終章第十六話 熱き大地(フレイヤード)に潜む陰謀
リリシアたちが囚人たちの解放に奔走する中、フレイヤード大陸の港町に到着したセルフィは船の燃料の情報を手に入れるべく、港街の酒場を訪れた。酒場のマスターから聞き出した情報によると、港町には人気のある燃料屋があるが、その店主が燃料となる鉱石を探しに行ったまま帰ってこないということであった。その言葉に納得がいかないレナードは、自ら採掘場へと向かい燃料を探すついでに採掘に行ったまま帰ってこない店主を連れてくると告げた後、セルフィ達は新たな地であるフレイヤードの荒野へと足を踏み入れるのであった……。
港町の燃料屋がよく訪れるという採掘場を目指すセルフィ達は、果てしなく広がる荒野を進んでいた。フレイヤード大陸はセルディア大陸と違って緑は一切なく、草木の生えない不毛の大地であった。
「セルフィ、港町から道なりに進んでいけばフレイヤード城下町に到着するだろう。酒場のマスターからフレイヤード大陸の全域地図をもらったから、迷う事はまずないがフレイヤード大陸にもニルヴィニアとやらが放った魔物がうろついているかも知れないから、注意深く行動した方がいい。」
「確かにレナードの言葉は正しいと思うわ。ニルヴィニアは全世界を支配しようとしているからね。この大陸にも奴の手が及んでいると思うと、油断はできないわ。」
最初の目的地であるフレイヤード城下町を目指し荒野を進んでいると、人型の魔物の群れが道をふさいでいた。セルフィ達は気付かれぬよう岩陰に身を潜め、人型の魔物の会話を盗み聞きする。
「ニルヴィニア様ノ命令デ黄金郷カラ地上界ニ降リタッタガ…ココハ鉱石トマグマノ匂イガプンプンシテヤガル。俺達ガ来ル少シ前ニニルヴィニア様ガ鉱石採掘ノ為ニ巨大ナ魔物ヲコノ地ニ派遣シタトイウガ……奴ハ一体ドコデ油ヲ売ッテヤガルンダ!!」
「マァソウ慌テルナ…アノ魔物ハ鉱石ノ匂イデ鉱脈ヲ見ツケ採掘ヲ行ウ知能ハ持ッテイル。ココダケノ話…奴ハニルヴィニアニヨッテ生ミ出サレタ機械生命体ダ。鉱脈カラ鉱石ヲ奪イ尽クシタ後、黄金郷ニ転送スルヨウニ命令サレテイル。トニカク我々ニハ鉱石ガ必要ダ…鉱石ガアレバ俺達ノ兵装モヨリ良イモノニナル上、物理攻撃ヲモロトモシナイ物質系ノ魔物ヲ生ミ出ス際ニ必要ニナルカラナ。サテ、オマエラモ鉱石探シニ行クゾ!!ニルヴィニア様ニ地上界ノ珍シイ鉱石ト人間ノ屍ヲ献上スル為ニナ!!」
セルフィたちが見た人型の魔物は、ニルヴィニアによって生み出された思考能力を持つ魔物であるヘルズヒューマノイドであった。彼らは地上界から鉱石を奪うために黄金郷からフレイヤードに降り立ち、ニルヴィニアの計画のための工作活動の最中であった。その話の後、採掘道具を背負ったヘルズヒューマノイドたちは鉱石を採掘すべく火山の方へと向かっていった。
「奴らの話を聞く限り…あの人型の魔物はニルヴィニアの名を口にしていたわ。しかも巨大な魔物をこの地に派遣したって噂よ。これは急がないと大事件になりそうね!!」
「燃料の原料となる鉱石があの魔物たちに奪われてしまう前に…急いで採掘場へと向かいましょう。セルフィさん、レナードさん、私たちであいつらを一網打尽にしてやりましょう!!」
セルフィとミシュリアの言葉の後、怒りの表情のレナードが二人の前に現れる。
「なるほどな…奴らがフレイヤード大陸の鉱石を狙っている理由は兵装の強化及び生物を生み出すためというわけか。本当にクソ汚くて美しくない連中だ。なんとしてでも奴らの計画を阻止し、この大陸のどこかにいる燃料屋の店主を救出するぞ。」
セルフィが岩陰から出ると同時に、遅れてやってきたと思われるヘルズヒューマノイドの一人が採掘に必要な道具一式を抱えながら、急いで先に採掘へと向かっていったヘルズヒューマノイドたちの後を追う。
「チクショウ!!採掘ノ為ノ準備ヲシテイタライツノ間ニカ集合シテイタ奴ラガ全員出発シチマッタ!!アイツラメ、俺ヲ追イテイキヤガッテ……!!」
