終章第十一話 突入!!第三収容所
地上界から連れてこられた囚人たちを解放するべく行動を続けるリリシア達は、最後の収容所である第三収容所へと向かう道中、ニルヴィニアの生み出した食人魔物であるマンハンターの襲撃を受けた。魔力を抜かれ術を使えない状況の中、リリシア達は武器だけでマンハンターの群れを次々と蹴散らしていく。体格の小さいマンハンターの群れを全て撃破したその時、マンハンターの群れを統べるリーダー格である通常よりもひときわ大きい最後の一匹が彼らの前に現れた。人間の皮膚を容易く切裂くほどの鋭さを持つ腕の刃から繰り出される攻撃に苦戦されつつも、リリシアたちと囚人たちは力を合わせて強大な相手を打ち倒し、再び第三収容所への足取りを進めるのであった……。
ニルヴィニアによって放たれたマンハンターの群れを打ち倒したリリシア達は、最後の収容所である第三収容所へと到着した。収容所の付近には数名のヘルズヒューマノイドが徘徊し、警備も万全であった。
「外は見張りの奴らが多数いるようだ…収容所の内部に行くには正面から強行突破しか方法はなさそうだ。ここはしばらく様子をみて行動しよう。」
ファルスの言葉の後、物陰に隠れて見張り役の行動を探り始める。数分後、見張り役のヘルズヒューマノイドたちが囚人たちに号令をかけ、収容所の中へと向かうように命じていた。
「むむ…見張り役が動き出したようだな…どうやら囚人たちを休憩に行くようにと命じているらしいな。それに伴い見張り役の奴らも休憩に向かった。突入するなら今がチャンスというわけだな。」
「なるほど…休憩している間に奇襲攻撃を仕掛けるってわけね。収容所前の見張りは手薄になっているから、突入するにはちょうどいいわ!!しかし先ほどの戦闘で魔力稼働型の回転刃の残存魔力が残りわずかになっているから、回転刃の魔力が尽きたら戦闘はあなたに任せるわ。」
リリシアがファルスにそう伝えた後、ファルスは全員を集め収容所への突入を宣言する。
「わかったよ…とにかく、今すぐにでも第三収容所に突入しよう!!虐げられている囚人たちを解放し、かならずやレミアポリスに戻るぞっ!!」
ファルスの突入宣言の後、全員は第三収容所へと進軍を開始する。見張り役の大半が休憩中なためか、敷地内に入るのは容易であった。
「よし、収容所の敷地内に突入完了だ。しかしここからが本番だ…休憩を終えた見張り役に見つかれば仲間を呼ばれてしまう。もしも他の奴らを呼ばれたら戦闘は避けられないからな。皆の者よ、見つからぬように行動し……っ!!」
今まさに収容所の内部に突入しようとしているファルスを草むらから見ていた見張り役のヘルズヒューマノイドの一人が大声を張り上げ、収容所内にいる見張り役を呼び寄せる。
「侵入者ヲ発見!!侵入者ヲ発見!!シカモ第一・第二収容所ノ囚人タチヲ逃ガシタヤツラモイヤガル!!ココハナントシテデモ処分セネバナラヌッ!!」
「まずい…草むらに隠れていた見張りに気付かれてしまったか!!見張り役に気付かれた以上、ここは闘うしかないっ!!」
侵入者発見の騒ぎを聞きつけ、収容所の中にいた見張り役のヘルズヒューマノイドたちが次々とリリシア達のもとへと押し寄せて来る。
「第三収容所マデタドリツイタナ…ダガ、貴様ラハココデ終ワリダ!!」
「いけない…仲間を呼ばれてしまったわ!!みんな、この場は奴らを蹴散らしながら前に進み、収容所の内部に突入します!!」
リリシアの号令の後、戦闘に長けているファルスとティエラとウルは先陣を切って見張り役のヘルズヒューマノイドたちを迎え撃つ。
「ここは俺達で奴らを蹴散らしながら収容所への突破口を開く!!皆の者よ、死にたくなければ力の限り戦うのだっ!!」
ファルスたちが見張り役のヘルズヒューマノイドを蹴散らす中、囚人たちは武器を構えて彼らの戦いに加わる。
「回転刃の魔力を温存させておかないと…後で大型の魔物を呼ばれてしまったら闘う術が無くなってしまうわ。ここは武器の力を使わず、体術で戦うしかないっ!!」
