蘇生の章2nd第七十五話 死霊王【ジャンドラ】
伝説の武具のひとつである『サレウスの兜』を手に入れるべくミリアゴーシュ神殿の地下へと足を踏み入れたクリスたちは襲い来るジョロキアの部下を打ち倒し地下三階へと到着する。部下を打ち倒して地下三階までこれたクリスたちの実力を認めたジョロキアは自らの魔力を解放し、巨大な魔獣の姿に変身してクリスたちに襲いかかってきた。クリスたちは巨体から繰り出される一撃をかわしつつ、見事な連係プレーで徐々に追い詰め、五人の合成術で止めをさすことに成功した。ジョロキアを倒したクリスたちはサレウスの兜を手に神殿を後にしようとしたその時、彼らの前にヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラが現れ、クリスたちに襲いかかってきた。
ジャンドラの先制攻撃をかわしたクリスたちは、反撃の態勢に入りジャンドラを迎え撃つ。しかしクリスたちの攻撃はことごとくジャンドラにかわされ、傷一つつけられなかった。
「ほう…ジョロキアを倒した者たちでもこの私は倒せん。私の身体能力は人間の倍以上だ…腕力も、視力も、脚力も貴様らの上を行っているのだよ。」
ジャンドラは冷酷な笑みを浮かべながら、クリスたちを嘲笑する。ダメージを与えられない中、カレニアは自らの体に炎の魔力を纏わせ、身体強化を行う。
「くっ…ヘルヘイムの将だけあって、一筋縄ではいかないみたいね。だが、これならどうかしらっ!!」
炎の魔力によって身体能力を上げたカレニアは素早い動きでかく乱しながらジャンドラの方へと向かっていく。しかしジャンドラの素早さには敵わず、すぐに回り込まれてしまった。
「身体強化か…だが、私には通用しないわっ!!」
ジャンドラは凍てつく波動を放ちカレニアの身体強化を強制解除した後、手のひらから闇の衝撃波を放ちカレニアを大きく吹き飛ばす。
「うぐっ…私の身体強化をもってしても傷一つつけられないなんて!!」
「化け物…なんとでも言うがいい。私は人間を超越した存在だから、そう言われても当然だな。では先に貴様の息の根を止めてやろう…。」
ジャンドラは死霊の大剣をカレニアの喉元に突きつけ、カレニアの息の根を止めようとする。ディンゴはカレニアを助けるべく、ボウガンの援護射撃を放つ。
「近距離でダメなら…遠距離での射撃はどうかな!!」
ディンゴのボウガンの一撃を受けたジャンドラはカレニアに攻撃を加えるのをやめ、攻撃の対象をディンゴに変え、剣を構えてディンゴのほうへと歩き出す。
「ほう…貴様は見慣れぬ武器を使っているようだな。だが…無駄な足掻きだ!!」
「無駄なあがきだと…言ってくれるじゃないか。ボウガンの内部温度がちょうどいい頃合いになってきたから、貴様に強烈な一撃を食らわせてやるぜっ!!」
ディンゴはボウガンを通常モードから排熱噴射モードへと切り替え、ジャンドラに狙いを定めて引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、ボウガンの発射口から高出力の熱線が放たれ、ジャンドラを襲う。
「俺の最終兵器『排熱弾』で、貴様を消し炭にしてやるよぉっ!!」
ボウガンの発射口から放たれた高出力の熱線が、ジャンドラを焼き尽くす。しかし、ディンゴの放った熱線を受けてもなお、ジャンドラは無傷であった。
「ほう…熱線で私を焼き尽くせるとおもっているようだが、私はその程度の攻撃で死ぬほど弱い生き物ではないわっ!!愚か者め…私の実力をその体で思い知るがいいっ!!」
ディンゴにそう言い放った後、ジャンドラは全ての指に全ての属性の魔力を込め始める。右手には水・氷・炎・土・草の属性を、左手には闇・光・死・毒・雷の属性の魔力を宿らせた後、ジャンドラは両手を前に突き出してディンゴへと放つ。
「10の属性を持つ一撃を受けるがいい…十指魔砲(エレメンタル・ブラスト)!!」
指から放たれた十の属性を持つ魔力弾が、次々とディンゴへと襲いかかる。ジャンドラの放った無数の魔力弾を前に、ディンゴは風の魔力で押し返そうとする。
「くっ…この数じゃ防ぎようがないな。だがここは風の魔力で押し返してやるっ!!トルネード・ウォールっ!!」
ジャンドラの放った魔力弾を跳ね返すべく、ディンゴは風の防壁を張り防御の体勢に入る。しかし、ジャンドラの魔力弾はディンゴの風の防壁を貫通し、次々とディンゴに命中する。
「うぐっ!!ちくしょう…必殺の排熱弾でもこの程度なのかっ!!」
