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蘇生の章2nd第七十七話 開戦!第二次天界大戦(スカイマキア)!!

 ミリアゴーシュ神殿でのジャンドラとの熾烈なる戦いは、クリスたちの敗北という形で幕を閉じた。クリスたちは大きなダメージを受けたが、リリシアはジャンドラの死霊の術を受け、死霊に体を奪われる一歩手前の状態であった。ゲルヒルデの治癒術でもどうすることもできず何もできないクリスたちの前に、エンプレスガーデンの者であるイオニアが現れ、クリスたちにリリシアをエンプレスガーデンで治療するという旨を伝えた後、イオニアはリリシアを抱えてエンプレスガーデンへと戻っていった……。

 

 イオニアがミリアゴーシュ神殿を去った後、リリシアを欠いたクリスたちはヴァルハラに戻るべく、ヘルヘイム宮下町を後にしようとしたその時、再びクリスたちの前にイオニアが現れる。

「あれ?イオニアさん…エンプレスガーデンに戻ったんじゃなかったの。」

「なぜここに来たのかと…君たちをヴァルハラに送ってやろうと思ってな。元来た道を戻るのは魔物がうようよしているから危険だからな。よし、少し目を閉じていたまえ。」

イオニアに言われるがまま、クリスは静かに目を閉じ始める。クリスたちが目を閉じたのを確認すると、イオニアは転送の術を使いクリスたちをヴァルハラへと送る。

 「これでよし…そろそろリリシアの治療に取り掛かるとしよう。」

そう呟いた後、イオニアはエンプレスガーデンへと帰還する。エンプレスガーデンに帰ってきたイオニアの前に、イオニアの部下であるアイシャがリリシアの治療の進捗状況を説明する。

「おお…イオニア様、戻られたのですか!!先ほどあなたが連れてきた娘のことですが、浄化の術を使えるアムリタ様の手によって体内にあるジャンドラの死霊を浄化しています。ですがあの娘の体内に送り込まれた死霊の量は凄まじく、全て取り除くには一週間以上かかる…とのことです。」

「完治するまで一週間かかる…か。浄化の術を使えるアムリタならジャンドラの死霊をひとつ残らず浄化することが可能だが…その前に魔力が尽きてしまうかもしれんな。」

イオニアがそう呟いた後、アイシャとともにアムリタのいる宮殿へと向かう。宮殿では、アムリタがリリシアの治療を行う準備を終え、魔姫の体内にあるジャンドラの死霊の浄化を行う。

 「よくぞ来られたイオニア様、今からあの娘の体内を蝕むジャンドラの死霊を取り除いているところだ。まずは魔除けの効果があるといわれる大粒のニンニクをすりつぶして飲ませるのだが、ジャンドラの死霊にも効果があるのかは保障しないがな。」

少々奇妙なアムリタのやり方に疑問を感じたイオニアの言葉の後、アムリタはすり潰したニンニクをリリシアの口の中へと放り込み、水で喉の奥へと流し込む。

「アムリタよ、いくら魔除けの効果があると言ってもニンニクをすりつぶしてあの娘に飲ませるのはいかがなものかと思うが…?

「しばし黙って見ておけ…イオニアよ、ではそろそろ浄化に取り掛かるので少し離れていてくれ。」

イオニアに離れるように命じた後、アムリタは浄化の構築式を床に描き始める。

「浄化の術は魔力を大幅に使う術ゆえ、このように魔力を増幅するための構築式が必要となる。後はあの娘の精神力と体力だな…私が浄化に取り掛かっている間、絶え間ない激痛が襲うことになる。その痛みに耐えられなければジャンドラの死霊が完全に浄化する前にあの娘が死ぬことになる…イオニアよ、覚悟して見ておけ、これより浄化の儀を執り行うっ!!

構築式を書き終えた後、アムリタは聖なる魔力を解放し宮殿の床に描かれた構築式へと注ぎ込んでいく。アムリタの魔力が注がれたことにより、聖なる魔法陣が輝きリリシアの浄化が始まる。

「うぐっ……うぐあああぁっ!!!

浄化が始まってから数分後、リリシアは体に走る激痛のあまり声にならないほどの叫び声をあげながらのたうちまわり、魔法陣の中心から大きく離れてしまう。

「いかん…!!イオニアよ、拘束具を用いてあの娘を縛り付けてくれ!!このまま暴れれば魔法陣から出てしまう!!拘束具ならその戸棚の中に入っているので、いそいで取り付けてくれぃっ!!

アムリタを命を受けたイオニアは、戸棚の中に入っている拘束具を取り出しリリシアの手足を縛り付ける。イオニアが拘束具でリリシアの手足を縛りつけた瞬間、魔力の波長が徐々に弱まっていく。

「むむ…あの娘の魔力の波長が徐々に下がっている。アムリタよ、この拘束具に何か細工でもしているのか…?

