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終章第十五話 母との再会と紅蓮騎士の誓い

 署長役のヘルズヒューマノイドとの戦いを終え、人質にされていたカレニアを救出し石化の呪縛を解くためのアイテムであるゴールドニードルを手に入れたリリシアは、囚人たちのもとへと戻ってきた。

「とりあえず署長室を調べてみたけど、めぼしい情報は何も無かったわ。しかし奴の机の中からフェルスティアの全域地図が見つかったわ。何を考えているのかは知らないが、このフェルスティアを支配しようとしているのは間違いないわ!!

署長室の物色を終えて戻ってきたリリシアの言葉の後、ティエラはリリシアとともに戻ってきたカレニアの方へと振り返り、何かを思い出した表情でカレニアに詰め寄る。

「むむ…そこにいるのはまさか我が娘であるカレニアかっ!?もうとっくに記憶から忘れられているかも知れんが、私はお前の母親であり元フレイヤード騎士団長のティエラだ。」

「そうよ、私は紅蓮騎士の二つ名を持つフレイヤード騎士団長のカレニアと申します。あなた、私の事を随分と知っているようですが、私の母親だという証拠がどこにあるのというのよ。確かに私の母親は子供の頃に魔物討伐で死んだと聞かされていたのだが不思議だわ。あなたは私の母親と同じ名前をしているが、私の本当の母親だという証明がない限り私はあなたの言い分を信じないわ。」

ティエラが必死に実の母親だと言う旨を伝えるが、カレニアは断固として彼女の言い分を拒否する。

 「そうか、信じてくれないのも無理ないか。あの戦いで生き残った騎士団の人から死んだと聞かされたのだからな…そうだ、私がまだ騎士団長だった頃にお前にいつも言っていた騎士団の心得の一節があった。これで思い出してくれるかな……。」

ティエラはフレイヤード騎士団に伝わる心得の一節を言った瞬間、カレニアはふと口を開きその一節の続きを言葉に出す。

「心の中に燃え盛る紅蓮の炎と強き勇気があれば!!

「誇りは決して折れはしない……あっ!!

全てを思い出したカレニアは目に涙を浮かべながら、ティエラの手を強く握りしめる。

「その騎士団の心得は…子供の頃いつも私に語りかけてくれた言葉よ!!私のお母さまはずっと騎士団の人から討伐作戦で死んだと聞かされていたけど、本当に生きていたのね……!!

「ああ…母親である私は今ここにいるぞ。かつてお前が子供だった頃、私はボルディアポリスの皇帝より命を受け、紅蓮騎士団を引き連れてセルディア大陸の火山地帯に巣食う黒き邪龍の討伐へと向かった。しかし黒き邪龍の強さは圧倒的で、騎士団の大半が惨殺されたよ。その後私は生き残った騎士たちとともに戦ったが、邪龍に拘束されて左腕と右足を無惨にも食いちぎられてしまったのさ。その証拠がこれだ……。」

そう言ってリリシア達に見せた左腕は、戦闘用に作られた義腕であった。右足も同様戦闘に適した義足で失った身体能力を補っており、失った箇所と義肢をつなぐ素材は強力な伝導率を誇る魔導磁石によってつながっており、全ての指を動かす事も可能なほど精巧なつくりであった。

「お母さまの左手と右足からは人間の温かさは一つも感じられない…つまり、邪龍に喰われた箇所を義肢で補っているってわけね。」

「あの惨劇の後、邪龍によって左腕と右足を奪われた私は騎士たちに背負われ、ボルディアポリスの医院に連れてこられた。戦いで負った深い傷は回復したのだが…左腕と右足を失った以上、再び騎士として復帰するのはもう無理だと思い知らされた。そして私は事実上騎士団長の名を捨て、生き残った騎士達をフレイヤードに帰還させた後、私はこの医院に入院する事になったのさ。運がいい事に、この医院には腕の立つ義肢職人がいてな…失った左腕と右足を造って貰ったよ。この義肢には激しい運動や強い衝撃にも耐えられる上等な素材が使われているから、すぐに私の体に馴染んだよ。退院した今はひっそりと隠居生活を堪能させてもらっているよ…ハハハ。」

あふれる涙を拭った後、カレニアはティエラをぎゅっと強く抱きしめる。

 「ぐすっ…お母さまの稽古と教えがあったから、フレイヤード騎士団長へと成長する事が出来たのよ。お母さまを殺した邪龍を倒し無念を晴らしたのはいいのですが…こんな私が騎士団長で精鋭の騎士たちを引っ張っていけるのかなってふと考える事があるの。ねぇ、お母さまは成長した私の事、どう思ってる?

