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蘇生の章2nd第七十六話 死霊王【ジャンドラ】(2

 暴虐皇帝ジョロキアを倒しミリアゴーシュ神殿を後にしようとしたクリスたちの前に、突如ヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラが現れ、クリスたちに襲いかかってきた。クリスたちは武器を構えてジャンドラに立ち向かうが、その圧倒的な力の前に次々と敗れ去っていく。仲間たちが次々と倒される中、リリシアとゲルヒルデは合成術でジャンドラを攻撃するが、僅かなダメージを与えることができず逆に返り討ちにあってしまい、ゲルヒルデがジャンドラの闇の術を受け戦闘不能に陥ってしまい一気に窮地に立たされてしまった……。

 

 仲間がジャンドラの手によって敗れ去る中、リリシアは一人鉄扇を構えてジャンドラに立ち向かっていた。リリシアはジャンドラにつばぜり合いを仕掛けるも、圧倒的な力の差の前に競り負けてしまい、大きく態勢を崩してしまう。態勢を立て直そうとするリリシアにジャンドラの死霊の大剣が振り下ろされようとした瞬間、天帝の剣を構えたクリスが加勢に入り、リリシアに倒れた仲間たちを回復させるようにと命じ、ジャンドラにつばぜり合いを仕掛ける。クリスがつばぜり合いを繰り広げる中、リリシアは倒れた間たちを回復させ、三人の仲間と協力しジャンドラを倒すべく立ちあがるのであった……。

 

 リリシアが立てた作戦とは、ディンゴがクリスとつばぜり合いを仕掛けるジャンドラに援護射撃をし、攻撃の対象をクリスからディンゴに向けた後、ゲルヒルデが聖なる防壁を唱えてジャンドラを閉じ込め、リリシアとカレニアの炎の合成術で焼き尽くす作戦であった。リリシアの計画した作戦は見事成功し、ジャンドラを葬り去ることに成功する。

「これでジャンドラももう終わりだな。密閉された逃げ場のない空間で二人の炎の合成術を受ければ、さすがのジャンドラでも灰になって…何っ!?

防壁の中の炎が消えた瞬間、ジャンドラはほぼ無傷の状態であった。

 「ほう…密閉された空間で炎の術を放ち私を灰にするつもりだろうが、私を葬りさるまでにはいかなかったようだな。小娘どもめ…無駄なことをしよって。そろそろ私の真の力を見せてやろう!!

クリスたちにそう呟いた後、ジャンドラは体に死の魔力を込めて邪悪な竜の姿へと姿を変える。その体から放たれる膨大なる死の魔力により、ゲルヒルデの聖なる防壁が崩れ落ちる。

「な…なんて奴なのっ!!私の聖なる防壁をいとも容易く破るなんてっ!!

「この姿にさせたことを…地獄で後悔させてやろう!!

邪悪な竜の姿と化したジャンドラは強大なる死の波動を放ち、クリスたちを襲う。ゲルヒルデはクリスたちを守るべく、魔力を高めた聖なる防壁で対抗する。

「こんなところで負けられない!!ここは私があなたたちを守り…きゃあぁぁっ!!

魔力を最大限まで高めて作りだした聖なる防壁も、ジャンドラの死の魔力に耐えきれず防壁が破壊されてしまい、クリスたちは大きなダメージを受けてしまう。

 「どうだ、これがヘルヘイムの将の力だっ!!

死の波動を受けたクリスたちは、ジャンドラの死の魔力の前に力尽きてしまった。しかし、リリシアは死の魔力を受けてもなお、再び鉄扇を手にジャンドラの前に立つ。

「うぐぐっ…私はまだ戦えるわよっ!!あなたを倒すまで、何度だって立ちあがってやるわよっ!!

「おや?まだ息がある者がいたようだな…なら我が死の魔力で貴様の息の根を止めてやろう!!死の魔術(デススペル)・死霊の呪い(デス・スピリッツ)!!

ジャンドラが詠唱を始めた瞬間、体から溢れるばかりの死霊がリリシアの方へと飛んでいく。ジャンドラの放った死霊はリリシアの周囲に集まり、おぞましい叫び声とともにリリシアの体の中へと入っていく。

「おお…肉体だ……!!

「うう…やっと人間に戻れる。これで忌まわしきジャンドラの呪縛から解放される…!!

