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蘇生の章2nd第七十話 魔天王【エルーシュ】 

 ヘルヘイム王宮の牢獄に幽閉されていたエルーシュが看守長を殺し脱獄したということを牢獄署長から聞かされたジャンドラは牢獄署長に戦える力を与えた後、看守長が使っていた改造ポリスバイクを牢獄署長に託し、エルーシュを殺さずにジャンドラのもとへと持ってくるようにと命じた。一方そのころクリスたちは荊の森を抜けてヘルヘイム宮下町へと向かうべく足取りを進めようとしたその時、かつてアンダーグラウンドでクリスとリリシアが倒したはずのフェルスティア七大魔王のエルーシュが再びクリスたちの前に立ちふさがった。仲間たちよりも先に気配を察知したクリスが武器を構えてエルーシュと戦おうとした瞬間、リリシアはクリスに手出しはするなと諭し戦いの場へと向かっていった。

 

 両者熾烈な戦いを繰り広げる中、エルーシュは魔竜に姿を変えてリリシアに襲いかかろうとしたその時、ジャンドラからエルーシュを捕獲せよとの命令を受けたヘルヘイム王宮の牢獄署長が二人の戦闘に割って入ってきた。しかし牢獄署長は攻撃する間もなくエルーシュの餌食となってしまった。一気に劣勢に立たされたリリシアは全身に闇の魔力を集め、混沌と色欲の魔姫となってエルーシュを迎え撃つのであった……。

 

 魔姫の形態となったリリシアはクリスたちの目に触れない場所へと戦いの場を移した後、魔竜と化したエルーシュを迎え撃つべく、双鉄扇を構えて戦闘態勢に入る。

「さて、そろそろ戦闘再開よ。どうやらあなたは私を本気にさせてしまったようね。なら見せてあげるわ…この姿の真の魔力をねっ!!

混沌と色欲の魔姫と化したリリシアは両手に闇の魔力を集め、術を放つ態勢に入る。エルーシュは術の詠唱を妨害するべく、口から闇の炎弾を吐き出してリリシアに襲いかかる。

「術で私に攻撃を仕掛けるつもりか…だがそうはさせ…何っ!?

闇の炎弾を吐き出そうとした瞬間、リリシアが放った螺旋状の闇の魔力がエルーシュに命中する。

「ぐっ…なぜだぁっ!!なぜ詠唱無しで術を唱えられるのだっ!!

「知らないのなら教えてあげるわ。『詠唱破棄』という能力よ…この秘法を使えば詠唱なしで術を放てる便利な能力だが、魔力の消費量が上昇する反動があるので、連続で使うとすぐに魔力が切れてしまうというのが難点よ。」

リリシアの放った螺旋状の闇の魔力が、エルーシュを大きく後退させる。しかしエルーシュは怯む様子は見せず、再びリリシアの方へと向かってくる。

 「ほう…なかなかやるようだな。だが私は新たなる力を得たのだぁっ!!

リリシアにそう言い放った後、エルーシュは大きく口を開けて闇のエネルギーを集め始める。

「ヘルヘイムの瘴気と闇のエネルギーが…エルーシュの周りに集まっている!!あれだけ集まった闇の魔力をまともに受ければ、闇属性に強い私でも大ダメージを受けてしまうかもね。」

その不穏な気配を感じ取ったリリシアは、エルーシュの行動を阻止するべく再び闇の術を放つ。しかしリリシアが術を放った時には、エルーシュはすでに闇の魔力を集め終えていた。

「我が闇の魔力を喰らいなさい…エルーシュ!!

「ガアアアアアァァッ!!!

リリシアが闇の魔力を放った瞬間、エルーシュは集めた瘴気と闇の魔力を高出力の波動砲に変えてリリシアに放つ。しかしリリシアの術では防ぎきることはできず、波動砲の一撃をまともに食らってしまう。

「一足遅かったが…防ぎきってみせ…きゃあぁぁっ!!

波動砲の一撃を受けたリリシアは大きなダメージを受け、大きく後ろへと吹き飛ばされる。エルーシュは翼をはばたかせてリリシアの方へと向かい、嘲笑する。

「ハハハハハハハッ!!どうだリリシア…これが新たな力「堕天邪砲」だ!!さぁ、今度こそ貴様を闇に葬ってやろう。」

エルーシュは巨大な腕でリリシアを持ち上げ、大きな口を開けてリリシアを丸飲みにしようとする。

 「貴様は私の体の中で…魔力だけを放出し続けているがいいっ!!

