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終章第二十六話 宴の夜

 リリシアが魔導船に乗り込んできたニルヴィニアの刺客との戦いを終えて地獄島に向かう中、地獄島ではカレニアたちと死の料理人・ガーラルとの戦いが繰り広げられていた。唯一の戦力であるファルスを欠いたカレニアたちであったが、ウルのかく乱とカレニアとティエラの連携攻撃によってガーラルを撃破することに成功した。全員が勝利を確信する中、ガーラルの死体から彼の本体と思われる大きな蝿のような魔物が背中を食い破って現れ、ニルヴィニアの本拠地である理想郷へと戻ろうとするが、ファルスの放った光針(シャインニードル)によって貫かれ、そのまま海の藻屑と消えていった……。

 

 ガーラルとの戦いを終えたあと、エルジェの魔導船がニルヴィニアの魔の手から逃れた囚人達を救助するべく、地獄島へと着陸する。喜ぶ中、大魔導の二つ名を持つルーナとエルジェの魔導士たちは囚人たちを先導し、魔導船へと案内する。かくしてリリシアたちと囚人達を乗せた魔導船は、浮遊魔法国エルジェへと向けて発進するのであった……。

 

 地獄島を離れた魔導船は数十分の空の旅のあと、浮遊魔法国エルジェへと到着する。大宮殿に降り立った魔導船はゆっくりと降下を開始し、大宮殿の魔導船の停泊所に着陸する。

「船内の皆様にお伝えします…魔導船は現在エルジェに到着いたしました。」

エルジェに到着したというルーナの言葉の後、エルジェの魔導士たちが囚人達を次々と大宮殿の中へと案内する。

「魔物の襲撃もなく、無事にエルジェに到着できたわ。今のうちに疲れた体を休めておかないとね。」

「ふぅ、これでやっと食事にありつけるわ……私はもう空腹で倒れてしまいそうだわ。」

カレニアは空腹が限界に達して足がふらふらになるリリシアの肩を持ち、ティエラとウルたちと共に宮殿の中へと歩いていく。

「そうね、私も流石に何も食べてなかったからね。大丈夫よ、きっとエルジェの大宮殿の人たちが美味しい料理を作って私たちを待っていてくれているはずよ。」

「ははっ…私の見ない間にいい親友を持ったようだな。いくら親友といえども甘やかしてばかりいてはダメだ。たまには厳しく接するのも必要といえよう。」

リリシアを支えるカレニアを見ていたティエラは、親友だからといって甘やかしてばかりではダメだと助言を与える。

「お母様、親友だからしてあげられることがあるのよ。戦いのときはしっかり仲間たちに命令を与えているわ。大切な仲間を誰一人も欠かさずに引っ張っていくことができなきゃ紅蓮騎士団の団長の名に恥じることよ。さて、話はここまでにして、そろそろ大宮殿の中に入りましょう。囚人達が救世主である私たちの到着を待っているからね。」

ニルヴィニアが創り出した理想郷の収容所に囚われていた囚人達を地上界に帰還させるという大役を果たした一行は、囚人たちが待つ大宮殿の中へと入っていく。エルジェの魔導士に案内されて大宮殿の大広間へと到着した一行が目にしたのは、喜びに満ちた表情で一行を迎える囚人たちの姿がそこにあった。

「たった今…囚人たちを救った五人の勇気ある者たちが大広間に現れました!!皆さん、囚人達を解放へと導いた五人の勇気ある者たちに盛大な拍手をっ!!

司会を務める魔導士の言葉の後、囚人たちは一斉に感謝の言葉を彼らに述べる。

「ありがとう!!君たち5人は俺たちの救世主だぁっ!!

「今こうして生きているのは…あなたたちのおかげです!!このご恩は一生忘れませんっ!!

「おお…レミアポリスの将軍のファルス様、フレイヤードの紅蓮騎士団団長のカレニア様、そして数十年前の魔竜との戦いで戦死したと思われていた元紅蓮騎士団団長のティエラ様と彼女の従者である狼少女ウル、そして最後に魔界王リリシア様!!あなたたちの勇気ある活躍で我々は救われた!!感謝いたすぞ!!

大広間中に湧き上がる囚人達の感謝の言葉に、自分の席へと向かうリリシアたちは手を挙げて囚人たちに笑顔で応える。五人がそれぞれの席に座った後、ルーナがこれからの計画を囚人たちに告げる。

 「これで全員集まったようですね。まずは私から重要な内容から話しておきましょう。ニルヴィニアの魔の手から逃れた囚人の皆様を愛する家族のもとに帰す日は明日…3隻の魔導船を用いて行います。本日は疲弊しきったあなたたちの為に…大宮殿の料理人たちが腕を振るってあなたたちの分の料理を作ってくださいました。生産者の皆さん、そして調理に携わった料理人に感謝して食べてくださいませ。では私から話すことは以上です……。」

ルーナのスピーチの後、リリシアが集まった囚人達に食前の挨拶を宣言する。

「みなさん…そろそろお腹が空いたでしょうし、そろそろお食事といきましょう!!私はもう空腹が限界なのでみなさん乾杯は抜きで……いただきます!!

