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蘇生の章2nd第七十八話 鍛錬の日々

 ジャンドラの死霊に倒れたリリシアの浄化が終わるまでの間、クリスたちはヴァルハラで戦闘能力を上げるべく、日々鍛錬に励んでいた。クリスたちが鍛錬に励む中、エンプレスガーデンではアムリタがリリシアの浄化を始めてから一週間が過ぎたが、浄化の進捗率は65%であり、まだまだ時間がかかりそうであった。一方ヘルヘイム王宮の玉座の間では、ジャンドラが三人の新たな部下と兵士たちを集め『第二次天界大戦(スカイマキア)』の開戦を宣言するのであった……。

 

 クリスたちがヴァルハラで鍛錬に励む中、ヘルヘイムの偵察へと向かっていたセルフィは何やらあわてた表情を浮かべながら、イオニアのもとへ現れた。

「イオニア様っ!!ジャンドラがついに第二次天界大戦の開戦を宣言した模様です!!奴は大戦艦でフェアルヘイムに攻め込むつもりです!!しかしまだ整備中らしく、それが終わるまであと二週間…と言っていました。」

「セルフィよ、偵察御苦労であった。しかしジャンドラの奴、本当に第二次天界大戦の開戦を宣言したようだな。しかしアムリタはあの娘がの浄化が終わるまでは手が離せん…大戦艦の整備が終わるまで二週間か。我々も修行に励まなければならんな。セルフィよ、今日の偵察はここで終わりにして、私と一緒にアムリタの宮殿へと来たまえ。」

アムリタの宮殿へと来るようにとセルフィにそう告げた後、二人はリリシアの様子を見るべくアムリタの宮殿へと向かっていく。

 「イオニアよ、またあの娘の様子を見に来たのか。おや、今度はセルフィを連れて来たようだな…あの娘なら今も体から血を噴き出しながら痛みに耐えている。セルフィ、試しに君が覗いてみたまえ。」

アムリタの言葉を受けたセルフィが覗き穴から壁の内部を覗いた瞬間、セルフィは驚きのあまり卒倒する。

「ひ…ひいっ!!な…中に縛られた女がいて…全身から血を噴き出して叫んで…ア、アムリタ様、中で何が行われているんですかっ!!

「その娘はジャンドラの死霊に全身を蝕まれ、死の淵に立たされているところをイオニアが救出し、私が浄化を施しているところだ。私の浄化は少し手荒でね、浄化とともに激しい痛みが走る強烈なものだ…その激しい痛みに耐えきれぬ者は悪霊を浄化する前に死にいたる!!

アムリタの言葉を聞いたセルフィは、他に方法がないのかとアムリタに詰めかける。

「そ…そんな!!アムリタ様、他に方法はあるはずなのにっ!!これ以上浄化を続けていたら…この娘さんは死んじゃいますわっ!!

「やかましいわっ!!だから今あの娘の体を蝕むジャンドラの死霊を浄化していると言っている!!私の魔力を持って浄化の成功率はおよそ35%…後はあの娘の精神力次第だ!!セルフィ、それが現実というのだよっ!!

アムリタの言葉に観念したのか、セルフィは驚きのあまり言葉を失っていた。

 「わ…分かりました。アムリタ様がそう言うのなら止めません。でもこれだけは約束してください…あの娘が死なない程度で浄化を続けてください。イオニア様、私はそろそろ自分の家へと戻ります…。」

アムリタにそう告げた後、セルフィはアムリタの宮殿を後にする。セルフィが去った後、イオニアは何か手伝えることはないかとアムリタに問いかける。

「うむ…進捗率は65%といったな、アムリタよ。私も少しばかり協力させては頂けないか?