リリシアをエルーシュの口の中へと運ばれようとした瞬間、何者かが放った光の魔力がエルーシュに炸裂する。エルーシュが術が放たれた方へと振り向いた瞬間、そこにはクリスの姿があった。

「き…貴様はいつぞやの小娘…また私の邪魔をするのか!!

突然のクリスの登場に、リリシアは加勢に来たクリスを見て驚きの表情を浮かべる。

「クリス、なぜ加勢に来たの…これは私の戦いと言ったはずよ…。」

「でも…私が加勢に来なかったら確実にあなたはエルーシュの餌食になっていたのよ!!その姿…まさかこれがリリシアの魔王としての姿!!

七大魔王としてのリリシアを見たクリスの言葉に、リリシアは本当はクリスたちの前では魔王の姿になりたくなかったという旨を話し始める。

「クリス、いつもの私じゃないでしょう…本当はクリスや他の仲間たちの前では私のこんな姿になりたくなかったの…。しかしエルーシュが魔竜の姿になった以上、ここは魔姫の姿になるしかなかったのよ。クリス、こんな姿になっても私を人間として見てくれる…?

「何言ってるのよ、たとえあなたがどのような姿になっても…私はあなたを人間として見るわ!!

人間として見るというクリスの言葉を聞いたリリシアは、笑顔の表情でクリスに仲間たちの所へと戻るようにと告げた後、再び戦いの場へと戻っていく。

 「ありがとうクリス…私、まだエルーシュと戦わなくちゃいけないから、あなたは仲間たちの所へと戻りなさい。」

リリシアが鉄扇を構えて戦いの場へと戻った瞬間、エルーシュは口から闇の炎弾を放ち仲間たちのところへと戻ろうとするクリスの背後を狙う。

「いつぞやの小娘め…貴様だけは逃がさん、我が闇の炎弾で灰にしてくれるっ!!

「逃げる相手を後ろから攻撃するとは卑怯な真似をしてくれるじゃないの…だがそうはさせないわよっ!!

リリシアは鉄扇を振るい、エルーシュが放った闇の炎弾を弾き返す。リリシアはクリスが無事に仲間たちのもとへと戻ったのを確認すると、鉄扇を構えてエルーシュに立ち向かっていく。

「エルーシュっ!!今度こそあなたを地獄に送ってさし上げますわよっ!!

「フハハハハハッ!!地獄に送ってやると言ったな…なら貴様をその言葉通りにしてやろう!!二度とこの世に生き返らぬよう、その首を食いちぎってくれるわっ!!

エルーシュがそう言い放った後、両者の熾烈なる戦いが幕をあけるのであった……。

 

 リリシアとエルーシュが戦いを繰り広げる中、偵察のためにヘルヘイムへと行っていたセルフィが驚きの表情を浮かべながら、エンプレスガーデンへと戻ってくる。

「イオニア様…エ、エルーシュが…看守長を殺してヘルヘイムの牢獄から抜け出しました!!しかもそれを追った牢獄署長までもが倒されたそうです!!

「何!!エルーシュが脱獄したですと…なら私が水晶玉でエルーシュの様子を見てみましょう…奴がもしフェアルヘイムに襲来したら、戦乙女たちがなんとかしてくれるから安心なさい。」

エルーシュが脱獄したとのセルフィの言葉を受け、イオニアは水晶玉を取り出し強く念じ始める。すると水晶玉には魔竜と化したエルーシュと紫の髪をした女が戦う風景が映し出される。

 「こ…これは一体!!エルーシュと戦っているのはまさか…ジーグルーネとともにヘルヘイム大監獄に侵入しオーディンの妻のエルザ様を救出したあの紫の髪の女じゃないの。あの娘がいればエルーシュを倒せるかもしれないわ。イオニア様…しばらくここであの娘とエルーシュとの戦いを観戦しましょう。」

リリシアとエルーシュの戦いを観戦しようというセルフィの言葉を聞いたイオニアは、仕方なく水晶玉を台座に置き、セルフィにエンプレスガーデンにいる者を私のもとに集めるようにと命じる。

「戦いが好きなあなたが言うのなら仕方ないわね。なら私のもとにエンプレスガーデンの皆を集め、エルーシュと戦う紫の髪の娘を応援しましょう!!

