蘇生の章2nd第七十一話 激闘の果てに
あたり一面に毒草が咲き誇る黒き草原で、二人の魔王による熾烈な戦いが続いていた。お互いの闇の魔力がぶつかり合う中、エルーシュは高出力の闇の波動砲『堕天邪砲』を放ち、リリシアに大きなダメージを与えた後、大きな口を開けてリリシアを丸飲みにしようとしたその時、何者かが放った聖なる魔力がエルーシュの体に命中し、リリシアから手を離す。クリスの加勢によってなんとか死は免れたリリシアはクリスに仲間たちのもとへと戻るようにと告げた後、再びエルーシュとの戦いに身を投じるのであった…。
クリスが戦いの場を去った後、リリシアは知略を駆使してエルーシュの背後へと回り込み、一気に連打でエルーシュを徐々に追い詰め、必殺の爆炎豪断脚(ブレイズ・フェムル)を食らわせ、リリシアの完全勝利と思われたが、大きなダメージを負いながらも立ちあがったエルーシュは憎悪の魔力を開放し、堕天使を超えた存在である魔天王となってリリシアに襲いかかるのであった…。
リリシアが魔天王へと変貌したエルーシュを迎え撃とうとしたその時、リリシアは魔力低下により魔姫形態から人間形態へと戻ってしまった。
「しまった…人間の姿に戻ってしまったみたいね。失った魔力が回復するまで奴から逃げ続け…きゃあっ!!」
リリシアが魔力が回復するまで逃げ続けようとした瞬間、エルーシュの腕がリリシアを捉える。身動きを封じた後、両手に力を込めてリリシアを握りつぶそうとする。
「捕まえたぞ…リリシア。さぁ、絶望の声を聞かせてくれっ!!」
「うぐぐっ!!は…離せっ!!」
リリシアは悲鳴を押し殺し、僅かに残った魔力でエルーシュの腕を振りほどこうとする。しかし魔力が尽きる寸前の魔姫には、体を締め付けるエルーシュの両腕を振りほどくだけの力はすでになかった。
「魔力を使い果たしもう低級の術すら使えない状態だな…さて、そろそろひと思いに殺してやるとするかっ!!」
エルーシュは両腕にさらに力を込め、リリシアを握りつぶす。エルーシュが力を込めた瞬間、魔姫の体の骨がゴキゴキという音を立てながら軋み、彼女の表情が徐々に苦痛にゆがみだす。
「うぐっ…ぐっ…ぐああぁぁっ!!」
エルーシュはリリシアの体をさらに締め上げ、じわじわとリリシアの体力を奪っていく。
「魔力が尽きた貴様など…この私の敵ではないわっ!!さて…そろそろ終わりにして…ぐおぉっ!!」
エルーシュがリリシアに止めを刺そうとした瞬間、リリシアは僅かに残っている魔力を解き放ち小さな爆発を起こし、エルーシュの腕から逃れる。
「ぐおぉっ…貴様、僅かに残っている魔力を解き放ち爆発を起こすとはな…もし貴様が魔力が最大の状態ならこの周囲一帯を吹き飛ばす威力だが、魔力がなければ拍子抜けだなっ!!」
エルーシュの拘束攻撃から逃れることに成功したリリシアは、胸の谷間から緑色の結晶を取り出して口の中へと放り込む。
「魔力が僅かに残っているからこそ…開けるチャンスもあるというものよ!!さて、ここから形勢逆転といこうかしらっ!!」
リリシアが先ほど飲み込んだ緑色の結晶は、ヴァルハラの地下にある回復の泉の成分を濃縮させ結晶化させたものであった。これ一粒で体力はもちろん、失った魔力もすぐに回復できる貴重な秘薬である。
「ゲルヒルデが回復の結晶を作ってくれたおかげで、なんとかあの窮地を切り抜けることに成功したわ。あれが無かったら私は確実に奴に八つ裂きにされていたところだったわ…。」
リリシアがそう呟いた後、鉄扇を構えてエルーシュに立ち向かっていく。リリシアの体力と魔力が完全に回復したことを知ったエルーシュは、全身に力を込めてリリシアを迎え撃つ態勢に入る。
「あれほど減っていたリリシアの体力と魔力が…いつの間にか完全に回復している!!この死に損ないが…俺の本気というものを見せてやろうっ!!」
エルーシュが本気をだすとリリシアに宣言した後、魔姫は全身に魔力を込めて身体強化を図る。
「エルーシュが本気を出すというのなら、こちらとて最大の力であなたを葬り去るだけよ。私の体力と魔力が完全に回復した今なら…真の力を発揮できそうよっ!!」
その言葉の後、闇のオーラがリリシアの体を包み込んでいく。エルーシュはリリシアの行動を阻止するべく、口から闇の業火を吐き出して攻撃する。
