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終章第二十八話 慟哭

 宴の夜から一夜明け、エルジェの魔導士たちによりニルヴィニアによって収容所に囚われた囚人たちを三隻の魔導船を用いて故郷に帰す作戦が行われ、無事に全ての囚人を故郷に帰すことに成功した。魔導船の護衛の役目を終えたリリシアとカレニアはカレニアの母国であるフレイヤードの城下町を訪れ、ひと時の休息を送っていた。

 

 護衛の役目を終えた二人はフレイヤード城下町の酒場で腹ごしらえをしている中、酒場の看板娘が食事中の二人のもとに駆け寄り、カレニアに話しかけてきた。

「あら、久しぶりじゃないカレニアちゃん。だいぶ前にあなたの弟さんが武闘着を着た少女と長い蒼髪の男と綺麗な女の子と一緒に酒場から出ていくのを見たわ。それとも私の見間違いかしら…最近忙しくなって疲れているせいなのかな。」

「確かに私の弟のブレアはずいぶん前に起こった仮面の魔導士事件の際にフェルスティアを守るため勇敢に戦い、戦死したと聞いているわ。お母様の墓の横に墓を建てて手厚く弔いましたわ。」

カレニアが酒場の看板娘にブレアのことを話した後、リリシアにそっと耳打ちする。

「オーディンがソウルキューブの魂を解放してくれたおかげで、仮面の魔導士事件で戦死した人が生き返っているみたいね。武闘着を着た少女と綺麗な女の子と長い蒼髪の男と一緒にいるということは、その人と一緒に冒険している可能性が高いわ。」

「カレニア、ひとつ思い当たることがあるわ…私はニルヴィニアとの戦いの時、私の髪飾りと蒼いリボンをセルフィに渡した後、フェルスティアへと逃がしたわ。もしかするとセルフィが仲間を集めて、ニルヴィニアを倒すために行動を共にしているのかもね。」

セルフィが仲間を集めて冒険の旅をしているとのリリシアの推測に、カレニアは頷きながら応える。

 「なるほどね…私やクリスたちがニルヴィニアに負けて石にされている間にそんなことがあったなんてね。リリシアがセルフィにすべてを託して地上界に逃がしたことは正解だったと私は思うわ。さて、腹ごしらえも済んだし…私の部屋に行きましょう。」

腹ごしらえを済ませた二人は酒場を後にし、フレイヤード城へと向かっていく。火山地帯の岩山にそびえたつフレイヤード城の姿は、まさに巨大な要塞を思わせるような外観であった。

「ここがフレイヤード城よ。火山地帯に築かれたこの国は火山から流れる溶岩を使っての鍛冶が盛んで、地下にある巨大な鍛冶施設では腕の立つ職人さんが武器や防具などを生み出しているのよ。さて、まずは王様に挨拶してから、私の部屋に案内してあげるわ。」

カレニアはリリシアの手をとり、フレイヤード王のいる玉座の間へと案内する。

 「フレイヤード王よ…紅蓮騎士団団長のカレニア、ただいま帰還してまいりました。」

玉座の間に入ったカレニアはフレイヤード王に敬礼し、帰還の挨拶を行う。カレニアの元気な姿を見たフレイヤード王は、高笑いを浮かべながら無事を喜ぶ。

「ハッハッハ…よくぞ無事で戻ってきたカレニアよ!!私は嬉しい気分でいっぱいだ!!おや、そこにいる娘さんはお前の旅の仲間か?」

「え…ええ。私はカレニアの仲間のリリシアと申します。あなたの娘さんにはとてもお世話になっていますわ。」

リリシアが挨拶を終えた後、カレニアはフレイヤード王について話し始める。

「フレイヤードを統べるブレイザー王は、私の弟のブレアの父であり私の養父にあたる存在なのよ。お母様を亡くして一人ぼっちになった私を王様が引き取って育ててくれたのよ。王様、あの大破滅の後にフレイヤードに何か異変はありましたか?」

カレニアがそう問いかけると、ブレイザー王はフレイヤードに起こった異変を話し始める。

「うむ…最近この近辺で得体のしれない化け物を見かけたとの連絡を受けてな、紅蓮騎士団たちが何度か火山群に立ち入っては討伐活動に精を出しているそうだ。お前が旅で不在の間…副団長であるメルーザ殿が団長を務めておるが、今は火山群の見回りをしているところだな。彼女たちが帰ってくるころには得体のしれない化け物の死体をたくさん持ち帰ってくるだろう。死体の使い道…それは学者たちの研究材料として使わせてもらうよ。」

