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終章第三十二話 ウォルティア領北の真実

 ミドナの町を襲っていたヘルズヒューマノイドたちを全滅させた一行はミドナの町の北にある列車に乗り込み、ウォルティア城下町に到着するまでひと時の休息を送っていた。仲間たちがそれぞれ列車内の散策をしている中、列車は草原地帯を抜け、泥の匂いが広がる湿地帯を進んでいた……。

 

 ウォルティア城下町行の列車は沼地を少し走った後、沼地の停留所に停車する。車掌と乗務員たちが最後尾の展望テラスを折りたたんだあと、車掌が乗客にアナウンスをかける。

「これより当列車は…湿地帯に入ります。ここから先は湿地帯のため、沼地に生息している魔物や水が車両の内部に入る可能性があるため、乗客の皆様は窓を閉めるようお願いいたします。また、最後尾の車両にある展望テラスは湿地帯を抜けるまで、閉鎖させていのただきますのでご了承ください。」

湿地帯に入るとのアナウンスのあと、沼地の停留所を後にした列車は再びウォルティア城下町へと向けて発進する。列車の窓からは一面沼地が広がっており、湿地帯に生息している巨大な水棲生物がのし歩いていた。

「列車は今湿地帯に入ったわ…ここから先は水棲生物たちの住処よ。窓越しから泥臭い風景ばかりを見ているのはつまらないから、私はここでしばらく寝ておこうかな。」

リリシアは退屈のあまり、ベッドに寝転がりそのまま寝てしまったようだ。

「確かにリリシアの言う通り、窓から見える景色は沼地ばかりで暇つぶしにもならないからね。ここは私が見張りをしておくから、あなたは少し寝てていいわよ。」

リリシアが寝てから数分後、ブレアとレナードが退屈そうな表情で部屋に戻ってきた。

「沼地の風景は見飽きたので、とりあえず部屋に戻ってきた。とりあえず湿地帯を抜けるまで寝ておこうかな。」

部屋に戻ってきた2人はベッドに向かい、そのまま寝転がり寝る態勢に入る。

 「あら、あなたたちも退屈でここに戻ってきたの?退屈だったらしばらくベッドで休んでもいいわよ。私が起きて湿地帯を抜けるまでの間見張りしておくから。」

仲間たちがベッドで眠りにつく中、カレニアは列車が湿地帯を抜けるまでの間見張りを始めるのであった……。

 

 列車がウォルティア城下町へと向かう中、セルフィは度重なる拷問を受けて身体、精神面でもボロボロになっていたが、まだ希望は捨ててはいなかった。

「はぁはぁ…きっとレナードさんは生きている……ミシュリアはきっと何者かに操られているだけよ。いつまでもここに囚われているわけにはいかない…なんとしてもここから脱出しなきゃ!!

セルフィは傷だらけの全身に力を込め、両手両足を拘束している枷を壊そうとする。

「私の持つ女帝の力を使えば…この枷を破壊できるかもしれない!!レナードさんやミシュリアの前では決して女帝の力は使わないと決めていたが、今この力を使わなきゃこの状況は打破できない!!

全身に込められた女帝の力を解放した瞬間、セルフィの全身が光を放ち身動きを封じる枷を破壊する。女帝の力を発動したセルフィはその力で牢を破壊し、牢獄から逃走する。

「女帝の力を発動時は身体能力・感知能力も大幅に上昇し、私の本来の力を発揮できる!!今のうちにロレンツォやミシュリアの手が及ばない場所に逃げなきゃ…また捕まって拷問を受けてしまう!!

牢獄から逃走し旧ウォルティア城の中を突き進むセルフィの前に、城内を巡回中のヘルズヒューマノイドたちが立ちふさがる。

「オ、オマエハ!!ロレンツォ様ガ連レテキタ人体実験ノ材料ダナ…牢獄カラ脱走スルトハイケナイ小娘ダナ…コノ俺ガ取り押サエテ再ビ牢獄ニブチ込ンデヤル!!

「ケケケ…ロレンツォ様カラ手ヲ出スナト言ワレタガ、瑞々シイ小娘ナラ涎ガダラダラ出チマウゥゥッ!!ソノ華奢ナ身体ヲ引キ裂イテ、内臓ヲ喰ライ尽クシテヤリタクナッチマウゼッ!

