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終章第二十五話 紅蓮の母娘の戦い

 地獄島を襲ったニルヴィニアによって生み出された魔物であるマッドトレーナーとヘルズヒューマノイたちを一掃したのもつかの間、突如として死の料理人の異名を持つガーラルが人間の生き胆を求め、地獄島に現れた。一方その頃魔導船でルーナと共に地獄島に向かっているリリシアも、ニルヴィニアの放った魔物の襲撃を受けるも、魔導士たちと協力して放たれた魔物たちを全滅することに成功し、魔導船は再び地獄島へと航路を進めるのであった…。

 

 時を同じくして、地獄島ではカレニアたちがガーラルとの戦いを繰り広げていた。ファルスが先陣を切って槍を構えてガーラルに立ち向かうが、彼が一瞬のうちに放った食器型の暗器であるアサシンフォークによって足を負傷したことにより一時戦線を離脱し、三人での戦いを余儀なくされた。

「将軍様にこれほどまで深手を負わせるとは…油断ならぬ相手だな。」

「ケッケッケ…まずは瑞々しい二人のお嬢さんを食肉にしてやるぜ!!あの熟女は食肉には向かん…あの二人をじっくりと解体した後でミンチに…いや、生ゴミにしてやろう!!

巨大な肉叩きを振り回しながら、ガーラルはカレニアたちを挑発する。自分が煮ても焼いても食えない熟女であることを馬鹿にされて相当立腹していたティエラは剣を突き立て、ガーラルにそう言い放つ。

「ほう…この40代の私を生ゴミにしてやるだと。ずいぶんと酷い言われようだな。ならばこちらは貴様を焦げて食えない肉にしてやろう!!私と我が娘の炎の剣技でなっ!!カレニア、ここは私と連携攻撃で奴を責めるので、ウル…お前はできるだけ奴をかく乱してくれ!!

ティエラの号令の後、ウルは素早い動きでガーラルをかく乱する。ガーラルはアサシンフォークを連続で放つも、狼の如き素早さでガーラルの放った暗器を次々とかわしていく。

 「おのれちょこまかと動きやがって!!てめえなんざこの肉叩きの衝撃で吹き飛ばしてやらぁ!!食衝(ショッキング・インパクト)ォっ!!

怒りに燃えるガーラルは巨大な肉叩きを構えて大きく飛び上がった後、その先端を地面に大きく叩き付ける。肉叩きの重さと遠心力が加わった超重量の一撃は、周囲の地形を変えるほどの威力であった。

「ハハハハハッ!!死んだなこりゃあ…さて、そろそろ解体といこうか……っ!?

「残念…その程度の衝撃波なんて私の跳躍力でかわせるのよ!!さぁて、次は私の番だよ!!狼牙爪(ウルフェン・スクラッチ)!!

その刹那、ウルの鋭い爪がガーラルの体を捉える。爪撃は無数の刃となってガーラルの体を切り裂き大きなダメージを与えるも、致命傷を負わせることはできなかったようだ。

「うぐぐ…この俺に大きなダメージを負わせるとはなかなかやるようだな。だがこの程度の斬撃でこの俺を倒せるとでも思っていたのかぁ?まぁよい、てめえから先に心臓をえぐり取ってやる!!

巨大な肉叩きを手放し、調理道具の入った鞄の中からヒューマンリッパーを手にウルの方へと向かっていく。素早い動きで駆け回るウルがガーラルをかく乱している中、剣を構えたティエラはその隙にゆっくりとガーラルの方へと近づき、カレニアに攻撃の合図を送る。

「ウルがうまく奴をかく乱してくれたおかげで、奴は我々の気配には気づいていないようだな。カレニアよ、ここは連携攻撃で一気に攻めるぞ!!

「ええ…まずは私が奴を炎の術で拘束しますので、お母様はその間に攻撃を仕掛けてください!!

ティエラに作戦の指示を与えた後、カレニアは両手に炎の魔力を集めて詠唱に入る。カレニアが詠唱に入っている間、ティエラは鞄の中から高級砥石を取り出し、斬撃の威力を高めるべく武器を砥ぎ始める。

「炎の渦よ…相手を取り囲み身動きを封じよ!!フレイム・サイクロン!!

カレニアが詠唱を終えた瞬間、激しく渦巻く炎がガーラルを取り囲む。炎の渦に閉じ込められたガーラルはヒューマンリッパーを狂ったように振り回して抜け出そうとするも、またすぐに元通りになりガーラルの体を焼き尽くす。

 「流石は私の娘。炎の魔力の使い方をよくわかっているようだな。さて、次は私の番だな…我が灼熱の剣技で一撃で決めてやるッ!!

