蘇生の章2nd第六十五話 法王庁の光と闇
レオニダス大聖堂に突入したクリスたちは、女たちを破壊神の生贄にしている邪聖太后パプリカを撃破し、囚われている女たちを救出することに成功した。一行がレオニダス大聖堂を後にし、次なる目的地であるヘルヘイム法王庁へと向けて足取りを進めるのであった……。
クリスたちがレオニダス大聖堂を後にしヘルヘイム法王庁へと足取りを進める中、オルトリンデとシュヴェルトライテが『天帝の剣』と『アストライアの盾』を手に、クリスたちの捜索へと向かっていた。
「うむ…クリスたちは死の山を抜けたというが、イングリッドの自爆で山ごと吹き飛んでしまい、ただの荒れ地になっているようだな。このようすだと時間をかけずともクリスたちが一晩を過ごしたというエスカデの村へと辿りつけそうだ。」
ブリスベン要塞があった死の山は、イングリッドの自爆により吹き飛び、ただの荒れ地と化していた。二人はごつごつした荒れ地を進み、デッドスノー雪原へと足を踏み入れる。
「地図を見る限り、ここから西に行けばエスカデの村だ。クリスたちはここで一晩を過ごした後、レオニダス大聖堂へと足取りを進めているようだ。シュヴェルトライテよ、我々も急ぐぞ。」
戦乙女の二人はクリスたちを追うべく、雪の降る雪原の中を進んでいく。しばらく雪原の中を進んでいると、巨大な二本の角を生やした獣が二人の前にたちはだかる。
「グオォォォォォッ!!!」
突如二人の前に現れた二本の巨大な角を生やした獣は天を衝くほどの雄たけびを上げ、戦乙女たちを威嚇する。
「こいつはヘルヘイムの凶暴な原生生物であるアイシクルタスクだ。氷でできた二本の角はヘルヘイムでは工芸品や武器として重宝されるが、その角を手に入れるために命を落とした狩人も少なくはないということだ…シュヴェルトライテよ、一気にけりをつけるぞっ!!」
「暴れることしか能のない獣など…我が刀の錆にしてくれようぞっ!!オルトリンデ、連係プレーで攻めるぞっ!!」
シュヴェルトライテの言葉の後、二人は武器を構えて怒り狂うアイシクルタスクを迎えうつ。シュヴェルトライテは居合の態勢に入り、二人の方へと走ってくるアイシクルタスクの前に立つ。
「オルトリンデ、ここは私が居合で角を切り落とす。そなたは角を切り落とした後で奴に攻撃をお願いするっ!!」
オルトリンデにそう告げた後、アイシクルタスクは居合の構えを取るシュヴェルトライテに突進を繰り出す。シュヴェルトライテは素早くアイシクルタスクの突進を避け、抜刀とともに二本の角を切り落とす。
「グルオオォォッ!!グルオォォッ!!」
氷でできた二本の角を斬り落とされたアイシクルタスクは、痛みのあまりその場に倒れもがき苦しむ。オルトリンデは両手に光の魔力を込め、アイシクルタスクに追撃を加える。
「煌めく光の魔力よ、渦巻く閃光の螺旋となり対象を焼き尽くさんっ!!シャイン・フィクサー!!」
オルトリンデが詠唱を終えた瞬間、大きな光の渦がアイシクルタスクを取り囲む。オルトリンデの放った光の渦は対象を捕捉すると同時に、渦から放たれる無数の聖なる粒子がアイシクルタスクの体を焼き払っていく。
「グルル……グルオォッ!!」
聖なる粒子に焼かれたアイシクルタスクが最後の雄たけびを上げた後、その場に倒れ動かなくなる。戦いを終えたオルトリンデが武器を収める中、シュヴェルトライテは自分が切り落としたアイシクルタスクの角を手に取り、それを鞄の中に入れる。
「これが氷獣の角か…これは売れば高く売れそうだが、氷の属性の武器を作るための素材としても使えそうだな…。」
「シュヴェルトライテよ、素材の採取もいいがそろそろクリスたちの捜索を再開す…ごほごほっ!!」
シュヴェルトライテにクリスたちの捜索へと向かうように告げた後、オルトリンデは突然苦しそうな表情を浮かべ、咳をしながら地面にうずくまる。
「オルトリンデ…大丈夫かっ!?」
