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終章第三十三話 清き水の王国と冷徹なる雪の女王

 一行を乗せた列車は広大な湿地帯を抜け、ついにウォルティア大陸の中心の都市であるウォルティア城下町へと到着した。列車を降りた一行はウォルティア領北の情報を手に入れるべく、二手に分かれて情報収集を始めることにした。ブレアとレナードが情報を得るべく市場へと向かう中、リリシアとカレニアは城下町で一番大きな宿の地下にある酒場を訪れ、聞き込みを開始する。酒場のマスターの言葉によると、ウォルティアという国は南と同じ湿潤な北に国を構えていたが、ある日雪の女王の怒りに触れたことで全てを凍てつかせる極寒の地と化し、国民は城を捨て南に移住したことを聞かされる。ウォルティア領北に行く方法を聞き出すことはできなかったが、いい情報を手に入れた二人は、集合場所である噴水広場へと戻りブレアとレナードの帰りを待つのであった……。

 

 リリシアとカレニアが酒場で情報収集をする中、市場に来たブレアとレナードは道行く人々に聞き込みを始めるが、いい情報が得られずにいた。

「まいったなぁ…これではなかなか情報が得られないな。」

「さすがに道行く人々に情報を聞き出すことは不可能ですね…ここは商材の仕入れや商売の為にいろんな大陸を渡り歩いている行商人に聞いてみれば何か分かる気がするんだ。それでもダメなら占い師に占ってもらうのも手ですね。」

大陸を渡り歩いて商売をしている行商人に聞けば何か得られるかもしれないというブレアの提案を聞いたレナードは、ウォルティア領北に行く方法を知っているかを尋ねる。

「商売中すまない…私たちはウォルティア領北に行く方法を探している。知っていることだけでもいいから教えてくれないか?」

ウォルティア領北に行くための方法を教えてくれとのレナードの問いかけに、行商は自分が知っている限りの情報を二人に伝える。

 「ウォルティア領北ねぇ…私も材料の仕入れの為に来たことはあるけど、あそこは雪と氷に覆われた大地だったよ。私は北側にある港町からウォルティア領北に来たのさ。昔はウォルティアの国民たちが湿潤な南側へと逃げるために岩山をくりぬいて抜け道を作ったという話があるが、その抜け道はウォルティア城に隠されているとのことだ。俺が話せるのはそれだけだ…これ以上話が長くなると商売の邪魔になっちまうから、そろそろ終わりにしようかね。」

これ以上商売の邪魔をする訳にはいかないと思った二人は貴重な情報をくれた行商人に感謝の言葉を述べた後、そそくさとその場を去っていく。

「君の提案の通り、行商人から何かといい情報が手に入ったな。ブレア君、せっかくウォルティアの市場に立ち寄ったことだし、ひとつ占いでもしていこうか。」

「そうですね…ぜひとも僕たちの旅の運勢を占ってもらいましょう。先ほど行商人から手がかりはつかめましたが、さらに手がかりが掴めそうな気もしますからね。」

市場を散策する二人は旅の運勢を占ってもらうべく、市場にある占い小屋へと足を踏み入れた。小屋の中には不気味な光を放つ水晶玉が台座の上に置かれ、占い師と思われる老婆がそこにいた。

「よく来たね…小銭さえ払えばおぬしの運命を占ってあげるよ。二人とも、早く椅子に座りんしゃい。」

占い師の老婆に占い賃を渡した後、台座の上に置かれた水晶玉に念を送り始める。

 「おぬしら、行商人にウォルティア領北に行くための方法を聞いていたようじゃな。北への抜け道はウォルティア城の二階の王の間…先代王の肖像の裏に隠されているのじゃが…その抜け道はいずれ閉ざされることだろう。でも決してあきらめてはいかん…北へ行くためのもう一つの道は巨大な滝の流れる場所を辿れば北へと導いてくれるであろう。ではひとつ問おう、おぬしらはなぜウォルティア領北に行くのだ……?」

なぜウォルティア領北に行くのかと老婆に問いかけられ、レナードは捨てられた城に悪に堕ちたミシュリアを助けるために行くという旨を伝える。

「私たちはニルヴィニアの陰謀によって悪に染まった大切な仲間を助けるため、私たちはウォルティア領北にある捨てられた城へと行くための方法を探していたんです。占い師さん、次は私たちの運勢を占ってくれるかい?」

