女王だ。僕たちはどうやら豪商ロレンツォ…そして雪の女王を倒さなければならない運命にあるかもしれないね。」

先ほどまで吹き荒れていた吹雪はおさまり、歩いて進めるまでに天候は回復していた。

「そうね…これから先きっと厳しい戦いになるかもしれないけど、私たちはやるしかないのよ。もうそろそろ吹雪も落ち着いてきたから、旧ウォルティア城へと向かいましょう。」

ウォルティア領北についての手がかりを手に入れた二人は役場を後にし、旧ウォルティア城へ向けて足取りを進めるのであった……。

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