オルトリンデの異変を察知したシュヴェルトライテは、オルトリンデに駆け寄り治癒を行う。
「わ…私は大丈夫だっ!!こんなところで立ち止まってはおれぬ…早くクリスたちのもとへと向かわな…ごほごほっ!!」
「この様子だと、ヘルヘイムの瘴気にやられているな。ここはオーディン様からもらいうけた『抗瘴気アンプル』があれば、体に蓄積された瘴気を完全に消すことができるが、それぞれひとつずつしか服用できない。なにせこの薬はつい最近捕獲されたヘルヘイムの魔物から採取された血液で作られた試作品だから、実用化には時間がかかるということだ。さぁ、飲むがいい。」
シュヴェルトライテが鞄の中から試作品の抗瘴気アンプルを取り出し、瓶の蓋を開けてオルトリンデに飲ませる。シュヴェルトライテから手渡された薬を飲んだ瞬間、オルトリンデの体に力が戻ってくる。
「ありがとう…薬を飲んだ途端に咳が止まり、体が動くようになった。これならまだ探索を続けられそうだが、薬はシュヴェルトライテの分しかない。もし私が今のような状態になったら、ヴァルハラに戻るしかないな…。」
「ひとつ言い忘れていたが、抗瘴気アンプルは一つ飲めば一日間ヘルヘイムの瘴気を受け付けなくなる。アンプルが残り一本なら私とオルトリンデで半分ずつ飲めばいい。この薬は半分でも効果があり、半日はヘルヘイムの瘴気から身を守れるだろう。素材さえあれば調合はできるが確率はものすごく低い…必要な素材はヘルヘイムの魔物の血と癒しの水があれば可能だが、成功確率は10%程度みたいだな。そうだ、先ほど倒した奴から少しばかり血を拝借すれば、ヴァルハラに戻った時に何かと役立つかもしれないな。」
シュヴェルトライテは鞄から何も入っていない小瓶を取り出し、アイシクルタスクから血を採取する。
「これでよし…と。これだけあればヴァルハラに戻って調合ができそうだ。さて、そろそろクリスたちの捜索を再開しようか…。」
凶暴な二本角の魔物・アイシクルタスクを退けた二人は、クリスたちの捜索を再開するのであった……。
戦乙女の二人がクリスたちの後を追う中、レオニダス大聖堂を後にした一行は次の目的地であるヘルヘイム法王庁へと向かっていた。
「オーディンの話によると、ヘルヘイム法王庁に着けばヘルヘイム王宮までは目と鼻の先ということね
。しかしパプリカがハバネロにやられる前に言っていた伝説の武具の一つであるディアウスの…って一体何のことかしら?」
目的地に向けて足取りを進めるクリスがそう呟くと、カレニアが何か怪しい
「伝説の武具と聞けば…きっと強い力を持つ武器か防具あたりね。まぁジャンドラの支配しているヘルヘイムにあるから、何かしらの呪いがかけられている可能性が高いわよ。身につけたら一生離れなくなるとか、体の自由がきかなくなるかもしれないわよ……。」
ディアウスの名を持つ伝説の武具が呪われている可能性があるというカレニアの言葉に、クリスは武具が呪われているならその呪いを解けば装備できるかもしれないと気づき、カレニアにこう答える。
「ねぇカレニア。何かしらの呪いがかけられているなら、その呪いを解く方法もあるんじゃないかな。もし呪いが解ければ、何の問題もなく身につけられるかもしれないわ。だが伝説の武具というだけあって、選ばれし者だけが身につけられるということもあるのよ。私たちのなかでそれを装備できる人がいればまさに奇跡というものよ。」
クリスの言葉を受け、カレニアは頭を抱えながらこう答える。
「うーん…確かにクリスの言葉に一理あるかもしれないが、その話の続きはディアウスの名を持つ伝説の武具を手に入れてからにしましょう。もうそろそろ街が見えてきたわ。どうやらこの先にある街こそがヘルヘイム法王庁みたいね。私たちはパプリカとの戦いで体力と魔力を大幅に消費しているから、宿で一休みしてから街の散策を行いましょう。」
