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蘇生の章2nd第六十八話 放たれし堕天使

 呪術によって伝説の鎧を纏いし暴君となった大司教ハバネロとの熾烈な戦いに勝利したクリスたちは、伝説の武具の一つである『ディアウスの鎧』を手に入れた。ハバネロは死ぬ間際に私よりも強い存在である『暴虐皇帝ジョロキア』がヘルヘイム宮下町にある『ミリアゴーシュ神殿』を統べる者であり、伝説の武具の一つである『サレウスの兜』を所有しているとクリスたちに告げた後、ハバネロは灰となり風に舞っていった…。

 

 大聖堂での戦いを終えた後、輝かしい街並みは朽ち果て元の姿へと戻った。クリスたちがヘルヘイム法王庁を後にしようとしたその時、伝説の武具の一つである『天帝の剣』と『アストライアの盾』を手にしたシュヴェルトライテとオルトリンデが現れ、クリスが伝説の武具を身につけられる適合者かどうかを試す。戦乙女に言われるがまま伝説の武具を構えると、伝説の武具はクリスを適合者と認め、拒絶する様子は見せなかった。戦乙女の二人は『天帝の剣』と『アストライアの盾』をクリスに託し、クリスに伝説の武具を届ける役目を終えた戦乙女はヴァルハラへと戻るのであった……。

 

 クリスたちがヘルヘイム法王庁を後にした後、玉座に腰かけるジャンドラのもとにミリアゴーシュ神殿を統べる暴虐皇帝ジョロキアが現れ、ハバネロが何者かによって倒されたということをジャンドラに告げる。

「ジャンドラ様…ハバネロの師である暴虐皇帝ジョロキアだ。たった今、大司教ハバネロの生命反応が消えました!!そして、アルバトロス大聖堂に保管されているディアウスの鎧も…何者かに盗まれました!!

「な…何だとぉっ!!ハバネロが倒された上にディアウスの鎧まで奪われてしまったか!!だが貴様はサレウスの兜を所有している…ジョロキアよ、何としてでも我が右腕のハバネロを殺した奴をブチ殺せ!!

ジョロキアはハバネロを殺され怒りの表情を浮かべるジャンドラを宥めた後、クリスたちを倒す策略を話し始める。

 「お気を確かにジャンドラ様…必ずやハバネロを殺しディアウスの鎧を奪った輩どもは私の持つサレウスの兜を狙って我が城であるミリアゴーシュ神殿へと訪れるはず。大丈夫だ…私には大司祭ハラペーニョと呪幻道士アマリージョがついておる。どれも強い味方で侵入者を容赦なく叩きのめしてきた神殿の番人だ、そう簡単には倒れんよ。」

ジョロキアの言葉の後、ジャンドラはサレウスの兜だけは何としてでも死守するようにと告げる。

「ジョロキアよ、私がかつて保有していた『天帝の剣』、『アストライアの盾』、『ディアウスの鎧』の三つが奪われた今、残り一つのサレウスの兜だけは何としてでも死守しなければならんっ!!ジョロキアよ、管理の方を怠らないようにな…。」

「分かりました…必ずやサレウスの兜をあらゆる脅威から守りぬいて見せます!!では私はミリアゴーシュ神殿へと戻ります。」

ジャンドラにそう告げた後、ジョロキアは王宮を後にしミリアゴーシュ神殿へと戻っていく。ジョロキアとジャンドラとの会話をを影で聞いていたニルヴィニアは、そう呟きながらその場を去る。

「伝説の武具を集めている者がいる…か。フェアルヘイムの奴らは実にくだらぬことをするものだな。だが私が欲しいのは伝説の武具ではなく地上界のみだ。なんせ私はジャンドラとは格が違うのだからな!!

ニルヴィニアが去った後、玉座に腰かけるジャンドラはすっかりなまってしまった体を動かすべく、玉座から立ち上がり訓練場へと向かっていく。

「うむ…ここ最近玉座に腰かけてばかりなので体がなまっているな。少しばかり訓練場の鬼教官の世話になるとするか。」

訓練場へと来たジャンドラは、早速教官に稽古をつけるようにと頼み込む。

 「教官よ…ここ最近体がなまってきたので稽古をつけてくれぬか?

ジャンドラの言葉を聞いた訓練場の教官はしばらく悩んだ後、ジャンドラに大人の背丈ほどある人形をジャンドラに渡す。

「ジャンドラ様…教官である私はヘルヘイムのお偉いさんに訓練を行うことはできない。そうだ、私が秘密裏に開発していたコピーロボットがある。そいつは自分そっくりの姿と能力をコピーすることのできる代物で、自分と戦うことができるのだ。だがひとつ注意点がある…コピーといえども実力は互角。下手をすれば命を落とす危険もあるから普通の訓練生にはこの訓練はしていないのだ。それでもやるというのなら、このコピーロボットを持って地下格闘場へと向かうがいい。地下格闘場は昔はよく稽古をつけるために使っていたが、今では新しく闘技場が作られたので使われなくなったのだ。今から転送陣を出すので、地下闘技場へと向かうときは私に一声かけてくれ…。」

教官から地下格闘場の存在を聞かされたジャンドラはコピーロボットを手に、教官に転送陣の展開を要請する。

「地下格闘場か…ここならだれにも邪魔されずに自分を磨くことができそうだ。教官よ、地下格闘場へと向かう転送陣の展開ををお願いする!!