リリシアのいただきますの言葉の後、囚人たちはテーブルに用意された料理を口に運んでいく。

「美味い…美味いわ!!魔力の実のスパイスが効いていて喉を通った瞬間に力が湧いてくるような感じだわ!!今のうちにたくさん食べて体力と魔力を回復させておこうかしら。」

「リリシア、食べながらでも聞いてほしいことがあるの。念のためもう一度話しておくけど、エルジェを離れた後、私たちにはやらなくちゃいけないことがあるわ。ニルヴィニアの手によって石にされた仲間を復活させ、今度こそ必ずニルヴィニアを私たちの手で倒さなきゃいけないからね。ここは魔導船を使って囚人たちを故郷に送り返すエルジェの魔導士と同行し、私の故郷であるフレイヤードに来たところで魔導船を降り、地上界が今どうなっているのかの情報を集めるわよ!!

カレニアがこれからの行動内容を伝えた後、リリシアは心配そうな表情でこう答える。

「そうね…ニルヴィニアに石にされたクリスやほかの仲間たちの身が心配ね。クリスたちが石にされた後、おそらくあの化け物によってどこかに運ばれている可能性があるわ。そうだ…ガルフィス様よりもらい受けた『精霊の鏡』があれば、石にされたクリスたちの行方が分かるかもしれないわ!!

「そ…その手があったわ!!かつて私たちがソウルキューブを探すために使ったものだが、石にされたクリスたちを探すためにも使えるかもしれないわ!!リリシア、食事が終わったらすぐにその鏡を使ってクリスたちの居場所を探してちょうだい!!

かつて魔姫がレミアポリスを出発する前にガルフィスからもらい受けた、持ち主が念じることにより望みの物の在りかを物を映し出す『精霊の鏡』を使えば、ニルヴィニアによって石にされたクリスたちを探せるのではないかとのリリシアの言葉に何かを思いついたカレニアは、食事が終わった後に試しに居場所を探すようにとリリシアに伝えた後、ルーナがふたりの前に現れる。

 「お食事中失礼します…どうやらあなたたちにはまだやるべきことがおありのようですね。あなたたちの網膜を見ればわかります…新生神と化したニルヴィニアを倒し、石にされた仲間たちを復活させてフェルスティアを救う大きな役割を背負っていると見ました。食事が終わった後…少しお話がありますので最長老様の部屋までお越しくださいませ。」

ふたりに食事が終わった後に最長老の部屋まで来るようにと告げた後、ルーナは静かに自分の席へと戻っていった。こうして大宮殿での宴は夜通し続けられ、宴で疲れはてた囚人達は皆大宮殿の中で眠りについたのであった……。

 

 魔導士たちと使用人たちによって大広間の片付けが終わった後、最長老の間を訪れたリリシアとカレニアのもとに、エルジェの最長老が現れる。

「うむ…そなたらがフェルスティアを破滅に導こうとするニルヴィニアに立ち向かう唯一の希望というわけじゃな。そなたらの名前を聞かせてもらおうか……。」

最長老から名前を教えてくれとの言葉の後、ふたりは簡潔な自己紹介を行う。

「かつて私はフェルスティア七大魔王と呼ばれた色欲の魔姫……今は魔界を統べる王、リリシアと申します。」

「フレイヤード紅蓮騎士団団長・カレニアと申します。最長老様…ご教示願いします。」

ふたりの自己紹介の後、最長老は地上界に起こった出来事を話し始める。

「ほほう…いい返事じゃのう。そなたの網膜から見させてもらったが…そなたたちは仲間たちとともに天界の中心にあるといわれる黄金郷でニルヴィニアと戦い…仲間たちを石にされてしまったようだな。そのあと創造神クリュメヌス・アルセリオスを飲み込んだニルヴィニアは破壊神デストラスを飲み込み、中央大陸のレミアポリスの王宮を鎖で上空に持ち上げた後、フェルスティア上空に理想郷を創り出したのだ。そのあとそなたたちが収容所に捕らわれている囚人たちを解放し、レミアポリスの王宮にある地獄島に続く転送陣から地上界に帰還を果たしたというわけじゃな。」

網膜から記憶を感じ取るという最長老の人間離れした能力を目の当たりにした二人は、驚きのあまり唖然となる。

「す…すごい!!私たちの目を見るだけで記憶そのものを感じ取ることができるなんて!!