「協力してくれるとは嬉しい限りだが、私は今は手が離せない状態だ。そうだ、貴様の魔力を私に少しばかり分けて頂ければ、あの娘の浄化が捗るかもしれんな。」

イオニアは静かに目を閉じ、魔力を解き放ちながらアムリタの肩に手を添える。するとアムリタの体にイオニアの魔力が流れ込み、アムリタの浄化の魔力を向上させていく。

「ありがたい…これなら浄化が早く終わりそうだな。イオニアよ、試しに覗き穴から様子を見たまえ。すごいことになっているぞ。」

アムリタに言われるがままイオニアが覗き穴からリリシアの様子を見ると、そこには全身から黒い霧のような物と血を噴き出しながら、リリシアは激痛に耐えていた。黒い霧のような物体はジャンドラの死霊の集合体であり、その死霊の数は数十人から数百人以上であった。

「見たかイオニア…そなたの魔力を与えられたおかげで、ジャンドラの死霊が徐々にあの娘の体から抜けていくようだ。このままいけば後3時間ほどで浄化は完了する。イオニアよ、そのまま魔力を私に注ぎ込んでくれ。」

イオニアの協力の甲斐もあり、リリシアの体を蝕むジャンドラの死霊は徐々に数を減らしていく。そして3時間後、アムリタの思惑通りリリシアの浄化が完了した……。

 

 「あの娘の体内の死霊反応が完全に消えた…イオニアよ、防音対策の壁を取り外し、あの娘の手足につけられた拘束具を外してくれ。」

イオニアは防音対策の壁を外した瞬間、そこには変わり果てた姿のリリシアがそこにいた。紫の髪は老人のような白髪となり、アムリタの浄化の代償で全身の肉は削がれ骨と皮だけとなってしまっていた。

「な…なんだこの姿はっ!!アムリタよ…今すぐ元の姿に戻せっ!!

変わり果てたリリシアの姿を見たイオニアは、怒りの表情でアムリタに詰め寄る。

「前に言っただろう…私の浄化は手荒だと。確かにあの娘はよく頑張ったよ…だがそうするしかなかったのだ。浄化によって削ぎ落された筋肉は時間とともに回復するのだが、回復するには最低でも二か月はかかる。あの娘が戦えるようになる時には既に天界大戦は開戦し、天界は戦乱の真っただ中だよ。」

アムリタの言葉の後、浄化の代償で変わり果てた姿となったリリシアが目覚める。魔姫はボロボロになった自分の体を見た瞬間、衝撃のあまり泣き崩れる。

「こんなの…こんなの私の体じゃないっ!!骨と皮ばかりの体で…立つことすらままならないっ!!こんな体はいやっ…いやああぁっ!!

骨と皮だけの老婆のような姿ではかわいそうだと思い、イオニアは泣き崩れるリリシアの体に自分の魔力を送り、浄化で削ぎ落された筋肉の回復を施す。すると浄化によって削がれた筋肉が少しだけ戻り、髪の色は元の輝きを取り戻す。

「これで失った筋肉は少しだけだが元に戻った…浄化後のアフターケアは私に任せなさい。第二次天界大戦がはじまる前にそなたを元の姿に戻してやるからな。」

「あ…ありがとうございますイオニア様。それより、第二次天界大戦とは何ですか。」

イオニアに魔力を与えられ少しだけだが元の体を取り戻したリリシアは、天界大戦が何かをイオニアに尋ねる。

 「第二次天界大戦(スカイマキア)のことか…ジャンドラが先ほど開戦を宣言した戦争のことだ。数年前にも彼を首謀とした天界大戦が起こり、戦乙女たちとヘルヘイムの軍たちが天界の運命をかけて戦ったのだ。この戦争は私たちエンプレスガーデンの民と戦乙女たちが手を組み、何としてでもジャンドラのフェアルヘイム侵略を阻止しなくてはならないのだ。もちろんそなたの仲間たちもジャンドラの野望を打ち砕く為に動くだろうな。」

イオニアが天界大戦のことをリリシアに伝えた後、リリシアが来ていた服と手袋を手渡す。

「そなたの服と手袋だ。そなたはこれから浄化後のアフターケアと戦闘スキルの向上のためにしばらくここに留まるのだ。そなたは知らないと思うが…アムリタが浄化の際、そなたの体に女帝因子を埋め込んだのだ。女帝因子(エンプレス・ジーン)はエンプレスガーデンにいる者が持つ特殊な因子でな…己の持つ隠された力を引き出す因子だよ。」

イオニアから手渡された服と手袋を身に付けた後、リリシアはイオニアに修行をしてくれと頼み込む。

「女帝因子…か。よくわからない物だが一応受け取っておくわ。イオニア様、早速ですが修行をお願いします!!早くジャンドラと戦えるだけの力をつけてクリスたちのもとへと戻らなきゃいけないわ。」

「何を言うか…そなたはジャンドラの死霊の浄化が終わったばかりで体の機能がかなり弱っている。今日はとりあえずこの宮殿で休め。アフターケアが終わり次第そなたにジャンドラと立ち向かえるだけの力をつけてやろう。」

浄化が終わったばかりで体の機能が弱っているので修行はできないとイオニアから告げられたリリシアは、残念そうな表情で二階にある寝室へと向かおうとするが、少し歩いたところで躓いてしまう。

 「痛っ…どうやらまだ足の筋肉が治っていないようね。イオニア様、私を二階まで案内してくれませんか?