ヘルズヒューマノイドたちがセルフィを取り押さえようとするが、女帝の力を発動させた彼女の前には無力であった。セルフィは渾身の正拳突きでヘルズヒューマノイドの体を貫いた後、旋風のような脚技で次々と敵の軍勢を蹴り飛ばした後、その場から走り去っていく。

 「ウググ…我々ヘルズヒューマノイドデハ手ニ負エン!!ココハガデスノイドヲ投入シ、脱走シタ実験材料ヲ捕マエルノダ!!オマエラ、ガデスノイドノ連中ニ人体実験ノ材料ガ逃ゲタトイウ事ヲ伝エロ!!

セルフィの脚技を受けて負傷したヘルズヒューマノイドが生き残った仲間たちにそう伝えると、一斉にガデスノイドの住処へと走っていく。一方その頃、セルフィが城の中を逃げ続ける中、セルフィに拷問を与えるためにミシュリアが牢獄を訪れたが、そこにセルフィの姿はなかった。

「人体実験の材料が逃げたですって!!手も足も強力な枷で封じて身動きがとれないはずなのにっ!?

突然の出来事にミシュリアが驚きの表情を浮かべる中、ロレンツォが焦った表情で牢獄に現れる。

「牢獄から強大な魔力を感じたので訪れたらこのざまだ!!脱走できた理由は簡単だ…奴がこのフェルスティアの人間ではないからだ。ニルヴィニアの配下が持ってきた情報によれば、彼女は天界にある女帝の庭(エンプレスガーデン)の出身だということが分かった。彼女の持つ女帝の力があれば、枷を破壊して牢獄から抜け出すことは可能だ。さて、我々も奴を追うぞ。あの小娘の正体が天界の女帝だと分かった以上、絶対に確保しなければならん!!

ロレンツォとミシュリアは急いで牢獄を後にし、牢獄を脱走したセルフィの捜索を開始する。負傷したヘルズヒューマノイドたちの救援要請を受け、ヘルズヒューマノイドが進化した姿であるガデスノイドたちも脱走したセルフィを捕まえるべく城内をうろついていた。

 「マッタク…人体実験ノ材料ガ脱走シタセイデ俺様マデ駆リ出サレルコトニナルトハ聞イテナイゼ。イイカ、人体実験ノ材料ハ殺スナヨ…モシ材料ガ暴レルナラ半殺シニシテ捕マエロヨ!!

ガデスノイドたちが牢獄から逃走したセルフィの捕獲に奔走する中、ロレンツォとミシュリアはセルフィの魔力を頼りに城の中を進んでいると、セルフィによって倒されたヘルズヒューマノイドたちの死体が彼らの目に映る。

「城内を巡回しているヘルズヒューマノイドが倒されているとは…どうやら女帝の力を発動したあの小娘がやったに違いない。クックック…私から逃げられると思うなよ。」

「大丈夫よロレンツォ様…必ずセルフィを捕まえてやりますわ。うふふ♪逃げ出した罰として今までの倍以上に拷問しなきゃね。」

ロレンツォとミシュリアが城内に包囲網を張る中、セルフィは敵の手が及ばない場所へ逃げ続けていた。地下倉庫らしき場所へと来たセルフィは大きな箱の後ろに身を潜め、リリシアから託された髪飾りを見つめながら、一人涙を流していた。

「ぐすっ……助けて、レナードさん…リリシア……っ!!

セルフィは城内をうろつく追っ手に見つからないよう、女帝の力を消して身を潜めるのであった……。

 

 

 一方ウォルティア城下町へと向かう列車は湿地帯を抜け、美しい川の流れるウォルティア領の停留所へ到着していた。部屋のベッドで眠っていた仲間たちも目を覚まし、久々の外の空気を味わっていた。

「みんな…魔物の襲撃もなく、列車は無事に湿地帯は抜けたみたいよ。今ウォルティア領の停留所に到着して、展望テラスを取り付けているところよ。あと少ししたらウォルティア城下町に到着するわよ。それじゃあ私はウォルティア城下町に近づくまでの間、少し仮眠をとるわ。」

