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終章第三十四話 阻まれた二人は凍てつく滝を登る

 城下町での情報収集を終えた一行はウォルティア王から更なる情報を聞き出すべく、ウォルティア城の中に入るべく、噴水広場の北にあるウォルティア城への唯一の入り口である城門を訪れた。しかし城門には大槍を持った衛兵が立ちふさがり、通行証すら持たない一行は言うまでもなく門前払いされてしまった。このまま城の中には入ることができないと思ったその時、たまたま妊娠中のフィリスの健康診断を終えて城に帰る途中のディオンと再会したことにより、何とか衛兵から通行許可を得てウォルティア城の中に入ることに成功した……。

 

 ウォルティア王との謁見を終え、先代王の肖像画の裏に隠された抜け道を進む一行はミドナの町で買っておいた防寒具を着込み、これから彼らに襲い掛かるであろう寒さに備える。

「防寒対策はバッチリ…このまま進めばきっと辿りつけるわよ!!仲間たちを助けるために、一刻も早く先を急がなきゃいけないからね。」

意気揚々と抜け道の中を進む中、突如一行の目の前にロレンツォが施した洗脳の呪縛によって悪に堕ちたミシュリアが現れ、不気味な笑みをうかべながら睥睨する。

 「うふふ…もしかしてあなたたち、この抜け道を抜けて私たちの待つ九ウォルティア城に行くつもり…だけどね、ここから先に行かすわけにはいかないわ。あなたたちは私の手によってここで生き埋めになるんだからね!!

突然現れたミシュリアの姿を見たレナードは、声を上げてミシュリアにこう呼びかける

「ミシュリアっ!!正気になれ…今ならまだ間に合うはずだ!!

「あらぁ…誰かと思ったらレナードじゃない。仲間を失った悲しみのあまり海に身を投げたと思ったけど、仲間たちのおかげで何とか立ち直ったみたいね。でも、あなたが何度立ち上がろうとも私が何度でも心を折って差し上げますわ!!

ロレンツォによって捨てられた城に連れ去られたセルフィの身を案じるレナードは、ミシュリアにセルフィが今どこにいるのかと問いかける。

「ミシュリアよ、ひとつ聞かせてほしい…ロレンツォ様が連れ去ったセルフィはどこにいる!!

「セルフィね…私が散々拷問して遊んでたんだけど、突然牢獄から逃げたみたいね…ロレンツォ様が言うには、女帝の力とかいうのを発動させたからだって言うのよ。ロレンツォ様と一緒に血眼になって牢獄から逃げた人体実験の材料を探している途中だけど、私たちの城があるウォルティア領北への道を壊すために来たわけよ。と言うわけで、じゃあね…あなたたち!!

その言葉の後、ミシュリアは魔力を集めて抜け道の天井に放つ。その凄まじい爆発は洞窟の内部を崩落させ、次々と天井から岩が降り注ぎ彼らの進路を阻む。

「あの小娘、厄介なことをしてくれたわね…このままでは私たちが生き埋めになってしまう!!カレニア、あなただけでも先に行って!!私たちもあとで必ず向かうから!!

大きな爆発のあと、ミシュリアの姿は抜け道からいなくなっていた。リリシアたちが崩落の影響で足止めを食らう中、カレニアはブレアを連れて先を急ぐ。

「分かったわ…あとで必ず合流しましょう!!ブレア…立ち止まっている暇はないわ。一気にここを抜けるわよ!!

リリシアにそう告げた後、ブレアとカレニアは急いで抜け道の出口へと急いでいく。その数分後、ウォルティア領北への道は完全に塞がってしまった。

「なんてことなの…北への道が分断されたうえ仲間とも離れ離れになってしまったわ。」

「大丈夫だ…必ずウォルティア領北へと続いているもう一つの道がどこかにあるはずだ。ここは一旦城に戻って情報を探そう。」

ブレアとカレニアと離れ離れになったリリシアとレナードは一旦抜け道を引き返し、ウォルティア城の王の間へと戻って来た。

 「むむっ…先ほど抜け道から大きな爆発音がしたが、まさか抜け道が崩落してしまったのか!!確かにあの抜け道は100年前に掘られた抜け道なので、崩れる危険性があったからな。」

リリシアが抜け道で起こった事情を話そうとしたその時、レナードが前に出て王様にそう告げる。

「事情は私が話そう…私たちが抜け道を進んでいるときにニルヴィニアの手下と化したミシュリアが現れ、洞窟を爆発させて我々の行く手を阻んできました。現在ブレア君とその姉さんが今先を進んでいる状況です。王様、あの抜け道の他にウォルティア領北へ行くための道はあるのでしょうか?

