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終章第二十一話 地上界への帰還

 王宮の浴場で失った体力と魔力を回復した一行は、地上界へと続く転送陣を探すべくニルヴィニアの手中に堕ちたレミアポリス王宮の中を進んでいた。

「王宮にある転送陣はひとつだけある…王宮の地下牢獄にあるのだが、通じている場所は『地獄島』。正式な名称はボルケニア島だ。この島はかつて罪人を収容するための絶海の孤島だ。凶暴な原生生物が生息している危険な地だが、地上界に戻るにはそれしか方法がない。」

地下牢獄にある転送陣を使って地上界に戻るというファルスの言葉を聞き、リリシアはクリスたちと冒険していた時のことを思い出し、ファルスにこう答える。

「かつて私とクリスたちはあの島に島流しにされたことがあるわ。ソウルキューブを取り返してレミアポリスの王宮に帰還した瞬間、アメリア様を襲った犯人に間違われて無理やりあの島に島流しにされてしまったのよ。そのあとアメリア様が私たちがやっていないということをちゃんと説明してくれたわ。」

リリシアの話の後、囚人たちはファルスに不満をぶつける。

「そんな…俺たちは猛獣がいるおっかない島に行けというのか。猛獣に喰われて死ぬなんて俺は嫌だぜ。」

「まさか…レミアポリスの将軍様が無実の俺たちを島流しにするのか!!ふざけるんじゃねぇ!!

囚人たちが次々と怒りをぶつける中、カレニアが囚人たちの不満を一蹴する。

 「ちょっと、ファルスさんに怒りをぶつけても何の解決にもならないわよ!!みんなとりあえず落ち着いて聞いて…確かにあの島は猛獣たちが生息する危険な島ですが、ファルスさんの言う通り地上界に戻る方法はそれしかないのです。しばらくこの島を拠点にし、ニルヴィニアを討つための対策を立てるしかありません。詳しい作戦やこれからの計画などは到着した後で私から話します。」

これからの事は地獄島に到着してから話すというカレニアの言葉に、怒りに震える囚人たちは落ち着きを取り戻す。

「そこの眼鏡のお嬢さん…本当に俺たちは生きて故郷に帰れるのかい?」

「保証します…必ずあなたたちを生かして故郷に帰します。術を使える囚人と私たちの戦力を合わせれば、地獄島にいる原生生物に互角に戦えるはずよ。平たく言えば、今こそみんなで力を合わせる時よ。」

カレニアは自らの主張を囚人に伝え終えた後、リリシアは手を挙げてカレニアに賛成の言葉を述べる。

「私もカレニアの意見に賛成よ。ここにいる全員の体力と魔力は浴場の薬湯で大幅に回復できたから、猛獣の方は私が何とかするわ。襲いかかってくる猛獣を倒して手に入る皮などは防具の材料になるし、食糧も手に入りそうね。みんな、異議はないわね!!

ファルスの意見に反対だった囚人たちは二人の説得に納得したのか、頷きながらファルスの意見に賛成の意を示す。

「最初は俺の意見に反対だったが、お前たちの説得のおかげで全員賛成のようだな…それでは地獄島に通じている転送陣のある地下牢獄へと向かおう。」

数十分の話し合いの後、一行は地獄島へと通じる転送陣のある王宮の地下牢獄へと向かうのであった……。

 

 罪人たちを収容する薄暗い地下牢獄へと到着した一行はファルスの先導の元、地獄島へと通じている転送陣のある場所へと案内する。しかし地獄島へと通じている転送陣は魔力切れなのか、作動していない状態であった。

「転送陣が無事だったのはよいが、魔力切れで作動していない状態だ。転送陣というのは杖の魔力によって描かれた物質転送のための魔法陣だ。しかしこの魔法陣は時間がたてば魔力が失われ、ただの絵になってしまう。そのため再び使用するためには魔力が切れた転送陣に魔力を込めて再び使えるようにする必要があるのだ。」

ファルスは転送陣に魔力を込めるための杖を取り出すと、自分の魔力を杖に流し込み力を失った転送陣に魔力を注いでいく。ファルスの魔力が注がれた転送陣は見る見るうちに光を取り戻し、作動し始める。

「よし…これで転送陣が作動したぞ。まずはリリシア、お前が先に行って島の様子を確かめて来い。何かあったら俺に説明しろ…いいな。」

「わかったわ。万が一不測の事態が起こったときのために備えてカレニアも連れていくわ。ファルスは囚人たちの護衛を頼んだわよ!!