列車が湿地帯を抜けるまでの見張りを終えたカレニアはベッドに寝転がり、静かに眠りにつく。

「見張りご苦労さん、それじゃあ私たちはしばらく列車内の散策をしてくるわ。」

「ウォルティア城下町に到着するまでの間、僕が見張りをしておきます。お姉ちゃんが湿地帯を抜ける間ずっと見張りをしてくれていたのでね。」

ブレアが仮眠中のカレニアの代わって部屋の見張りをする中、リリシアとレナードは展望テラスへと向かい、外の景色を楽しみながら話し合っていた。

「レナード、あなたに少し聞きたいことがあるの。あなたの仲間のミシュリアって人はロレンツォに洗脳される前は優しかった人だったの?」

「もちろん…悪に染まる前は優しかったよ。あの子はボルディアポリスの王宮の令嬢でな…ニルヴィニアの魔物の襲撃によって殺されそうになったところを私たちが助けたことで仲間になったのだよ。それよりロレンツォ様によって旧ウォルティア城に囚われているセルフィの事が心配だ。それじゃあ私は先に部屋に戻っておくよ。」

レナードが展望テラスを後にした後、乗務員のアナウンスが列車内に響き渡る。

「乗客の皆様、当列車は間もなくウォルティア城下町に停車いたします。お降りの際は足元にお気をつけてお降りください。」

列車がまもなくウォルティア城下町に到着するとのアナウンスを聞いたリリシアは急ぎ足で部屋へと戻ると、カレニアが仲間たちを集めてこれからの事を話し始める。

 「これで全員戻ってきたようね。この列車はあと少しでウォルティア城下町に到着するわ。まずは城下町で情報を集めてから、ウォルティア城に行くわよ。」

一通りこれからの予定を話し終えた後、列車は目的地であるウォルティア城下町に停車した。列車から降りた一行はすぐさま城下町の噴水広場に集まり、さっそく情報収集を開始する。

「ここはウォルティア大陸の首都だから、人が集まりそうな場所は酒場か市場あたりね。ウォルティア領北の事を知っている人を探し、そこに行くための方法を探すのが最優先事項よ。ここは私とリリシアで酒場で情報を集めるから、ブレアとレナードは市場での情報収集を任せたわよ。あと各自聞き込みが終わったら噴水広場に集合すること…それでいいわね。」

カレニアの言葉の後、一行は二手に分かれて情報収集へと向かっていく。ブレアとレナードが城下町の市場へと向かった後、リリシアとカレニアは城下町の宿屋の地下にある酒場を訪れていた。

「さて、まずは酒場のマスターに北ウォルティアについての情報を聞くわよ。酒場のマスターは酒を飲む客との触れ合いも多く豊富な情報を持っているから、多分そのことを知っていると思うわ。」

リリシアは酒場のマスターに話しかけ、ウォルティア領北の事を知っているのかと尋ねる。

「あの…ウォルティア領北の事を知っている限りの事でもいいから教えてくれないかな?」

「ウォルティア領北のことねぇ…あそこには行かない方が身のためだよ。かつては旧ウォルティア城を拠点に大きな国を築いていたが、ある日雪の女王の怒りに触れたせいで国民は城を捨て、南に移住したという噂だ。その後南と同じ湿潤なウォルティア領北は強力な冷気を発する黒い雲に包まれ、あらゆるものを凍てつかせる不毛の大地と化したとのことだ。」

ウォルティア領北を極寒の大地に変えたのは雪の女王だと知った二人は、首を傾げながらマスターにこう言葉を返す。

「雪の女王?」

「真偽は不明だが、ウォルティア領北を支配している雪の女王はウォルティア大陸ではお伽話や伝承の存在だ、ウォルティア領南に城を構えて100年経った今もウォルティア領北を強烈な冷気の魔力で氷に閉ざしているとのことだ。すまないが俺が知っているのはこれだけだ…ウォルティア王に聞けば何か手がかりがつかめそうだな。もし行くなら防寒対策はしっかりと行った方がいい…凍え死にたくなければな。」

酒場のマスターとの会話で得たウォルティア領北の情報を紙に書き残した後、二人は酒場を後にする。

 「先ほど得た情報をまとめると、ウォルティア領北は雪の女王と呼ばれる存在によって極寒の地に変えられたということよ。目的地に行く手段については分からなかったけど、なかなかの収穫だったわ。さて、市場に向かったブレアとレナードはいい情報を持ってくるかな?」

酒場での聞き込みを終えた二人は、集合場所である噴水広場に戻りブレアとレナードの帰りを待つのであった……。

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