蘇生の章2nd第八十八話 狂王激昂!!
エンプレスガーデンの者たちが出撃準備に取り掛かる中、クリスたちはジャンドラを討つべくヘルヘイム宮下町へと来ていた。クリスたちが王宮を守る門番を退けヘルヘイム王宮へと突入しようとしたその時、ジャンドラの部下の一人である狂王ラダマンティス(罪状:大量虐殺【無期懲役】)が目の前に現れ、クリスたちに襲いかかってきた……。
クリスたちがラダマンティスと対峙している中、ヘルヘイムの将であるジャンドラはヘルヘイム兵と魔物たちを引き連れ、王宮の裏口へと来ていた。
「王宮の正面入口に配置していたラダマンティスが侵入者と戦っているとバロールから報告があった。正面から出ると何かとまずいので、この裏口から出たまえ。外に出たらすぐにヴァルハラへと向かうのだ。」
ヴァルハラを襲撃するようにと集まったヘルヘイムの軍勢にそう伝えた後、ジャンドラは裏口の扉を鍵を開け、ヘルヘイム兵と魔物たちを王宮の外へと出させる。ヘルヘイムの軍勢を外に出した後、ジャンドラは安堵の表情を浮かべながら裏口の扉の鍵を閉め玉座の間へと戻っていく。
「これでよし…と。万一私の兵たちを王宮の正面から出させるとラダマンティスに殺されてしまうかも知れないからな。さて、そろそろ玉座に戻るとするか…。」
玉座に戻ったジャンドラのもとに、バロールがラダマンティスとクリスたちとの戦いの状況を伝える。
「ジャンドラ様…戦況はラダマンティスが優勢です。王宮に入り込んだ5名の侵入者は苦戦を強いられております。」
バロールの報告の後、ジャンドラはヘルヘイムの軍勢たちをヴァルハラへと送り込んだという旨を伝えた後、高笑いを浮かべながら玉座に腰かける。
「ふむ…バロールよ、報告ご苦労だった。後はラダマンティスが侵入者たちを八つ裂きにしてくれることを祈ろう。バロールよ、今先ほどヘルヘイムの軍勢をヴァルハラへと向かわせた。フェアルヘイム侵攻の主力である大戦艦を失ったが、今こそ第二次天界大戦(スカイマキア)の幕開けだ…さぁ天界の者よ、ヘルヘイムの将こそが天界の王だということを思い知らせてくれよう…ハハハハハッ!!」
ジャンドラが高笑いを浮かべる中、バロールは再び千里眼の能力でクリスたちの動向を探るのであった……。
一方ヘルヘイム王宮の入口でラダマンティスとの死闘を繰り広げているクリスたちは、四本の腕から繰り出される剣技に苦戦を強いられていた。
「くっ…やはり腕の数が多いといくら戦闘経験が豊富でも徐々に追い詰められてしまうわね。みんな、奴の腕を一本でも切断してしまえば僅かだが手数は減らせるわ。とにかく奴の懐に移動できる隙を作って腕の切断に取り掛かるから…他の人たちはサポートをお願いっ!!」
クリスは天帝の剣を構え、再びラダマンティスの方へと向かっていく。ラダマンティスはクリスの攻撃を受け流すべく、剣を交差させて反撃の構えをとる。
「ふん…貴様のような小娘は細切れにしてやるっ!!」
「私の攻撃を受け流すつもりね…だが、これならどうかしらっ!!」
ラダマンティスはクリスの斬撃を受け流す態勢に入る中、クリスは剣を天にかかげて聖なる光を集め始める。聖なる光が天帝の剣に集められるたび、天帝の剣は徐々に巨大な光の剣へと変貌を遂げ始める。
「受けてみなさい…天帝の剣技・天帝覇王斬ッ!!」
巨大な光の剣となったクリスの剣を見たラダマンティスは、驚きのあまり言葉を失っていた。
「こ…こんなの受け流せるわけがないっ!!だがジャンドラ様の手を煩わせないためにもここはなんとしても受け流すしかないっ!!」
クリスは巨大な光の剣となった天帝の剣を振り下ろし、ラダマンティスにすさまじい斬撃を叩きこむ。ラダマンティスは受け流しの構えを解き、四本の剣を巧みに操りつばぜり合いに持ち込む。
「キシャシャッ!!受け流しがダメなら…つばぜり合いに持ち込むまでだっ!!」