「分かった。今から転送陣を展開させるので、少し待っていてくれ。」

教官が地下格闘場へと通じる転送陣を展開させた後、ジャンドラはコピーロボットとともに転送陣の上に乗り、地下格闘場へと向かっていく。地下格闘場へと来たジャンドラはコピーロボットを起動させ、早速戦闘訓練に入る。

「さてと…そろそろ戦いを始めようか、俺の分身よぉ…!!

「望むところだこのやろう…ヘルヘイムの将たるは我以外に無し、逆らう者は我が瘴気の刃で貴様を葬ってやろうぞ!!

ジャンドラと同じ能力を手に入れたコピーロボットが剣を構えた瞬間、ジャンドラは瘴気の剣を構えコピーロボットを相手にした戦闘訓練を始めるのであった……。

 

 一方ヴァルハラへと帰還したオルトリンデとシュヴェルトライテはオーディンのもとへと急ぎ、クリスたちに伝説の武具を届ける任務の完了を報告する。

「オーディン様、『天帝の剣』と『アストライアの盾』をクリスたちに届けてまいりました。もうひとつ報告がございます…クリスが伝説の武器を装備できる適合者だということが判明しました。彼女は天帝の剣とアストライアの盾を装備できるうえ、ディアウスの鎧までをも味方につけていました。」

クリスが伝説の武具を身につけられると聞いたオーディンは、驚きのあまり目が点になる。

「ま…まさか!!あの娘が伝説の武具を身につけられるというのは本当なのかっ!?それがもし本当の話なら、その娘こそが伝説の勇者なのかもしれぬな。だが最後の一つである『サレウスの兜』がなければ伝説の勇者の力は引き出せないのだ…。」

サレウスの兜が無いと勇者の力は引き出せないとのオーディンの言葉の後、戦乙女の二人は残念そうな表情を浮かべる。

「そうか…私たちもヘルヘイムに乗り込みたいのは山々だが、抗瘴気アンプルが無い状況でいけば私たちは瘴気の毒で倒れてしまいかねないからな。そうだ、道中で出会った魔物から巨大な角と血を採取しました。是非とも調合に役立ててください。では私はこれから訓練場へと向かいます。」

戦乙女の二人が道中で倒したアイシクルタスクの角と血をオーディンに渡した後、戦乙女の二人は戦闘訓練をするべく訓練場へと向かっていく。二人が玉座の間を離れた後、オーディンのもとに大臣が現れる。

 「オーディン様、先ほどエンプレスガーデン(女帝の庭)のイオニア様より伝令がございます。ヘルヘイムの『邪聖太后パプリカ』と『大司教ハバネロ』が何者かによって倒された…ということです。」

エンプレスガーデンのイオニアからの伝令をオーディンに伝えた後、オーディンはエンプレスガーデンがいかにして作られたかを話し始める。

「大臣よ…私が知る限りのことを話してやろう。エンプレスガーデン(女帝の庭)…あそこはフェアルヘイムとヘルヘイムを分かつ『絶望の断崖』の谷底にあると言われる陽光の降り注ぎし場所。噂では断崖に落ちたとある女帝が数年かけて作りあげた『男が入ることを許されない女だけの悠久の楽園』…と呼ばれているが、未だ謎に包まれている場所だ。」

オーディンの話の後、大臣は戦乙女が持ち帰った素材をもらってもよいかと尋ねる。

「こちらにある角と魔物の血は戦乙女の戦利品のようですね。魔物の血は体に蓄積された瘴気を消す『抗瘴気アンプル』を調合する材料として使えるな。氷塊のような角は加工して兵たちの武器に使えそうだな。オーディン様、私が貰ってもよろしいかな?

「この角と血はクリスたちを探すべくヘルヘイムへと向かっていたオルトリンデとシュヴェルトライテが魔物を倒して手に入れた素材だ。是非とも調合に役立ててくれ…とな。」

オーディンの言葉を受けた大臣は、戦乙女たちが手に入れた素材を手に玉座の間を去っていった……。

 

 大臣が玉座の間を去った頃、天界の某所にあると言われるとある庭園では美しい白衣を身に纏った女と悪魔の羽を生やした娘が話し合っていた。

「レヴィ様…ヘルヘイムでの出来事をオーディンに伝えるようにとヴァルハラの大臣に連絡しました。」

「報告ご苦労様です…イオニア様。私はそろそろヘルヘイムの宮下町に戻って情報収集&物資調達へと向かいます。」

レヴィが転送術を使ってヘルヘイムの宮下街へと向かった後、イオニアは静かに瞑想を始める。イオニアと別の場所では、長い髪をした女がヘルヘイムの女と何やら話をしていた。

 「あなたは借金を苦に絶望の断崖で身を投げて命を断とうとした迷える子羊…だがあなたは運良くこの女帝の庭・エンプレスガーデンに辿りついた。もしあなたが男だったらそのまま奈落の底に落ちていたわ。ここは絶望の断崖の間にあるといわれる女だけの悠久の楽園よ。ヘルヘイムにいても良いことなんて全然ないわ…苦しみのない悠久の時を私とともに過ごしましょう。」

どうやらこのヘルヘイムの女性は、借金が原因で絶望の断崖に身を投げて自殺を図ろうとしたが、運よくエンプレスガーデンに辿りついてしまったとのことであった。長い髪をした女がここで暮らしてみないと問いかけたところ、その女性は嬉しそうな表情を浮かべながら了承する。

「ここでは借金や貧困といった苦しみが何一つないというのなら…私、ここで暮らしますっ!!