ファルスに囚人たちの護衛を任せるように伝えた後、リリシアはカレニアを連れて転送陣を使い地獄島へと移動を始める。

「流石に人気のない島だけあって昔と全然変わってないわね…これなら囚人たちを全員収容できそうだわ。猛獣が出なければの話だけどね。」

「この地上界に起こった異変を察知しているせいか、普段この辺をうろついている猛獣は身を潜めているみたいね。決して安全な場所とは言えないが、少しでも奴の手から逃れるにはちょうどいい場所だわ。全員の転送が終わったら、速やかに転送陣を破壊したほうがよさそうと思うわ。そうしないと奴らが私たちを追ってくる可能性があるからね。」

地獄島は大破滅の影響を受けておらず、昔と全然変わらぬ状態であった。リリシアたちはしばらく島の見回りをした後、転送陣を使いファルスたちの元へと戻り島の様子を報告する。

「島の様子は変わったところはないわ。この世界に起きている異変のせいなのか普段は餌を求めてうろついている猛獣たちは身を潜めていたようです。」

リリシアの報告を聞いたファルスは、囚人たちを集めて転送の準備に取り掛かる。

「報告ご苦労であった…では早速囚人たちの転送を始めよう。転送陣が一度に転送できる人数は最大で5人だ。全員の転送が終わるまで、ティエラさんとウルと俺で敵が来ないよう護衛を行う。リリシアとカレニアは先に地獄島へと向かい、囚人たちを案内してやってくれ。」

「話は分かった…では私はウルとともに囚人たちの護衛に回ろう。しかし罪人の流刑地である地獄島を囚人たちの一時避難のために使うとは驚いたよ。」

リリシアとカレニアが先に地獄島へと向かった後、囚人たちは次々と転送陣を使い地獄島へと向かっていく。

「これで全ての囚人たちが転送を終えたようだな。さて、追手が来ないうちに俺たちも地獄島へと向かおう。」

王宮にいる全ての囚人が転送を終えた後、護衛を終えたファルスたちも地獄島へと向かう。全員が地獄島への転送を終えた後、ファルスは少しでもニルヴィニアの魔の手から逃れるためレミアポリス王宮に通じている転送陣を破壊する。

 「皆の者よ…全員無事に地上界に戻ることはできたが、御覧の通り荒れ放題で何もない島だ。まずは住める環境を作り、少しでも居心地のいい場所にするのが第一段階だ。俺たちには心強い仲間たちがいる…そなたたちを必ず故郷に帰す目的を果たすため、ともに力を合わせようぞ!!

数々の戦いを潜り抜けてたどり着いた地獄島は、何もない荒地であった。ファルスは囚人たちを集めてこれからの計画を伝えた後、リリシアとカレニアに感謝の言葉を述べる。

「奴の手から逃れることができたのはお前たちのおかげだ…ありがとう。俺たちと囚人たちはいつまでもこの地獄島にいるわけにもいかない…そこでだ、数々の戦いを潜り抜けてきたお前たちに頼みがある。フェルスティアで最も魔法が栄えた国である浮遊魔法都市エルジェに向かい、囚人たちの救援を要請してほしい。海を渡りグリザ大陸へと向かう必要がある…そのためには木を切って船を造るしかないな。」

「船を造る必要はないわ…私は背中に翼をはやすことができるからね。魔力が回復した今なら、エルジェなら数十分あれば到着できるわ。残念ながらカレニアは私のように飛行能力は身につけていないので、囚人たちのお世話係を頼んだわよ!!

カレニアに囚人たちの世話をするようにと伝えた後、リリシアは翼を広げて大空へと舞い上がっていく。リリシアの姿が見えなくなった後、カレニアが空を飛べない悔しさを叫ぶ。

「私がここで留守番ですって…冗談じゃないわ!!絶対ついてきてやるんだから!!

カレニアは悔しさを押し殺し、仕方なく囚人たちの世話に勤しむのであった……。

 

 リリシアたちがニルヴィニアの創り出した理想郷からの脱出を果たす中、魔導士たちに救援を要請するためエルジェを訪れたアメリアは、最長老の待つ大宮殿へと来ていた。

「最長老よ…私だ。レミアポリスの皇帝アメリアだ!!