老婆が水晶玉に強く念じた後、二人に旅の運勢の占いの結果を伝える。

「うむ…占いの結果を伝えるぞ。そなたらのこれからの旅の運勢はまぁまぁなところじゃな。その道中で困難や大きな壁にぶつかるときもあるが、心優しき仲間たちがきっと支えてくれるじゃろう。旅の神様は空の上からずっとそなたたちを見ておるからのぉ…何か困ったことがあったらまた来んしゃい。」

「占い師さん、いい情報をありがとうございます。」

市場での聞き込みで得た情報を紙に記した後、占い小屋を後にした二人は集合場所である噴水広場へと向かうのであった……。

 

 ウォルティア城下町での情報収集を終えた仲間たちは噴水広場に集まり、それぞれ聞き込みで得た情報を話し合っていた。

「リリシア、ブレアとレナードがいい情報を持ってきたわ。占い師から得た情報では、ウォルティア領北と南をつなぐ抜け道はウォルティア城の王の間にある先代王の肖像の裏に隠されているということがわかったのよ。その抜け道を使えばウォルティア領北に行けるけど、王様に許可を貰わなきゃいけなさそうね。」

カレニアの言葉の後、レナードが不安そうな表情で全員にこう告げる。

「そうだな…城下町での聞き込みである程度情報は集まったから、今からウォルティア城に向かおう。今いる噴水広場から北の方に進めば城へと続く門があるが、通行証も持たない我々を簡単に城内へと通してくれるわけにはいかなさそうだな。」

ウォルティア城に出入りするための通行証を持っていない一行は不安を抱きながら、噴水広場の北にある城門へと向かっていく。城門の前では数名の重装備に身を包んだ衛兵が警備をしており、城門の付近にはただならぬ威圧感が漂っていた。

 「さて、門を開けて城の中に入るわ……ッ!?

リリシアが門に手を触れようとしたその時、すぐそこにいた衛兵が大槍を構えて門を封じる。

「ここから先は通行証を持たない者は通すわけにはいかん!!

「悪いけど私たちは通行証は持っていないわ…だってこの城下町に来たばかりだから。でも私たちは仲間たちを助けるためにウォルティア領北に行きたいので、この城の王様に会わせてくれないかな?」

一行が通行証を持っていないと知った衛兵は、すぐさま大声を上げて追い返す。

「ウォルティア王は貴様のような見ず知らずの者の顔など見ている暇はない!!今すぐここから立ち去れぃ!!

衛兵たちが大声で一行にすぐに立ち去るように威嚇する中、城門の前に妊娠中とみられる王族の女と大きな剣を背負った男が現れ、大槍を構えて門をふさぐ衛兵たちに話しかける。

「衛兵たちよ…その者たちを城の中に通してあげなさいっ!!

その正体はウォルティアの王女であるフィリスとリュミーネの双子の兄でありかつてクリスたちの旅に同行していたディオンであった。二人はたまたま城下町の病院で母子の健康診断を終えて城内に戻る最中であった。

「お帰りなさいませ、王女様!!通してくれと言われても、その者たちは通行証を持たない見ず知らずの者です!!そんな奴らを城内に入れてもいいのですかっ!?

「確かにあなたたちにとっては見ず知らずの者ですが、その者は私の仲間です…通しなさいッ!!

気高き王女の覇気を孕んだフィリスの一喝に恐れをなした衛兵たちは大槍を収め、城門から離れていく。たとえ王の子供を妊娠した身でも、ウォルティアの王女たる気高さは健在であった。

「むむっ…見覚えのある髪型と赤い眼鏡はっ!?まさか君はかつて我々と旅を共にしたカレニアではないか!!それに魔界王に就任したリリシアまで…久しぶりだな!!

「あ…あなたはもしかして、ディオンとフィリス様じゃない。私たちはちょうどウォルティア城の中に入ろうとしたけど通行証が無くてどうしようもない状態だったのですが、あなたたちが偶然ここに来てくれて助かったわ!!

