終章第二十七話 囚人護送作戦
魔導船に乗り込んだ一行は地獄島を離れ、浮遊魔法国エルジェへと到着した。魔導士たちに案内されてエルジェの大宮殿に来たリリシアとカレニアは囚人達と共に宴を楽しんだ後、大魔導のルーナから宴が終わった後に最長老の間に来るようにと言われ、二人は宴が終わった後に最長老の間を訪れた。最長老はニルヴィニアがヘルヘイム王宮の宰相であり、かつて死力を尽くして打ち倒したジャンドラよりも権力が上の存在だということを二人に話した後、自分の魔力を二人の体に注ぎ込み、身体能力の限界を少しだけ解放し新たな強敵と戦うための更なる力を手に入れた。
最長老が眠りについた後、ルーナが新生神と化したニルヴィニアによるフェルスティアの被害状況を話した後、話を聞いてくれた褒美として二人の心の中にルーナの魔力を与えられた。最長老とルーナの魔力の相乗効果により、二人は魔力と体力面だけでなく見た目にも変化が現れ、見違えるほどに成長していた。二人に新たな力を授け終えた後、ルーナはリリシアとカレニアを他の仲間たちのいる寝室へと案内するのであった……。
最長老とルーナとの話を終えたリリシアとカレニアが寝室の中に入ると、ファルスとティエラが二人を出迎え、ルーナと最長老から何を聞かされたかを教えてくれと詰め寄る。
「おお、二人とも戻ったか。最長老様とルーナ様から何を聞いたのだ?」
「むむ…私にも聞かせてほしい。囚人達を故郷に送り届けるのは明日の朝…今日は戦いばかりで疲れただろう。話が終わったら早く寝るといい。」
カレニアは前に出て、最長老から聞いた話を二人に話し始める。
「今から私が最長老から聞いた話をまとめて話しましょう。フェルスティアを壊滅状態にまで陥れたニルヴィニアは、創造神である『クリュメヌス・アルセリオス』と破壊神である『デストラス』の神を飲み込み二極の力を手に入れた彼女は天界の中枢である黄金郷を乗っ取り、レミアポリスの王宮を鎖で持ち上げ、フェルスティアの上空に理想郷を創り出したということです。」
カレニアが最長老から聞いた話をファルスとティエラに話した後、ティエラは自分が体験した出来事を話し始める。
「ふむ…私はあの時ウルと一緒にレミアポリスの王宮をふらっと訪れた時、急に王宮そのものが上空に持ち上げられるような感覚を味わったのだ。その後あの得体のしれない魔物に襲われ、王宮にいた人たちが全て収容所送りにされたというわけだ。では次にルーナ様から聞いた話を聞かせてもらおうか。」
最長老から聞いた話を伝え終わったカレニアが後ろに下がり、次にリリシアが前に出てルーナから聞かされた話を話し始める。
「えーと、次は私がルーナ様から聞いた話をあなたたちに伝えるわ。ルーナ様はあの大破滅の後、フェルスティアの各地を回り救済活動をしていたようです。彼女が言うには、エルザディア諸島はほぼ水没…村人たちは水神の神殿に避難を強いられていると話していたわ。次にセルディア大陸は大陸そのものが真っ二つに引き裂かれ、ファルゼーレ大陸は特に被害が多く、エーゼルポリスは全壊という状況でした。」
ニルヴィニアが引き起こした大破滅で世界が崩壊寸前の危機にさらされていることを知った二人は、怒りに震えながらこう答える。
「ふむ…どうやらあのニルヴィニアとやらが引き起こした大破滅のせいで世界中が大変なことになっているようだな。フェルスティアはすでに崩壊の一歩手前まで来ているのかもしれぬな。実に許せぬ!!」
「ニルヴィニアめ…フェルスティアを征服しようなどというふざけた真似をしやがって!!俺は一度奴と戦ったが…圧倒的な力の差で俺は敗れてしまった。今の俺に必要なのは力を付けることだな。」