焦熱剣ヴォルアグニに自らのもつ炎の魔力を刀身に注ぎ込んだ瞬間、その刀身は見る見るうちに大きくなり、あらゆるものを焼き切る大きな剣と化す。ティエラは炎の推進力で大きく上空へと飛び上がり、炎の渦に閉じ込められているガーラルめがけて大剣を振りおろす。

「我が灼熱の巨剣よ…悪を焼き断つ一撃とならんっ!!灼炎たる剛き巨剣(イグニート・ヴァレスティア)ァッッ!!!

ティエラが構えた巨大な炎剣が振り下ろされた瞬間、その凄まじい斬撃はガーラルを炎の渦と共に両断する。カレニアの放った炎の渦が消えたあとには、ティエラの放った斬撃によって真っ二つにされたガーラルの姿がそこにあった。

 「やった!!私たちの勝利よ……っ!?

カレニアが勝利を確信した瞬間、先ほどの斬撃で真っ二つになったガーラルの背中が怪しく蠢き出す。彼女が恐る恐るガーラルの方へと近づくと、本体と思われる大きな蝿のような魔物が背中を喰い破って現れる。

「ブブブ…料理人の肉体の方がやられてしまうとは不覚なり。小型化してニルヴィニア様がくれた死の料理人の体を宿主としてきたが…ヘルズヒューマノイたちの食糧になるだけの人間に真っ二つにされてしまうとは屈辱だ。だが本体の私が生きさえいれば…ニルヴィニア様が新たな体を作ってくれる。今日の所は敗北を喫してしまったが…次こそは新たな体で貴様らの前に現れてやる!!クックック…貴様らを解体できる日を待っているぞ。私の嫁候補よ!!

ガーラルの本体は背中の羽を大きく羽ばたかせ、理想郷へと戻るべく地獄島を飛び立つ。

「あいつ…空を飛んで逃げるつもりだわ!!今逃がしてしまえば奴はまた新しい体を得て襲ってくるわ!!私の炎の矢であいつを貫いてやるっ!!

カレニアは上空へと逃げたガーラルを撃ち落とすべく炎の矢を放つが、蝿の持つ鋭い動体視力よって炎の矢はよけられ、そのまま空の彼方へと消えていく。

「ブブブブブ…何度炎の矢を放とうがいくらでも避けちゃうよ!!地上界に長居していると人間どもに狙われる…一刻も早く理想郷に戻らねば……ッ!?

その刹那、何者かが放った無数の光の針がガーラルの体を貫く。鋭い光の針によって貫かれたガーラルは飛行態勢を保てなくなり、そのまま海へと真っ逆さまに墜落していく。

 「ブ…ブブッ!?この俺様が人間ごときにぃぃ……ッ!?

水面に落ちたガーラルは手足を動かして必死に抵抗するも、非情にも泳いでいる魚に喰われてしまった。

「はぁはぁ…俺の放った光針(シャインニードル)は何とか奴に当たったようだな。これで襲ってきたやつらはすべて駆逐できたようだな。三人ともよく戦ってくれた…礼を言う。」

「もうっ!!最後のいいところファルスさんに全部持っていかれたじゃないの!!でも…レミアポリスの将軍であるあなたがいなければ囚人達を一人も欠かさずに勝利することは不可能だった…感謝してるわ。」

死の料理人・ガーラルとの戦いを終えたあと、ティエラは負傷したファルスの手当てに入る。

「将軍様よ、痛くしない程度で手当てしてやろう。ん…なんだその顔は?私の施しが嫌だというのか…だが私は負傷している人を見ると放っておけない性格なんでな。」

「ぜ…絶対だぞ!!痛みを感じさせずに手当てしてくれよな!!

ティエラは鞄に入っている救急小箱の中から痛覚を遮断する成分を含む麻酔針を取り出し、負傷したファルスの足に突き刺す。数分後、十分に麻酔成分が負傷した足に浸透したのを確認した後、ファルスの足に深く突き刺さっているアサシンフォークを引っこ抜き、地面に投げ捨てる。

「今、力いっぱい足に刺さったフォークを引っこ抜いたよな…だが痛みは全然感じなかったぞ。ティエラ殿、一体俺にどんな細工を施したんだ?

