終章第二十話 ガデスノイド強襲!!
セルフィたちが燃料確保のためにフレイヤード大陸を冒険する中、リリシアたちはニルヴィニアの作り出した世界に持ち上げられたレミアポリスの王宮を発見した。王宮の扉を開けて入口へと踏み入った彼女たちが最初に目にしたのは、床中の所々に魔物と交戦した兵士のものと思われる血痕であった。リリシアたちが王宮の内部の探索を行おうとしたその時、人間の肉と生き胆を喰らい進化したヘルズヒューマノイドの上位種であるガデスノイドが現れ、リリシアたちに襲い掛かってくるのであった……。
リリシアとカレニアは戦いの構えに入り、鋭い爪を突き出して襲い掛かってくるガデスノイドを迎え撃つ。
「あいつは私とリリシアで何とかするから、お母様とファルスさんは囚人たちを安全な場所に避難させてちょうだい!!」
「よかろう、囚人たちは私と将軍様で安全な場所まで案内する!!将軍様、しっかり護衛頼むよ!!」
カレニアの命を受けたティエラとファルスは、囚人たちに危害が及ばぬよう安全な場所へと案内する。
「囚人たちはあの二人が守ってくれるわ。さて、あいつを倒すわよ!!」
ファルスとティエラがその場を去ったのを確認した後、カレニアは細見の剣を構えてガデスノイドのほうへと向かっていく。
「ケッケッケ…生キノイイ小娘ダ。我々ヘルズヒューマノイド属ハ若イ人間ノ生キ胆ガ特ニ好キデナ…食エバ食ウホド更ニ強クナル性質ヲモッテイルノサ!!最終的ニハヘルズヒューマノイドノ最高峰ニシテ究極体…ゼノニアードニナルノダ!!貴様ラ小娘ドモニ邪魔ハサレテハ困ル、ソノ場デ殺シテ喰ッテヤロウ!!」
ガデスノイドは大きく飛び上がり、こちらの方へと向かってくるカレニアめがけて飛びかかる。カレニアは素早い身のこなしで身をかわしたが、その威力は王宮の床に穴をあけるほどの威力であった。
「なんて奴なの…奴の爪の一撃をまともに喰らえば八つ裂きにされるわね。しかし今の私はニルヴィニアとの戦いで体力と魔力を大幅に消耗している状態だから…剣で戦うしかないわね!!」
ガデスノイドの爪の一撃をかわしたカレニアは細見の剣を構えすぐさまガデスノイドに斬りかかるが、鋭い爪によって阻まれ、つばぜり合いに発展する。
「ケッケッケ!!ツバゼリ合イカ…非力ナ小娘ゴトキニコノ俺ガ競リ負ケルワケガナカロウ!!」
「兵士たちの死体を喰らっているだけあって、身体能力は流石のものね。だが…あなたなんかには負けないわっ!!」
カレニアは剣を握る両腕に渾身の力を込め、ガデスノイドを徐々に後ろへと押していく。カレニアの猛攻に後ろへと押されていくガデスノイドは両腕に力を込めてカレニアの態勢を崩そうとするが、一歩及ばず競り負けてしまい、ガデスノイドは大きく態勢を崩す。
「ウググ…小娘ノクセニナンテ強サダ!!オノレ小娘、コノ爪デ貴様ノ喉ヲ切リ裂イテヤ……グオォッ!!」
ガデスノイドが態勢を立て直そうとしたその時、リリシアは第三収容所の署長室で手に入れた戦闘用の鉄扇でガデスノイドの体を切り裂く。
「私の仲間にそれ以上手を出そうものなら…この私が許さないわよ!!」
リリシアがそう言い放った後、鉄扇の乱舞を繰り出しガデスノイドの体を次々と切り裂いていく。舞い踊るように振るわれる鉄扇の刃がガデスノイドの体を切り裂くたび、おびただしい量の血しぶきが上がる。
「うわぁ…血しぶきがこっちまで飛んできそうな勢いだわ。」
鉄扇の乱舞の後、全身を切り裂かれたガデスノイドが自らの血だまりに沈むようにして絶命する。ガデスノイドとの戦いを終えたリリシアの体は、ガデスノイドの返り血で真っ赤に染まっていた。
「はぁはぁ…なんとか奴を倒すことができたわ。この王宮内にまだ同じような奴がいるかもしれないから…とにかく気を付けて行動したほうがいいわ。」