10の属性の魔力弾を受けたディンゴは、傷つきその場に倒れる。ディンゴが倒れたことを知り、ゲルヒルデは怒りの表情でジャンドラを睨みつけながら、両手に聖なる魔力を込めてジャンドラを迎え撃つ。
「よくもディンちゃんをっ!!あなただけは許さない…あなたは、この私が倒します!!リリシア様、私に力を貸してくださいっ!!」
ゲルヒルデから力を貸してほしいとの言葉を受けたリリシアは、急いでゲルヒルデのもとに駆け付け戦いの構えに入る。
「ゲルヒルデ、ディンゴの仇討ち…私も手伝うわ!!光と闇は相反する魔力だが、組み合わせ次第で無限の可能性を見出すことができそうね!!」
二人が戦闘態勢に入った後、ジャンドラは手のひらに死の魔力を込めて邪悪な波動を放つ。
「ほう…あの茶色の小娘は私の苦手とする光の魔力を持っているとみた。だが私の死の魔力は光の魔力をも飲み込む魔力だ…我が死の波動で息絶えるがいいっ!!」
ジャンドラの手から放たれた死の波動は、巨大な腕の形となってリリシアとゲルヒルデの方へと襲ってくる。二人はジャンドラの放った術を相殺するべく、力を合わせて光と闇の合成術を唱え始める。
「相反する光と闇の波動よ…今一つとなり全てを打ち消す波動とならんっ!!合成術(スペルフュージョン)・黄昏の波動(トワイライト・ウェイブ)!!」
リリシアの闇の波動とゲルヒルデの光の波動が一つとなり、黄昏の波動となってジャンドラに迸る。その波動はジャンドラの放った死の波動を打ち消し、ジャンドラの体を突きぬける。
「ぐっ…なかなかやるようだな。だが、この私は倒せん!!まずは私の唯一の弱点である光の魔力を持つ小娘から葬ってくれるっ!!」
ジャンドラは両手に死と闇の魔力を込め、ゲルヒルデに狙いを定める。
「壊滅的な我が闇と死の魔力…その体で思い知るがいいっ!!ダーク・ブレイクっ!!」
ジャンドラが詠唱無しで術を発動させた瞬間、壊滅的な闇の魔力がゲルヒルデの頭上に集まってくる。その危機を察知したゲルヒルデは急いで防壁の術を唱えるが、発動が間に合わず闇の術を受けてしまう。
「聖なる防壁よ…仲間たちを脅威から守りたま…きゃあぁっ!!」
ゲルヒルデの頭上に集められた闇の魔力が巨大な球体となり、詠唱に入っているゲルヒルデへと襲いかかる。壊滅的な闇の術の直撃を受けたゲルヒルデは、その場に倒れ動かなくなる。
「すみませんリリシア様…私の聖なる魔力でも葬れないなんて!!」
「異なる世界ではこの術を…超極大暗黒呪文(ドルマドン)と呼ぶらしいな。さて、残りは貴様と伝説の武具を身につけることのできる小娘だけだ!!まずは紫の髪の小娘から葬ってくれるっ!!」
ゲルヒルデを打ち倒したジャンドラは再び死霊の大剣を構え、リリシアに襲いかかってくる。リリシアは髪飾りを鉄扇に変え、つばぜり合いに持ち込む。
「つばぜり合いに持ち込むとは無謀だな…人はそれを『蛮勇』というのだっ!!」
ジャンドラの大剣とリリシアの鉄扇がぶつかり合い、火花を散ら熾烈なるつばぜり合いに発展する。ヘルヘイムの将であるジャンドラの強大な力を打ち負かすべく、リリシアは鉄扇に闇の魔力を込めてジャンドラを徐々に後ろへと後退させていく。
「武器に魔力を込めて私に競り勝つつもりか…だがそのような手は私には通用せんっ!」
リリシアは武器に闇の魔力を込めてジャンドラにつばぜり合いに臨むも、ジャンドラの圧倒的な力の前に競り負けてしまい、大きく態勢を崩す。
「ぐっ…なんて奴なのっ!!ここは早く態勢を立て直して安全な場所へ移動するしかなさそうね。」
「この私が貴様のような非力な小娘ごときに負けるわけがなかろう!!さて、我が死霊の一撃…その体に焼きつけてくれるっ!!」
ジャンドラは死霊の大剣を振り上げ、力強いひと振りをリリシアに放つ。死霊の大剣が振り下ろされた瞬間、斬撃が怨念の波動となってリリシアを襲う。
「くそっ…こんなところで死ぬわけにはいかないっ!!倒れた仲間のためにも…私があなたを倒すっ!!」
仲間を倒され怒りに震えるリリシアは両手に巨大な闇の魔力を集め、ジャンドラの放った怨念の波動を相殺するべく、早口で詠唱を始める。
「膨大なる闇の魔力よ…強大な衝撃波となって対象を貫かんっ!!カオス・スラッシュ!!」
リリシアが詠唱を終えた瞬間、両手に集められた衝撃波がジャンドラの怨念の波動を相殺する。
「くっ…私の怨念の波動が相殺されてしまうとはっ!?だが所詮私の敵ではないわっ!!」