レナードは遅れてきたヘルズヒューマノイドに近づき、ニルヴィニアから鉱石採掘の命を受けて来たのかと尋ねる。
「どうやら遅れてきた奴だな。一つ問おう、お前はニルヴィニアの命を受けて鉱石を採掘するためこのフレイヤードの地にやってきたのか?」
「イカニモ…俺ハニルヴィニア様ノ命令デコノ地上界ノ鉱石ヲ一ツ残ラズ採掘スル為ニコノ地ニ来タ。我々ノ工作活動ガ人間ニ見ツカッテシマッタ以上、貴様ラハ生カシテオクワケニハイカン!!」
ヘルズヒューマノイドはピッケルを振り回し、セルフィ達に襲いかかってくる。しかしセルフィはヘルズヒューマノイドの攻撃をかわし、鳩尾に渾身の一撃を食らわせる。
「ガハァッ!!クソォ…コノ俺ガ……コノ俺ガ小娘ゴトキニィッ!!!」
セルフィの拳を受けたヘルズヒューマノイドは大きく吹き飛ばされた後、その場に倒れ絶命する。襲ってきたヘルズヒューマノイドとの戦いの後、セルフィはヘルズヒューマノイドの死体を調べ始める。
「魔物の体を調べてみたところ、奴は人間でも魔物でもない存在だわ。だが先ほどの魔物はある程度の知能を持っていたわ。おそらく、ニルヴィニアが少ない魔力で人間ほどの知能を持ち、なおかつ大量生産できる魔物を生み出し、本気で地上界制圧に乗り出したみたいね。みんな、急いで先を進みましょう。」
ヘルズヒューマノイドとの戦いを終えたセルフィ達は、採掘場の情報を得るべくフレイヤード城下町へと向かうのであった……。
港町を後にしてから数時間後、セルフィ達はフレイヤード城下町に到着した。途中運悪くフレイヤードの原生生物である狂暴な火喰鳥に出くわし散々な目にあったが、全力で逃げ切り難を逃れることができた。
「道中で色々あったが、ようやく大きな街に到着したわね。しかしあの鳥、燃え盛る炎を吐きながら追いかけてくるなんて…おかげで疲れてしまったわ。」
「狂暴な火喰鳥の群れに追いかけられた時は死ぬかと思ったわ…あれほど凶暴な鳥は初めて見ました。」
フレイヤード城下町に到着した頃には、一行は全力で火喰鳥から逃げていたせいで疲弊しきっていた。
「とりあえずここで座って休もう。私も全力で奴から逃げていたせいで足が痛くて立つこともできない。疲れが取れたら付近の散策も兼ねて情報収集といこうか。」
レナードの言葉の後、疲れ切ったセルフィ達は休息を取るべく、小高い丘のある展望台へと向かう。
「いい眺めだな。ここからだとフレイヤードのお城と火山群がよく見える。セルフィ…ミシュリア、このお城の裏には広大な火山群があって、フレイヤード城の地下にはこの火山から流れるマグマを利用して武器や防具を作る施設があるんだ。しかし溶岩流から取り出されたマグマは冷えて固まるのが早いため、熟練の鍛冶職人でしかいい装備は作れないんだ。また、この城の周辺には良質な鉱石が採取できるだけあって、高い強度と品質を持つ武器や防具を生み出せるので、数多くの武具商人に愛されているんだ。」
展望台から見える火山を眺めながら、レナードは二人にフレイヤード城について語り始める。
「熟練の武器防具の鍛冶職人が作っている…か。なら武器の強化もできるのかしら?」
「確かにフレイヤードの鍛冶施設なら武器や防具の強化も可能だが、強化には金が必要だな。今すぐにでも私たちの武器を強化しておきたいが…今はそれどころではない。休憩が終わればすぐに燃料屋の店主を探しに火山地帯に行かなきゃいけないからな。」
休憩を始めてから数十分後、体から完全に疲れが取れたセルフィ達は採掘場についての情報を集めるべく、城下町の中央広場へと移動を始める。
「さて…体から疲れも抜けたし、情報集めに向かおうか。中央広場にはフレイヤードの騎士団の騎士たちがよく訪れる大きな酒場があるみたいだから、いい情報があるはずだ。」
セルフィ達が中央広場の近くにある酒場を訪れたその時、赤い髪の少年がマスターと何やら話をしていた。