「言い忘れていたがこの拘束具には術者の魔力を封じる効果がある。ジャンドラの死霊を浄化するためには魔力がゼロに近ければ近いほど浄化の効果がアップするのでな。イオニアよ、後は私に任せて自分の持ち場へと戻るがいい。」

イオニアに持ち場に戻るようにと命じた後、アムリタは再びリリシアの浄化に取り掛かる。数時間後、リリシアの体から次々と黒い物体が抜け出てくる。

 「拘束具の効果で魔力がなくなったせいか、ジャンドラの死霊があの娘の体の外に排出されている。しかしジャンドラの死霊はあの娘の体の中に数千人ほどいるので、まだまだ時間がかかりそうだな…。」

アムリタがそう呟く中、イオニアは宮殿の窓からその様子を覗いていた。

「大きな叫び声を上げながら激痛に苦しんでいる…止めてやりたいが、ジャンドラの死霊を浄化するためにはやむを得ないことだ。創造の神でありエンプレスガーデンをおつくりになった偉大なるクリュメヌス様よ…あの娘の命を助けてくれ!!

痛々しい光景を窓から見ていたイオニアは、創造の神にリリシアの無事を祈り続けるのであった……。

 

 一方イオニアの転送術でヴァルハラに帰還したクリスたちは、伝説の武具を手に入れたという旨を伝えるべく、謁見の間にいるオーディンのもとへと向かう。

「オーディン様…伝説の武具を集めてまいりました。」

「むむっ!!そなたが身につけている兜は…まさか『サレウスの兜』ではないか…戦乙女から聞いた話は本当だったようだな。では私から伝説の武具の一つである『麒麟の護符』を授けよう…受け取るがいい。」

オーディンは懐から麒麟の護符を取り出し、それをクリスに手渡す。しかし麒麟の護符はクリスの手のひらに移った瞬間、拒絶するかのようにオーディンのもとへと戻ってくる。

 「うむ…どうやら麒麟の護符は伝説の武具を身につけられるそなたを適応者ではないと仰っておる。では適応者はいったい誰なのだ…?かつて伝説の魔導士が肌身離さず持っていたものだからな。もしかするとあの紫の髪の娘が身につけられるかもしれな…あれ?あの娘はどこにいるのだ。」

オーディンからリリシアがどこにいるのかを聞かれたクリスは、深刻な表情でオーディンに話し始める。

「オーディン様…ひとつ私から話があります。私たちはサレウスの兜を手に入れミリアゴーシュ神殿を後にしようとした瞬間、ヘルヘイムの将であるジャンドラが私の前に現れました。私たちはジャンドラに戦いを挑みましたが、ジャンドラの放つおぞましいまでの死の魔力には勝てず負けてしまいました。私たちは大丈夫でしたが、リリシアはジャンドラの死霊を体内に送り込まれ、生と死の狭間をさまよっている状態になってしまったのです。」

クリスがオーディンにそう伝えた後、オーディンのもとにヴァルハラの大臣が現れ、エンプレスガーデンの者からの手紙をオーディンに手渡す。

「ほう…そんなことがあったのか。皆の者よ、たった今イオニアからの伝令があった…先ほどエンプレスガーデンの妖術師であるアムリタがジャンドラの死霊の浄化に取り掛かっているようだ。アムリタの話によれば、あの娘の体からジャンドラの死霊を完全に消しさるにはおよそ一週間以上かかる…だとな。」

エンプレスガーデンのアムリタがリリシアの治療に取り掛かっているということをオーディンから聞かされ、クリスは嬉しさのあまり目に涙があふれる。

「ぐすっ…よかった。リリシアが生きていると知って、私嬉しくて…っ!!

クリスが涙を流して喜ぶ中、カレニアはリリシアが帰ってくるまで戦闘訓練をするようクリスたちに告げた後、一足先にヴァルハラの鍛錬場へと向かっていく。

 「さて…リリシアの治療が終わるまで、私たちは次なる戦いに備えて鍛錬場で戦闘訓練ね。私たちがもっと強くならなきゃジャンドラは倒せないからね!!じゃあ私は先に鍛錬場に行っているわ。」

 

 ジャンドラとの戦いから一週間後、ジャンドラの死霊の術に倒れたリリシアは未だアムリタによって治療を受けていた。拘束具を付けられ身動きのとれぬリリシアの周囲には防音対策の壁が張られ、叫び声すら聞こえぬ状態であった。

「あの娘の浄化を開始してから一週間経ったが…まだ死霊が体内から抜け切れておらん。私とてジャンドラの死霊の浄化は初めてゆえ、悪魔祓いよりも時間がかかってしまうな。」

その言葉の後、アムリタの宮殿にイオニアが現れリリシアの経過はどうだと問いかける。

「あっという間に一週間経ったな…アムリタよ、経過はどうだ?