ジャンドラの放った死霊がリリシアの体内へと入るたび、心臓の鼓動が徐々に遅くなっていくのを感じていた。

「はぁはぁ…貴様、私の体に何をしたっ!!

「今私が貴様の体の中に放ったのは私の体の中にある死霊だ。私の体の中にはおよそ二十万人もの死霊たちが…行き場をなくしてさまよっている状態だ。あと数分すれば心臓の動きが完全に停止し、死霊の器となり生ける屍となるのだっ!!さて、もう一度私の体内の死霊を体に送り込むとするか…。」

今度こそリリシアの息の根を止めるべく、再びジャンドラの体内の死霊をリリシアの体の中へと送り込む。ジャンドラの死霊が再びリリシアの体内に送り込まれた瞬間、心臓の動きが完全に止まりその場に崩れ落ちる。

「くっ…私の魔力をもってしても……敵わないなんてっ!!

「そうだ…貴様らごときには王の首を討ち取ることなど不可能だ。私の死霊の呪い(デス・スピリッツ)は異なる世界ではその術を…死霊呪文(ザラキ)と呼ぶらしいな。これであの小娘は放っておけばすぐ死霊の器となって生ける屍…もう二度と貴様とは合うことはないだろう。フハハハハハハッ!!

クリスたちを葬り去った後、ジャンドラは人間の姿に戻りミリアゴーシュ神殿を後にし、ヘルヘイム王宮へと戻るのであった……。

 

 一方その頃、エンプレスガーデンではヘルヘイム側の動向を探っていたセルフィがイオニアに駆け寄り、リリシアの生体反応が消えたという旨を告げる。

「イオニア様…堕天使エルーシュを倒した紫の髪の娘の生体反応が…たった今ヘルヘイム宮下町での反応を最後に消えました。」

「何…セルフィよ!!まさか紫の髪の娘が死んでしまったのか…最後に反応があった場所はヘルヘイム宮下町と言ったな。セルフィよ、もっと詳しく教えてくれ。」

詳しく教えてくれとのイオニアの言葉を受け、セルフィは再びリリシアの魔力を探りはじめる。

「イオニア様、彼女の魔力はヘルヘイム宮下町の東に位置するミリアゴーシュ神殿を最後に生体反応が消え去りました。私が彼女の魔力を探る少し前に強大な死の魔力を持つ何かがこの神殿に入った後、彼女の生体反応が消えたと思われます。しかし今魔力を探ったところ…微弱ですが魔力の波長を感じました。」

「死の魔力を持つ強大な何か…か。そやつは死霊王ジャンドラのことだな。多くのヘルヘイム兵たちと部下を率いて数年前に天界大戦(スカイマキア)を引き起こしフェアルヘイムに壊滅的なダメージを与えた張本人だ。あの娘もきっとジャンドラと戦い…返り討ちにあったのかもしれんな。よし、私はあの娘の救助へと向かう。セルフィはヘルヘイム王宮付近の偵察へと向かい、ジャンドラの動向を探ってくるのだ。」

ジャンドラの動向を探るようにとセルフィに命じた後、イオニアとセルフィは転送陣を描き、ヘルヘイムへと向かっていった。

 

 一方善戦むなしくジャンドラに敗れ去ったクリスたちは、ジャンドラの強大な死の波動を受けて瀕死の重傷を負ったが、まだ生きていた。

「みんな…大丈夫!?

「私は大丈夫よ…それよりリリシアが心配よ。今ゲルヒルデが回復の術を施しているが、一行に目を覚まさないわ。」

カレニアの言葉を聞いたクリスは、ジャンドラの死霊の術に倒れたリリシアのもとへと駆けよる。ゲルヒルデがリリシアに治療を施されているが、息を吹き返す気配はなかった。

「リリシア…しっかりしてっ!!

「私の治癒術をもってしても、リリシア様は一向に目を覚ましません。心臓は通常通り動いていますが、彼女の体の中に入り込んだどす黒い何かが私の治癒術を邪魔しているようです。」

ゲルヒルデの言葉の後、クリスはリリシアの心臓に耳を当て心音を聞く。リリシアの心臓の鼓動は通常だが、クリスの耳にリリシアの心臓の鼓動の音以外に不気味な声が聞こえてくる。

「おお…ジャンドラの呪縛から解き放たれたぞ!!