「戦いに勝ったのはいいけど、あの魔物の返り血で真っ赤じゃないの!!こんな血生臭い匂いを漂わせている状態で仲間たちと合流するのはまずいわ。レミアポリスの王宮には確か大きな浴場があったはず…そこで服と体を洗ってから合流しましょう。
ガデスノイドの返り血を浴びて血の匂いを漂わせた状態で仲間たちと合流するのはまずいと感じたカレニアは、リリシアに浴場で体を洗ってから合流するようにと伝える。
「すまないわねカレニア。少々派手にやりすぎてしまったから服も汚れてしまったわ。王宮の浴場の湯は魔力を回復させる効果があると聞いたわ。もし浴場に湯が残っているなら…戦いで失った魔力を回復することができるかもしれないわよ。まずは浴場を探して心身ともにリフレッシュしないとね。」
ガデスノイドを撃破したリリシアたちは返り血で汚れた体と服を洗うべく、王宮の中にある大きな浴場へと向かうことにした……。
王宮の大浴場にたどり着いた二人だが、大浴場の浴槽には水はあまり残っていなかった。
「確かにここはレミアポリス王宮の大浴場だわ…しかし浴槽の水が残り少ないみたいね。これほどの量だと二人は入れないわ…浸かれるのは一人が限界みたい。」
「一人分しか水が残ってないか…ならあなたが先に入ったほうがいいわ。ほら、あなたは体力と魔力を大幅に消耗してるからね。カレニアが入浴している間、私は水が出るところを探してくるわ。」
浴槽に残っているわずかな水は、魔物の襲撃で手入れが施されていないせいか白く濁っていた。
「あの…浴槽に残っている水、なんか濁ってない?ほんとにこんなのに浸かって大丈夫なの…。」
「あれは治癒成分が沈殿してるから濁っているのよ。よく濁り湯って言うじゃない。残っている水は冷たいから、炎の魔力で少しあたためてから入ったほうがいいわ。」
カレニアにそう言った後、リリシアは目を閉じて水のある場所を探る。
「王宮の地下に水の気配を感じるわ。どうやらレミアポリスの人たちは王宮の地下に水をためて浴場に使うための水を確保しているってわけね。どうやらこの浴場のどこかに地下に通じる階段があるかもしれないけど、それがどこにあるかはわからないわ。」
「王宮の地下に行くための階段なら浴場を出てすぐの場所にあったはずよ。王宮の地下は浴場の管理人以外は立ち寄らない場所よ…あそこは暗いので明かりがなければ危険よ。じゃあ私は先に一浴びしてくるから、リリシアは浴槽の水のこと、頼んだわよ!!」
リリシアは一旦浴場を後にし、浴場などに使われる水が蓄えられている地下室へと足を踏み入れる。しかし地下室は暗闇に包まれており、明かりがないとまともに進むことができない状態であった。
「この先から水の気配が漂ってくるけど…この暗さじゃまともに歩けないわね。私の魔力は残りわずかだが、赤き炎の魔力を使えば周囲を照らすことはできそうね。」
リリシアはわずかに残った魔力を使い、小さな炎の衛星を作り出す。生み出された炎の衛星はリリシアの周囲を回転しながら、暗闇を照らしていく。
「あったわ…この大きな機械が浴槽に水を供給する装置みたいね。右の赤色のスイッチを押せば水の供給が始まる仕組みになっているわね。」
浴槽に水を供給する装置には、膨大な量の水と薬湯の元になる治癒成分を含む緑色の回復液が入ったタンクらしき物体がそこにあった。リリシアが水の供給スイッチを押した瞬間、轟音とともに装置が稼働し、タンクに蓄えられた水と回復液が浴場の方へと供給されていく。
「よし、これで浴槽の方へと水が流れていったわ!!これで失った体力と魔力を回復できるわ。あと王宮の入り口付近で待っている囚人たちも回復させてあげないとね。」
リリシアは水供給装置を作動させた後、急いで浴場へと戻っていく。そのころ一足先に入浴しているカレニアは、浴槽の水の底に溜まっているものが治癒成分でないことを知り怒りをあらわにしていた。
「まったく、何が治癒成分が沈殿した成分なのよ…ただの汚れじゃないの!!先に入って損したわ。リリシアが帰ってきたらきつく言って……っ!?」
