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    終章第十四話 紅蓮乙女の怒りは愚かなる署長を焼き尽くす

 第三収容所の一階にいた囚人たちの解放を終えたリリシア達は、囚われの身となっている囚人たちを解放するべく、第三収容所の二階に向かっていく。しかし囚人解放に奮闘する彼らの前に、第三収容所の署長役のヘルズヒューマノイドと数名の武装した見張り役たちが待ち構えていた。リリシア達は見事な連携攻撃で武装した見張り役たちを蹴散らすが、署長役のヘルズヒューマノイドはニルヴィニアから譲り受けた魔法の筒を投げ、非常に狂暴な魔物であるヘルスラッシャーとギガースホーンが咆哮を上げながら戦いの場に現れた……。

 

 署長役の手によって放たれた魔物と戦うリリシアとファルスであったが、後方で人肉をかじりながら戦いを遠巻きに見ていた署長役が放った麻痺毒が塗られたナイフにより、リリシアは体の痺れが回復するまで戦闘からの離脱を余儀なくされた。リリシアという戦力を欠いたファルスは巧みな戦術で翻弄し、署長役が放った二頭の魔物を討伐する事に成功した。しかし、追い詰められた署長は例の物を持ってこいとの

号令を告げた後、部下たちが少女が拘束されている大きな椅子をかかえ、署長役のもとへと現れたのであった…。

 

 椅子に縛りつけられている少女がカレニアだという事を知ったリリシアは、怒りの眼差しで署長役のヘルズヒューマノイドを睨みつけながら叫ぶ。

「おのれ…よくも私の仲間をッ!!カレニアはニルヴィニアとの戦いで石像にされたはずよっ!!

「教エテヤロウ…私ハニルヴィニア様ヨリサズカッタ石化ヲ解クコノゴールドニードルヲ使イ、コノ小娘ヲ石ノ呪縛カラ解キ放ッタ。ヘッヘッヘ…マサカアノ小娘ガオ前ノ仲間ダッタトハ驚イタ。私ガオ前達ト戦ッテイル間アノ小娘ハ見張り役達ノオモチャニナッテイタノサ!!者共、小娘カラ口枷ヲ外シテヤレ!!

見張り役の一人が口枷を外した瞬間、身ぐるみを剥がされて椅子に縛りつけられているカレニアは目に涙を浮かべながらリリシアに助けを求める。

「うぐっ、助けてっ!!助けてリリ……あぐぅッ!!

「オット…コレ以上無駄口ハタタクンジャネェ!!署長様…私達ハ遊ビ終ワッタノデ、次ハ貴方ガコノ小娘ヲ思ウ存分可愛ガッテクダサイ。」

大声で助けを求めるカレニアを見た見張り役の一人は、気絶させる。カレニアの腹部に拳の一撃を食らわせ、気絶させる。その凄惨な光景を見ていたリリシアの心には、すでに復讐心とはち切れんばかりの怒りが沸々とこみ上がっていた。

 (そんなっ!!仲間想いで強く気高い策士であるカレニアが、何でこんなにボロボロになるまでやられているうえ、なんで泣かされてるのよっ!!あいつら、絶対に許さない…今すぐにでも消してやりたい気分よっ!!

仲間を傷つけられた事によって発した怒りにより、リリシアの体内では次々と魔力を生産する態勢に入り、失った魔力が一瞬にして回復する。

「ナ…ナンテ奴ダ!!サッキマデ小娘ノ魔力ノ波長ハゼロダッタハズダガ、一瞬ニシテ魔力ノ波長ガ一気ニ上ガリヨッタ!!

「かつてフェルスティア七大魔王として畏れられていた私は激しい怒りを感じると体内の魔王細胞が活性化し、生体エネルギーと引き換えに魔力を生み出せる特殊な体質なのよ。さて、これ以上私の仲間に酷い事をするのはやめていただこうかしらっ!!

あふれんばかりの魔力の影響か、リリシアの髪がより一層鮮明な紫色へと変わっていく。

「スデニ臨戦態勢ッテワケカイ…武器ヲ持タナイ小娘ガ相手ダガ、奴ハ魔法デノ攻撃ニ長ケテイルラシイカラ油断ハデキン…コチラモ本気デイカセテモラウゾッ!!

署長役のヘルズヒューマノイドは軍刀を構え、凄まじい速さでリリシアの方へと向かっていく。

「くっ…速いっ!!

リリシアが術を放とうと身構えた時には、署長役はすでに魔姫の背後に回り込んでいた。

「見張リ役ノ軍勢ト魔物タチヲ倒シタコトハ褒メテヤロウ…ダガ、オマエハココデ終ワリダッ!!

