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終章第三十五話 それぞれの北への道

 ウォルティア領北へと続く抜け道を進む一行であったが、ロレンツォによって洗脳され悪に堕ちたミシュリアが現れた。ミシュリアの襲撃によって北へと続く抜け道は落石で分断され、リリシアとレナードは取り残されてしまい、仲間たちと離れ離れとなってしまった。一旦ウォルティア城へと引き返した二人はウォルティア王にあの抜け道以外にウォルティア領北へと行く方法はないかと聞いたところ、ウォルティア城の湖の裏に巨大な滝が流れており、その滝を遡った先にある大空洞を抜ければウォルティア領北に行けると分かったが、水の流れが激しくとても危険なルートであった……。

 

 リリシアとレナードがウォルティア王とリュミーネの助力によって凍り付いた滝を登る中、抜け穴の崩落地点の先を行くカレニアはブレアはミシュリアの追撃を逃れるかのように抜け道の奥へと走っていた。

「はぁはぁ…リリシアたちとは離れ離れになってしまったけど、今は先に行くしかないわ!!あの娘がどこにいるかわからないからね。」

「お姉ちゃん、ひとついいかな?少し前にレナードさんと情報集めをしていた時に立ち寄った占い小屋で旅の運勢を占ってもらったんだ。その占い師の老婆が『北への抜け道はいずれ閉ざされるが、大きな滝の流れる場所を辿れば北にたどり着ける』と言っていたんだ。今は散り散りになってしまったが、二人は必ず来てくれるさ!!

離れ離れになってしまったリリシアとレナードは必ず来てくれるとの言葉を聞いたカレニアは、ほっとした表情でブレアにこう答える。

「そうね…今はリリシアたちの無事を祈るしかないわ。あの子は旅の中で何度も困難を乗り越えて来たんだからね!!洞窟内の気温がそろそろ下がって来たから、ウォルティア領北はもうすぐよ。」

肖像画の裏に隠された抜け道を抜けた先には、そこには一面の銀世界が広がっていた。

 「この景色…リリシアと一緒に見たかったわ。ブレア、ここから先は雪で視界が悪いから私から離れないようにして進むのよ。この雪の世界ではぐれたら最後、凍てつく死が待っているからね。」

カレニアははぐれないようにブレアの手をつなぎ、目指すべき旧ウォルティア城へと向けて足取りを進めるのであった……。

 

 カレニアとブレアが一足先にウォルティア領北への到着を果たす中、リリシアとレナードは凍てつく滝を登り終え、ウォルティア領北へと続いているといわれる大空洞を進んでいた。膨大な水の流れによって発生するマイナスイオンと北側から吹き付ける風の影響で、大空洞の中は不気味なほどの冷気に包まれていた。

「決死の滝登りの果てにこの大空洞にたどり着いたのはいいが…ここを進めば本当にウォルティア領北にたどり着けるかが心配だ。」

「大空洞は自然が創り出せし迷路…不用意に進めば迷ってしまう危険性があるわ。ここは何か目印となる物…例えばパンくずや小枝なんかを一定の歩幅で置いておけば迷うリスクを減らせるわ。」

リリシアが鞄の中からパンを取り出すのを見ていたレナードは貴重な食べ物を道しるべの道具に使う行為がもったいないと思ったのか、慌てた表情でリリシアを呼び止める。

「待ってくれ…貴重な食べ物を粗末に使うのは私的にはよくないと思うんだが……。」

「た…確かにもったいないと思うのですが、万が一進んだ先が行き止まりだったことを考えれば、パン屑をたどれば安全に来た道に戻れるでしょ。さて、これから洞窟の中を進むから私についてきてちょうだい。レナード、明かりを出してちょうだい。」