「教えてやろう…先ほど足に突き刺した麻酔針は痛覚を遮断する成分を含んでいるのさ。どうだ…全然痛くなかっただろう。あとは私が軽く治癒術を施せば完了だ。」

ティエラがファルスの傷の手当てを終えた後、地獄島の上空に戦艦らしき物体が目に映る。その戦艦はゆっくりと降下をはじめ、大きな音と共に地獄島に着陸する。

「な…何だあの戦艦は!?まさかまた我々を強制送還するために理想郷から現れたのか!!

「お母様、あれは違うわ!!きっとリリシアがエルジェの魔導士たちを呼んできてくれたんだわ!!

カレニアの言葉の後、地獄島に着陸した戦艦からルーナと数名の魔導士たちが現れる。

 「我々は魔法国エルジェの者です。リリシアの命を受けて地獄島にいるニルヴィニアの魔の手を逃れた囚人たちの救済に参りました。」

ルーナが戦いを終えて疲れ果てたカレニアたちにそう告げた後、リリシアが魔導船から降りてカレニアのもとに駆け寄り、再会を喜ぶ。

「みんな、遅れてごめんね。魔導船で地獄島に来る途中にニルヴィニアの刺客の襲撃に遭ってしまい少し到着が遅れたけど、これでようやく囚人たちを故郷に帰すことができそうね!!

「あなたがエルジェに行っている間、私たちはニルヴィニアの刺客の襲撃を受けて大変だったのよ。囚人達を守りつつ何とか私とお母様たちで何とか倒したけど、また奴らが襲ってくる可能性は高そうね。だが奴らの話ではもう地上界から人間を強制連行する必要はないと言っていたけど、ニルヴィニアは地上界を我が物にするためにまた強大な魔物を送り込んでくるかもしれないわ。」

魔導船を降りたルーナと数名の魔導士たちは魔導船を降り、理想郷から地獄島へと逃げてきた囚人達のいる仮設キャンプへと向かい演説を始める。

 「ニルヴィニアの手を逃れた者たちよ…私の名は魔法国エルジェの大魔導、ルーナと申します。これからあなた方を家族の元に送り届ける前に、エルジェであなたたちの身柄を一時保護いたします。その後我々が魔導船を用いて…家族の元へと送り届けます。」

家族の元に帰れるというルーナの言葉に、囚人たちは声をあげて喜びを表す。ある者は涙を流しながら、またある者抱き合いながら家族の元に帰れるという嬉しさを表現する。

「これで…これでやっと我が家に帰れるんだ。これでもう奴らにこき使わされずに済むんだ!!

「ううっ……ありがとうございます…エルジェの魔導士さん。これで愛する夫の元に帰ることができます。」

エルジェの魔導士たちは囚人たちを先導し、魔導船の中へと案内する。囚人達を全て魔導船の中へと誘導し終えたその時、魔導船は轟音をあげてゆっくりと上昇を開始する。

「それでは皆さん、これより魔導船は地獄島を離陸し、浮遊魔法国エルジェへと向かいます。移動中は多少揺れることがありますが、運行上には問題ございませんのでご安心くださいませ。」

地獄島の上空へと浮上を終えた魔導船は、スピードを上げてエルジェへと向けて移動を始める。

「ふぅ…これで長かった戦いから解放されてひとときの休息ね。お腹も空いたし喉も乾いたわ…とりあえずエルジェに来たらまずは腹ごしらえをしなきゃね。」

「そういえば…私もニルヴィニアの戦い以来何も食べてないわね。しかしひとつだけ問題があるわ。100名以上いる囚人達と私たちの分の料理を出してくれるのか心配だわ…あれだけの人数がいれば、膨大な数の食糧も必要になるからね。」

自分たちと囚人達の分の料理をちゃんと確保できるかと心配するカレニアの言葉の後、ルーナはその心配はないと二人に伝える。

「大丈夫ですよ…エルジェの大宮殿にはちゃんとあなたたちの分の料理を作れるほどの食糧はございますよ。たった今テレパシーで最長老様に料理人たちに料理の手配をするように頼んでおきましたので、エルジェに到着するころには食事の準備はできているから心配しないでください。」

ルーナに感謝の言葉を述べた後、カレニアはリリシアを連れて見張りのため甲板へと向かう。

「ルーナ様、地上界の救済活動で忙しい中私たちの為に来ていただいてありがとうございます。さて、私たちは魔物が魔導船を襲撃しないよう、甲板で見張りに向かいましょう。

ニルヴィニアが地上界に送り込んだ刺客との戦いを終えた一行は、戦いから解放されひとときの休息をおくるのであった……。

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