「私の不在の間、副団長が私の代わりを務めているとは驚いたわ。筋骨隆々のメルーザなら安心して紅蓮騎士団の臨時リーダーを任せられるわ。王様、これよりリリシアと一緒に自室で休息をとってまいります。」

ブレイザー王にそう告げた後、玉座の間を後にしたカレニアはリリシアと共に自分の部屋へと向かっていく。カレニアの自室はいかにも女の子らしいカラフルな内装だが、壁には彼女が使っていたと思われる剣や盾、平和の為に活躍した者に贈られる勲章などが飾られていた。

 「ここが私の部屋よ。少し散らかっているけどゆっくりしてちょうだい。」

カレニアは自分の鞄の中から竜の逆鱗を取り出し、自分の部屋の壁に掛けられている額縁に飾り始める。一方リリシアは自室のベッドに寝転がり、お嬢様気分を満喫していた。

「悪いけど、少しだけあなたのベッドに寝転がさせてもらうわよ。こんな豪華なベッドに寝転がっていると、なんだかお嬢様になったっていう感じになるわね。それにしても…壁の色とかぬいぐるみなんかが置かれているのは女の子らしいけど、自分が使っていた剣や盾が飾られているところが騎士らしいわね。」

「うふふ…また私のコレクションが増えたわ。私にとって竜の逆鱗や勲章は完璧なる騎士の証なのよ。紅蓮騎士団のお仕事は悪事を働く者を懲らしめたり、人々に害を及ぼす魔物の討伐や各地の見回りや外交任務などをしているのよ。他にも各国の騎士団のリーダーがレミアポリスの王宮に一堂に集まって行われる騎士団会議にも参列しているのよ。まぁレミアポリス王宮騎士団の統率力には敵わないけどね。さて、そろそろ休憩を終わりにして、次の目的地であるウォルティア大陸に向かいましょう。」

休息を終えたリリシアはベッドから降り、カレニアと共に自室を後にする。

「そうね。お金を払って船に乗るまでもないわ…私がウォルティア大陸まで送ってあげるわ。」

「送ってあげるって…まさか!!あなたが私をつかんだまま空を飛んでウォルティア大陸に向かうってことなの!?これは一番ダメなやり方…万が一落ちたら海に真っ逆さまじゃない…リリシアは腕の力がないから、すぐに力尽きるわよ。」

カレニアをつかんだまま空を飛んでウォルティアに向かうというリリシアの無茶なやり方に、カレニアは不安な表情を浮かべていた。

 「大丈夫よ、私を信じなさい。ここからだと私の六枚の翼を使って空を飛べばおよそ10分…足りない腕の力は闇の魔力で何とかカバーしてみせるわ。」

リリシアとカレニアは玉座の間へと向かい、ブレイザー王への謁見を済ませる。

「ブレイザー王よ、これより私はリリシアと共に世界を救う旅へと向かいます。」

「うむ…カレニアよ、世界を救うために頑張ってくれたまえ!!そこのお嬢さん、リリシアと言ったな…わが娘を頼んだぞ。」

ブレイザー王への謁見を終えた後、二人はフレイヤード城を後にする。二人は次の目的地であるウォルティア大陸へ向かうため、リリシアは背中に六枚の翼を生やして空を飛ぶ態勢に入る。

「さぁて…それじゃあ行きますか!!次の目的地であるウォルティア大陸へ!!

リリシアは両手でカレニアを掴み、翼を羽ばたかせてゆっくりと上空へ浮上していく。万が一の時に備え、魔姫は闇の魔力でできた鎖でカレニアの体を固定する。

「しっかり頼むわよリリシア…海に落としたら許さないんだからね!!

リリシアはカレニアを抱えたまま、背中に生えた6枚の翼を羽ばたかせてウォルティア大陸へと向けて発進するのであった……。

 

 リリシアたちが囚人たちを故郷へと送り届けている中、アドリアシティで買った船でウォルティア大陸を目指し航海を続けるセルフィたちは、悪天候や魔物の襲撃もなくウォルティア大陸の港町であるレディナハーバーにたどり着いた。レナードは船を港に停泊させ、甲板で見張りをしているセルフィたちを集め、ウォルティア大陸に到着したとの旨を伝える。

「みんな、無事にウォルティア大陸に着いたぞ。今私たちがいる場所はウォルティア大陸の海の玄関口と言われ、各国から多くの貿易船が行き来するレディナハーバーと言う港町だ。ブレア君、ウォルティア城下町まではここから湿原を走る列車に乗れば約20分ぐらいで到着するだろう。」