イオニアの言葉の後、セルフィはエンプレスガーデンにいる者たちをイオニアのもとに集まるようにと伝えるべく、居住区へと向かうのであった。

 

 エンプレスガーデンの者たちが水晶玉でリリシアとエルーシュの戦いを見守る中、二人の戦いはさらに苛烈さを増し、両者一歩も譲らぬ状況が続いていた。

「あれほどのダメージを受けたのにもかかわらず、まだ諦めぬというのか…いい加減倒れたらどうだ。」

「ずいぶんと強気な発言をしてくれるじゃないの…だが私はここで負けるわけにはいかないっ!!

緊迫した空気の中、エルーシュが先手を取り上空へと舞い上がり闇のエネルギーを集め再び波動砲を放つ態勢に入る。

「フハハハハッ…今度こそ貴様を最大出力の堕天邪砲で地獄に送ってくれるわっ!!」

エルーシュが高笑いを浮かべる中、リリシアはこの窮地を抜けるチャンスを探していた。

「またエルーシュが堕天邪砲を放つ態勢に入ったわ…しかもさっきのよりも巨大な奴を私に放つつもりみたいね。ここはなんとしてでも阻止しなきゃならないわっ!!

リリシアは鉄扇を使って砂煙を巻き起こし、エルーシュの目をくらませる。エルーシュが砂煙の中に映るリリシアの姿をとらえた瞬間、口から強烈な闇の波動砲を放つ。

 「砂煙をおこして目をくらまそうとするつもりか…最後まで無駄な足掻きをしよる小娘だ。だが貴様の命はここで終わりだっ…リリシアァッ!!

エルーシュは集めた闇の魔力を波動砲に変え、砂煙の中にいるリリシアに放つ。エルーシュが勝利を確信した瞬間、堕天邪砲を受けて跡形も無く消えたはずのリリシアがエルーシュの背後に回り込んでいた。

「フハハハハハッ!!これでリリシアは跡形も無く消えた…今度こそ私の勝…何ぃっ!?

「私を倒したつもりでしょうが…あれは私の幻影よ。さて、今度は私の番よ。」

リリシアは両腕に赤き炎の魔力を纏い、エルーシュに連打の一撃を放つ。

「我が赤き炎の魔力を込めた一撃…その愚かなあなた自身の体に焼きつけてあげるわっ!!

リリシアの放った連打の一撃を受けたエルーシュは空中で大きくバランスを崩し、地面へと墜落を始める。リリシアは態勢を崩して墜落を始めるエルーシュに追撃を加えるべく両足に赤き炎を纏わせた後、エルーシュめがけて急降下を始める。

「これで終わりよ…エルーシュッ!!爆炎豪断脚(ブレイズ・フェムル)ッ!!

炎を纏ったリリシアの蹴りの一撃が、エルーシュの体に炸裂する。魔姫の炎の蹴りを喰らったエルーシュは大きく地面へとたたきつけられ、大きなダメージを受ける。

 「はぁはぁ…もう立ちあがらないで。こちらもそろそろ魔力が尽きそうだからね…。」

エルーシュに強力な魔力を込めた一撃を放ち続けたせいで、リリシアは体力と魔力が限界に達し、魔姫形態が解除寸前の状態まできていた。一方リリシアの蹴りの一撃を受けて重傷を負ったエルーシュは翼をはばたかせて再びリリシアのもとへとゆっくりと向かってくる。

「うぐぐっ…七大魔王最強の存在であるこの私が…貴様のような下位クラスの魔王のリリシアごときにここまで追い詰められなければならんっ!!なぜだ…この俺がリリシアよりも劣っているというのかぁっ!!

「負け惜しみもいいところね…エルーシュ!!私の猛攻を受けてもなお立ちあがってくることだけは誉めてあげるわ。だがあなたは私には一生勝てない…それが真実というものよっ!!

私には一生勝てないというリリシアの言葉が、エルーシュの心に深い傷を負わせる。

「くそっ…くそがぁっ!!この私がリリシアより上だと言うのか!!ならば憎悪の念を解放し、堕天使を超えた魔天王となってやろう!!

エルーシュがリリシアにそう言い放った後、エルーシュの背中に生える三枚の天使の翼が禍々しい悪魔の翼となり、禍々しい魔天王へと変貌を遂げる。

「魔力はもう限界だ…リリシアへの憎悪の念が深いばかりに俺を堕天使を超えた存在にさせてしまったようだ。貴様を完膚なきまでに嬲り尽くし、私に絶望の叫びを聞かせてくれ…リリシアァッ!!

七大魔王の名を捨て魔天王となったエルーシュは雄たけびをあげ、青白く輝く魔眼でリリシアを睨む。魔力が尽きかけ窮地に立たされたリリシアに、勝機はあるのか!?

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