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終章第十九話 新たなる大陸へ

 採掘に行ったまま帰ってこない燃料屋の店主を探すため溶岩洞の奥へと進むセルフィたちは地上界の鉱石を奪おうと企むヘルズヒューマノイドたちを蹴散らしながら、ついに溶岩洞の大空洞へとたどり着いた。しかしそこで一行が見たのは、略奪や襲撃など力で奪う行為に特化した巨漢型のヘルズヒューマノイドたちによって、燃料屋の店主が囚われの身となっていた。巨漢型のヘルズヒューマノイドはニルヴィニアが生み出した鉱石を奪うために作られた両腕に二本の巨大なピッケルを備えた魔掘機『ダンジョンクラッシャー』を起動させ、セルフィたちに襲い掛かってきた……。

 

 セルフィたちは激しい死闘の末、巨漢型のヘルズヒューマノイドたちとダンジョンクラッシャーを撃破し、燃料屋の店主の救出に成功した。燃料屋の店主は助けてくれたお礼に触れるものを焼き尽くすほどの熱量を誇る特別大きな灼炎岩(フレアロック)をもらい受けた後、セルフィたちは燃料屋の店主とともに港町へと戻るのであった……。

 

 セルフィたちが港町に向かう中、黄金郷で瞑想にふけるニルヴィニアはフレイヤード大陸に放ったヘルズヒューマノイドたちが倒されたことを知り、焦りの表情を浮かべていた。

「地上界の火山地帯に派遣した数名のヘルズヒューマノイドたちの生命反応が消えた…何が起こったのかわからぬが、奴らを倒せるほどの実力を持つ者がこの地上界にいるというわけだな。いち早く障害となる者を排除せねば…妾(わらわ)の計画にも響いてくるからな。」

焦りの表情を浮かべるニルヴィニアの前に、腹心の一人であるメルヴェスがひとつの提案を上げる。

「ニルヴィニア様…人間討伐隊を用いて地上界の戦士たちを片っ端から潰していくのはどうでしょう…ニルヴィニア様の持つ創造の能力なら、知能を持つ魔物を生むことなどたやすいことだ。」

人間討伐隊を結成して戦士たちを滅ぼすというメルヴェスの提案に、ニルヴィニアは渋い表情でメルヴェスを見つめながら、返答する。

 「しかしメルヴェス様…人間に匹敵するほどの知能を持つ魔物は生み出すのが困難なうえ、貴重な人骨と人肉を使わねばならんのだ。地上界に派遣したヘルズヒューマノイドがうまく人間の死体を持ち帰れば可能なのだが……。」

その言葉の後、巨漢型のヘルズヒューマノイドが数名の人間の死体が入った袋を引きずりながら、ニルヴィニアのもとへと現れる。

「ニルヴィニア様!!地上界の人間ヲ数匹殺シテ持チ帰ッテキタゼィ!!

「ちょうどいいところに来た…今妾は人間に匹敵するほどの知能を持つ魔物を生み出すために人間の死体を必要としていたのだよ。だが…その前に解体作業が必要だ。人肉と骨に分けておいたほうが何かと便利だからな…あと取り出した人間の内臓はヘルズヒューマノイドを強化する食材だ。傷つけないように慎重に取り出したうえですぐに厨房に持って行け。妾に仕える死の料理人がうまく調理し、戦闘能力をさらに底上げする強化料理を作ってくれよう。そして最後に人間の血は人間狩りのための武器の強化に使わせてもらう。ではその目障りな人間の死体を解体場に運んでまいれ…死体の解体が済んだら再び妾のもとに戻ってくるのだ!!

巨漢型のヘルズヒューマノイドはニルヴィニアに敬礼した後、袋に入れられた死体の解体に向かう。

「クックック…少しでも多く人間の死体を!!人骨を!!妾のもとに持ってまいれ!!すべては地上界を我が手中に収めるため、地上界の人間を片っ端から狩って狩って狩りまくるのだ!!

ニルヴィニアは高笑いを浮かべながら、静かに目をとじて瞑想に入るのであった……。

 

 燃料屋の店主を無事救出したセルフィたちは大きな灼炎岩と燃料となる鉱石を積み込んだ荷車を押しながら、自分の船を停泊させてある港町へと戻るべく荒野を進んでいた。

「おお、懐かしい港町が見えてきたようだ…みんな、あと少しだぞ!!

