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終章第一話 動乱

 リリシアから仲間たちの代わりに世界を救う使命を託されたセルフィは道中で出会った糸使いのレナードとともに砂漠を抜け、ボルディアポリスへと辿りついた。しかし、ボルディアポリスもニルヴィニアの放った魔物たちの襲撃を受けて壊滅状態であった。セルフィとレナードが宮下町に足を踏みいれたその時、人間の匂いを嗅ぎつけたテレポーターたちがセルフィたちを黄金郷へと連れ去るべく触手を伸ばして襲いかかってきた。セルフィとレナードは襲い来るテレポーターの集団を破壊した後、大規模破滅の情報を探るべく宮下町で情報収集を始めるのであった……。

 

 突如襲ってきたテレポーターの群れを一掃したセルフィとレナードは、大規模破滅に関する情報を集めるべくボルディアポリスの宮下町を散策していた。しかし街には人がいる様子はなく、不気味なほどの静けさであった。

「街には人が全然いませんね…やはりあの魔物の襲撃が原因のようですね。街の中では情報を集めることは難しいので、旅人の酒場に行ったほうがいいかもしれないな。」

宮下町では情報収集が難しいと感じたレナードは、ボルディアポリスの端の方にある『旅人の酒場』へと向かい、そこで情報を集めることにした。

「流石に酒場には客がいるが、だがいつものような活気はないようだ。セルフィ、まずはマスターから知っていることを聞き出すことが先決だな。マスター、スパークリングソーダを二つ頼む!!

旅人の酒場は連日酒を呑む若者たちでにぎわっていたが、突如現れた異形の魔物たちの襲撃により酒場にはいつもの活気はなく、酷くさびれていた。

「ん…どこかでみた顔だと思ったらレナードじゃないか!!一年あまりここに顔を見せて無かったが、今までどこに行ってたんだい?

「私は一年ほど糸を操る技術の向上のためにしばらくエルフの里で修行をしていたのさ。エルフの里での修行のおかげで、高度な技術を身につけることができたよ。しかしここに来る途中で謎の現象が起こり、見たことも無い魔物が現れるようになった。マスター、知っていることがあれば話してくれないか?

酒場のマスターは良質な炭酸水とスパークリングソーダをセルフィとレナードに振舞った後、フェルスティアを襲った謎の現象について話し始める。

 「ほらよ、こいつは若者たちの疲れを癒す炭酸飲料のスパークリングソーダだ。レナードよ、私が知っていることを少しだけ話してやろう。私が近くの道具屋で材料を買いに来た時、突如として凄まじい衝撃波がボルディアポリスを襲った。問題はそのあとだ…その衝撃波の後にうじゃうじゃと見たことも無い魔物が空から現れ、人間を触手でからめ次々とどこかに連れ去っていったんだ。私は急いで酒場に戻ったので難をのがれたが…街の人たちは奴らに連れ去られてしまったようだ。」

マスターの話の後、レナードとセルフィはマスターにソーダの代金を渡し、旅人の酒場を後にする。

「空から現れた魔物が街の人々を連れ去って行ったとなると、私とセルフィが先ほど倒した奴らは人間を連れ去るために送り込まれたというわけだな。マスター、いい情報をありがとう。」

情報を得た二人が旅人の酒場を後にしようとしたその時、酒場のマスターがレナードを呼び止める。

「レナード…酒場の客から聞いた話だが、中央大陸のレミアポリスの王宮が突如何者かによって天空に持ち上げられたと聞いた。そこならここよりいい情報が手に入れることができるが…レミアポリスも突如現れた変な魔物の襲撃を受けているらしい。もしレミアポリスに行くというのなら相当の覚悟が必要だ。」

「覚悟ならできてるさ。では行くか…中央大陸・レミアポリスに!!

