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終章第二十二話 大魔導vs魔姫

 レミアポリスの地下牢獄にある地獄島へと続く転送陣を使い、ニルヴィニアの創り出した理想郷を脱出し、リリシアたちは無事に囚人たちと地上界へと戻ることに成功した。ファルスはリリシアとカレニアに囚人の救援を要請するためにエルジェへ向かうように伝えたが、空中を飛行する能力を持たないカレニアはリリシアに置いていかれ、地獄島で囚人たちの世話をすることとなった。一方レミアポリスの救援を要請するべくエルジェの大宮殿を訪れたアメリアは、最長老からフェルスティアを襲った大破滅が 創造の神と破壊神を飲み込み新生神となったニルヴィニアによって引き起こされたということを知らされる。伝えた後、アメリアはロックバードの背に乗ってレミアポリスへと戻るのであった……。

 

 アメリアが最長老との謁見を終えてレミアポリスへと帰還する中、エルジェを目指してフェルスティア上空を飛行するリリシアは、グリザ山脈付近へと到達していた。

「出発する前にカレニアから聞いた話によれば、エルジェはグリザ山脈とへドリア湿原を抜けた先にある荒野の上空に浮かんでいるというわけね。さて、急いで目的の場所に行きましょう。」

グリザ山脈とへドリア湿原を抜けた先にある荒野は、かつて1000年前に魔法が栄えた都市であるエルジェがあった跡地である。その古代より伝わる魔力を狙う者たちの襲撃から逃れるべく、最長老が魔法都市エルジェを上空へと浮遊させ、浮遊魔法都市となったのだ。

「確か座標はこの辺りのようね…そのさらに上に急上昇すれば、必ずエルジェにたどり着けるはず!!

リリシアは翼をはばたかせて上空に舞い上がり、急上昇をはじめる。どんどん高度を上げて舞い上がっていく彼女の目の前に、巨大な浮遊大陸の姿が目に映る。あれが浮遊魔法都市エルジェであった。

「見えたっ…あれがエルジェね!!さて、早速着陸の準備を始めるわよ!!

リリシアがエルジェに近づく中、城壁にいる見張りの者たちが警戒を始める。

 「あ…あれは魔物の影!!魔導士たちよ、迎撃準備を始めよ!!

見張りの者たちの声の後、城壁に配置されていた魔導士たちは魔力を集め、エルジェ付近を飛行する魔物の影めがけて魔力弾を放つ。

「エルジェの奴らは私をエルジェを襲おうとする魔物として見ているようね…この場はせず、敵の魔力弾を掻い潜りながら市街地に着陸するしかないわ!!

無数に放たれる魔力弾をかわしつつ、エルジェの市街地へと向けて急降下していく。リリシアが市街地へ向けて着陸態勢に入ろうとした瞬間、見えない壁に激突する。

「あの魔物…市街地を襲撃したが少々分が悪かったようだな。」

「ハッハッハ…いくら魔物が攻めてこようがエルジェの周囲に張られた強力な結界がある限り侵入不可能!!ざまあみろってんだ!!

城壁の見張りの者たちが結界に阻まれたを笑う中、休憩中のルーナが見張りの者たちの前に現れる。

「皆の者、あの者は魔物ではありません!!私が直接話をつけてきます!!

ルーナは光の翼を生やし、話をつけるべく結界の外に出る。

「いてて…どうなってるのよ!!エルジェの市街地に着陸しようとしとしたらなぜか魔力弾で迎撃を受けてしまうわ見えない壁にぶつかってこのありさまよ。それより、あなたは誰なのよ?」

「私はエルジェの最長老に仕える大魔導士、ルーナでございます。浮遊魔法都市エルジェは魔物の侵入を防ぐため、エルジェの周囲に強力で分厚い結界を張り巡らしています。先ほどあなたを攻撃したのは見張りの者たちがあなたの事を魔物と見間違えて、魔導士たちに迎撃命令をだしたせいなのよ。これから私がエルジェの大宮殿に案内しますので、私についてきてください。」

その言葉の後、ルーナはリリシアの手を取りエルジェの周囲を覆う結界の中へと入る。エルジェへの上陸を果たしたリリシアはルーナとともに、エルジェの中枢ともいえる大宮殿へと向かっていく。