「器だ…器だ!!

不気味な声を聞いた瞬間、クリスは恐怖のあまり言葉をなくす。

「い…いやぁっ!!リリシアの心臓の音以外に…人の声が聞こえてきたわ!!ゲルヒルデさん…これは一体っ!?

「クリス…これはおそらくジャンドラの体内の死霊みたいね。私が見たところ、リリシア様の中には数千人もの死霊が送り込まれているみたいね。ジャンドラの死霊がリリシア様の心臓に達していないが、今は余談を許されない状況よ。」

ゲルヒルデの言葉の後、ローブを羽織った女がミリアゴーシュ神殿の中へと入ってくる。

「そこのお方…どうかなされましたか。」

ローブを羽織った女がクリスにそう問いかけると、クリスは涙ながらにリリシアを助けてほしいと訴えかける。

「ぐすっ…私の仲間がジャンドラの死霊の術を受けて目を覚まさないのです!!お願いです…どうか私の仲間を助けてくださいっ!!

クリスの言葉を聞いたローブの女は、リリシアの体に手を当てて様子を見始める。

 「むむ…この紫の髪の娘の体内にはおよそ数千人のジャンドラの死霊に体を蝕ばまれているみたいね。しかしジャンドラの死霊が心臓に達していないのが奇跡としか言いようがないわ。自己紹介が遅れました。私の名はイオニア…ヘルヘイムとフェアルヘイムの狭間にあるという女だけの庭、エンプレスガーデンの者です。私のいるエンプレスガーデンにいる者ならこの娘を蝕む死霊を浄化できるかもしれません。そこであなた方にお願いがあります、その娘さんをエンプレスガーデンへ連れて行き、治療を施してもかまいませんか…?

治療のためにリリシアを私に託してほしいとのイオニアの言葉に、クリスは少し動揺していた。

「で…でもリリシアがいなくなれば、私たち四人でヘルヘイムのやつらと戦わなければいけないわ。リリシアがいないと私たち…戦えないっ!!

クリスが頭を抱えて動揺する中、突如神殿の床に転送陣が浮かびあがる。その転送陣からエルーシュが現れ、クリスたちの前に現れる。

「久しぶりだなクリスたちよ。しかし今はリリシアの身が心配だ!!

エルーシュはリリシアのもとに駆け寄り、リリシアの身を心配する。

「くっ…ジャンドラの死霊に全身を犯されている。このままではリリシアは死んでしまう。そこの者よ…頼む!!リリシアを助けてくれ…私の妻なんだ…。」

「貴様はエルーシュ!!あの娘に倒されたはずだが、なぜ生きているのだっ!!この娘の命は助けるが…貴様の要求など受けぬわっ!!

エルーシュが死んでいなかったという事実を知ったイオニアが怒りの表情を浮かべる中、クリスは必死にエルーシュが敵ではないと言うことをイオニアに説得する。

 「わかった…あの娘の仲間が言うのなら、その説得を聞き入れましょう。だがエルーシュよ、ひとつだけ私の命令を聞いてもらおう。ジャンドラの死霊によって体をむしばまれた紫の髪の娘の治療が終わるまで、クリスたちの旅に同行してもらう…それでよいな!!

説得を聞き入れたイオニアは、リリシアの治療が終わるまでクリスたちの旅に同行するようにとエルーシュに告げた後、イオニアはリリシアを連れて転送陣を用いてエンプレスガーデンへと帰還する。

「リリシア…必ず戻ってきてくれ。妻である貴様が私と結ばれぬまま死んだら許さぬぞっ!!

エルーシュが声をあげてリリシアに伝えようとしたが、イオニアはすでに転送陣でエンプレスガーデンへ帰還した後であった。

「リリシアのことはイオニアさんに任せて、ジャンドラの部下が保有していた伝説の武具を手に入れたという事をオーディン様に伝えるべく、私たちは一旦ヴァルハラへと戻りましょう。」

唯一の戦力であるリリシアを欠いたクリスたちは、エルーシュとともにヴァルハラへと戻るべくミリアゴーシュ神殿を後にするのであった。ジャンドラの死霊術を受けエンプレスガーデンで治療を受けるリリシアは、再び戦線に復帰することができるのか…!?

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