ウォルティア大陸に行きたいというブレアの願いを叶えてくれたレナードの厚意に、ブレアは感謝の意を述べる。

「レナードさん、僕の為にわざわざここまでしてくださってありがとうございます。しかしこのウォルティア大陸にも、大破滅の影響で何かしらの異変が起きているはずです。僕の恋人のリュミーネの身に何かなければよいのですが……。」

「そうだな…この先何が起こるかわからないからな。十分に準備を整えたほうがいいに越したことはない。まずは市場で支度を整えようか。私は装備品を調達するためブレア君と一緒に同行するから、セルフィはミシュリアと一緒に市場で必要なものを見てほしい。買い物が終わったら噴水前で待っていてくれ。」

セルフィはミシュリアと共に旅に必要なものを、レナードとブレアは装備を調達するため二人一組で別行動を開始する。数時間後、二人が武器の調達を終えて噴水前でセルフィとミシュリアの帰りを待つが、いつになっても帰ってくる気配がなかった。

 「おかしいな…もうすぐ夕方になるけどセルフィとミシュリアが戻ってこない。ブレア君、これから私はセルフィたちを探しに市場を見てくるので、少しここで待っていてくれないか。」

未だ帰ってこないセルフィたちを探しに向かおうとしたその時、レナードの目の前にミシュリアが現れる。しかし帰ってきたのはミシュリア一人で、一緒に同行していたセルフィの姿はなかった。

「ミシュリア…一人で戻ってきたのか!?一緒にいたセルフィはどうしたんだ!!

「セルフィって、確かあなたの仲間だった女の事かしら…あの子なら私が痛めつけてやったわ。」

ミシュリアの様子がおかしいと気付いたレナードは、本物のミシュリアがどこに行ったのかを問い詰める。

「貴様、さてはミシュリアではないな…本物のミシュリアならそんなことはしないはずだ!!

「私が偽物ですって…私こそ正真正銘本物のミシュリアよ。今まで物静かで優しい少女を演じてきたが、それは仮の私の姿…本当はあなたたちとの友情が芽生えたところで一気に絶望に叩き落とすのが一番好きなのよ…私の心と体は今はロレンツォ様の物。つまり、私はロレンツォ様に身も心も捧げたのよ。ね、ロレンツォ様ぁ……。」

ミシュリアの言葉のあと、次元の裂け目からロレンツォが現れる。ロレンツォはミシュリアの体を抱き寄せ、レナードの方に冷徹な眼で向ける。

「あ、あなたは我が師……ロレンツォ様!!ミ…ミシュリアに何をしたぁぁっ!!

「久しぶりだな我が弟子レナードよ、だが今は貴様の師でも何でもない。弟子である貴様に教えてやろう…この穢れたフェルスティアを浄化するために動いている新生神であるニルヴィニア様は私に強大な力を与えてくださった!!おかげで貴様が一番信頼を寄せているミシュリアを悪に堕とし、貴様の仲間であるセルフィを完膚なきまでに叩きのめしてくれた。私はニルヴィニア様が生み出してくださったヘルズヒューマノイドたちと共にウォルティア領北にある捨てられた城を占拠し、ニルヴィニア様の野望に協力することにしたのさ。仲間を二人も失った哀れなレナードよ、絶望に打ちひしがながらこの世の終わりを指をくわえてみているがいい!!フハハハハハハッ!!!

ミシュリアがロレンツォの手によって悪に堕ちたこと、レナードの師であるロレンツォがニルヴィニアに洗脳され悪の手先と化したこと、そして仲間であるセルフィとミシュリアを失い絶望の三重苦に苛まれるレナードに、ミシュリアの嘲笑がさらに追い打ちをかける。

「そういうわけで…私はもうあなたの仲間じゃないの。さっき痛めつけたセルフィはロレンツォ様が占拠した捨てられた城に持っていくわ。フフフ…いい人体実験の材料ができたわ。その様子じゃもう二度と立ち直れないくらいかしらぁ…そのうち絶望のあまり自ら死ぬことを選びそうな予感だわ…アハハハハハッ!!

その言葉を最後に、ミシュリアとロレンツォは次元の裂け目の中へと消えていった。セルフィとミシュリアを失ったショックにより、レナードの心は完全に真っ二つに折れた。

「な…何がおこっているんだ!?フェルスティアでも有数の大富豪の一人であり達人級の糸使いでもある豪商ロレンツォさんが…なぜ諸悪の根源であるニルヴィニアの側に寝返ったんだ!!

「うう、ううっ……うあああああぁぁっ!!

心が真っ二つに折れるほどの絶望に、レナードはただ大声で泣き崩れるだけしかなかった……。

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