フレイヤード騎士団長として精鋭たちをうまく引っ張っていけるかという胸の内を告げると、ティエラはカレニアの頭を撫でながら、大丈夫だよと告げる。

「どう思うって…そりゃあ立派に成長したと思うよ。私の亡き後、教えを守りフレイヤード騎士団の騎士団長まで登りつめ、私を再起不能にで追い込んだ邪龍まで倒したんだ。なぁに、深く考える事なんて何もないさ、フレイヤード騎士団の信頼と名誉は十分につなぎとめているぞ。今こそ元騎士団長である私から言おう…我が娘カレニアよ、フレイヤード騎士団長はお前に託した!!これからもフレイヤードとフェルスティアの民を守る騎士の務めを果たすがいい!!

正式にフレイヤード騎士団長の座を託されたカレニアは、ティエラに深く敬礼しながら騎士団長の役目を果たして見せると宣誓する。

「ありがたきお言葉…ありがとうございますっ!!わたくしカレニアはこれからもフレイヤード騎士団の団長として、必ずや強き誇りと名誉を継いで見せます!!

「いい言葉だ…お前のその意思の強さならきっとフレイヤードの精鋭の騎士たちを引っ張っていけるさ。さて、私はこれより囚われの身となった囚人たちを開放するとしよう。」

ティエラがそう言いながらその場を後にした後、リリシアはカレニアの肩に手をかけ、念願の母親との再会を祝う。

 「死んだと聞かされていたあなたの母親と再会できてよかったわね。ねぇカレニア、私の戦友(パートナー)になる気はない?

リリシアから唐突にパートナーになれと言われ、カレニアは困惑気味の表情でこう答える。

「ま…まさかパートナーって、まさか人生のパートナー!?まさかリリシアが人生のパートナーに女である私を選ぶとは予想外…まったくもって予想外だわっ!!

「残念だけど、人生のパートナーはもう決まってるの。でも、戦いの為のパートナーならまだ空きがあるわよ。フレイヤード騎士団長であり紅蓮騎士の二つ名を持つあなたならきっといい戦友になれるわ!!あなたは私にはない知識と剣術を持っているからね。」

その言葉に、カレニアは少し照れながらリリシアにこう答える。

「た…確かに私は頭脳明晰で優れた剣術を持っているわ。あなたと一緒なら戦いでも十分に力を発揮できそうね!!リリシア、これからも仲間としてよろしくお願いします!!

「さて、私たちもそろそろみんなのもとへと戻らないとね。」

リリシアがカレニアの救出を終えて戻ってきたとき、ファルスは囚人たちを集めて話を始める。

「よし、これで全員だな。実は…第三収容所の囚人の一人から聞いた話だが、どうやらここはニルヴィニアとやらが創り出した新世界だ。つまり、この大陸はフェルスティアの上空にあるというわけだ。奴は中央大陸に落ちてきた謎の建造物ごとレミアポリス王宮を鎖で引き上げ、この理想郷に移動させたというわけか。」

その話の後、どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。

 「いかにも…貴様らが今いる場所こそ妾(わらわ)が地上界の上空に作りあげた理想郷だ。テレポーターを使って人間どもを集めて理想郷を作る奴隷として働かせる計画であったが、貴様らのせいで台無しになってしまった!!ヘルズヒューマノイドでも手に負えないというのなら、この私が直々に手を下すしかないようだ。さて、まずは手始めにこの収容所ごと焼きはらってくれよう!!!