カレニアが浴槽を離れたその時、浴場のすべての浴槽の底から緑色の新しい水が湧き出しあっという間に浴槽が治癒成分を含む水で一杯になる。
「リリシアのおかげで浴槽に水が満たされたわ!!さぁて、気を取り直して一浴びするとしましょうか!!」
カレニアが浴槽の水に肩まで浸かった瞬間、消耗しきった体に魔力と体力が体中に湧き上がってくる。
「湯船に入った瞬間、失った体力と体力が戻ってきたわ!!これなら力を持つ奴らとも互角に戦えそうね!!」
その言葉の後、浴槽に水を供給する役目を果たしたリリシアが再び浴場へと戻ってきた。
「おっ…浴槽全てに水が張られているわね。では早速私も入ろうかな……。」
「ちょっと待って…まずはその服に付着した血と体を洗い流してから入ってちょうだい。後でみんなの入るお湯が汚くなるでしょ!!」
浴場の回復の湯が血で汚くなることをカレニアに注意されたリリシアは、返り血で汚れた服を脱ぎ捨て、激しい戦いで汗と血にまみれた体と服を洗い流す。
「ふぅ…こうして自分の体を洗うのは何日ぶりかしら。」
体についた汚れを洗い流した後、治癒成分を含む水が満たされた湯船に浸かる。リリシアが肩まで湯船に入った瞬間、浴槽の水に含まれている治癒成分が体に流れ込み、戦いで失った魔力と体力が体の中に流れ込んでくる。
「湯船に入った瞬間…魔力を抜かれて空っぽだった体に魔力が流れ込んでくるわ!!」
「どう…この薬湯は湯加減・回復効果ともに最高よ。この薬湯は戦いで傷つき疲れた戦士たちを癒すために、治癒成分を含むさまざまな薬草を調合して液体にした物が溶けているのよ。私たちが回復し終わったあと、囚人たち全員を回復させましょう。」
リリシアたちはしばらく薬湯に浸かって体力と魔力を回復させたあと、囚人たちと合流するべく浴場を後にし王宮の入り口へ戻っていく。
「ずいぶんと遅い合流だな…一体何があったんだ?」
王宮の入り口へと戻ってきたリリシアとカレニアに、囚人たちとともに王宮の入り口へと戻ってきたファルスたちが二人に何があったのかと問いかける。
「少し二人で王宮の探索をしていたのよ。実は…王宮の中に浴場を発見したわ。地下室にある温水供給装置は作動させておいたからいつでも入れる状態にしておいたわ…ここの浴場の地下に蓄えられている薬湯は体力と魔力を大幅に回復する成分を含んでいるのよ。ここだけの話…先にカレニアと一緒に入ってきたんだけどね。」
「ず…ずるいぞ!!二人だけで先に入って回復するなんてっ!!そのお前たちが見つけた浴場とやらに案内しろ…囚人たちも回復させれば、戦力上昇も期待できるからな。」
ファルスの言葉の後、リリシアは王宮の入り口前にいる全員に入浴についての計画を伝える。
「分かったわ…私が浴場へと案内するわ。計画としては…男性と女性の2グループ分けて薬湯に入らせましょう。入浴時間は性別ごとに10分…入浴が終わるまで待機中の者と私とカレニアで浴場前で護衛するわ。それなら安心して入浴に専念できるでしょ。」
「それはいい提案だな。まず先に薬湯に入浴させるのは女性だ…その次に男性だ。先に回復した二人と入浴待ちのグループで浴場前で護衛を頼んだぞ。」
浴場に到着した一行はまず最初に女性の囚人たちを入浴させている間、男性陣たちとリリシアとカレニアは入浴中の者たちが回復に専念できるよう、浴場の前で敵が来ないよう見張りをしていた。
「魔力を回復できる手段を得た今…あの魔物たちとも互角に渡り合うことができそうだ。囚人たち全員の回復が済んだら、地上界に続く転送陣を探すぞ。いつまでもニルヴィニアに支配下となった王宮には居られん、一刻も早く地上界へと戻らねばならんからな。」
リリシアとカレニアが護衛をすること20分後、囚人たちの体力と魔力の回復を終えた一行は地上界へと続く転送陣を探すべく、再び王宮の探索へと向かうのであった……。