回転刃の魔力を温存するため、リリシアは体術のみで戦いに挑む。しかし見張り役のヘルズヒューマノイドはもしもの際に備えて防護服を纏っており、体術での攻撃はほぼ無力であった。
「ケッ…小娘ガ体術デオレニ勝テルトデモ思ッテイタノカ!!オレタチハ万ガ一囚人ガ暴動ヲ起コシタ時ニ備エテ、アラユル衝撃ヲ吸収スル素材デデキタ防護服ヲ着コンデイルノサッ!!!」
「くっ…打撃や体術は完全防御ってわけね。となれば斬撃でしか奴の来ている防護服は破壊できないわ。この場は回転刃の魔力を温存しておきたいが、ここで一気に攻めるしかないっ!!」
リリシアは回転刃の魔力を解放させ、襲いかかるヘルズヒューマノイドたちを次々と切り裂いていく。
「よし…回転刃の魔力が続く限り奴らを切り刻んでやるわよっ!!」
見張り役のヘルズヒューマノイドたちを全て蹴散らし、収容所の入り口までの突破口を開くことに成功した。しかしその様子を収容所の中で見ていた隊長格のヘルズヒューマノイドは懐から細長い筒を取り出し、窓から外に放り投げる。
「第一・第二収容所ヲ襲撃シタ奴ラニヨッテ見張リ役ガ全テ倒サレタカ…ココハチョットバカリ我々モ加勢シヨウデハナイカ。コノ筒ニ入ッテイル魔物ハ巨大ナ腕デ全テヲ粉砕スル凶暴ナル異形ノ生物…タイラントクリーパーだ。少々危険ダガコイツヲツカウシカアルマイ。」
リリシア達が見張り役のヘルズヒューマノイドと戦っている中、突如何者かによって収容所の外に投げ入れられた筒からタイラントクリーパーが現れ、戦慄の雄叫びを上げる。
「クソッ…収容所ノ署長メ、タイラントクリーパーヲ呼ビ出シヤガッタ!!奴ハ大変凶暴デ…目ニ映ル者全テヲ敵味方関係ナク無差別ニ殺戮スル危険生物ダ!!ナンデコンナ奴ヲ投入シ……グワァッ!!」
筒から現れたタイラントクリーパーは全てを破壊する巨大な剛腕で見張り役のヘルズヒューマノイドたちを次々と粉砕していく。
「な、何よあの巨大な腕の怪物は!!しかし襲われているのは私たちではなく見張り役の奴らみたいね…そうだ、この混乱に乗じて収容所の内部に突入できるかもしれないわっ!!」
リリシアは見張り役のヘルズヒューマノイドがタイラントクリーパーに襲われている隙に、単身収容所の内部への突入を試みるが、本能のままに暴れ狂うタイラントクリーパーのせいで入口に近づける状態ではなかった。
「くっ…筒から出てきた怪物のせいで突入できないわっ!!しかも運悪く奴に気付かれてしまったわ…早くなんとかしなきゃ!!」
獲物の姿を視界に捉えたタイラントクリーパーは巨大な腕を振り回しながら、リリシアの方へと向かってくる。リリシアは回転刃を構えて立ち向かうが、強靭な筋肉質の腕は肉質が堅く強力な回転刃の一撃でさえも弾かれてしまうほどであった。
「腕は強靭な筋肉のせいで堅すぎるわ…とにかく腕以外の部位を攻撃した方がいいわね。頭部か胴体なら肉質が柔らかそうだが…常に暴れまわる奴に攻撃を当てるのも難しいのにさらに弱点の部位を狙うのはかなり難しくなってくるわ。ファルス、ここは私が奴をひきつけるから、その隙に攻撃を仕掛けてちょうだい!!」
「なるほどな…その作戦なら奴の背後から槍の一撃を食らわせれば大きなダメージを狙えるというわけだな。奴は力任せゆえ背後ががら空きになれば攻撃のチャンスが大幅に増える…そこを一気に攻めればかならず勝てるっ!!」
リリシアはファルスにそう伝えた後、素早い動きでタイラントクリーパーをかく乱する。強靭な腕を振るいながらリリシアを追い回す中、槍を構えたファルスがすぐさまタイラントクリーパーの背後へと向かい、攻撃の態勢に入る。
「ここは奴の背中を追いかけながら、多段突きでの連続攻撃で一気に攻めてやるっ!!」
ファルスは背後から怒涛の連続突きを仕掛け、タイラントクリーパーの態勢を崩し転倒させる。大きく態勢を崩したことにより、タイラントクリーパーの弱点である胸部の核が露わになる。