ニルヴィニアの声が消えた瞬間、ファルスは囚人たちに急いでここから出るようにと命じる。

「やばいぞ…皆の者、急いでここから出るぞっ!!

全員が収容所の外に出た瞬間、収容所の上空には天を覆わんばかりの巨大な炎の塊が浮かんでいた。その巨大な炎の塊はゆっくりと収容所めがけて落下し、収容所が跡形もなく焼き尽くされる。

「破壊と創造の二極神を飲み込んだニルヴィニアなら…これほど大規模な術なんて朝飯前のようね!!だが、私たちはこんなところで屈するわけにはいかないわっ!!

「今は奴に戦いを挑むのは無謀だ…まずは理想郷に移動させられたレミアポリス王宮を目指そう。もしかすれば地上界へと続く転送陣があるかもしれないからな。しかし奴は俺達の行動など全てお見通しだ…俺達がレミアポリス王宮に向かうという事もすでに知っているかもしれん。」

レミアポリス王宮に行けば地上界へと続く転送陣があるかもしれないというファルスの提案に、リリシアは頷きながら提案に賛成する。

「なるほどね…私たちのいる場所が本当にニルヴィニアがフェルスティアの上空に創り出した理想郷なら…まずは地上界に戻る方法を探すためにレミアポリスへと向かいましょう!!さて…ここからは何が起こるか分からないから、気を引き締めていきましょう!!

リリシアと囚人たちはニルヴィニアの手によって理想郷へと引き上げられたレミアポリス王宮を目指すべく、囚人たちとともに行動を開始するのであった……。

 

 リリシアたちが第三収容所に囚われている囚人の解放に奔走する中、セルフィ達は船の燃料を確保するため、フレイヤード大陸の港町に到着した。

「フレイヤードは私の住んでいるセルディアと違い、気温の差が激しいな。まずは酒場に行き、船の燃料に関する情報を集めるのが先決だな。」

港に船を停泊させた後、セルフィ達は船の燃料に関する情報を探すべく酒場へと足を運ぶ。酒場では屈強な者達が酒を飲みながら、旅の話を楽しんでいた。

「マスター…船の燃料に関する情報を知りたいんだが、何か知っている情報は無いか?

「君たちは船の燃料が欲しいのか…見ての通りこのフレイヤード大陸は荒野と火山地帯だ。唯一緑の多い場所はフレイヤード大陸の反対側だけだ。この港町に船の燃料を売っている店があるが、そこの店は良質な燃料を売っているのだが…数日前から店主が燃料採掘に向かったまま帰ってこないんだ。おかげで燃料を売る店は閉店状態で、船を持つ人たちにとって大打撃さ。何か重大な事故に巻き込まれてよければよいのだが……。」

店主がいなくて燃料が入手できないという事実に納得がいかないレナードは、自分たちで燃料を取りに行くという旨をマスターに告げる。

「店主が帰ってこないのなら、燃料を探すついでに私たちで探しに行く。マスター、彼がよく訪れる燃料の採掘場を教えてくれないか?

「フェルスティア酒場連盟の情報網によると…その店主はフレイヤード城の近くにある火山で採掘を行っているようだ。あそこは溶岩が常に流れる上、狂暴な生物が多数生息している危険な地だが良質な鉱石や燃料が取れる穴場なんだ。もし行きたいっていうなら、港町から出て北に向かえばフレイヤード城下町に到着するだろう…そこからさらに北東の方角に進めば燃料屋の店主がよく燃料を採掘している火山洞にたどり着くはずだ。私から言える事はそれだけだ…気をつけて行きな!!

酒場のマスターから燃料屋の店長に関する情報を手に入れたレナードは、感謝の言葉を述べながら酒場を後にする。

「いい情報をありがとう…必ず燃料屋の店主を見つけ、ここに連れ戻してくるよ!!さて、そろそろ行くとしようかっ!!

酒場を後にしたセルフィ達は燃料屋の店主がよく燃料を掘りだしている採掘場を目指すべく、新しき大陸であるフレイヤードの荒野へと足を踏み入れるのであった……。

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