旅人の酒場を後にしたセルフィとレナードは、さらなる情報を得るべくレミアポリスへと向かうのであった……。

 

 一方黄金郷では、新生神となったニルヴィニアの前に新たな配下と思われる老紳士が現れる。

「ボルディアポリスに放ったテレポーターたちの反応が消えました…。」

「な…何っ!?まさか私が放ったテレポーターを全滅させられるだけの強さを持つ者が地上界にいたとは驚いた。しかし生き残りの奴らが地上界から大勢の奴隷を連れて帰ってきたようだ。大老メルヴェスよ…報告ごくろうであった。」

大老メルヴェスからボルディアポリスに放ったテレポーターが全滅したとの報告を受け、ニルヴィニアは残念そうな表情を浮かべていた。

「どうやらテレポーターでは連れ去るのが困難な奴が出てきたか…ならばさらに大型の魔物を地上界に投入するしかなさそうだな。」

「そうだな…テレポーターを倒せるほどの強き者がいるなら、こちらとてテレポーターを上回る生物を生み出せばよいだけのことだ。私は創造神から奪った魔力で無尽蔵に魔物を生み出す能力を持っているのだが、巨大な魔物は性質上何かと攻撃的になってしまいがちなので、地上界から奴隷を連れてくる前に殺してしまう可能性がある。私が生み出した中でもっとも制御が難しかったのは、人肉が大好物とする巨大かつ狂暴な蜂『デッドリーワスプ』や、全身から生える無数の触手で獲物を丸のみにし強力な酸で獲物を溶かし捕食する『アルマット・セファロタス』ぐらいだ。私も知恵を働かせて新たな魔物を生み出せるように努力するつもりなので…期待して待っておれ。」

ニルヴィニアの言葉の後、メルヴェスはそそくさとその場を後にする。

 「御意…奴隷は多ければ多い方が楽園建設がはかどるからな。無論地上界全ての人間を奴隷として働かせるつもりだからな…もし楽園が完成したらもう用無しだ。後は猛獣どもの餌にすればよい。では私はこれにて失礼する。」

メルヴェスが聖域を去った後、ニルヴィニアは創造の魔力を集め魔物を生み出す態勢に入る。

「さて…そろそろ新たな魔物を生み出そうか。テレポーターを倒せる者がこの地上界にいる以上、テレポーターに代わる新たな魔物を生み出さなければならんからな。」

ニルヴィニアは聖域の床に魔方陣を描いた後、地上界に送り込む新たな魔物を生み出すべく創造の儀式を行うのであった。一方楽園建設のための奴隷として厳しい労働を強いられているリリシアは、ただひたすら楽園の建設作業に取り掛かっていた。

「私は必ず地獄のような収容所を抜けだし、石にされた仲間たちを助けだして見せる。しかしそのためには私と協力してくれる仲間が必要になるわ。休憩時間の間にでも交渉してみようかしら……。」

リリシアが作業に移ってから数時間後、看守役のヘルズヒューマノイドが奴隷たちに休憩時間が来たという事を告げる。

 「休憩ノ時間ダ…作業ヲ中断シテ休憩室ニ行ケ!!

看守役のヘルズヒューマノイドの言葉の後、奴隷たちが作業を止めて休憩室へと向かっていく。リリシアが休息に入る中、赤い髪の女がリリシアに話しかけてくる。

「見たところ、あんたも地上界に出てきた変な奴に連れ去られてここに連れてきたようだな。名は何と言うのだ?

「わ…私の名はリリシアと申します。信じられないと思いますが、私は仲間たちとともにニルヴィニアと戦ったが、創造の神の力を得たニルヴィニアには敵わず仲間たちは全員石に変えられてしまいました。」

リリシアが軽く自己紹介を終えた後、赤い髪の女が答える。

「ニルヴィニア…か。確かに私をここに連れ去った奴が口々にそう話していたな。私はティエラ、フレイヤード出身の女剣士だ。一つ付け加えるとすれば…フレイヤードの紅蓮騎士(クリムゾンナイト)カレニアの生みの親でもあるのさ。」

「あ…あなたがカレニアの生みの親だったとは驚いたわ!!確かにカレニアは私の仲間の一人よ。たぐいまれなる頭脳と卓越した剣技と炎の魔力で私たちの策士(ブレイン)として役に立っているわ。でも…ニルヴィニアとの戦いで石に変えられてしまったわ。」

