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終章第三十一話 ウォルティア鉄道に揺られて

 レナードから自らの生い立ちを聞き出した後、レディナハーバーの宿で一晩を過ごした一行はウォルティア城下町行きの列車が走っているミドナの町へと足を進める。その道中、オーセル緑野にて見覚えのある足跡を発見した一行はその足跡をたどって行くと、ミドナの町の中にまで続いていた。町を訪れた一行が見たものはウォルティア領北にある捨てられた城に帰還する前に食糧である人間の捕獲と腹ごしらえの為にミドナの町におとずれたヘルズヒューマノイドが、今にも少女に襲い掛かろうとしていた。レナードは巧みな糸術で一匹を倒すも、町の奥から次々と体力とパワーに特化した巨漢型を含むヘルズヒューマノイドたちが現れた。一行はミドナの町の安全を脅かすヘルズヒューマノイドたちを駆逐するべく、武器を構えて立ち向かうのであった……。

 

 リリシアが術の詠唱に入る中、ブレアとカレニアは次々と現れるヘルズヒューマノイド退けていく。その一方、レナードは魔力の糸を巧みに操り、巨漢型のヘルズヒューマノイドの動きを封じていた。

「ウググ…足ガ動カンッ!!貴様…コノ俺ニ何シヤガッタァッ!!

「いくら鍛え抜かれた筋肉の鎧でも、足を縛られては動けんだろう。全身が筋肉の塊の巨漢型は通常種のように締め上げてからの切断はできんが、動きを封じることは可能だ!!

レナードが放った魔力の糸は、巨漢型のヘルズヒューマノイドの動きを封じると同時に、筋肉に覆われた足に深く食い込んでいく。しかし巨漢型のヘルズヒューマノイドは足に両力を込め、レナードが放った見えない糸を引きちぎる。

「ケケッ…コシャクナ真似シヤガッテ!!俺ノ足ニ何ラカノ細工ヲシテイタノカ。ダガモウ見切ッタゾ…貴様ノ能力ハ不可視ノ糸ヲ操ル能力。ツマリ全身に力ヲ込メレバ当然引キチギレルト言ウワケダ!!

自分の能力を見破られたレナードは、鞄の中から武器を取り出して戦いの構えに入る。

 「まさか私の糸術を破る奴がいたとはっ!?確かに筋肉だけの単細胞には絶対見破られんと思ったのだが。だが私は糸術だけではないのさ…多少は剣術も使えるのだよ!!

二つの剣を両手に構えたレナードは自分の魔力を二つの剣に集め、巨漢型のヘルズヒューマノイドの方へと向かっていく。

「ケケケ…オ得意ノ糸術ガ見破タレタ今、オ前ハコノ俺ニハ勝ツコトハデキン!!コノ俺ノ鉄ノ拳デブチノメシテヤル!!

「刃に集められし風の魔力よ、相手を切り裂く一陣の風とならん!!烈風斬!!

レナードが対剣を振るった瞬間、剣の先から衝撃波が発生し巨漢型のヘルズヒューマノイドの体を切り裂く。身にまとう筋肉の鎧のせいで致命傷を与えられなかったが、多少のダメージは与えられているようだ。

「ウググ…イカナル刃モ通サヌ筋肉質ノ俺ニココマデダメージヲ与エルトハ。ダガ致命傷ヲ負ワセルコトハデキナカッタヨウダナ!!優男ノ魔法剣ヨリ、コノ俺様ノ筋肉ノ鎧ガヒトツ上ダッタッテコトダヨ!!

巨漢型のヘルズヒューマノイドが拳を振り上げてレナードを殴りかかろうとしたその時、突如巨漢型の右の腕が切断され、ぼとりと地面に落ちる。

「先ほどの魔法剣で傷口さえ作ってしまえば、お前のその筋肉に覆われた腕を切断することは可能だ。その強靭な筋組織が損傷してしまえば、脆く切れやすくなるものだな。」

両腕を失った巨漢型のヘルズヒューマノイドは地面に崩れ落ち、レナードを睨み付けながらもがいていた。

「ウググ…オノレ優男メ!!コノママデハ済マサンゾォッ!!