パプリカとの戦いで大きく失った体力と魔力を回復するため、一行はヘルヘイム法王庁へと足を踏み入れる。法王庁と呼ばれるだけあって、金色に輝く教会や民家が立ち並んでいた。
「うわぁ…全ての建物が金色でできているわね。この家に住んでいる人たちは全て金持ちみたいね。さて、宿をさがしながら街の散策を始めるわよ。」
宿を探して街を歩くクリスたちの前に、突如金色のローブをまとった男がクリスたちに話しかけてきた。
「ようこそ…ヘルヘイム法王庁へ。法王庁は法律をつかさどる神聖なる場所。この街の中央にあるアルバトロス大聖堂こそこの法王庁の中枢とも言われており、我らが大司教と崇めるパプリカ様がそこにおられるのだが、アルバトロス大聖堂は入口の無い大聖堂。故に入る方法は我々ハバネロ教徒しか知らないのだ。まぁ一般人には大聖堂に入る方法は教えないけどな。おっと、そろそろ礼拝の時間だな。」
金色のローブがクリスたちにそう告げた後、男は礼拝をするべく教会へと急いでいく。ローブの男が去った後、リリシアはクリスたちを集めて話し合いをする。
「アルバトロス大聖堂は入口のない大聖堂…か。それならハバネロのいる場所へと向かうことはほぼ不可能に近そうね。ならば酒場で情報収集しかないわね。しかし今は昼なので酒場はあまり賑わっていなさそうだから、宿で夜まで一休みしてから酒場に行きましょう。」
リリシアの言葉の後、クリスはリリシアの提案に賛成する。
「なるほど…夜の酒場は酒を飲む人が多いから得られる情報も多そうね。なんとかしてアルバトロス大聖堂に侵入する方法を得なきゃね。」
一行は酒場がにぎわう夜を待つべく、近くの宿屋へと立ち寄り夜まで休息をとることにした。クリスたちが立ち寄った宿も金でできており、高貴な雰囲気を漂わせていた。
「うわぁ…宿までもが金でできているわ。とりあえず店主に夜まで休むということを伝えておくから、そこで待っててちょうだい。」
クリスたちに待つようにと告げた後、カレニアは宿の店主と交渉を始める。
「すみません…私たち夜まで休みたいのですが、代金はいくらなのでしょうか?」
「夜まで休まれるのですか?一階と二階の部屋はハバネロ教徒専用のスイートルームですので、一般の方は地下の部屋が利用可能です。地下の部屋には風呂などの設備はついてませんので、夜まで休まれるのなら代金は無料です。」
夜まで休む料金が無料だと聞いたカレニアは、嬉しそうな表情で宿の店主に案内するよう要求する。
「夜まで休めるならどんな部屋でも構いませんわ。店主さん、私たちを案内してください。」
カレニアが宿の店主との交渉を終えた後、クリスたちは宿の店主に連れられ地下の部屋へと案内される。部屋に来たクリスたちが部屋のドアを開けた瞬間、そこには上層とは大違いの光景が目に映る。
「な…なによこの部屋はっ!?ベッドも明りもついてないわ…これじゃあ泊まる部屋とは言えないが、夜が来るまでの辛抱よ。」
呆れた表情のカレニアがそう呟いた後、クリスの隣の部屋で休息を取っていた客人が現れ、法王庁の現実をクリスたちに告げる。
「君たちも夜まで休息に来たのかい…このヘルヘイム法王庁はハバネロ教徒だけがリッチな暮らしができる…。俺や君たちのよう一般人はゴミ扱いさ。俺は今から夜までここで休み、近くの酒場で酒を飲みに行くところなんだが、夜が来たら君たちも一緒に来ないか?」
「是非ともお願いします!!私たちはハバネロの待つアルバトロス大聖堂へと入る方法を探しているのよ。夜の酒場ならきっと入り方を知っている人がいるかもしれないと思うからね。」
クリスの言葉を聞いた客人は、酒場に出入りしているハバネロ教徒がいるということを伝える。
「少し前にハバネロ教徒の一人が酒場で酒を飲んでいるところを見かけたことがある。酔っぱらっている奴を見つけて吐き出させれば大聖堂に侵入する方法は得られるはずだ。君たち、夜になったらまた会おう!!」
客人がそう言って部屋へと戻った後、クリスたちは夜が来るまで休息をとるのであった……。