「それにしてもエルジェの大魔導の力ってすごいですね…私がエルジェに来た理由は囚人たちの救援を要請するためです。私たちはエルジェから天界に向かい、ソウルキューブの解放に成功しヘルヘイムの死霊王ジャンドラも倒した。しかしニルヴィニアという奴が創造の神と破壊の神を飲み込み、天界の中枢である黄金郷を乗っ取り、フェルスティアに大破滅をもたらした。私たちは奴の計画を阻止するために戦ったが、新生神の力になす術なく倒され、私以外は全員石に変えられてしまったわ。私は最後の力を振り絞って黄金郷の外に出ることに成功したが、力尽きてニルヴィニアの生み出した魔物に捕まって収容所送りにされてしまい、理想郷建設のための奴隷として働かされていたのよ。私たちは力を合わせて収容所を脱獄し、他の収容所に囚われている囚人たちを解放しながら地上界に戻ってきたのよ。」

「ふむ…ソウルキューブの魂の解放に成功したみたいね、おめでとうと言っておくわ。ニルヴィニアねぇ…偵察に行く前に最長老からその話は聞いたわ。奴は天界のヘルヘイムの妃で、天界の二極神ともいえる創造神と破壊神を飲み込んだくそったれ野郎だと聞いたわ。さて、もうすぐ大宮殿に到着よ。くれぐれも最長老様に粗相のないようにね…。」

エルジェの大宮殿に到着した二人は、最長老の待つ謁見の間へと向かう。

「最長老様、この者があなた方に願いがあるとのことです。」

「私たちはニルヴィニアによって奴隷として働かされている囚人たちの救援をお願いするべくこのエルジェに来ました…私は最長老様、私の願いを聞いていただけませんか?

ニルヴィニアの理想郷から脱獄した囚人たちの救援をお願いしたいというリリシアの要求に、最長老は静かに口を開く。

「うむ…その表情を見る限りかなり深刻な様子じゃの。詳しい話はそなたの網膜から見させてもらった…そなたはニルヴィニアに敗れ理想郷建設のための奴隷として働かされていたが、囚人たちと団結し収容所から脱獄し、レミアポリスの王宮の地下牢獄にある転送陣を使い地上界の地獄島に逃れた…ということじゃな。そうじゃ、魔導船なら囚人たちを故郷に帰すことが可能だ。魔導船は大宮殿の裏にある格納庫にあるので、今からわしが魔導船を操縦できる魔導士を呼んでくるので、しばし待たれよ。」

リリシアにそう伝えた後、最長老は重い腰を上げて椅子から立ち上がり魔導船の操縦できる魔導士の元へと向かうべく、謁見の間を去る。

 「最長老が戻ってくるまでの間…私と少し付き合ってもらうわよ。あなたは人間と魔族の血を受け継ぐ珍しい存在…つまり人間でありながら魔族の持つ強大な闇の力を持つ混血種というわけね。ぜひともあなたの実力を試させてもらいたい…地下修練場に案内するわ。」

リリシアの実力がどのようなものかを見定めたいルーナに連れられ、二人はエルジェの大宮殿の地下にある魔導士を育成するための施設である地下修練場へとやってきた。

「ここはエルジェの魔導士たちが自らを鍛えるための地下修練場よ。ここなら誰にも迷惑をかけずに思う存分戦えるわ。準備ができたらさっそく始めるわよ!!

「いくら私の実力を試すとはいえ、相手はエルジェの大魔導…その体からは湧き上がる凄まじいまでの魔力のオーラを感じるわ。それに私の弱点である光の魔力を使えるとなれば…一瞬たりとも油断はできない!!本気で行かせてもら……っ!?

リリシアが身構えるよりも早く、ルーナは光の魔力を集め術を放つ態勢に入る。

「遅い…実に遅い!!所詮あなたと私では、実力が違いすぎるということよっ!!聖光の鋭き刃よ、不浄なる者を切り裂かん!!飛光刃(セイント・ソーサー)ッ!!

ルーナの手のひらから鋭さを持つ光の刃が放たれ、リリシアを襲う。リリシアは闇の魔力で防壁を作り出すが、ルーナの放った光の刃が闇の防壁を切り裂き、防壁の内部にいるリリシアを次々と切り裂いていく。

「くっ…あいつの放った光の刃が、私の張った闇の防壁を切り裂いて防壁の内部に…きゃあぁっ!!

「あなたは人間と魔族の血を持つ珍しい存在でしたが、ここまで弱いとは失望したわ…このエルジェの大魔導であるわたくしが本気を出すまでもなかったようね。まだやりますか…どうせ勝負の結末はすでに見えているだろうけどね。」

ルーナから挑発を受け、リリシアは怒りを露わにして自らの体に魔力を集め始める。

「エルジェの大魔導のルーナと言ったね…ずいぶん好き勝手言ってくれるじゃないのっ!!そこまで言われたら黙ってはいられないわ…こうなったらあれを使うしかないわ!!限定解除(リミットカット)・魔力大覚醒ッ!!