リリシアがニルヴィニアとの戦いの経緯を話した後、ティエラはリリシアにそっと耳打ちする。

 「そうか…あんたの話によるとカレニアは仲間とともにニルヴィニアと勇敢に戦い、善戦空しく石に変えられてしまったという事だな。リリシアといったな…作業を終えて収容所に戻ったら少し私の長話につきあってもらおう。お…もうそろそろ休憩時間が終わるようだ…早く作業に戻るぞ。」

数分間の休憩を終えた奴隷たちは、再び楽園建設の作業に戻っていく。数時間の過酷な労働の後、看守役のヘルズヒューマノイドが奴隷たちの前に現れ、作業の終了を伝える。

「今日ノ労働ハ終ワリダ…明日ノ作業ニ備エテ休ムガイイ!!

一日の労働を終えて収容所に戻った奴隷たちは過酷な労働から解放され、自由な時間を過ごしていた。しかし、本や新聞などの娯楽の類は一切なく、囚人たちはただ疲労にへたり込んでいた。

「はぁ…強制労働も楽じゃないわね。おかげで手足が痛くなってしまったわ。そういえばティエラさんが話に付き合ってほしいって言っていたわね。」

過酷な労働で疲労困憊の表情を浮かべるリリシアの前に、牢屋の端で休んでいたティエラがリリシアのほうへと向かい、話しかけてくる。

「リリシア…少し長くなるが話を始めよう。」

「あの…話って何ですか?

リリシアが話の内容が何かと尋ねると、ティエラはその旨をリリシアにそう伝える。

 「おっと、まだあんたには話の内容を伝えていなかったな。私はこの収容所を脱獄しようと思う。いつまでも得体の知れない奴に働かされるわけにはいかんからな。すでに私に協力してくれる者が一名だけいる…鋼をも貫く爪を持つ狼少女・ウルだ。ま、その名前は狼に育てられたから本当の名前は知らないから私が適当に付けたけどな。おっと、話が逸れてしまった。そいつは今地下施設の掘削作業で働かされているから、あと少ししたらここに帰ってくる。あまり大きな声では言えんが、ウルにはみんなが寝静まった後に外へと続くトンネルを掘るようにと伝えてある。もちろんその件は看守には一切リークされてはいない。つまり…運が良ければここを脱獄できるぞ。」

ティエラの長話の後、ウルが地下施設の為の労働を終えて収容所へと戻ってくる。

「ティエラさん、た…只今労働を終えて戻りました。」

「お勤め御苦労だったな、ウル。紹介しよう、こいつは新しく私に協力してくれるリリシアだ。」

狼少女のウルはリリシアを見るなり、少し驚いた表情を浮かべる。

「ま…魔力の波長は一切感じないが、あなたから強い何かのオーラを感じる……!!

「生まれ持っての野生の勘というものか…あの狼少女、少し私の方を見ただけで私の能力を感じ取ってしまうとは驚いたわ。」

リリシアがウルの持つ野生の勘に驚く中、ティエラは今夜行う作戦の内容を二人に伝える。

「さて、作戦開始は今日の夜だ…みんなが寝静まった深夜になれば看守の見張りも手薄になる。その隙を見計らって少しずつ床に穴を開けていく作戦だ。作戦が成功して収容所から抜け出せても看守に見つかってしまえばまたここに戻されてしまう。正面口から再び収容所に戻り、各自所持品を取りに行くのが先だ。武器があれば看守を倒せる可能性もでてくるからな。作戦決行の時間がきたら私が起こす…それまでゆっくり体を休めるがいい。」

リリシアは過酷な強制労働で溜まった疲れをとるべく、一時の休息を過ごすのであった……。

 

 一方旅人の酒場での情報収集を終えたセルフィとレナードはレミアポリスへと向かうべくボルディアポリスを後にしようとしたその時、街のどこかで少女の悲鳴が響き渡る。

「きゃああああぁぁっ!!!

「あの変な魔物はさっき私が全て倒したはずなのに、まだ魔物が生き残っていたのか…セルフィ、急いで助けにいくぞ!!

セルフィとレナードはニルヴィニアの放った魔物に襲われている少女を助けるべく、急いで悲鳴があった方へと向かうのであった……。

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