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終章第十三話 放たれた魔物

 第三収容所の牢獄に到着したリリシアたちは立ちはだかる見張り役のヘルズヒューマノイド達との戦いに勝利し、一階の牢獄の囚人たちを解放に成功した。しかし、囚われていた囚人から二階にも牢獄があるとの情報を知り、一行は二階へと急ぐ。その一方、署長室では署長役のヘルズヒューマノイドが石化を解く力を持つ『ゴールドニードル』を使い、ニルヴィニアの術を受けて石像となったカレニアの石化を解き侵入者をおびき出す人質にする作戦に出た。カレニアは剣を構えて抵抗するも、ニルヴィニア戦でのダメージが蓄積していたせいでいつもの力が出せず、見張り役のヘルズヒューマノイドの奇襲攻撃を受けて拘束されてしまった……。

 

 その頃第三収容所の二階の牢獄を目指すリリシア達は署長役の館内放送を聞きつけて集まった武装した見張り役のヘルズヒューマノイドたちと、軍刀を構えた署長役のヘルズヒューマノイドとの戦いを繰り広げていた。

「後ろの方は私とウルが引き受ける!!将軍様、犠牲者は極力出すな…守りと攻めをうまく両立せよっ!!

「了解した…前の奴らは俺とリリシアで何とかする!!ティエラ殿、後ろのほうは頼んだぞっ!!

後ろで戦闘態勢に入るティエラたちにそう伝えた後、前衛で戦うファルスとリリシアは立ちはだかる見張り役のヘルズヒューマノイドたちを撃破するすための作戦を考えていた。

「まずは砲台付きの盾を構えている奴を潰しておきたいが、前に出ればバリスタを持った奴に狙われてしまうわ。誘導性能のある術で背後から狙うのが得策みたいね…ファルス、まずは私が盾持ちの奴を倒すから、あなたはバリスタ持ちの奴を狙ってちょうだいっ!!

「分かった…しかし作戦変更だ。この場は互いに力を合わせる必要がある!!しあかし俺の得意とする属性は光…お前の属性は相反する属性である闇だから無理かもしれないが…合体技で一掃するぞ!!

力を合わせて合体技で一掃しろというファルスの提案に、リリシアは眉間にしわを寄せながら悩んだ末、合体技を発動させるための答えを出す。

「確かに…私の属性は光を飲み込む闇よ。しかし相殺しない程度で魔力をうまく調整すれば合成術はで発動可能だが…理想とすれば闇と光の割合が1.5:3がよさそうね。後は運にかけるしかないわ!!ファルス、ここは私が闇の力を抑えて魔力を練り合わせるから、ファルスは精神を集中して光の魔力を集めてちょうだいっ!!

リリシアとファルスはたがいに魔力を込め、合体術を放つべく詠唱を始める。二人は極限まで精神を集中させ、合成術の発動に必要なエネルギーを錬成していく。

「よし…光と闇の魔力が良い具合に混ざり合っているわ。この調子で魔力を錬成すれば合体術は確実に発動できそうよっ!!ファルス、もうひと踏ん張りよ!!

リリシアが闇の魔力を練り上げる中、ファルスは光の魔力を練り上げ、合成術の発動の為の最後の仕上げに取り掛かる。

「練りあわされし光と闇の魔力よ…今こそ混ざり合い悪しき者を貫かんっ!!黒の晶撃(ダークネスプリズム)ッ!!

リリシアとファルスは練り合わせた魔力を解き放ち、光と闇の魔力が混ざり合った合成術を発動する。二人が詠唱を終えた後、光と闇の魔力は不気味な光を放つ黒い水晶へと具現化する。

 「少し期待外れ感が漂ってくるけど、何とか発動成功よ…そいつを敵の方に投げれば水晶から放たれる光で一網打尽にできるわっ!!ファルス、その水晶を力いっぱい投げてちょうだいっ!!

リリシアに言われるがまま、ファルスは先ほど生み出した黒い水晶を見張り役のヘルズヒューマノイド達の方へと投げ込む。ファルスが投げた黒い水晶は全てを焼き尽くす強烈な閃光が水晶から放ちながら、ヘルズヒューマノイド達の方へと落ちていく。

「無駄ダ無駄ダッ!!コノ鉄壁ノ護リノ前デハ無リョ……グワァッ!!