王の間にある抜け道以外にウォルティア領北に行けるのはどこかと聞かれ、王様は少し困惑した表情で二人にウォルティア領北へたどり着けるルートを教える。

「むむ…困ったものだな。どうしても行きたいというなら教えてやろう。このウォルティア城のうしろにある湖の裏には大きな滝が流れており、その流れる滝を遡るように進んでいけばその先に大空洞があり、その大空洞を進んでいけばウォルティア領北にたどり着けるというが、水の流れが激しくとても危険なルートだ。それでも行きたいというならわしはそなたらを止めないが、死にに行くようなものだぞ。」

ウォルティア領北へと行くためのもう一つの道は最悪の場合命を失うかもしれない危険なルートだということを王から聞かされたが、リリシアとレナードは真剣な表情でこう答える。

「唯一の通行手段を失った今、どれだけ危険な道でも行くしかないわ。」

「そうだな…我々もこんなところで足止めを喰らっているわけにはいかないからな。そうだ、君にひとついいことを教えてあげよう。ウォルティア城に入る前に情報収集の為にブレア君と一緒に占いをしてもらったのだが、占い師の老婆が言うには『ウォルティア城の王の間の先代王の肖像画の裏に抜け道があるが、その道はいずれ閉ざされるだろう。しかし諦めるな、巨大な滝の流れる場所を辿れば北へと導いてくれる。』とのことだ。もしそれが本当なら、大きな滝をさかのぼって進めば北にたどり着ける確率はゼロではないということだ。すぐにでも北に向かい、先に向かった二人と合流しなければならないからな!!

二人のウォルティア領北へと行きたいという熱意を感じ取ったリュミーネは、王様に船を出すように要求する。

 「王様…二人に調査船を貸してあげて。」

ウォルティア王は少し頭を抱えながら考えた後、リュミーネの要求に応じる。

「貴重な調査船を貸す訳にはいかんが…北へと続いているといわれている大空洞へと続いている大きな滝まで案内することは可能だ。今から湖の調査船が停泊してある船小屋に案内するので、私についてまいれ。」

二人とリュミーネは王様に連れられ、地下にある船小屋へとやってきた。船小屋に足を踏み入れた瞬間、さまざまな観測用の装置が取り付けられた大きな船が彼らの前に姿を現す。

「皆の者よ、これが湖の調査に使うために造られた調査船だ。先に北へと向かった仲間と合流するために急いでいるんだろう…早く船に乗り込むがいい。操縦は私が執り行う。」

リリシアたちが調査船に乗り込むと、ウォルティア王はすぐさま操舵室へと向かい調査船を発進させる。調査船が目的地に到着するまでの間、二人とリュミーネは北へと向かうための作戦会議を行っていた。

「私たちが乗っている調査船が進めるのは滝壺付近だけ…問題は大きな音を立てて流れる巨大な滝よ。激流に逆らいながら進むのはほぼ不可能よ。」

「確かにそのまま流れに逆らいながら進むのは無謀なことだけど、私の術で滝の水を凍らせてしまえば登ることは可能よ。しかし凍らせたところで登るには相当の体力が必要となるけどね。」