ファルスが自分の身に起こった出来事を話した後、全員は就寝の準備を始める。
「皆の者よ、今日は戦いばかりで疲れただろう…今のうちにゆっくり体を休めておくがいい。では、そろそろ部屋の明かりを消すとしよう。」
ティエラが部屋の明かりを消そうとした瞬間、カレニアがティエラを呼び止める。
「お母様、明かりを消すのを少し待ってください…私たちはクリスたちと共に天界の黄金郷と呼ばれる場所で諸悪の根源であるニルヴィニアと戦いましたが、私を含めた仲間たちが石にされてしまいました。私たちとの戦いの後、おそらくニルヴィニアが創り出した化け物が理想郷かフェルスティアのどこかに運んでいる可能性があるわ。そこで私は目的の道具や人の在り処を映し出す『精霊の鏡』を使えば、石になった仲間の居場所がわかるかもしれないと気付いたのよ。さて、リリシア…さっそく精霊の鏡で石にされた仲間たちの居場所を探し出してちょうだい!!」
リリシアが精霊の鏡に強く念じた瞬間、精霊の鏡は石にされた仲間の在り処を映し出す。鏡には氷に包まれた城の廃墟のような場所に、石にされたクリスたちの仲間たち4人の姿がそこにあった。
「な…なぜこんな城の廃墟に石にされたクリスたちが!!どうやらニルヴィニアの手下はこの廃墟と化した城を拠点に地上界の侵略活動をしているに違いないわ!!」
「氷に包まれてる城の廃墟ねぇ…ひとつ思い当たる場所があるわ。確かウォルティア領の北にある旧ウォルティア城…清き水が流れるウォルティア領南とは違い、そこは全てを凍てつかせる草ひとつ生えぬ極寒の地よ。かつてウォルティア城は北部にありましたが、ある日突然猛吹雪が発生したことによりウォルティア領北は永久凍土と化し、国民と王族たちは住み慣れた城と城下町を捨ててウォルティア領南に移住し、この地に新たに城と町を造ったと伝えられているわ。さて、石にされた仲間たちの居場所は突き止めたわ。リリシア、少々危険な旅になるかもしれないが、仲間を助けるためにウォルティア大陸の北にあるウォルティア城跡に向かうわよ!!」
精霊の鏡の力で仲間たちの居場所を突き止めた二人は、石にされたクリスたちを助けるという決意を胸に、明日に備えて眠りにつくのであった……。
そして夜が明け、ルーナと魔導士数名により囚人たちを故郷に帰す計画が実行された。旅の支度を済ませたリリシアたちは囚人達の待つ魔導船の発着場に向かい、ルーナから計画の内容を聞かされる。
「お集まりの囚人の皆様…これより3隻の魔導船を使い、囚人達を故郷に送り届けます。まず収容人数は魔導船一隻につき約50名…三隻あれば囚人を全員を収容することができます。しかしその計画を実行に移すには腕の立つ護衛が必要です。ニルヴィニアの生み出した魔物がいるかもしれませんからね。そこであなたたち勇気あるの中で護衛を手伝ってくれる方は…手を挙げて私たちと一緒に協力してもらえますか。」
護衛を手伝ってほしいというルーナの言葉の後、ティエラとファルスは手を挙げて護衛を請け負う。
「ルーナ様、護衛が必要なら俺が行こう。リリシアとカレニアには他にやるべきことがあるからな…。」
「私も護衛を請け負おう…こっちは私とウルを含めて二人だ。ルーナ殿、もしも貴方のお役に立てなければいつでも捨ててくれても構わんよ。」
ルーナが感謝の言葉を述べた後、護衛を請け負った三人にそれぞれの役割を与える。
「ファルス殿、ティエラ殿、ウル殿、あなたたちのご協力に感謝します。私は1隻目の護衛をしますので、ファルス殿は二隻目に、ティエラ殿とウル殿は三隻目の護衛を頼みます。あとリリシアとカレニアはフレイヤード大陸に到着するまで、私と共に一隻目の護衛をお願いいたします。」