「まだやりますか…腕を失ったお前に私を倒すことはできない。お前たちはすでにここで死ぬ運命にあったのだよ!!

さらに追い打ちをかけるように、詠唱を終えたリリシアが術を放つ。

 「渦巻く闇の魔力よ…荒れ狂う嵐となりて吹き抜けよ!!魔導の術…闇黒の嵐(ダークネス・ストーム)!!

リリシアの放った黒き嵐は、ミドナの町にいるヘルズヒューマノイドたちを巻き込み、木端微塵にする。強大な術をいともたやすく操る魔姫の勇姿を見ていたレナードは、その圧倒的な力の前に唖然となっていた。

「し…信じられん!!その華奢な体にどれほどの膨大な魔力を隠し持っているというのだ……!?

ミドナの町を襲っているヘルズヒューマノイドたちの殲滅を終えた一行の前に、先ほどヘルズヒューマノイドに襲われかけていた少女がた近づき、感謝の言葉を述べる。

「あなたたちのおかげで死なずに済みました…ありがとうございます。あの怪物たちをあっという間に倒してしまうなんて、お強いのですね。」

「うむ…ひとつ聞きたいことがあるのだが、この町にはウォルティア城下町に続いている列車が走っていると聞いたのだが、駅はどちらに行けばいいのか教えてくれないか?」

ウォルティア城下町行の列車が走っている駅はどう行けばいいのかとの問いかけに、少女は頷きながらレナードにこう返す。

「列車の乗り場なら町の奥にあります。今の時間ならもうすぐこの町に到着するので、今から乗り場に向かえば間に合うわよ。」

レナードが少女に一礼した後、一行は町のはずれにある列車の乗り場へと向かう。列車の乗り場に到着してから数分後、煙突から黒煙を上げながら線路を進む列車の姿が彼らの目に映る。

 「あれがウォルティア城下町へと続いている列車のようね。路線図を見る限り、目的地に到着するまでにいくつかの町に停車するようね。あっ、そろそろ停車するようだわ。」

一行はミドナの町に停車した列車に乗り込むと、すぐそこにいた車掌がこの列車についての案内を始める。

「ご乗車ありがとうございます。この列車はウォルティア城下町行きのウォルティア鉄道でございます。この列車は湿地の休息所とウォルティア城下町を経由し、グリザ大陸の関所前が終点となります。ウォルティア城下町で降りる場合は料金は一人あたり250G…グリザ大陸の関所前で降りる場合は350Gになります。」

リリシアは全員分の運賃を支払い切符を手に入れたあと、一行は列車の中へと乗り込んでいく。全員が列車に乗り込んでから数分後、四人を乗せた列車はミドナの町を離れ、湿地帯へと向けて発進する。

「さて、今私たちが乗っている列車がウォルティア城下町に到着するまで2時間ほどかかるわ。到着するまでの間、各自自由時間とします。みなさん、到着の10分前になったら部屋に集合するようにね。」

カレニアの言葉の後、部屋を後にした仲間たちはそれぞれ列車内の散策へと向かっていく。

「部屋の中で到着まで待っているのも暇だし、少し気晴らしに列車内の散策でもしようかしら…。」

ウォルティア城下町に到着するまでの時間をつぶすため、リリシアも列車の中の散策を始める。しばらく車内をぶらぶらしていると、2両目の売店の近くで食事をしていたブレアが話しかけてきた。

「リリシアと言いましたよね…確かに今は僕たちの味方ですが、仮面の魔導士に仕えていた頃のあなたは僕たちの敵であり僕の大切な恋人であるリュミーネを傷つけた。そのことは僕は許してはいないからね。」

ブレアの恋人であるリュミーネを傷つけたことに怒りを禁じえないブレアの言葉に、リリシアは深々と頭を下げながら謝罪の言葉を述べる。

「ごめんなさい…リュミーネにひどいことをしてきたことはすまなかったと思っているわ。だけどあの人は私を変えてくれた恩人なのよ。あの人がいなかったら私は……。」

リュミーネに酷いことをしてすまなかったとのリリシアの謝罪に、ブレアは少し頷いてこう答える。

「事情はわかったよ。リュミーネは死ぬ前に君を悪の道から正しき道に導いたというわけだね。彼女は勇敢に君と戦った後に、ベルゼビュートにやられたって話だが…君が生きているのはなぜだろう?」