クリスの巨大な斬撃とラダマンティスの四音の剣がぶつかり合い、つばぜり合いは苛烈さを増していく。両者一歩も譲らぬ状況の中、つばぜり合いを制したのはクリスであった。
「これで…終わりよっ!!」
クリスとのつばぜり合いに競り負けたラダマンティスは、後ろへと吹き飛ばされ大きく態勢を崩す。
「うぐぐぐ…この俺が……あんな小娘ごときに競り負けただとぉっ!!許さん…貴様だけは我が四刀流で葬ってくれ…うぐっ!!」
ラダマンティスが地面に落ちた剣を拾おうと腕を動かそうとした瞬間、突如体に激痛が走りその場にうずくまる。ラダマンティスがふと自分の体を見ると、二本の右腕が全て切断されていた。
「うぐぐ…なんてこった!!俺の右腕が無くなっちまったぁっ!!おのれ小娘め…お前だけは生かしては帰さん…この私が血祭りにあげてやる!!」
怒りの表情を浮かべるラダマンティスは残った左腕を振り上げ、全身に力を込め始める。するとラダマンティスの体がゴキゴキと音を立て、無数の角を持つ刺々しい魔物へと変貌を遂げる。
「グルアアアァァァッ!!!」
棘を生やした獣の姿となったラダマンティスは棘の肩をいからせてクリスめがけて突進する。クリスは咄嗟に盾を構えてラダマンティスの突進を防御するが、その衝撃は凄まじく盾でガードしても弾き返されてしまうほどであった。
「くっ…クリスが盾で防御しても吹き飛ばされてしまうなんて!!どうやら奴が本気を出してきたみたいね…みんな、ここは私がクリスの助太刀に入るから、他の者は全力でクリスをサポートするわよっ!!」
クリスをサポートしてくれと仲間たちに伝えた後、カレニアはラダマンティスの前に立ちクリスの手助けに入る。
「クリス…ここは私も戦うわ。戦力は一人でも多い方がいいでしょ!!」
「ありがとうカレニア…こんなところで負けてられないからね。」
怒り狂う獣と化したラダマンティスは全身に力を込め、身の毛もよだつ雄たけびをを上げる。
「グラアアァァッ!!!!」
その野獣のごとき咆哮は、あらゆるものを吹き飛ばす衝撃波となってクリスたちを襲う。しかしクリスたちはラダマンティスの咆哮を受けてもなお、吹き飛ばされずに踏ん張って耐えていた。
「なんとか吹き飛ばされずにすんだわね…クリス、ここから反撃開始よっ!!」
ラダマンティスの咆哮に耐えたクリスとカレニアは、剣を構えてラダマンティスに猛攻を仕掛ける。しかし変身後のラダマンティスは変身前よりも肉質が堅く、二人の剣の一撃でも傷をつけられなかった。
「くっ…肉質が堅く剣の一撃が通らないわ。クリス、ここは術で対抗するしかないわ!!」
クリスとカレニアがラダマンティスと戦う中、王宮の玉座の間ではバロールが戦いの様子をジャンドラに伝える。
「ジャンドラ様…ラダマンティスが獣形態に変身したようです。侵入者は以前にもまして苦戦を強いられています。このままいけばラダマンティスが侵入者たちを殺してくれるでしょう。」
「フハハハハッ!!こうなってしまえばラダマンティスは周囲の生命反応が消え去るまで止まらない殺戮マシンとなるのだ…棘を怒らせて突進する様はまさに野獣!!さらに堅牢な皮膚はいかなる武器でも傷をつけることはできん。そう、ラダマンティスこそ私の反魂術で生み出した最強の戦闘兵器…いや、最高傑作だ!!」
ジャンドラが高笑いを浮かべる中、クリスとカレニアはラダマンティスと激しい戦いを繰り広げていた。二人は怒涛となって繰り出されるラダマンティスの攻撃をかわしつつ、精神を集中させ術の詠唱に入る。
「この場は私が術で奴を足止めするから、クリスは最大級の雷の術を奴にぶつけてちょうだいっ!!」
カレニアは両手に魔力を込め、炎の渦を巻き起こしてラダマンティスの動きを封じる。カレニアがラダマンティスを足止めしている間、クリスは聖なる光を一点に集め雷の術の詠唱を始める。
「荒れ狂う雷よ…悪しき者に制裁を加えんっ!!波導究極雷撃術・裁きの雷っ!!」