「ここで暮らすという覚悟は決まったようね…ではこのエンプレスガーデンの事を話しましょう。ここはもともと何もない空間だったが、今では創造の神として崇められている『クリュメヌス様』と呼ばれるフェアルヘイムの女帝がここに落ち、数年の年月をかけて楽園を作り上げたのよ…いわば崖の間に木や土を乗せて作られた鳥の巣のような場所よ。このエンプレスガーデンはヘルヘイムとフェアルヘイムの間にあるの秘密の場所…ここでは人種や貧富の差なんて関係ないわ。ここではフェアルヘイムの人たちも暮らしているから、ヘルヘイムとフェアルヘイムの情報が同時に得られるのよ。新聞や食料といった物資なんかは転送術を使える者たちがたびたびここから抜けて買ってここに持ってくるのよ。ほら、そろそろフェアルヘイムに偵察に向かった人が帰ってきたわ。」

長い髪の女が一通りエンプレスガーデンの事を話した後、偵察のためにフェアルヘイムに出かけていた女が戻ってきた。

「アムリタ様…今日のフェアルヘイムの新聞と食料を調達してまいりました。あら…また新入りが入ってきたわね。」

「食料調達ごくろう…セルフィよ。今日からこの女帝の庭で暮らすことになったヘルヘイム人のメリィだ。この娘は借金を苦に絶望の断崖に身を投げたが、運よくここに辿りついたのだ。ところでレヴィから聞いたのだが、堕天使エルーシュとか言う奴はかつてフェルスティア七大魔王として君臨し地上界の大陸一つを支配していた…だが地上界の者たちによって倒され、現在は危険人物としてヘルヘイムの牢獄に幽閉されているとのことだ。それだけの実力を持つ者をもしジャンドラが解放すればどうなるかっ…!?

ジャンドラがエルーシュを開放すれば大変なことになるとのアムリタの言葉の後、セルフィはクリュメヌス様に祈りをささげに行くと告げた後、女帝の庭を作ったクリュメヌスの像のある神殿へと向かっていく。

 「アムリタ様、これはとてもやばい状況になってきたわね。七大魔王の中でも最強の存在であるエルーシュが解放されないよう、今から神殿に行ってクリュメヌス様の像にお祈りしなきゃいけないわ…。祈りをささげればきっとクリュメヌス様がなんとかしてくれますわ…。」

セルフィが去った後、アムリタは新入りのメリィに女帝の庭の案内に入るのであった…。

 

 一方ヘルヘイム王宮の地下牢獄では、血ぬられた大鉈を構えた看守長が聖と邪の六枚の翼をもつ者の前に現れ、今ヘルヘイムで起こっている出来事を告げる。

「死刑囚エルーシュよ、先ほどパプリカとハバネロが倒された…ハバネロは死ぬ間際にジャンドラ様に思念を飛ばしてきよった。聞くところによれば、紫の髪の小娘はヘルヘイム大監獄に侵入しオーディンの妻を救出させたということで非常に厄介な存在だとな。その事実を聞いたジャンドラはひどくお怒りのご様子だったぞ。」

看守長が紫の髪の小娘と言った瞬間、エルーシュの脳裏に見覚えのある女の姿が浮かんでくる。

 「紫の髪の小娘とは…まさか私を倒したという忌々しきリリシアのことかっ!!まさか奴がここに来ているとは知らなかった…俺がこの手で引導を渡したいところだが私は死刑囚だ。そういうことはジャンドラがやればいいことではないか…。」

エルーシュがリリシアの事を看守長に告げた瞬間、看守長は服のポケットから鍵を取り出す。

「ほう…あの娘の名を知っているのか。なら話は早い…今からそのリリシアとかいう奴の首を討ちとってこい!!そうすれば貴様の死刑は無かったことにしてやろう。」

看守長は牢の鍵を開け、エルーシュの手足を束縛する枷を外していく。エルーシュを縛る枷が外された瞬間、エルーシュは看守長を殺しヘルヘイム王宮の地下牢獄から脱出する。

「き…貴様っ!!裏切りよったな…ぐふっ!!

「解放してくれたことに礼を言う…貴様はもう用済みだっ!!フハハハハッ…今度こそあの忌々しきリリシアを我が力で葬り去ってくれるぞっ!!

看守長を殺し牢獄から逃げ出したエルーシュは六枚の翼を広げ、リリシアを討ち滅ぼすべく大空へと舞い上がるのであった……。

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