「あの時、魔導城で私は幼少時代の頃からの仲間だったベルゼビュートに裏切られて殺されそうになったとき、ベルゼビュートに撃たれて致命傷を負ったリュミーネが最後の魔力を振り絞って私を地上界に転送してくれたのよ。だから私はここに生きているのよ。そして仲間たちと出会って一緒に旅をして、あなたたちの仲間の魂石(ソウルキューブ)をフェルスティア七大魔王から取り返し、ソウルキューブの魂を解放できる神様がいる天界に行ってその魂を解放してもらったのよ。」

リリシアとリュミーネとの戦いの後で魔導城で起こった事、そして仲間たちとの出会いの経緯を聞いたブレアは、何かを思いついたような表情を浮かべる。

 「そうか…君とお姉ちゃんと仲間たちのおかげで僕は生き返ったというわけだね。つまり…僕が生き返ったとなればかつて僕と仮面の魔導士たちと戦って死んでしまったリュミーネとレイオスも生き返っているかもしれないようですね。その真実はウォルティア城下町に行かなければわからないな。それでは僕は部屋に戻って目的地に到着するまで寝て待っておくよ。」

ブレアがリリシアにそう言った後、そそくさと部屋に戻っていく。ブレアとの会話を終えたリリシアは外の風に当たるべく車両最後尾の展望テラスに向かうと、そこにはレナードがいた。

「やぁ…君も外の風に当たりに来たのかい。新鮮な空気が味わえるのは今だけだよ。草原地帯を抜けた先の湿地帯に入れば泥の匂いしかしないのでね。」

「た、確かにこの先は沼地だからねぇ…今当たらなきゃ損すると思うわね。ニルヴィニアの生み出した魔物がミドナの町を襲っていたということは、ここから先もごたごた続きになりそうだわ。」

リリシアとの会話の中、レナードは鞄の中からニルヴィニアの配下であるキャリアーが持っていた筒を取り出し、リリシアに見せる。

 「ところでこれを見てくれ。セルフィと旅をしていた時にアドリアシティで戦ったニルヴィニアの配下が持っていた筒だ。ミシュリアが言うには筒の中から禍々しいオーラを感じると言っていたのだが、魔力の高い君なら何かわかるかもしれないのですこし調べてもらえないかな?」

レナードが鞄から取り出した筒を見たとき、リリシアの表情が青ざめる。

「ま…まさかこの筒は!!私が収容所で見た時と同じものだわ!!レナード、この筒の中には凶悪な魔物が封印されているのよ…どうしてそんな物拾ってきたのよっ!!もし何かの拍子で筒が開けば中に封印されている魔物が放たれ、大惨事になりかねないわ。筒の中身を確かめようとすることは私は断固反対、断固阻止よ!!

「大丈夫だ…私が聖なる糸で筒が開かないように厳重に固定してあるので、ある程度の衝撃に耐えられるはずだ。だが聖なる糸では簡単に破られる可能性がある…そこでだ、君の魔力で封印を施せばさらに頑丈になるかもしれないので、協力をお願いしてもいいかな?」

リリシアはレナードが持っている筒を手に取り、闇の封印術を施す。

「漆黒なる混沌の魔力よ…この筒に眠りし悪しき者を封じよっ!!

闇の封印術が施され、魔物が入っている筒は封印紋が入り更に頑丈な守りとなる。魔姫の闇の封印術が施された筒を受け取ったレナードは、再び鞄の中に厳重に保管する。

「これでよし…よほどの強力な解呪さえなければ私が施した闇の封印は解けないわ。これで鞄の中に入れても大丈夫なわけだが、うっかり鞄から落とさないように気を付けて。」

「ありがとう…それじゃ私はそろそろ列車の中に戻るよ。風の匂いが少し泥臭くなってきたから、もうそろそろ湿地帯に入ると思うからね。」

二人は会話を終えたあと、車両最後尾の展望テラスを後にし、列車の中へと戻っていく。仲間たちを乗せた列車は草原地帯を抜け、広大な湿地帯に突入するのであった……。

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