二階へと案内するようにとのリリシアの言葉の後、イオニアはリリシアを背負い宮殿の二階へと向かっていく。二階へと来たイオニアはリリシアをベッドに寝かせた後、リリシアのそばに青白く輝く小さな石を置いた後、アムリタの宮殿を去っていく。

「アムリタにはちゃんと事情を言っておくから、ここでぐっすりと眠るがいい。そうだ…ここに結界石を置いておく。こいつは失った体力と魔力を回復させる結界を作り出す特殊な石だ。眠るときにひとつ置いておけば、眠りから覚めた時には元気百倍になれるぞ。」

イオニアがアムリタの宮殿を去った後、リリシアはアムリタの宮殿の寝室でぐっすりと眠りに着くのであった……。

 

 一方ヴァルハラにいるオーディンのもとに大臣が現れ、イオニアからの伝令が届いたという旨を伝える。

「オーディン様…イオニア様からの伝令です。」

「おお…イオニアからの伝令か。大臣よ、その手紙を私によこしてくれ。」

大臣からイオニアからの手紙を手渡されたオーディンは、早速封を開けて手紙を読み始める。

 「何々…あの娘の浄化が今しがた完了し、今はアムリタの宮殿でぐっすりと眠っているとのことだ。浄化の代償によって削がれた筋肉を元に戻すため、今はイオニアによってアフターケアを受けているところだ。浄化後のアフターケアが終わり次第、あの娘にジャンドラと戦うための力をつける…とのことだ。大臣よ、もう下がっていいぞ。」

イオニアからの伝令を読み終えたオーディンが大臣に下がるように命じた後、大臣は謁見の間を後にする。そのころヴァルハラの鍛錬場で修行に励むクリスたちをよそに、シュヴェルトライテはクリスたちの戦闘能力を測定し、クリスたちの戦闘スキルが上がっていることに気づく。

「あいつらの戦闘能力が上がっているようだな。あの茶色の娘は武器が1550…魔法が1200・あの変な武器を使う者は武器が1000、魔法が700。あの茶色の髪をした女は武器が750、魔法が1400。そして最後に赤い髪の娘は武器が1100、魔法が1350だ。昔に戦闘能力を測った時とは大違いだな。」

シュヴェルトライテがクリスたちの戦闘能力を測り終えた後、オルトリンデは瞑想にふけっているエルーシュのもとに近づき、声をかける。

「そこの者、見慣れぬ者だが強い魔力を持っているようだな。」

「私の瞑想を妨げるのは誰だ…私の名はエルーシュ。リリシアの体内のジャンドラの死霊の浄化が終わるまでクリスたちの旅に同行することになった。」

エルーシュの言葉の後、オルトリンデはシュヴェルトライテとともに戦闘訓練へと戻っていく。

「瞑想の邪魔をしてすまなかったな。シュヴェルトライテよ、そろそろ戦闘訓練に戻るぞ。来るべき第二次天界大戦に備え、戦闘スキルを上げておかねばならんからな。」

オルトリンデの言葉の後、シュヴェルトライテとともに戦闘訓練へと戻って行く。一方鍛錬を続けるクリスたちのもとに大臣が現れ、イオニアからの伝令が来たということを伝える。

 「クリス様、エンプレスガーデンのイオニア様から伝令が届いております。」

大臣からイオニアからの手紙を受け取ったクリスは手紙を読み、リリシアの浄化が終わったことを知る。

「リリシアの浄化が終わったみたいね。でもまだ私たちのもとに戻ってこれないので少し残念ね。大臣さん、ありがとうございます。」

イオニアからの手紙を大臣に返した後、クリスたちは夕食をとるべく宮殿へと戻っていく。はたしてリリシアは第二次天界大戦がはじまる前にクリスたちのもとへと戻ることができるのか…。

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