「浄化の進捗状況は…おおよそ65%ってところだな。とりあえずエンプレスガーデンにいる者の迷惑にならぬよう、防音対策の壁を張らせてもらった。あの娘は未だ浄化の痛みに苦しんでおる、心配なら壁の中央にある覗き穴から覗いてみるがいい…。」

イオニアは恐る恐る覗き穴からリリシアの様子を見ると、そこには浄化の激痛に耐えるリリシアの姿があった。彼女の身に纏う深紅のドレスは脱がされ、全身から血を噴き出しながら叫び続けていた。

 「あがっ…あがあぁぁっ!!!

血腥い残酷な風景を見たイオニアは、驚きのあまり絶句していた。あまりにも残酷な光景を目にしたイオニアは怒りの表情を浮かべながら、アムリタに浄化の儀を止めるよう説得する。

「ア…アムリタ!!今すぐあの娘の浄化を止めてくれ…このままではジャンドラの死霊を浄化する前に死んでしまうっ!!

「止めてもよいのか…私が浄化の儀を止めればあの娘は失血死するぞ。全てはあの娘の精神力にかかっている。精神力が弱けりゃ死ぬ…強い精神力を持って私の浄化の儀に耐え抜いた時、あの娘は命を取り留める!!いずれにせよ、あの娘は死の淵に立たされているのを自覚してもらおう…イオニアっ!!

アムリタの言葉に観念したイオニアはそう言い残し、アムリタの宮殿を去っていく。アムリタは宮殿を去るイオニアを一瞥した後、アムリタは心の中でそう呟く。

「わかった…今の言葉は撤回だ。そのかわりひとつ約束してもらうぞ、もしあの娘を死なせたときは…私はそなたを殺すからなっ!!

「安心せい…あの娘、多分耐えるぞ。どうやら命は取り留められそうだ。しかし…五体満足かどうかは保障しないがな。」

イオニアがアムリタの宮殿を去った後、アムリタはリリシアの浄化に専念するのであった……。

 

 リリシアの治療が終わるまで、クリスたちはヴァルハラで術と戦闘のスキルを上げるべく、日々鍛錬に励んでいた。一週間の鍛錬でクリスたちは徐々に戦闘能力を上げ、教官の門下生と互角に太刀打ちできるまでに成長した。

「あれから一週間経ったけど…リリシアはまだ戻ってこないわね。」

「リリシア様の体の中のジャンドラの死霊を完全に浄化するには一週間以上必要…と言っていたわね。だからまだ治療が終わっていないかもしれないわ。とりあえず今はリリシアの帰りを待つと共に、今はヴァルハラで戦うための力をつけなきゃね…。」

鍛錬場を後にしたクリスたちは、魔力を高めるべくヴァルハラの宮殿の中にある魔法を扱う者のために作られたオラクルルームへと向かい、魔力を高めるための修行を始める。一方その頃、ヘルヘイム王宮の玉座に腰かけるジャンドラはヘルヘイムの兵士と部下を集め、何やらジャンドラが演説を始めていた。

 「集まってもらったのはほかでもない…私はこれより、『第二次天界大戦(スカイマキア)』を始めようと思う。そこでだ、私の新しい部下を紹介しよう…ベン・ザ・エース、ラダマンティス、バロール!!前に出て自己紹介を行うがいいっ!!

ジャンドラの命を受けた三人の部下は、玉座の間に集まった兵士たちに自己紹介を行う。

「私の名は銃王ベン・ザ・エース。宮下町ではならず者のボスだが、ジャンドラ様の部下となった…よろしくお願いいたす。」

「俺か…俺の名は狂王ラダマンティス。今猛烈にフェアルヘイムの人間を斬りたい気分だぜ!!

「フヒヒヒヒヒ…俺は魔剣帝バロールだ。」

三人のジャンドラの部下が自己紹介を終えた後、兵士たちは歓喜の声をあげてジャンドラを賞賛する。ジャンドラは玉座から降り立ち、第二次天界大戦の開戦を宣言する。

 「よく聞け皆の者…これより、第二次天界大戦(スカイマキア)の開戦を宣言する!!さて、これから君たちにしてもらうことは大戦艦を用いてのフェアルヘイム襲撃だ。しかし大戦艦は整備士たちによって稼働準備の真っ最中だ。飛行テストを終えて実戦で使えるようになるには最低でも二週間ほどかかる。君たちには大戦艦のテスト期間が終わるまで、日々の鍛錬を怠らぬようにな。では私はこれにて失礼する……。」

ジャンドラは兵士たちにそう告げた後、部下たちとともにいそいそと玉座の間を去っていく。ヘルヘイムの将ジャンドラの手によって、第二次天界大戦(スカイマキア)が今まさに始まろうとしていた……。

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