詠唱を終えた瞬間、聖なる光が強大なる雷となってラダマンティスの体を貫く。しかしクリスの最大級の術を受けてもなお、ラダマンティスは無傷であった。
「そ…そんな馬鹿なっ!!私の裁きの雷が通用しないなんてっ!!」
「グッ…グルオアァッ!!!」
ラダマンティスは大きく地面を蹴った後、棘の肩を怒らせてクリスめがけて突進を始める。クリスがアストライアの盾を構えるも、すでに手遅れであった。
「このままじゃ…やられるっ!!」
クリスがもう駄目かと悟った瞬間、突如ラダマンティスの動きが止まる。ラダマンティスの動きを止めたのは、リリシアとほぼ互角の能力を持つフェルスティア七大魔王・エルーシュであった。
「ここは俺に任せろ…クリス。」
エルーシュはラダマンティスを掴んだまま、背中の六枚の翼を大きく羽ばたかせて空中に飛び上がる。エルーシュはそのまま空中で円を描くように飛行した後、急降下を始めラダマンティスを地面に大きく叩きつける。
「グオオッ…グオオオォォッ!!!」
エルーシュの天空落としを受けたラダマンティスは怒りの表情でエルーシュを睨みつけた後、再び棘の肩を怒らせエルーシュめがけて突進する。しかしエルーシュは突進してくるラダマンティスに闇の炎の連打でラダマンティスを押していく。
「そろそろ遊びは終わりにしよう…堕天烈火拳!!!」
エルーシュの両手から繰り出される闇の炎の連撃はラダマンティスの突進のスピードよりも早く、あっという間にラダマンティスの突進のスピードが弱まっていく。ラダマンティスの動きが完全に止まった瞬間、エルーシュは拳に渾身の力を込め、止めの一撃を放つ。
「これで…終わりだぁっ!!」
エルーシュの放った渾身の拳の一撃がラダマンティスに炸裂した瞬間、凄まじい衝撃波がラダマンティスの体を突き抜ける。エルーシュの拳から放たれた衝撃波はラダマンティスの体の内側に致命的なダメージを与え、ラダマンティスを葬り去る。
「す…すごいっ!!私たちが束になって敵わなかったラダマンティスを…倒してしまうなんてっ!!」
ラダマンティスを打ち倒したエルーシュの力にクリスたちが圧倒される中、エルーシュはクリスたちに追手が来る前にヘルヘイム王宮の中に入るようにと告げる。
「これがかつてフェルスティア七大魔王最強の存在と呼ばれた者の力だ。私は術の能力は少し劣るが、力の面ならリリシアより上だ。みんな、追手が来る前にヘルヘイム王宮に乗り込むぞっ!!」
ジャンドラの部下の一人であるラダマンティスを撃破したクリスたちは、ジャンドラの居城であるヘルヘイム王宮に乗り込むのであった……。
クリスたちがラダマンティスと交戦する中、ヴァルハラの西出口前ではヘルヘイムの軍勢とオルトリンデとシュヴェルトライテが激しい戦いを繰り広げていた。
「くっ…数が多すぎる!!シュヴェルトライテ、後ろはどうだっ!!」
「私も戦っているが、数が多くてきりがない状態だ。オルトリンデよ、少々つらい戦いになるかも知れんがここは二人だけで戦うしかないな。」
次々と襲いかかってくるヘルヘイムの軍勢を前に、シュヴェルトライテとオルトリンデは苦戦を強いられていた。そんな中、何者かがヴァルハラの西出口の扉を開けて二人の戦乙女の前に現れる。
「ずいぶんと苦戦を強いられているようね…この場は私も助太刀するわ!!」
「そ…その声は!!まさか…ヴァルトラウテっ!!貴様が来てくれれば助かるっ!!」
二人の戦乙女の前に現れたのは、ガントレットと一体となった武器である鉄甲弓(ボウアームド)を持つ戦乙女の一人であるヴァルトラウテであった。ヴァルトラウテは鉄甲弓を神のごとき力を持つ聖なる弓・光弓【荒神】に変化させ、戦いの構えをとる。
「さて、ジャンドラが差し向けたあの軍勢を殲滅するわよっ!!みんな、一人たりとも逃がしちゃだめよ…必ず仕留めなさいよっ!!」
ヴァルトラウテの号令の後、戦乙女たちはヴァルハラを制圧しようとするジャンドラの軍勢を討ち滅ぼすべく、武器を構えてヘルヘイムの軍勢に立ち向かっていくのであった……。