黒い水晶から放たれた閃光が、砲台付きの盾を持った見張り役を跡形もなく焼き尽くす。その後次々と水晶の光が乱反射し、後列にいた見張り役を次々と撃破していく。

「グッ…コノ最強ノ布陣ガアットイウマニ壊滅状態ダ。ソウダ…ソウデナキャ倒シ甲斐ガナイッテモノダナ。ココハ署長デアル俺ガ出ルシカナイヨウダナ。」

敵の軍勢の後ろで待機していた収容所の署長は軍刀を構え、リリシア達の方へと向かってくる。一方後列で戦いを繰り広げていたティエラとウル達も見張り役達を撃破し、署長役との戦いに加わる。

「さて…お前の言う最強の布陣は破られた。後はお前だけだ!!

「クックック…俺一人ダト思ッタラ大間違イダゼ。俺ニハマダニルヴィニア様ヨリ授カッタ凶暴ナ魔物ガ封ジラレテイル筒ガ二本アル…先ホドノ見張リノヤツラデハヤツラヲ倒スコトガ出来ナカッタ以上、コイツヲ使ウシカアルマイ!!出デヨ、ヘルスラッシャー!!ギガースホーン!!

署長役のヘルズヒューマノイドが懐から二本の筒をリリシアの方へと投げた瞬間、筒の中から巨大で鋭くとがった角を持つギガースホーンとあらゆるものを切り裂く鋭利さを誇る爪を持つヘルスラッシャーが解き放たれる。署長が投げた二本の筒の中から現れた二体の魔物は咆哮を上げながら、リリシアの方へと向かってくる。

 「ニルヴィニア様ガ生ミ出シタ強力ナ大型魔物二頭ヲ相手ニ、ドコマデ耐エラレルカナ?アノ小娘ラノ相手ハアノ魔物タチニ任セテオクトシテ…俺ハソノ間人肉デモカジリナガラ高ミノ見物デモスルトシヨウ。」

署長役のヘルズヒューマノイドは先ほど呼び出した魔物たちに戦いを任せ、干した人肉を齧りながら魔物たちの活躍を観戦する準備に取り掛かっていた。

「奴が持っていた筒…収容所の外で見たのと同じものだわ!!どうやら収容所の外での一件は収容所の署長が二階の窓から筒を投げて魔物を放ち、私たちを襲わせたってわけね。」

「こいつらを倒さなきゃ署長と戦えないという訳か!!魔物はどれも気性が荒く凶暴な性格だ。ここは囚人たちに危害が及ばないよう安全な場所に移し、戦える者だけで戦うしかないな。ティエラさん、あなたは囚人たちを安全な場所へと案内して欲しい。」

ファルスから囚人たちを安全な場所に移してくれとの要求を聞いたティエラは、ウルとともに囚人たちを安全な場所へと先導する。

「わかった。ここは私とウルで囚人たちを安全な場所へと避難する。将軍様、どうかご無事で!!

「大丈夫さ…俺とリリシアがいれば戦力はまずまずといったところだ。ティエラさん、囚人たちを任せたぞ!!

ティエラとウルたちが去った後、ファルスとリリシアは署長役のヘルズヒューマノイドが放った二頭の魔物を倒すべく、二人は戦闘の構えに入る。

「さて…ここは各個撃破で行くぞ。片方倒したらすぐに加勢に行く。リリシア、俺は長い爪の魔物と戦うから、お前はあのバカでかい角を持つ奴を倒してくれっ!!

「了解!!どちらも凶暴で強い魔物だけど、私たち二人で全滅させてやるわよ!!

リリシアとファルスが戦闘の構えをとる中、二頭の魔物は咆哮を上げて二人を威嚇する。

「シャシャシャアアアアァッ!!」「ブオォォォォッ!!!

ファルスが鋭い爪を持つヘルスラッシャーと戦う中、リリシアは巨大な角を持つギガースホーンを倒すべく、両手に魔力を集めて術を放つ態勢に入る。

「あの大きな角の魔物はかなりの重量級だから、体力はかなりありそうね。一人じゃ骨が折れそうだけど、得意の術で一気に葬り去るだけよっ!!

ギガースホーンは巨大な角を振り回し、術の詠唱を始めるリリシアに襲いかかる。全てを薙ぎ払うその巨大な角を生かした攻撃に、リリシアは徐々に壁際へと追いつめられていく。

 「くっ…壁際に追い込まれてしまったわ。だが、私には見張り役から奪った魔力稼働型の回転刃があるのよっ!!