その言葉の後、署長役の振るう軍刀の鋭い刃がリリシアの体を貫く。その凄惨な光景を目の当たりにしたカレニアは、錯乱状態を起こし泣き叫ぶ。

 「い…いやあぁぁぁぁっっっ!!!リリシアァァァッ!!!

その悲鳴の後、カレニアの体が一瞬にして炎に包まれる。その炎はそばにいた見張り役のヘルズヒューマノイドを焼き焦がした後、自らを拘束する椅子をも焼き尽くし署長役の方へと向かっていく。

「ナ…何ガドウナッテイルンダ!?ダガ無駄ナコト…貴様モ私ノ軍刀デ斬リ捨テテクレルワッ!!

「貴方だけは許さない……全てを焼き尽くしてやるっ!!

リリシアを失ったショックにより、制御できないまでの怒りの炎に包まれたカレニアは両手から炎を放ち、署長役のヘルズヒューマノイドを焼き尽くそうとする。しかし署長役はカレニアの放った炎を軍刀で切り裂いた後、素早い動きでカレニアの背後へと回り込む。

「ケッケッケ…背後ニサエ回リ込ンデシマエバコッチノモンダァッ!!

背後に回り込んだ署長役は軍刀を振りかざそうとした瞬間、カレニアの体から放たれる炎により鋭い軍刀の刀身がドロドロに溶け、使い物にならなくなる。

「グググ…俺ノ軍刀ガ小娘ノ体カラ放タレル炎デ溶ケテシマイヤガッタ!!

「これで貴方の武器はもう使えない…紅蓮の炎に包まれながら死になさいっ!!

その言葉の後、炎に包まれるカレニアの手が署長役の肩に触れる。カレニアの手が触れた瞬間、署長役の体が紅蓮の炎に包まれ、熱さのあまりその場にのたうちまわる。

 「ギャアアアアァァッ!!俺ノ体ガ…俺ノ体ガァァッ!!

怒りに震えるカレニアが署長役を追い詰めている隙に、ファルスは軍刀に貫かれたリリシアの傷の回復を試みる。

「よし…今のうちにリリシアの傷を回復しておこう。」

ファルスは両手に光の魔力を集め、傷つき倒れたリリシアに近づき回復の術を唱え始める。

「癒しの光よ…傷ついた者に再び戦う力を与えよッ!!ヒール・ライト!!

ファルスが詠唱を終えた後、掌に集まった癒しの魔力がリリシアの傷を癒していく。

「ありがとうファルス…おかげで助かったわ!!

「大変だ…椅子に縛られていたあの娘、お前が倒れた後激しい炎に包まれて署長を襲っている。どうにかして炎の出力を止めなければ、あの娘は灰になるまで暴れ続けるだろう。一つ聞きたい事がある…あの娘はお前の名を知っていたが、知り合いなのか?

ファルスがカレニアと知り合いなのかと尋ねると、リリシアは知っている限りの事をファルスに話す。

「そうよ…カレニアはクリスたちと一緒に旅をしてきた仲間よ。あの娘は剣の扱いに長けた頭脳明晰な策士で、とても頼りになる存在よ。とりあえず事情は分かったわ…ここは私に任せてちょうだい。」

一方その頃カレニアは怒りの炎で署長役を灰にした後、突如体の異変に襲われる。

「はぁはぁ…体が熱い……このままでは燃え尽きてしまいそう!!

カレニアの魔力が尽きたことにより、身を包む炎が逆に自身の体を焦がし始めていた。リリシアは蹲るカレニアに近づき、魔力の放出を止めるよう呼びかける。

 「カレニア…今すぐ魔力の放出を止めて!!このままでは逆に貴方が灰になってしまうわっ!!

カレニアは必死で炎の放出を止めようとするが、もはや自分では止められなかった。

「止めろって言われても…いくら心を落ち着かせても後から後から炎が噴き出して私でも止められないのよっ!!このままじゃ私……ぐすっ…燃え尽きて灰になっちゃうっ!!

燃え尽きて灰になってしまうのを覚悟したのか、カレニアの目から涙が零れ落ちる。リリシアは涙を流すカレニアの肩に手を当て、慰めの言葉を投げかける。

「大丈夫…あなたは死なせやしないわ。あなたの体から放たれる怒りの炎は…全て私が受け止めるッ!!

リリシアが目を閉じたその時、カレニアの体を包む怒りの炎がリリシアの掌へと吸い込まれていく。リリシアが手を当ててから数分後、カレニアの体から止めどなく噴き出す炎は徐々に勢いが収まっていく。

「ふぅ…これでもう燃え尽きて灰になる心配は無くなったみたいね。私はしばらく何かありそうな場所を物色するから、ファルスは避難した囚人たちを呼び寄せてちょうだい!!