レナードがカンテラに火を灯し、リリシアと共に大空洞の中を進んでいく。二人は10歩間隔でパンくずを置き、慎重に大空洞の奥へと進んでいく。

 「参ったなぁ…行き止まりだ。」

ルートを進んだ先に見えたのは、出口ではなくまさかの行き止まりであった。一行は迷わないように置いたパンくずを拾いながら来た道を戻り、入り口付近へと引き返す。

「地面に置いたパンくずを拾ってもとに戻って来たけど、どのルートを行けばウォルティア領北に行けるというのは分からないから、いくつか試行錯誤しなきゃいけなさそうね。」

「うむ…しかしカンテラの燃料が切れれば真っ暗闇の中を進まなきゃならない。ここは素早くルートを見つけないとな。」

レナードがカンテラの燃料切れを気にする中、リリシアがレナードにこう告げる。

「万が一カンテラの燃料が切れても大丈夫よ…私の炎の魔力があれば暗闇を明るく照らすことは可能よ。困ったときはお互い様…とにかく先に進みましょう。」

大空洞の入り口まで引き返した二人は再び迷わないようにパンくずを置きながら、先ほど通った道とは別のルートを進んでいく。しばらく大空洞の中を進んでいると、二人の目の前に獣の足跡らしき物体が目に映る。

「見て、獣の足跡よ。どうやらこの大空洞の中に生き物がいるみたいだわ。獣の足跡をたどっていけばこの大空洞から外に出られる可能性は高そうね。」

二人が獣の足跡をたどりながら進むと、そこにはかつて人が住んでいたと思われる無数の洞穴があり、先ほどの足跡の主はこの洞穴を通って来たのだろうか。

「ここはどうやらかつてウォルティア領北にいた先住民が住んでいたと思われる住居だな。どうやら大空洞の壁に洞穴を掘ってそこで生活していたのだが…今となっては廃墟だな。」

レナードが恐る恐る洞穴の中を調べると、そこには獲物を狩るために使う道具や、そこに住んでいたと思われる人間の骨らしき物体がそこにあった。

「ふむ…なるほどな。かつて住んでいた先住民は獲物を狩るためにこの大空洞から地上に出ていたということだな。かつては湿潤で獲物も多く住んでいたウォルティア領北だったが、雪の女王のせいで氷の世界へと変えられ、獲物が取れなくなり先住民は滅んだというわけか。」

洞穴の中を調べ終えたレナードの言葉を聞いたリリシアは、何かを思いついたような表情でレナードに伝える。

 「確かにあなたの考えは当たっていると思うわ。それより今は地上に出るための道を探しましょう…この近辺の洞穴を片っ端から調べれば何か手がかりがつかめるはずよ!!

そのあと二人は住居跡の洞穴の中を調べ続け、ようやく大空洞の奥へと続く道を発見した。

「はぁはぁ…やっと出口へと続く道を見つけたわよ!!

「どうやら先住民はここから地上に行っていたようだな。この奥から冷たい風が吹いている…どうやらここを進めば大空洞を抜けられそうだが、この先から魔物の気配を感じる…魔物に気づかれないように進むんだぞ。」

魔物の気配を感じ取ったレナードがリリシアに魔物に気づかれぬように進むようにと伝えた後、二人は大空洞の更に奥へと進んでいく。奥へと進むにつれて洞窟内の気温が更に冷たくなり、徐々にウォルティア領北へと近づいているような実感すら感じるような雰囲気であった。

 「ちょっと待て…奥の方に何かいるぞ。ここは急いで物陰に隠れて様子を見よう。」

二人が物陰に隠れて辺りを見回した瞬間、そこには槍を構えた氷でできた兵隊たちが大空洞の奥から次々と現れ、見回りを開始する。

「ケッ…雪の女王様の命令とはいえ、こんなネズミ一匹いない大空洞の見回りを俺たち氷の警備隊にさせるとは人員の無駄遣いってもんだよ。この空洞にいた先住民とやらは雪の女王様の力で根絶やしにしたのに…ほかに生き物なんているのかよ。」

「まぁ言われてみるとそうかもしれないな。我らが雪の女王様の掲げるスローガンは『ウォルティアのすべてを氷の国に!!』だからな。俺たちの役目は邪魔する者を氷漬けにすることだ。たとえネズミや人間が襲ってこようがすべて俺たちの力で凍らせてやるだけさ!!