リリシアは自分の魔力を回転刃に注ぎ込んだ後、ギガースホーンの角に回転する鋭い刃を喰らいつかせる。回転する鋭い刃からは絶えず火花を散らしながら、ギガースホーンの巨大な角の奥へと深く喰らいつく。

「あの巨大な角を片方だけでも切断してしまえば…かなり戦いは有利になりそうね!!そのためには私の魔力を回転刃に注ぎ、さらに武器の威力を上げるしかないっ!!

リリシアの魔力が込められさらに鋭さと威力を増した回転刃の斬撃が、ギガースホーンの右側の大きな角を切り落とす。一方干した人肉をかじりながら二人の戦いを観戦している署長役のヘルズヒューマノイドは何か物足りないのか、懐から投擲用のナイフを取り出し不気味な笑みを浮かべる。

「ヘッヘッヘ…アノ二人の戦イヲ見テイルノモイイ加減飽キテキタナ。ソウダ…コウスレバ少シハ楽シメソウダナ。シカシ間違ッテ魔物ニ命中シテシマエバ人間側ニチャンスヲ与エテシマウ危険モアリ得ルギャンブル要素ヲ含ンデイルノデ、誰ニ命中スルカハ運次第ダケドナッ!!

署長役のヘルズヒューマノイドは手に持ったナイフを軽く投げた瞬間、ナイフは加速しながら魔物との戦いを繰り広げているリリシア達の方へと飛んでいく。署長役の手から離れたナイフは凄まじいはやさで一直線に飛んでいき、一瞬にして姿を消した。

「まずは一本角を切り落としてやったわ!!ここは両方の角を切り落としてから一気に術で攻め……うぐっ!!

リリシアがギガースホーンの左側の角を攻撃しようとしたその時、突如右足に強烈な激痛が走った。何が起こったのかわからないリリシアは自分の体を見まわすと、何者かが放った投げナイフが魔姫の右足に深く突き刺さり、傷口から止めどなく血が流れる。

「くっ…何者かが放ったナイフで右足を負傷してしまったわ。おまけに体が徐々に痺れて体の自由が利かない…まさかナイフに麻痺毒が塗られていたのかっ!!

「そんなことができるのは一人しかいないだろう…後ろに移動して肉をかじっている署長役のあいつしかいない。奴は懐にどんな武器を仕込んでいるのかわからん…!!ここは動けないお前に代わって俺が二体と戦うから、お前はゆっくりと体を休めておけ。」

署長役が放った投げナイフに仕込まれた麻痺毒で動けないリリシアを背負い安全な場所へと避難させた後、リリシアに代わって二体の魔物を相手にする。

「一人で二頭を相手にするのは流石に難しいな…確かに一匹ずつ分断させれば戦いは楽になりそうだが、第三収容所の二階の牢獄エリアも十分広いが、この状況では分断どころではなさそうだ。ギガースホーンは重量級かつ超大型…つまり素早さは遅い。となればこちらが素早くあのデカブツの背後に回ればヘルスラッシャーの爪の攻撃をギガースホーンに当てられるというわけだな!!

二体を同時に相手にするための作戦を思いついたファルスはヘルスラッシャーを挑発した後、攻撃のタイミングを見計らいながらギガースホーンの背後へと回り込む。するとヘルスラッシャーの鋭い爪の一撃がギガースホーンに突き刺さり、返り血がヘルスラッシャーの体に降り注ぐ。

「ブルオォォォォォォッ!!!

ヘルスラッシャーの攻撃によって怒り狂ったギガースホーンは巨大な角を振り回し、ヘルスラッシャーを大きく空中へとかち上げる。空中に飛ばされ無防備な状態になったところに、ギガースホーンの怒りの突進が直撃し、ヘルスラッシャーは大きく壁に激突し息絶える。

「よし…同士討ちでヘルスラッシャーを撃破したぞ!!後はあのデカブツを退治するだけだっ!!

「流石は地上界の将軍と呼ばれるだけあって凶暴な魔物二体を同時に相手にした時の対処もなかなかのものね。まさか素早さでかく乱して同士討ちを狙うという発想には驚いたわ。くそっ…この私の体が動きさえすれば加勢できるのにっ!!