瞑想に入っていた最長老はアメリアの気配に気づいたのか、静かに目を開いてアメリアを見つめる。

「むむ…レミアポリスの皇帝よ、わざわざエルジェに足を運ぶとはフェルスティアに何かあったということだな。言葉で話さなくともこのエルジェに来た理由はわかる…網膜を見ればそなたの考えることはわしの頭に流れ込んでくるからな。さて、私がフェルスティアに起きた出来事を話そう…天界のヘルヘイムと呼ばれる地にいる邪なる妃が勇ある者たちを滅ぼし、天界の中心にある黄金郷を乗っ取りフェルスティアの上空に理想郷を創り出し…フェルスティアを我が物にしようとするものが現れた。奴は理想郷を作るためレミアポリスの王宮を奴が創り出した理想郷に移動させ、地上界に自らが生み出した魔物を放ち次々と人間を拉致して奴隷として働かせているようじゃ…。」

最長老からヘルヘイムの邪悪な妃が黄金郷を乗っ取りフェルスティアを我が物にしようとしている事実を聞かされ、アメリアは驚愕する。

「な…なんじゃと!!天界のヘルヘイムと呼ばれる地にいる邪なる妃がこのフェルスティアに起こった大破滅の元凶なのかッ!!となればファルスはそいつに倒されて理想郷建設のための奴隷として働かされている…というわけか。」

「そうじゃ…このくそったれ野郎は天界の中心にある黄金郷に座す創造の神『クリュメヌス・アルセリオス』と破壊の神『デストラス』を飲み込み、二極の力を手にした者なのじゃああぁぁーっ!!おっと、少し熱くなりすぎたようだな…創造の神は奴に飲み込まれる少し前、わしに『ニルヴィニア』という名を遺していた。おそらくはそいつが張本人なのかもしれぬがな。アメリアよ、そなたの願いは聞き届けた…このエルジェから数名の腕のたつ魔導士たちをレミアポリスに派遣するようにと伝えておく。」

アメリアは深く頭を下げ、要求にこたえてくれた最長老に感謝の意を示す。

 「最長老よ…たびたび無理言ってすまぬな。ところで、大魔導のルーナのやつは元気しておるか。少しだけでも話がしたいんじゃ…この危機をどうにかするためにな。」

アメリアはルーナと少しだけ話がしたいと問いかけると、最長老はルーナは今はエルジェにはいないとアメリアに伝える。

「残念じゃが今はルーナは不在じゃ。ルーナはこのフェルスティアに起こった異変をいち早く察知したのか、現在各地の偵察と救済活動を行っているようじゃ。たびたびわしのところに近況報告に来てくれるのじゃが…どの場所も壊滅的なダメージを受けているとのことじゃ。」

「それは残念じゃな…せっかくルーナの大好物であるヴィクトリアス名物の『煌めく羊羹』を食べながら一緒に話をしたかったのだが仕方あるまい。とりあえずルーナが偵察から帰ってきたらそいつを渡してやってくれ。では私はそろそろ失礼するよ……。」

アメリアは煌めく羊羹の入った小包を最長老に手渡した後、大宮殿の外で待機していたロックバードに乗り、レミアポリスへと帰還を始める。アメリアがエルジェを離れてから数分後、偵察を終えてエルジェに戻ってきたルーナが大宮殿に向かい、最長老に報告を始める。

 「最長老様…この大魔導ルーナ、偵察を終えて戻ってまいりました。先ほどエルザディア諸島の偵察及び救済活動を行っていました。エルザディアはいくつかの島が水没しており、なお、島に住んでいる人たちはみな海神の神殿に避難しておりますが、食糧と水が底を尽きそうなので物資の配給を要求していました。この様子だと、復旧には長い年月がかかるようです。」

エルザディア諸島の被害状況を報告した後、最長老はアメリアから手渡された小包をルーナに手渡す。

「ふむ…偵察ご苦労であった。ところで、先ほどレミアポリスの皇帝アメリアがレミアポリスの救援要請のためにここを訪れたようだ。そうじゃルーナよ、アメリアがルーナにこれを渡してほしいと言っていたようじゃ。中身はお前の好きな『煌めく羊羹』じゃ。アメリアはこれを食べながらお前と話をしたがっておったぞ……。」

「アメリア様が直々にエルジェに訪れるなんて、レミアポリスが相当危険な状態に晒されているようね。これは早急な対策が必要だわ…最長老様、私はしばらくお暇をいただきます。」

最長老にそう告げた後、偵察と救済活動で疲労困憊のルーナはアメリアからいただいた小包を手に自室へと戻リ休息をとるのであった……。

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