「ではそこからが本題と行こうか…ニルヴィニアはかつてヘルヘイムの宰相と呼ばれた女。つまりそなたたちがヘルヘイムの王宮で死力を尽くして打ち倒したヘルヘイムの将と呼ばれし死霊王ジャンドラよりも権力は上だということじゃ。そのうえ創造神と破壊神の二極の力を手にしたとなれば、あらゆる命を生み出したり、地上界の大陸ひとつを破壊することなど容易いことじゃ。もはやそなたらと地上界の勇ある者たちがこのフェルスティアの最後の希望なのじゃ…。」

エルジェの最長老から地上界の最後の希望だと聞かされ、リリシアとカレニアは決意を新たにする。

 「最長老様の言う通りだわ。私たちがフェルスティアを守らなきゃいけない使命を背負っているからね。だから今は力をつけて、ニルヴィニアと互角に戦えるほどに強くなるしかないわ!!」 

ふたりの決意ある言葉に感心した最長老は、笑顔の表情で二人のもとに駆け寄る。

「ほっほ…二人ともやる気十分じゃな。正義の為に頑張るそなたたちには私が少しだけじゃが力を与えてやろう…では少しだけ目を閉じてもらおうか。」

最長老はリリシアとカレニアの頭に手を当て、自分の持つ魔力を注ぎ込み始める。

「我が力の欠片…そなたたちに捧げよう!!カァーッ!!!

最長老の力が二人の体に注ぎ込まれた瞬間、二人は身体の奥底から力がみなぎってくるのを感じていた。

「わ…私の魔力の波長が、以前よりも高くなっている!!

「これが最長老の力…全身に力がみなぎってくるのを感じるわ!!

リリシアとカレニアに魔力を授けた後、最長老は二人にそう告げて寝室へと向かっていく。

「わしはそなたたちに魔力を注ぎ込むと同時に、内に秘めたる身体能力の限界を少しだけ解放しただけじゃ。本当はもう少しだけ身体能力の限界を解放したかったのじゃが、まだまだ経験が足りないので無理だったようじゃ…焦らずゆっくりと腕を磨き精進することが大事じゃよ。わしから話すことは以上じゃ…そろそろ眠りにつくとしよう。ルーナよ、あとは任せたぞ!!

最長老が寝室へと向かった後、ルーナは二人に地上界の現在の状況を話し始める。

「最長老様は眠りについたようですので、次は私から話をさせてもらうわ。私は地上界を襲った大破滅の後、各地を回り救済活動を行っていました。あなた方が最初にソウルキューブを手に入れるために訪れたエルザディア諸島はほぼ水没し、村人たちは水神の神殿に避難を強いられている状況です。セルディア大陸は大陸が真っ二つに引き裂かれ、ファルゼーレ大陸は被害が甚大で、エーゼルポリスは全壊…大陸の町が全て壊滅状態という酷い有様でした。このような無慈悲なことができるのはただ一人、新生神とかいうふざけた二つ名を手に入れたニルヴィニアというくそったれ野郎が引き起こしたのよ。私は囚人達を送り終えたあと、各地の救済活動に行かなければなりませんが、最長老様と同じように身体能力の限界を解放する秘術を使える優秀な魔導士を地上界の主要都市(レミアポリス・ボルディアポリス・エーゼルポリス)に派遣いたします。きっとあなた方の力になってくれるでしょう。さて、話も終わったことだし、私からもちょっとしたご褒美を授けましょう。」

ルーナは掌に魔力を集めた後、リリシアとカレニアの胸に手をあて、自分の魔力を送り込む。

 「心の力は自らの中に宿る力…これより私はあなたたちの心に少し細工をして、心の力を引き出せるようにしてあげましょう。はああああぁぁっ!!

ルーナの魔力が送り込まれた瞬間、二人の体に雷に打たれたかのような衝撃が走る。

「な…何が起こったというの!!心臓が…激しく上下に揺れるような衝撃だったわ!!

「うふふ…少し手荒な方法でごめんなさいね。まずは強い衝撃を与えて心の扉を強制的に開き、そこからあなた方の心に私の魔力を送り込みます。開かれた心の扉から魔力を注ぎ込むことで、あなた方の魔力は今よりもさらに強大なものとなるでしょう。では、最後の仕上げをはじめましょう。」

静かに目を閉じたその時、強制的に開かれた二人の心にルーナの魔力が注ぎ込まれる。ルーナの魔力が注ぎ込まれるたび、二人の体に変化が現れていた。

「最長老様とルーナ様の魔力の相乗効果で、私の魔力が格段に上がったような気がする…そして私の髪の毛が今よりも大きく伸びているわ!!

「見た目は特に変わったところはないが…炎の魔力を制御する力が上がったみたいね!!まるで生まれ変わったみたいに強くなっているわ!!ルーナ様、ありがとうございます!!!

ルーナから新たな力を与えられた二人は、ルーナに感謝の意を述べる。

「さて、私の話は以上で終わりよ。あなたたちのために特別な部屋を用意いたしましたので、これより案内いたします。あなたのお連れの方たちはすでに部屋でくつろいでいますわよ。」

最長老の間を後にしたリリシアとカレニアはルーナに連れられ、他の仲間達の待つ部屋へと向かうのであった……。

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