「すみません、レミアポリスで起こった異変の原因を探るため中央大陸に向かいたいのですが、港町で中央大陸に向かう船は出ていますか……。」
「悪いがレミアポリスの王宮が突然消えた事件のせいで中央大陸に向かう船は出ていないんだ。得体の知れない魔物の目撃情報も出ているし、おかげで客船はすべて運休中だ。」
酒場のマスターから中央大陸へと向かう事が出来ないと聞かされ、赤い髪の少年はがっかりした表情で出口へと向かおうとしたその時、レナードが赤髪の少年を呼び止める。
「そこの少年…中央大陸へと行きたいと言っていたようだな。私たちはアドリアシティから船の燃料確保のためにフレイヤードに来た。しかし燃料を売る港町の燃料屋の店主が採掘に行ったまま帰ってこないので、私たちが直々に採掘屋の店主を探しに行くところなんだ。」
「き、君たちは船を持っているのですか!!先ほどの会話の通り、港町では中央大陸に向かう客船が全て運休で足止めをくらってがっかりしていたんです。紹介が遅れました…僕はフレイヤード王の一人息子のブレアと申します。かつて僕は仮面の魔導士の野望を止めるべくレイオスさんたちとともに旅を続けていました。しかし仮面の魔導士の部下との戦いで命を落としてしまいましたが、お姉ちゃんと仲間たちのおかげで僕は生き返る事が出来ました。お姉ちゃんの仲間のうちの一人は僕が生きているときにどこかで見覚えのあるような人でしたがね……。あ、僕の姉の名前はカレニアといいます。」
天界でのクリスたちの活躍によってこの世に蘇ったブレアが自己紹介を終えた後、レナードは一緒に火山地帯の採掘場に行ったまま戻らない燃料屋の店主を探すために同行してくれるよう交渉する。
「なるほど…まさかこんな所で仮面の魔導士からフェルスティアを救った勇者の仲間の一人に出会えるとは思ってもなかったよ。私の名はレナード、そちらはセルフィとミシュリアだ。私たちは今から燃料屋の店主を探すため火山地帯の採掘場へ向かうが、もしよろしければ一緒に来てくれるかい?」
「分かりました…僕は昔に鉱石採掘の手伝いをしたこともあり、火山地帯の採掘場がある場所をいくつか知っています。一緒に燃料屋の店主を探すため、あなた達の旅に同行いたします。フレイヤード城下町から北に進めば火山群があります。まずはこのあたりの採掘場で捜索を始めましょう。」
レイオスたちの仲間の一人であるブレアを仲間に加え、セルフィ達は燃料屋の店主を探すべくフレイヤードの城下町を後にし、鉱石の採掘場がある火山群へと向かう事にした。
「みなさん、ここから先は灼熱の火山群です。溶岩が常に流れる大河に加え、火山灰の降り注ぐ危険な過酷な地ですが、採掘人達にとっては良い鉱石が取れる穴場と言われています。」
火山群に到着した一行が先を進もうとしたその時、見覚えのある足跡が地面に残っていた。
「この足跡は…まさか私たちがフレイヤードの城下町に行く道中で話し合っていた奴と同じ足跡のようね。となれば奴らも鉱石を奪いにこの火山群に来ているのか……。」
地面に残された足跡は紛れもなくニルヴィニアによって生み出されたヘルズヒューマノイドの足跡であった。ヘルズヒューマノイドが襲来してきたせいか、採掘人はおらず静まり返っていた。
「いつもならこの周辺では数名の採掘人であふれかえっているのですが、どうやら採掘している人は魔物に恐れをなして逃げて行ったようですね。この近くの溶岩洞の中を探索した方がよさそうですね。しかし溶岩洞も灼熱の溶岩が流れる危険な場所ですので…くれぐれもお気をつけて。」
「確かに溶岩洞は焦熱地獄だな。あまり長居していると暑さで倒れてしまいかねないので素早く探索した方がよさそうだが今はそうは言っていられない状況だ。さて、燃料屋の店主とやらを探しに行きましょう!!」
セルフィたちは燃料屋の店主を探すべく、灼熱の溶岩が流れる溶岩洞へと足を踏み入れるのであった……。