 ファルスに安全な場所へと避難した囚人を呼び二階に呼び寄せるようにと命じた後、リリシアは気を失ったカレニアを背負い、探索へと向かっていく。

「さてと…二階の牢獄の奥にある署長室から何やら怪しそうな気配がしているわ。とりあえず調べてみる価値はありそうね。」

署長室へと来たリリシアは署長役のヘルズヒューマノイドの机の中を物色していると、机の中には地上界の人間から奪ったとされるフェルスティアの地図と、魔物が入っていない空の筒が入っていた。

「これはフェルスティア全域の地図だわ。どうやら収容所に入れられた人から奪ったものね。奴はこの地図を見て人がいそうな街や村を特定しているとしか思えないわ。地図の横にある筒からは魔物の気配が感じられない…つまりこの筒は魔物を自由に出し入れ出来るみたいね。私が見たところ…ニルヴィニアはあらかじめこの筒の中に魔物を入れ、署長役や見張り役に渡して好きな時に魔物を出す様に作られているとしか言えないわ。」

リリシアが署長役の机の中の物色を終えて振りかえると、見張り役のヘルズヒューマノイドたちによって無理やり脱がされたと思われるカレニアの服と、口を封じるための布切れを見つけた。

 「ん…この服は紛れもなくカレニアの服だわ。可哀想に…強引に服を脱がされた上見張り役の奴らに耐えがたい暴行を受けていたのね。シャツのボタンも鋭利な物で全て取られているわ。とりあえず取れたシャツのボタンをつけておかないと…着る物がないとかわいそうだからね。」

リリシアはカレニアのシャツのボタンを縫いなおした後、そっとカレニアの傍らに運ぶ。

「あれ…私は一体何をしていたのかしら?確かあの時リリシアが署長役の奴に刺された後、私の体が炎に包まれていたのだが…一体私の身に何があったのかしら。」

気を失っていたカレニアが目を覚まし、修繕された服装に袖を通しながらリリシアに問いかける。

「やっと気がついたみたいね…レミアポリスの将軍のファルスから聞いた話だが、私が署長役に軍刀で刺された後、あなたは私を失ったショックで怒りの炎に包まれたのよ。その後あなたは魔力が尽きた事により身を包む炎を制御できなくなり、あなたは身を包む炎に焼かれながら暴走していたのよ。」

リリシアの言葉で何かを思い出したのか、カレニアは頭を抱えながらこう答える。

「あなたの話を聞いて少し思い出したわ。私自身が発生させた怒りの炎に体を焼かれる痛みの中で…あなたが助けてくれたことは覚えているわ。もしあなたが助けてくれなかったら…私今頃……ぐすっ。」

嬉しさのあまり涙を流すカレニアに、リリシアはそっと背中を押す。

「何言ってるのよ。仲間だから助けるのは当たり前でしょ!!それよりあなたが無事でよかった…しかしなぜ署長役の奴があなたを石化から解放させたのが理解できないわ。」

「署長役は私を解放した理由は、おそらく侵入者をおびき寄せるための人質の為よ。署長役の話によると、石化から解放することのできるアイテム『ゴールドニードル』を使っていたって事よ。それを使えば石にされた私の仲間を元に戻すことができるわ。署長役が私の解放に使った後、署長役の机の中に大事にしまっていた所を見たわ。」

リリシアが先ほど調べた机を注意深く机を調べていると、引き出しの一つが封印の魔方陣が施されていた。

「ん…引き出しの一つに封印が施されているところを見つけたわ。どうやらこの中に石化状態を解除できるゴールドニードルが入ってそうな感じがするわ。私は封印解除の術で何とか開けられそうかな。」

リリシアは封印が施されている引き出しに手を当て、封印解除の術を唱える。魔姫の手から放たれる封殺の魔力によって魔方陣に宿る封印の力が弱まり、一時的だが封印が解除された。

「完全な封印解除まで至らなかったが、一時的だが封印を解除することに成功したわ。しかし封印が解除されている時間はわずか10秒…急いで引き出しの中からゴールドニードルを取り出すわよっ!!

引き出しの中からゴールドニードルを取り出された瞬間、再び封印が発動し引き出しが堅く閉ざされた。

「回収完了よ。さて、今から囚人たちのもとへと戻るわけだが、一つあなたに話しておきたい事がある。実は私と一緒に脱獄してきた囚人たちの中に、あなたの母親と名乗る人物がいたのよ。本当かどうかはわからないけど、会ってみる価値はありそうよ。」

「まさか…私の母親は私が子供のころに魔物討伐で死んだって騎士団の方から聞かされたわ。まぁ一応会って話はするけど、本物の私の母親という証明がない限りあまり期待はしないけどね。」

石化を解除するゴールドニードルを回収した後、リリシアとカレニアは囚人たちのもとへと戻るべく署長室を後にするのであった……。

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