押して進むセルフィたちの前に、フレイヤード城下町へ行く途中で出くわした火喰鳥がセルフィたちの前に現れ、大きな雄たけびをあげて襲い掛かってきた。

「クワァーーッ!!

「こいつはやばいぞ…あの火喰鳥は荷車の中の燃料となる鉱石を狙っていやがる!!魔物図鑑によると火喰鳥は熱を持つ鉱石を食べて炎を吐き、鋭い鉤爪の一撃で獲物に致命傷を与える凶暴な鳥だ。私たちは溶岩洞での戦いで体力を消耗しているが…この場は荷車を守りながら戦うしかない!!ここは私たちであの鳥を引き付けるので、あなたは先に港町に行ってくださいっ!!

セルフィたちが戦闘態勢に入り火喰鳥を迎え撃つ中、燃料屋の店主は急いで荷車を押して港町のほうへと向かっていく。

「さて、僕は燃料屋の店主の護衛に入ります。一人だけでは何かと心配ですからね。いいことを教えます…火喰鳥の鋭い爪は鉄をも引き裂く威力です。何らかの形で奴の身動きを封じることができれば楽に戦えるんですが……。」

ブレアの助言にヒントを得たレナードは、セルフィとミシュリアに戦いの指示を与える。

「なるほどな…奴の身動きを封じることができるのは唯一私のようだな。私が糸で奴を縛り上げて拘束するので、セルフィとミシュリアはその隙に一気に攻撃を加えて奴を倒すんだ!!

セルフィとミシュリアに命令を与えたあと、レナードは見えない糸を火喰鳥の脚に巻き付け、火喰鳥の身動きを封じる。唯一の攻撃手段である鋭い鉤爪を備えた脚を縛られて態勢を崩す火喰鳥は、口から炎の弾を吐き出しながら抵抗する。

「身動きを封じたのはよいが、この暴れようではうかつに近づけないようだ。そうだ…火喰鳥は水の属性に弱いとのことだ。ミシュリア、ここは水属性の術で攻撃してくれ!!

「確かに炎の属性を持つ魔物には水属性が有効ですからね。低級の術なら詠唱せずに放てます!!

その言葉の後、ミシュリアは手のひらから水流を放ち火喰鳥を攻撃する。弱点である水属性のダメージを受けた火喰鳥は全身の力が抜け、暴れることすら困難な状態に陥る。

 「弱点を突かれて動けない今なら…確実にあの鳥を仕留められるわ!!ゼオニック・ボルト!!

セルフィは雷帝の爪を構えて雷のエネルギーを集め、水を受けて力が抜けている火喰鳥に放つ。雷帝の爪から放たれた雷は火喰鳥の体を凄まじい速さで駆け巡り、一瞬にして絶命させる。

「ふぅ…なんとかあの凶暴な火喰鳥を仕留めたようだね。奴の持つ鋭い鉤爪はいい武器の材料になるうえ、強靭な脚の肉は干し肉にもできるからな。さて、私たちも港町に戻ろうか。」

火喰鳥を仕留めたセルフィたちは肉や爪などの使えそうなものを剥ぎ取った後、燃料屋の店主の護衛のために先に向かったブレアと合流するべく、急いで港町へと向かうのであった……。

 

 燃料屋の店主の救出を終えて港町に戻ってきたセルフィは燃料屋の店主とブレアと合流した後、二人を自分の船を停泊させてある港へと案内する。

「さて、先ほど溶岩洞で掘り出してきた灼炎岩をお前さんの船に運ぶとしようか。動力炉にこの灼炎岩を入れれば、数十年は船を動かせるぞい。」

セルフィたちは燃料屋の店主と協力し、荷車に乗せられた灼炎岩を動力炉へと放り込む。動力炉に入れられた灼炎岩は凄まじい熱エネルギーを放出し、船を動かすエネルギーを作り出す。

 「みなさんに少しお話があります。中央大陸に行く前に、少し寄りたい場所があります。少し勝手な願いになるかもしれませんが、いいですか?」

中央大陸に向かう前に寄りたい場所があるというブレアの要求に、セルフィは首を縦に振ってその要求に答える。

「いいわよ…仲間の頼みならば、どこへでも連れて行ってあげるわ。」

「寄りたい場所というのは…この大陸から北西の方角にある水の清き大陸・ウォルティア大陸です。お姉ちゃんとその仲間たちの活躍によって仮面の魔導師との戦いで命を落とした僕が生き返ったなら、僕の大切な人であるリュミーネも生き返っているはずだと思うんです!!