「まさかまた魔王の姿に変身するというのか…芸のない小娘だなぁっ!!我が闇の業火で燃え尽きるがいいっ!!」
エルーシュの口から放たれた闇の業火が、闇のオーラに包まれているリリシアに襲いかかる。しかし闇の業火は魔姫の体を覆う闇のオーラによってかき消され、リリシアは無傷であった。
「無駄よ…私は新たな力を得た。魔天王となった貴様をも超える魔力を持つ存在にね!!」
リリシアを覆っていた闇のオーラが消えた瞬間、エルーシュの目の前には人間でも魔姫形態とは異なる姿と化したリリシアがそこにいた。
「き…貴様!!その姿は…まさか私と同じ魔天王となったつもりかっ!?」
「魔天王…私は貴様と同じではないわ。これが魔姫形態よりも上の変身形態…魔女帝よ。」
魔女帝と化したリリシアを見たエルーシュは、全身に闇の魔力を纏いながらリリシアへと向かってくる。
「窮地に追い込まれたことで、新たな力が覚醒したというのか…しかし無駄なこと!!貴様のその魂に下等魔王の烙印を刻みつけてやろうっ!!」
エルーシュは鋭い爪を立てて魔女帝となったリリシアに襲いかかるが、リリシアは素早い動きでエルーシュの爪の一撃をかわした後、鉄扇を投げてエルーシュを斬りつける。
「ぐぐぐ…私の爪の一撃をかわすとはな。さすがは変身しただけあって身体能力もさらにアップしているようだな…ならこれならどうだぁっ!!」
エルーシュは両腕から複数の魔力の円盤を生み出し、それをリリシアのほうへと投げつける。エルーシュが放った円盤は地面を抉りながら、徐々にスピードを上げていく。
「あの円盤の一撃を受けると腕や足の一本は確実に持っていかれそうね。ここは分身を囮にして上空に逃げれば何とかなりそうね…。」
リリシアが魔力を込めて鉄扇を振るい、自分の分身を作り出す。リリシアは翼を広げて上空へと飛びあがり、エルーシュの放った円盤をやり過ごす。
「フハハハハッ…!!これでリリシアは八つ裂きだ…何ぃっ!!」
円盤がリリシアの体を切り裂いた瞬間、リリシアの体が音も無く消えていく。
「くそっ…リリシアの奴、分身を囮にして空へと逃げやがったかっ!!ならば奴を追うだけ…ぐおおっ!!」
リリシアを仕留めたつもりが分身だったということに気付いたエルーシュが翼を広げて上空へと飛びあがろうとした瞬間、上空から無数の赤き炎の雨が次々とエルーシュに降り注ぐ。
「キャハハハッ!!エルーシュが私の分身に攻撃してくれたおかげで、上空にいる私は邪魔を受けることなく術の詠唱に入ることができたわ。」
リリシアが地上に降りた時には、エルーシュはリリシアの放った赤き炎の雨に焼かれ地面に蹲っていた。しかしあれほどのダメージを受けてもなおエルーシュは立ちあがり、両腕に魔力を集めながらリリシアの方へと向かってくる。
「俺は…俺は七大魔王最強の存在だ!!だから貴様はここで私の手によって消えなければならないのだ!!」
「まだ立ち上がるつもりかしら…ならばここで終わりにしてさしあげますわ!!」
エルーシュが両腕に込めた闇の魔力を放った瞬間、リリシアは赤き炎の波動を放ちエルーシュの闇の魔力を相殺したあと、リリシアは鉄扇を構えてエルーシュの方へと向かっていく。
「奴の体力は残りわずか…近接攻撃でで徐々に体力を削ることができれば、こちらのペースに持ち込むことが可能だわ!!」
リリシアの構えた鉄扇が、エルーシュの体を次々と切り裂いていく。しかしエルーシュは反撃する様子も無く、不敵な笑みを浮かべながらリリシアの様子をうかがっていた。
「フフフ…今は耐えるのみ。リリシアの攻撃を耐えきった時に全ての魔力を解き放ち…消すっ!!」
ひたすらリリシアの猛攻に耐え続けるエルーシュはひそかに両腕に魔力を込め始め、全魔力を解き放つ態勢に入る。リリシアが鉄扇の乱舞のフィニッシュを繰り出そうとしたその時、エルーシュは両腕に込めた全ての魔力を解き放つ。
「これで最後よ…エルーシュっ!!」
「フハハハハハッ!!!終わるのは…貴様のほうだぁっ!!」
リリシアにそう言い放った瞬間、エルーシュの両腕から放たれた全魔力が暴走し、想像を超える爆発となってリリシアを襲う。あたり一面の地形を一瞬にして変えるほどの爆発の後、リリシアはあの爆発で完全に消滅してしまったのか、その姿はどこにもなかった。