リュミーネの魔力で巨大な滝を凍らせても、凍った滝を登るためには相当の体力が必要だと告げられたが、二人は平気な顔でこう答える。

「大丈夫よ…私は翼で空を飛んでいけるから登るために必要な体力は消費しなくて済むわ。」

「私は糸術を使ってあなたが凍らせた滝を登ります。できれば紫髪の女に掴まって空を飛べれば楽に行けると思うんだけどな。」

翼で空を飛ぶリリシアに掴まれば楽に進めそうだというレナードの提案に、リリシアは冷たい視線でレナードを睨み付けながらそう言い放つ。

 「残念だがそれは無理よ…細見の女性なら掴んで空を飛べるけど、女と違って筋肉がついてる男性を掴んで空を飛ぶことは不可能よ。万一あなたを掴んで空を飛べても私の体力が持たない…途中で力尽きて落ちてしまう危険が高いからね。最後に言っておくけど、楽をしようなんて思わないことね。」

一行が作戦会議を進める中、ウォルティア王が船が目的地に到着したということを伝えに来る。

「皆の者よ、たった今調査船は目的地に到着したぞ。」

「王様、忙しい中手を貸してくれてありがとうございます。みんな、作戦を始めるわよ!!

船室から出た一行の目の前に、轟音とともに流れ落ちる巨大な滝が姿を現す。リュミーネは滝の水を凍らせるべく、両手に魔力を集めて術の詠唱を始める。

「凍てつく魔力よ、すべてを凍らせる波動とならん!!グレイシャル・ウェイブ!!

リュミーネが詠唱を終えた瞬間、彼女の体から放たれる極低温の冷気が湖を凍らせていく。先ほど轟音を立てて流れ落ちていた巨大な滝も、彼女の魔力の前には一瞬にして大きな氷柱と化す。

「こ、これがかつて仲間と共に世界を救った英雄の力なのか!!湖の水どころか…流れている滝全てを凍り付かせるとは……!!

流れ落ちる滝をも凍らせてしまうリュミーネの魔力の前に、レナードはただ驚きの表情で見ていた。

「これで私がしてあげられることは以上よ。あとはあなたたちがこの滝を登って北へと向かうのよ。リリシア、ここから先過酷な旅になるかもしれないけど、どうか死なないで。」

「ありがとうリュミーネ、あなたのおかげで離れ離れになった仲間たちと合流できるわ。さて、これから過酷な滝登りの始まりよ…レナード、必死で私についてきなさい!!

リュミーネとウォルティア王が見送る中、リリシアは六枚の翼を広げ、大きく空へと舞い上がっていく。一方レナードは魔法の糸を巧みに使って凍てついた滝に食い込ませ、必死でリリシアの後に続く。

 「私はロレンツォ様に仕えていた頃、糸術で山を登る術を教えられていたものでね。だが今回は岩肌ではなく凍り付いた滝、体から発せられる僅かな温度で氷が解けて滑落する恐れがあるので、一気に登るしかなさそうだな!!

レナードが先を行くリリシアにようやく追いついたその時、二人の目の前に大きく開いた穴が目に映る。どうやらウォルティア領北から流れた雪解け水がこの岩山の大空洞の中を流れ、ウォルティア城の湖に流れ、膨大な量の清き水をたたえる巨大な水瓶を作り上げていた。

「どうやらここが大空洞の入り口のようね…つまり北から流れた水がこの大空洞を流れてウォルティア城の湖に流れているというわけね。ここで休んでる暇はないわよ…この滝はリュミーネの魔力で一時的に凍っているが、時間が経てば魔力が解けて私たちは激流に流されておわりよ。死にたくなかったらついてきなさい!!

「そうだな…私たちには大切な仲間を救う目的がある!!こんなところで立ち止まっては居られない…待ってろ、セルフィ…そしてミシュリア!!必ず私が救い出して見せるからなっ!!

リリシアはニルヴィニアによって石にされた仲間たちを救うため、レナードは囚われの身となったセルフィとロレンツォに洗脳され闇に堕ちたかつての仲間であるミシュリアを救うため…この凍てついた滝の果てに見える大空洞の向こう…ウォルティア領北にある捨てられた旧ウォルティア城へと一歩ずつ歩き出していく…。

二人の心を繋ぐのは、それぞれの果たすべき目的だけ。

身も心も凍り付くほどの過酷な旅が、今幕を開けたのであった……。

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