氷の警備隊たちが大空洞の見回りを始めようとしたその時、突如大空洞の奥から鋭く巨大な二本の見事な牙を持つ白い獣が現れ、猛スピードで氷の警備隊たちの列に突っ込む。

「それでは今日も雪の女王様の為に、進軍開……ぐわぁっ!!

「ブルルルル……ブルオォォッ!!!

猛スピードで繰り出される突進を喰らった氷の警備隊たちは次々と吹き飛ばされ、粉々に砕け散っていく。白い獣は氷の警備隊たちを全滅させた後、地面の匂いを嗅ぎ始める。

「あの兵隊ども…どうやら雪の女王の配下のようだな。しかしあの白い獣が全てやっつけたようだ。」

「私たちが見た足跡は…まさかあの獣かもしれないわ!!早くここから離れないと、奴が私たちの匂いを嗅ぎつけて襲ってくるかもしれないわ。」

二人がその場から離れようとしたその時、先ほどの白い獣が目の前に現れる。

 「まずい…私たちの気配に気づかれたぞ!!

物陰に隠れていたレナードとリリシアに気づいた白い獣は大きく息を吸いこんだ後、雄たけびを上げて威嚇する。その戦慄の雄叫びは大空洞の空気を震わせ、天井の氷柱が次々と落ちるほどであった。

「見つかった以上戦うしかないわ…私の魔力でぎゃふんと言わせてあげるわ!!

リリシアが両手に魔力を集めて臨戦態勢に入る中、レナードは静かに目を閉じて相手の心を探り始める。

「そこの娘よ、奴はそう言っている!!私の役目は雪の女王に仕える者を排除するのみだ。お前らも雪の女王に仕える者ならば、私がその牙で血祭りにしてくれる!!とな。」

レナードの話を聞き終えたリリシアは戦闘態勢を解き、怒り狂う白い獣の前に立ち自分たちが雪の女王に仕える者ではないことを伝える。

「私たちは雪の女王に仕える者ではありませんし、あなたと戦うつもりもありません。分かったらおとなしく引き下がりなさい。」

リリシアの言葉が通じたのか、先ほどまで怒り狂っていた白い獣は急に冷静になり、何かを訴えるようなまなざしを彼らへと向ける。

 「どうやら君の言葉が奴に通じたみたいだな…奴はこう言っている。『お前たちが雪の女王の手下ではないことは分かった。私は昔人間の姿をしていた…しかし雪の女王に仕える魔導士によってこの姿に変えられてしまったのだ。ウォルティア領北が雪の世界に変えられてから早100年…私は今もこの姿で雪の女王の配下と戦ってきた…奴を討つまでは死んでも死に切れんのでな。私にはまだ使命がある…さらばだ!!』とな。何とかあの白い獣との戦いは避けられたが、まだまだ油断はできないな。」

彼らにそう言い残した後、白い獣は大空洞の奥へと去って行った。戦いを免れたリリシアたちは再び足取りを進め、出口へとめざし歩いていく。

「さすがに私もかわいそうだと思うわ…あの獣は元々は人間なのに雪の女王に仕える魔導士によって100年もの間獣の姿でこうして雪の女王の配下と戦ってきたんでしょう。この大空洞の中に先ほど出て来た雪の女王の配下たちがまだいるかもしれないわ。」

「私も同感だな…これから私たちが向かう場所は雪の女王の支配下だ。雪の女王の配下とニルヴィニアの配下とも戦わなければならないな。つまり三つ巴と言うわけだな。ウォルティア領北はもうすぐだが、まだまだ気は抜けないようだな…では先を急ぐとしようか。」

予期せぬ襲撃もあったが、リリシアとレナードは魔物の気配を注意しつつ大空洞の奥へと向かうのであった……。

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