魔導船の護衛の役割を与えられたリリシアたちは、囚人たちとともにそれぞれの船へと乗り込んでいく。
魔導船を運転する魔導士が囚人たちが全員乗り込んだのを確認すると、囚人達を乗せた三隻の魔導船は発着所を飛び立ち、それぞれの故郷へと発進していく。
「一隻目の担当はグリザ大陸エリアとウォルティア大陸エリアとエルザディア諸島…そして最後にフレイヤード大陸エリアよ。二隻目は中央大陸とヴィクトリアス地方とセルディア大陸…そして最後に三隻目はファルゼーレ大陸エリアよ。私たちはフレイヤード大陸に来るまで魔導船の護衛ね。まず私たちがするべきことは絶対に魔物たちを運転役の魔導士と囚人達がいる魔導船の中に入れさせないことよ。」
護衛の役目は、魔導船の中に悪しき存在を一匹たりとも入れさせないこと。つまり、船内にいる多くの乗客の命を守る役割である。リリシアとカレニアは甲板へと向かい、魔物が魔導船に来ないよう見張りを行う。
「魔導船には魔除けの聖水の力によって魔物が近づけないようになっていますが、ニルヴィニアが地上界に送り込んだ魔物には聖水の効果が全く効かない可能性があるからね。さて、見張りを始めましょう!!」甲板にいるリリシアたちが魔導船の護衛に励む中、囚人達を乗せた魔導船は第一目的地であるグリザ大陸の大きな城下町、ウルフェンス王国に到着した。ルーナと魔導士たちがグリザ地方に故郷を持つ囚人たちを船から降ろした後、魔導船は次の目的地であるウォルティア大陸へと向けて発進する。
「前方に魔物の影なし…リリシア、後方はどう?」
「後方は魔物の影なし。さて、もう一頑張りいくわよ!!」
二人の護衛のおかげで、囚人たちを故郷に帰す計画は順調に行われた。ウォルティア大陸とエルザディア諸島に故郷を持つ囚人たちを無事に降ろし終えたあと、魔導船は最後の目的地であるフレイヤード大陸へと向かっていた。
「あなたたちのおかげで、囚人たちを無事に故郷に送り届けることができました。他の魔導船の連絡によると、二隻目も三隻目も魔物の襲撃もなく計画は終了し、これよりエルジェに帰還するとのことです。」
ルーナの報告を聞き、カレニアはほっとした表情で頷く。
「ファルスさんもお母様も頑張っているみたいで安心したわ。ルーナ様、私たちはフレイヤードに到着したら船を降ります。私たちにはニルヴィニアに石にされた仲間たちを助けるという重要な役割があるからね。ルーナ様、多忙な中いろいろと私たちの為に動いてくださってありがとうございます。」
魔導船は最終目的地であるフレイヤード大陸に到着し、ゆっくりと着陸態勢に入る。
「囚人の皆様…これより魔導船は最終地点であるフレイヤードに到着いたします。着陸の際に多少船内がお揺れいたしますのでご注意ください。」
魔導船がフレイヤードに到着したと知らせる魔導士のアナウンスの後、魔導士たちは囚人たちを集めて船の外へと案内する。船から降りた囚人たちは城下町の方へと向かい、それぞれの故郷へと帰っていく。
「フレイヤードに戻るのは久しぶりね。囚人達の護衛の仕事ですこし疲れたわ。フレイヤード城の私の部屋で少し休憩してから旅を再開しましょう。」
「ええ…私たちの旅は戦いばかりだけど、たまには息抜きも必要だからね。そうと決まれば、早速あなたの部屋にお邪魔させてもらうわよ!!」
船内にいるすべての囚人達を送り届け終えたあと、魔導船はフレイヤード大陸から離陸しエルジェへと帰還する。囚人達の護衛を終えたリリシアたちは次なる旅に備え、フレイヤード城下町でひとときの休息を送るのであった……。