リリシアたちが王女と知り合いだと知った衛兵たちは、門を開けて城内に入る許可を出す。予期せぬかつての戦友との再会のおかげで、何とか難を逃れることができた。

 「あなたたちが王女様とお知り合いである以上、城の中へと入らせてやろう。だがひとつ言っておく、城の中では決して粗相のないようにな。」

門番たちが手を振ってフィリスたちを見送る中、一行はウォルティア城の中へと足を踏み入れるのであった……。

 

 ウォルティア城の中に来た一行はフィリスと共に、三階にある王の間へとやって来た。全員が緊張しながらウォルティア王と謁見する中、ディオンは健康診断の結果を王に告げる。

「王様…ただいま健康診断から戻りました。フィリス様のお腹の子供は何事もなく成長しています…医師からの言葉では、出産予定日はあと3か月だそうです。」

「ディオンよ、フィリス様の健康診断の付き添いご苦労であった。そうだ…お前は知らないだろうが数日前にお前の妹であるリュミーネがここに来たのだ。仮面の魔導士の事件で勇敢に悪と戦い戦死したと思われたが、突如私に会いに来たのだ。いま彼女はウォルティア城内の見回りに行っておるので、数時間もすれば帰ってくるだろう。ところでフィリスよ、その者たちは私に用があって来たのか?」

王様の言葉の後、カレニアが前に出て王様にウォルティア領北に行くためにウォルティア王に会いに来たということをと告げる。

 「ウォルティア王様、私たちはニルヴィニアによって石にされた仲間を救うためにウォルティア領北にある旧ウォルティア城に行くための方法を探してここに来ました。」

ウォルティア領北に行く方法を知るためにここに来たという旨を知った王は、驚きの表情を浮かべながら一向にこう伝える。

「なんと!!ウォルティア領北に行きたいと申すか。確かにあの場所は南に移住した我々にとっては禁忌の地、冷徹なる雪の女王の統べる全てを凍らせる極寒の地だ。先代王が山を掘って作ったといわれる北への抜け穴が先代王の肖像画の裏に隠されているのじゃが…どうしても北に行きたいというなら通してやってもいいぞ。」

カレニアとウォルティア王がウォルティア領北に行けるように交渉する中、騎士の出で立ちをした青い髪の女が王の間へと入ってきた。

「王様、城内の見回りを終えて戻ってまいりました。」

リリシアがその声の方へと振り返ると、そこには仮面の魔導士との戦いで戦死したはずのリュミーネがいた。かつて仮面の魔導士と共に世界支配の悪行に走っていた自分を変えてくれた恩人との思わぬ再会に、リリシアの目には涙が溢れていた。

 「ぐすっ…やっと会えた……リュミーネっ!!

うれし涙を流すリリシアはリュミーネの方へと駆け寄り、嬉しさのあまり抱きしめる。突然の出来事に驚くウォルティア王であったが、リュミーネはすぐさまウォルティア王にその事情を話す。

「紹介するわ…この子はリリシアよ。以前は仮面の魔導士に仕えていたが、彼女との戦いの中で友情が芽生え、私の友達になったのよ。まぁ昔はお互い憎しみ合っていた時もあったが、今では心強い私たちの味方よ。」

「なるほどな…事情はわかった。そこの方たちよ、これよりウォルティア領北に行くための入り口を開こう。」

ウォルティア王は先代王が描かれている肖像画を動かすと、その裏から大きな鉄の扉が姿を現す。

「その扉を道なりに進めばウォルティア領北に行くことが可能だが、道中では何が起こるかわからないから気をつけてな。」

「王様、忙しい中ありがとうございます!!みんな、この抜け道を抜ければウォルティア領北よ…防寒対策は各自しっかりと行うようにね!!

ウォルティア王に感謝の言葉を述べた後、仲間たちが扉を開けて先を急ぐ。リリシアたちより少し遅れて旅の準備を終えたブレアはリュミーネの方へと近寄り、旅に出るとの旨を伝える。

「リュミーネ…僕はこれから仲間たちを助けるためにウォルティア領北に行ってくるよ。」

「わかったわ…必ず生きて帰ってきてねっ!!

二人は熱い口づけを交わした後、ブレアも大きな鉄の扉を開けてウォルティア領北へと続く抜け道へと向かうのであった……。

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