怨念の波動が相殺されたことに怒りを感じたジャンドラは、死霊の大剣を構えてリリシアに襲いかかる。ジャンドラの大剣がリリシアに振り下ろされようとした瞬間、天帝の剣を構えたクリスがリリシアの前に立ち、加勢に入る。
「リリシア…今のうちに仲間たちを回復させてっ!!ここは私が時間を稼ぎますっ!!」
クリスから倒れた仲間を回復を命じられたリリシアは、急いでジャンドラによって倒された三人の回復に向かう。一方ジャンドラと交戦中のクリスは、激しいつばぜり合いを繰り広げていた。
「伝説の勇者でもない貴様が…なぜ伝説の武具を身につけることができる!!しかし貴様が伝説の武具を身につけていようが…貴様は私には勝てんっ!!」
クリスとジャンドラが激しいつばぜり合いを繰り広げる中、リリシアは傷つき倒れた三人を回復させた後、再びジャンドラに立ち向かうべく作戦を立てていた。
「みんな聞いて、今クリスがジャンドラとつばぜり合いを繰り広げているわ。まずはディンゴが背後から攻撃を仕掛けてジャンドラの気をそらした後、ゲルヒルデが聖なる防壁でジャンドラの身動きを封じる。そこでカレニアと私が最大級の炎の合成術で身動きの取れないジャンドラを焼き尽くす…という作戦よ。」
リリシアが作戦内容を三人に伝えた後、ディンゴが賛成の声をあげる。
「これならジャンドラを倒せそうだな。いくらヘルヘイムの将でも閉鎖された空間で火炎の術を受ければ、あっという間に灰にできるかもな。よし、そうときまれば作戦開始だっ!!リリシア、なかなかいい作戦を思いつくじゃないかっ!!」
ディンゴが作戦開始の合図を送った後、ディンゴはボウガンに通常弾よりも優れた性能を持つ鉛弾を装填し、ジャンドラの背後を狙撃する。鉛弾の一撃を受けたジャンドラはクリスとのつばぜり合いをやめ、攻撃の対象をディンゴへと向ける。
「ほう…貴様、あれだけの深手を負ってまだ懲りずに立ち向かうのか。まぁよい、貴様など私の死霊の大剣で八つ裂きにしてくれ…っ!?」
ジャンドラが死霊の大剣を構えてディンゴに襲いかかろうとした瞬間、聖なる防壁がジャンドラの周りを覆い、身動きを封じる。
「ジャンドラの周囲に聖なる防壁を張りました…しかしジャンドラは私の張った防壁を壊そうとしています。もって後3〜5分が限界です。リリシア様、カレニアさんとともに合成術の詠唱をお願いっ!!」
「わかったわ!!カレニア、急いで術の詠唱にはいるわよ。ゲルヒルデが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかないからね!!」
リリシアはカレニアを呼び、急いで合成術の詠唱を始める。一方ゲルヒルデの防壁によって身動きを封じられたジャンドラは死霊の大剣を振るい、ゲルヒルデの防壁を壊そうとする。
「あの小娘…防壁を張ってすこしでも時間を稼ごうという作戦だな。だが、我が死霊の大剣の一振りで真っ二つにしてくれるわっ!!」
ゲルヒルデの聖なる防壁を破壊するべく、死霊の大剣を構えて上空に飛びあがったジャンドラは死の魔力が込められた斬撃を放つ。ジャンドラの斬撃は防壁にひびをつけることはできても、真っ二つにするまでには至らなかった。
「くっ…俺の死霊の剣術でもこの邪魔な防壁を壊すことはできんか!!だが防壁の術は発動中は術者の魔力が徐々に奪われていく…つまり、魔力を奪う踊りで術者の魔力を根こそぎ奪ってしまえば防壁は強制解除するということだっ!!」
壊せないと知ったジャンドラは、魔力を奪うと言われる不思議な舞踊を踊り始める。
「うっ!!奴のあの踊りを見ていると魔力がどんどん奪われていくわっ!!このままじゃ聖なる防壁が…解除しちゃうわっ!!リリシア様、できるだけ早口で詠唱をお願いっ!!」
ジャンドラの不思議な舞踊によって魔力を奪われ続けるゲルヒルデは、リリシアとカレニアにできるだけ早口で詠唱するようにと命じる。
「その心配はないぜ…リリシアとカレニアはすでに詠唱は終えている。たった今術の発動に入るところだ。」
ディンゴががゲルヒルデにそう伝えた後、術の詠唱に入るリリシアとカレニアは魔力を解放させて合成術を唱える。
「二つの合わさりし炎の魔力よ…荒れ狂う炎の竜巻となりて悪しき者を焼き尽くさんっ!!爆業風(パーガトリアル・トルネード)っ!!」
カレニアとリリシアが詠唱を終えた瞬間、二人の魔力は炎の竜巻となって聖なる防壁の中にいるジャンドラを焼き尽くす。一進一退の熾烈な戦いを繰り広げるクリスたちは、ヘルヘイムの将であるジャンドラを打ち倒すことができるのか……!?