「フハハハハッ!!どうだリリシア…これが七大魔王のナンバーワンの実力だぁっ!!はぁはぁ…全ての魔力を解き放ったせいで魔力が尽きた。今はあの忌々しきリリシアを葬ることに成功した余韻に浸りながら精神統一に入るとしよう。憎き者を倒した後の精神統一は格別だからな。」
リリシアを倒すことに成功した優越感に浸りながら、エルーシュは目を閉じて精神統一に入る。エルーシュが精神統一を始めてから数分後、エルーシュの耳に足音が響き渡る。
「はぁはぁ…全魔力を解き放つとは非常に厄介なことをしてくれるじゃないの。おかげで私はご覧のとおりの重傷よ。あの巨大な爆発の衝撃で骨が5本ぐらいやられてしまったわ……。」
「な…なぜだぁっ!?あれほどの爆発を受ければ常人なら消滅のはずだが…なぜ生きていられたのだ!!」
エルーシュが全ての魔力を解き放ち葬ったはずのリリシアが生きていたことに驚く中、リリシアはエルーシュの体に魔力を送り、再び戦える状態にまで回復させる。
「貴様…敵に情けをかけるとはどうかしている…なぜ俺を回復したっ!!」
「なぜあなたを回復したって…お互い対等な状態でなければ戦いは面白くないからね。だから私の魔力を少し分け、再び戦える状態にしただけよ。さて、ここからが最後の勝負よ…覚悟なさい、エルーシュっ!!」
その言葉の後、リリシアが鉄扇を構えてエルーシュのほうへと向かっていく、リリシアによって魔力を与えられたエルーシュは両腕に魔力を込め、身体強化をおこなう。
「貴様のその敬意に評して…本気で相手してやろうっ!!行くぞ…リリシアっ!!」
聖と魔の翼をはばたかせ、一気にリリシアの方へと詰め寄る。二人の魔力と魔力がぶつかり合い、激しいつばぜり合いにまで発展する。
「この勝負…私が勝つっ!!」
「ぐっ…この私がリリシアごときに競り負けてたまるかぁっ!!」
激しいつばぜり合いを繰り広げる中、リリシアが徐々にエルーシュを追い詰めていく。一方エルーシュも残っている魔力を込め、リリシアを少しずつ押していく。
「あなたは先ほど全魔力を放った反動で、魔力の減少速度が大幅に上昇している。このままつばぜり合いが長引けばあなたの魔力は完全に尽きる。この勝負…私の勝ちよっ!!」
両者お互い譲らぬ状況の中、リリシアがつばぜり合いを制しエルーシュの態勢を大きく崩す。リリシアは倒れたエルーシュに近づき、鉄扇を向けて勝利を宣言する。
「私の勝ちよ…エルーシュ!!あなたの魔力はすでに底を尽きている…それ以上戦っても、あなたは私には勝つことはできない。私と決着をつけたいというのなら…体力と魔力を回復させ、さらに魔力を磨くことね。私は仲間たちのもとへと戻る…あなたはリリシアという下級魔王に負けたという烙印を押されたことを嘆き続けるがいいわっ!!」
リリシアが侮蔑の言葉をエルーシュに投げかけた後、リリシアは仲間たちのもとへと戻るべく戦いの場を去る。しかしエルーシュは再び立ち上がり、怒りの表情でリリシアのほうを睨みつける。
「うぐぐ…私は七大魔王の最強の存在なんだ…その私が私より下の存在であるリリシアに負けただと…許さぬ!!貴様は…貴様は私の手によって葬られるべきなんだぁっ!!」
エルーシュは残った魔力を闇の波動に変え、卑怯にもリリシアの背後を狙う。しかしリリシアはエルーシュの魔力を感じ取り、赤き炎の魔力を放つ態勢に入る。
「つくづくバカな奴ね…いい加減敗北を認めなさいっ!!」
リリシアがエルーシュにそう言い放った後、リリシアは怒りとともに赤き炎の熱線を放つ。リリシアの手のひらから放たれた赤き炎の熱線はエルーシュの闇の波動を相殺した後、エルーシュの体を焼き尽くす。
「うぐぐ…うぐああああぁっ!!」
リリシアの放った赤き炎の熱線に焼き尽くされたエルーシュは大きなダメージを受け、その場に倒れ込む。こうしてリリシアとエルーシュのフェルスティア七大魔王同士の熾烈なる戦いは、リリシアの勝利によって幕を閉じるのであった……。
蘇生の章2nd第七十一話(裏)はこちら
※裏七十一話は18禁要素(おもに性的描写)を含みますので、18歳未満のお子ちゃまはカエレ!!カエレ!!