リリシアはまだ体の痺れが取れず戦えない中、ファルスは槍を振り回し怒り狂うギガースホーンに攻撃を仕掛ける。

「ケッケッケ…俺ノ投ゲタ麻痺毒ガ塗ラレタナイフハ見事小娘ノ足ニ命中シタヨウダナ。シカシアノ槍ヲ扱ウ小僧ノセイデヘルスラッシャーガ倒サレタ上、ギガースホーンモ大キナダメージヲ負ッテシマッタ。マァ決着ガ付クノハ時間ノ問題ダロウナ。サテ、ツマミノ人肉モ食ベ終エタコトダシ…戦イニ備エテ軍刀ノ手入レデモスルトシヨウ。」

署長役のヘルズヒューマノイドは切れ味と武器の威力を上げる効果を持つ高級砥石を取り出し、軍刀の刃の手入れを行う。一方ギガースホーンと戦うファルスは巨体を生かした突進をかわしつつ、槍の一突きを食らわせ、ギガースホーンを仕留める。

 「ふぅ…やっとあの手負いのデカブツを仕留めた。これでお前が放った魔物は全て倒した…後はお前だけだ!!

筒から放った魔物が全て倒された事態に、署長役のヘルズヒューマノイドはすぐさま軍刀を手に椅子から立ち上がり、ファルスの方へと向かっていく。

「ホウ…俺ガ放ッタ魔物ヲ全テ倒ストハナカナカノ腕前ダナ。俺様ノ軍刀デ貴様ラヲ切リ捨テテクレヨウッ!!サァ、ドコカラデモカカッテコイ!!

凄まじいほどの殺意がこちらに向けられていると感じたファルスは、槍を構えて署長役のヘルズヒューマノイドを迎え撃つ。

「やっとここの収容所の署長であるお前を倒し、囚人たちを解放す…ぐあぁっ!!

署長役のヘルズヒューマノイドが手に持った軍刀を振り下ろしたその時、軍刀の刀身から爆炎が吹き出しファルスの体を大きく吹き飛ばす。体勢を崩したファルスはすぐさま槍を構えるが、すでに署長はファルスの背後に回り込み、反撃の隙をなくしていく。

 「クックック…マズハ貴様カラ地獄ニ送ッテクレル!!脱獄犯メ、死ヲモッテツグナッテ……グエェッ!!

署長役が手に持った軍刀で今まさにファルスを斬り捨てようとしたその時、どこからともなく炎弾が放たれ、署長役の体に命中する。署長役が炎弾の直撃を受けて体勢を崩している隙に、ファルスは急いで態勢を立て直す。

「やっと体の麻痺が取れたようだな。リリシア、ここはお前の力を貸してくれ!!こいつは今まで戦った奴とは別格の強さだ…この場は力を合わせなければ倒せんぞ!!

「はぁはぁ…やっと体の痺れがとれて術を撃てるまでに回復したわ!!ファルス、私も一緒に戦うわ!!勝って必ず、囚人を解放するわよっ!!

体の痺れが回復したリリシアによって窮地を逃れたファルスはすぐさま槍の一閃を放ち署長役の体を貫く。しかし放った一閃は心臓から外れ、一撃で葬るまでには至らなかった。

「しまった…心臓から大きく逸れたか!!

「ウググ…貴様ラ!!随分ト調子コキヤガッテクレタナ!!ダガ私ニハ奥ノ手ガアル…見張リノ者ドモォッ!!例ノブツヲココニ連レテ来イッ!!

その号令の数分後、署長役の号令を聞いた見張り役のヘルズヒューマノイドたちが大人の背丈ほどある大きな椅子を抱えて署長役の方へと近づいてくる。大きな椅子には身ぐるみを剥がされた少女が拘束されており、数名の見張り役から暴行を受けたといわれる痕跡がうかがえる。その姿が近づくにつれ、どこかで見覚えのある髪型の少女がリリシアの目に映る。

「ま…まさか!?椅子に縛られている少女はまさか……カレニアじゃないっ!!

見張り役が運んできた椅子に縛られた少女は、なんとクリスたちとともに幾多の戦いを共にしてきたカレニアであった。果たしてリリシアとファルスは署長役のヘルズヒューマノイドを倒し、カレニアを助け出す事が出来るのか……!!

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