セルフィとブレア会話の後、レナードは次の目的地ををウォルティア大陸に決めた後、燃料となる鉱石をくれた燃料屋の店主に一礼する。

「次なる進路はウォルティア大陸だな…フレイヤード大陸からは1日くらいかかりそうだ。それまで海の上での生活だな。燃料屋の店主さん、これほどいい燃料をありがとう!!

目的の燃料を手に入れる目的を達成したセルフィたちは、フレイヤード大陸に別れを告げ清き水の流れる大陸であるウォルティア大陸へと向けて船を進めるのであった……。

 

 セルフィがフレイヤード大陸を冒険している中、クリスたちの仲間の一人であるカレニアを救出したリリシアたちは解放した囚人たちを引き連れて、地上界へと戻るべくレミアポリス王宮を目指していた。

「ファルスの言葉の通り、レミアポリスの王宮がニルヴィニアによってここに持ち上げられたというのは本当らしいね。しかしニルヴィニアは私たちが何をするのかお見通しってわけだから、何をやらかすかわからないわよ。」

「リリシア、このニルヴィニアの作り出した大陸の中央付近に大きな建物の気配を感じるわ。それがレミアポリスの王宮かわからないけど行ってみる価値はありそうだけど、行くか行かないかはあなたの判断に任せるわ。」

カレニアは愛用の眼鏡を光らせながら、リリシアたちにニルヴィニアの作り出した大陸の中央付近に建物の気配があるということを伝える。

 「多分罠かもしれないが、これは行ってみるしかないわね。一刻も早く地上界に戻り、ニルヴィニアによって石にされた仲間を復活させなきゃいけないからね。カレニア、道案内は任せたわよ!!

カレニアの勘を頼りに、リリシアたちは建物の気配のあるほうへと進んでいく。荒野を歩き続けること数分後、リリシアたちの前に宮殿らしき建物が現れた。

「どうやら私の勘は当たっていたようね。どうやらあの宮殿らしき建物は地上界のレミアポリスの王宮だわ…ニルヴィニアの奴、本気で地上界を制圧しようと目論んでいるようね。とりあえず王宮の中を探索してみましょう。ひとつ言っておきますが、たとえ敵がいなくても気を抜かないように注意して!!

カレニアの言葉の後、リリシアたちは恐る恐る扉を開けてレミアポリスの王宮の中に入っていく。王宮の内部は不気味なほど静まり返っており、床には所々に兵士たちの血だまりができていた。

「王宮の中に入った瞬間に強烈な血の匂いがしたわ。どうやらこの血はレミアポリスの兵士の血のようね。」

「犠牲になった兵士たちはニルヴィニアが放った魔物と戦い、命を落としたといえるな。だが兵士たちの死体がない…奴は兵士たちを殺した後、死体をどこに持って行ったんだろう。」

兵士たちの死体がないことに疑問を感じるファルスがそうつぶやいた瞬間、王宮の階段から体色が黄色いヘルズヒューマノイドが現れた。今までリリシアたちが戦ってきた個体よりもさらに大きく、全身が筋肉の鎧に包まれたたくましい体つきであった。

 「ココニアッタ兵士ノ死体カァ?ソレナラ俺ガ喰ッチマッタゼ…ココニイタ数名ノ人間界ノ兵士ノ生キ胆ト人肉ヲ食ベタオカゲデ、コノ俺ノ身体能力ガ格段ニ上ガッタノサ!!

人間を喰らって進化した黄色のヘルズヒューマノイドの言葉に気分を害したリリシアは、第三収容所の署長室で手に入れた鉄扇を構えて戦闘態勢に入る。

「人間を喰らって自身を強化するなんて、奴は狂っているわ!!今までは緑色の奴らと戦ってきたが、今回の奴は今までとは違う黄色の個体…緑の奴とは比べものにならないほどの力を持っていそうだわ。」

「オット…俺ハ普通ノヘルズヒューマノイドデハナイゼ!!人間ノ肉ト生キ胆ヲ喰ラッテ進化シタ個体…ガデスノイドダッ!!!チョウド俺モ腹ガ減ッテイタトコロダ、オ前ラハ徹底的ニ痛メツケテ殺シタ後デ喰ッテヤルトスルカッ!!

ヘルズヒューマノイドが人間の肉と生き胆を喰らい進化した個体であるガデスノイドは全身に力を漲らせ、リリシアたちに襲い掛かってきた。レミアポリスの王宮にたどり着いた一行に、更なる強敵が待ち受けるのであった……。

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