「どうやら奴は胸の核が唯一の弱点であったか。なら…全力で破壊させてもらうぜっ!!」
ファルスはタイラントクリーパーの弱点である胸部の核に槍を突き刺し、タイラントクリーパーの息の根を止める。見張り役のヘルズヒューマノイドとの戦いに勝利した一行は、地上界から連れてこられた囚人たちを解放するべく収容所の内部へと突入する。
「見張りの奴らは片付いたようね…しかしあの腕の魔物が入った筒はおそらく収容所の内部から投げられたものなら、この収容所のどこかにボスらしき人物がいるかもしれないわ。」
リリシア達が収容所の内部に突入する中、収容所の署長クラスのヘルズヒューマノイドが署長室からその様子を見ていた。
「チッ…脱獄シタ第一・第二収容所ノ奴ラメ、魔力ヲ抜カレテイルトハイエ俺ガ放ッタタイラントクリーパート見張リ役ノヤツラヲ倒シタ上、収容所ニ内部に突入シテシマウトハ驚イタ。ダガ私ニハマダニルヴィニア様ヨリ貰ッタ魔物ノ筒がアト二本アル。何ガ入ッテイルカハ知ラサレテハイナイガ、強力ナ魔物ガ入ッテイルコトハ確カダ。マズハ牢獄エリアヲ巡回シテイル見張リ役ノ奴ラニ報告シ、一刻モ早ク排除シナケレバッ!!」
ひどく焦燥している所長クラスのヘルズヒューマノイドは、侵入者が現れたということを館内放送で伝え、見張り役のヘルズヒューマノイドに侵入者を排除するようにと命ずる。
「収容所内ニ侵入者ガ入リ込ンダ…見張リヲシテイル者ハタダチニ排除ニ向カウノダ!!」
署長クラスのヘルズヒューマノイドが館内放送を伝えた後、軍刀を手に収容所に侵入したリリシアたちの排除へと向かうのであった……。
一方タイラントクリーパーを退けて第三収容所への突入を果たしたリリシアたちは、地上界から連れてこられた囚人を解放するべく、迫りくるヘルズヒューマノイドたちを退けながら地下牢獄へと向かっていた。
「ここから先に強い魔力反応が見られた…しかし生体反応がない。つまり、魔力を放つ何かがあるというわけだ。もしかする吸い取られた魔力を回復できるかもしれないぞ。」
強い魔力反応を感じたファルスは恐る恐る反応がある場所へと向かうと、そこには建設途中の浴場らしき風景がファルスの目に飛び込んできた。
「なるほどな…強い魔力はここから出ていたようだな。どうやらこの場所はヘルズヒューマノイドの体力と魔力を回復するために急ごしらえで作られた即席温泉のようだ。建設途中とはいえ、肩までつかれば体力と魔力を大幅に回復することができそうだ。まずは術を使える者を優先的に入らせ、これからの戦いに備えるのが一番といえるな。」
ファルスの言葉の後、リリシアはファルスに一つの提案を伝える。
「これなら数分肩まで浸かるだけで体力と魔力は完全に回復できるわ。術を使える人を優先して回復させたいけど、湯の量は少ないから全員は回復できなさそうね。しかしこの温泉は急ごしらえで作られているから泉質も落ちやすいので一人あたり一分浸かるのが得策といえるわ。」
リリシアの意見に賛成したファルスは、術を使える者を第一に温泉に浸からせるようにと答える。
「ここはお前の提案に賛成だ…まずは術を使える者を温泉に入らせよう。目安としては5人ずつ、一分交代だ。そうしないと泉質が劣化し、回復効果が弱まってしまうからな。さて、まずは男性の方を温泉に入らせよう。残りの者は見張りを頼む。」
ファルスを含む男性陣が温泉に浸かる中、リリシアたち女性陣は男性陣が温泉から上がるまで温泉の外で見張りをすることになった。その数分後、温泉に浸かり体力と魔力を回復させた男性たちがすがすがしい顔でリリシア達のもとへと戻ってくる。
「見張りご苦労…次は女性の方だな。温泉の泉質の方はまだまだ大丈夫だから、今のうちに体力と魔力を回復させてくれ。」
「さて…私たちも温泉に入って体力と魔力を回復させるとしましょうか。ファルス、見張りは任せたわよ!!」
ファルスたちに見張りを任せるようにと伝えた後、リリシアたちは温泉に入り体力と魔力を回復させるのであった……。