ルーナの挑発に立腹したリリシアは限定解除を行い、自分の魔力を限界まで解放する。魔姫の体から放たれるただならぬ魔力の波長を感じ取ったルーナは、笑みを浮かべながら再び戦いの構えをとる。

 「私の挑発に腹をたてたとはいえ、怒りでこれほどまでの爆発力を見せるとは意外ね。フフフ…面白くなってきたじゃないの。ならばもう少し戦ってみる価値はありそうね!!

「私が発動させた魔力大覚醒は自らの持つ魔力を限界まで解放する禁断の奥義よ。限界を超えた私の魔力、受けてみなさい!!

限定解除で魔力を極限まで解放したリリシアは両手に闇の魔力を集め、術を放つべく詠唱を行う。

「闇から生まれし深淵の渦よ…荒れ狂う竜巻となってすべてを吹き飛ばさんッ!!アビス・ストリーム!!

詠唱を終えた瞬間、ルーナの周囲に深淵の渦の大竜巻が発生する。すかさずルーナは魔力で結界を作り防御に出るが、その威力は結界にヒビが入るほどであった。

「はぁはぁ…私の強大な魔力で作られた結界にヒビを入れるとはね。だが…私だってエルジェの大魔導としてのプライドがある!!エルジェの者ではないあなたに負けたら大魔導の名折れだわっ!!

ルーナは強力な魔力を宿す魔杖セイルーンワンドを手に、リリシアに攻撃を仕掛ける。

「我が魔杖セイルーンワンドよ、聖光の力をもって悪しきものを浄化せんっ!!

強く念じた瞬間、ルーナの持つ魔杖セイルーンワンドの杖先から無数の聖なる光の粒子がリリシアの方へと放たれる。聖なる光の粒子はリリシアの周囲を取り囲み、徐々に逃げ場をなくしていく。

「あの女…杖から聖なる光の粒子を出して私の身動きを封じようって手に出たわね。足止めのつもりだろうけど、私には通用しないわよ!!

リリシアは背中に四枚を羽ばたかせ、ルーナの魔杖から放たれた聖なる光の粒子を吹き飛ばす。魔姫はさらに上空へと舞い上がり、ルーナの方へと回転しながら急降下していく。

「上空からの奇襲攻撃で、一気に畳みかけますわよっ!!

「フフフ…あなたの実力は認めるわ。だが、そう簡単にあなたに負ける私ではないのよ!!舞踊杖『ダンシング・ロッド』!!

ルーナは手に持ったセイルーンワンドをリリシアの方へと投げた瞬間、まるで魂が宿ったかのように空中を舞うリリシアを追尾する。

「あの女の投げた杖が…まるで生き物のように私を追いかけてくるわ!!ならば闇の魔法弾で撃ち落としてやるわ!!

リリシアが闇の魔法弾を放ち、追尾してくるルーナの杖を撃ち落とす。しかし地面に撃ち落とされてもなおルーナの杖は動き出し、再びリリシアの方めがけて飛んでいく。

 「甘いわね…私のダンシングロッドは私の魔力を注ぎ込んでいる間は自由自在に動き執拗に相手を追尾する!!そして逃げ続けて疲れ切った相手を容赦なく叩きのめす!!

ルーナの杖は空中を飛行するリリシアを地面にたたき落した後、態勢を崩したリリシアの体に連打を食らわせた後、上空へと舞い上がり彗星のごとくリリシアめがけて落下する。

「きゃあああああああああぁぁっ!!!

「どうやら勝負あったようね。あなたの実力…しかと見させていただきました!!あなたとの手合せで時間が経ったことだし、そろそろ最長老のところに戻りましょう。おっと…その前にあなたの傷を回復して差し上げましょう。」

ルーナは戦いで傷ついたリリシアを回復させた後、二人は魔導士たちの地下修練所を後にする。

「はぁはぁ…あなたもなかなか強かったわ。魔力大覚醒を発動させた私がここまで追い詰められるとは、さすがは不老長寿の仙女の強さといったところかしら。」

「あなたにひとつ助言をあげるわ。魔力とは術を使える人間の持つ心の力を使い、術として放つということが本質的な魔力の使い方よ。エルジェの魔導士たちは厳しい鍛錬によって心の力の使い方を学んでいくのよ。心の力の使い方をマスターすれば、術の威力を何倍にも上乗せすることが可能よ。」

地下修練場でルーナとの手合せを終えたリリシアは、ルーナとともに最長老の待つ謁見の間へと向かうのであった……。

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