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蘇生の章2nd第五十九話 ヴァルハラ攻防戦

 デッドスノー雪原の魔物に襲われないよう急ぎ足でエスカデの村へと到着したクリスたちは、イングリッドとの戦いで大きく消耗した体力と魔力を回復させるべく、宿で一晩の休息を取ることにした。一方ヘルヘイム大監獄の探索を行っているシュヴェルトライテ率いる地下牢獄攻略隊は最下層にある閉ざされた部屋の鍵を解除し、内部へと入り調査を進めていた。内部には機能していない転送陣が数か所と、どこかに続いているのも分からない地下道が広がっていた。シュヴェルトライテがオルトリンデに閉ざされた部屋の内部について話した後、彼女たちはシュヴェルトライテ達と合流するべく地下牢獄の最下層へと向かって行った。オルトリンデが地下牢獄の最下層へと向かう中、戦乙女と戦士たちが任務で出払っているヴァルハラに、また新たな闇が近づきつつあった……。

 

 見張りの兵士からヴァルハラにヘルヘイムの兵たちが来ているとの報告を受けたオーディンは、精鋭の部下たちを招集するべく、テレパシーストーンで通信を始める。

「こちらオーディン…見張りの塔で見張りをしている兵士からヘルヘイムの奴らが攻めてくるとの報告を受けた。至急武装し、王座の間へと急行せよっ!!

オーディンが通信を終えてから数分後、王座の間に屈強な四人のオーディンの精鋭の部下たちが現れる。

「オーディン様…ここは私たちにお任せください。おっと、自己紹介が遅れました。私は重装部隊を束ねる重装兵隊長、重剣聖ガレリアだ。私の隣にいる娘さんは掃射部隊隊長、天翔弓サーラ。サーラの隣にいる斧を持っている者は私と同じ重装兵、重斧公ギガント・ブル。そして最後に黒いローブを身に纏っている者は魔術に長けた女魔導士、エリスだ。」

前に出たガレリアが四人の自己紹介を終えた後、オーディンは四人の精鋭の部下たちにヴァルハラを襲撃するヘルヘイムの兵たちの殲滅命令を出す。

 「うむ…実に頼もしい限りだな。先ほどこの宮殿の北側に多数の魔物の気配を感じた。万が一に備え、大広間に重装兵を数十人ほど配置しておいた。そなたたちは重装兵たちとともにヴァルハラの北側へと向かい、ヘルヘイムの兵たちの殲滅へと向かうのだ!!

オーディンからヘルヘイムの兵たちの殲滅を命じられた四人の精鋭の部下たちは、ヴァルハラに向かいつつあるヘルヘイムの軍勢を迎え撃つべく、大広間に集まっていた重装兵たちと合流し宮殿の北側へと移動する。宮殿の北側に集まった瞬間、ヘルヘイムの兵たちを乗せた黒き怪鳥は急降下を始めヴァルハラへと降り立つ態勢に入る。

「おっ、奴らどうやら私たちの気配を察知したようだな。皆の者、武器を構えて戦闘態勢に入れっ!!

ガレリアがそう呟いた瞬間、武器を構えたヘルヘイムの兵たちが黒き怪鳥の背中から飛び降り、ヴァルハラへと着陸する。

「俺が兵たちの相手をする。サーラ!!お前はあのでかい鳥を撃ち落とせ!!

「了解しました。あの黒い鳥を撃ち落とせばいいんですね…。卓越した弓の腕を久々に披露する時ですわね。」

ブルがヴァルハラへと降り立った兵たちを迎え撃つ中、サーラは弓を矢をセットしヴァルハラ上空を飛ぶ黒き怪鳥に狙いを定める。彼女が黒き怪鳥に狙いを定めた後、力いっぱい弓を引き絞り空へと矢を放つ。

 「狙いは十分定まった…我が矢の一撃よ…悪を貫けっ!!

サーラが弓を放った瞬間、黒き怪鳥は彼女が放った矢に射抜かれる。サーラの放った矢によって心臓を貫かれた黒き怪鳥は、バランスを失いヴァルハラへと墜落する。

「よし…サーラのおかげで背中に乗っているヘルヘイムの奴らはしばらく気を失って動けなくなった。重装兵よ、ヘルヘイム兵たちを一掃するのだっ!!

ガレリアの命令を受け、重装兵たちは一斉にヘルヘイム兵たちに突撃する。重装兵たちの活躍により、黒き怪鳥の背中に乗っている兵たちの大半を打ち倒すことに成功した。

「うぐぐ…このままではヴァルハラを制圧する前に私たちがやられてしまう…重牙公爵フランジ様…後は頼んだ…ぐふっ!!

ヘルヘイムの兵の指揮官と思われる人物が息絶える間際、彼の懐の中にある緊急時転送装置のスイッチを押していた。その瞬間、闇の回廊が現れ、堅牢強固な黒き鎧を身にまとい、二本の巨大な牙を持つ騎士が彼らの前に現れる。

 「ほう…俺を呼ぶほどの強い者が現れたようだが、それは誰のことだ?

重装兵によって倒された兵士の指揮官に呼ばれたフランジは、巨大な剣を片手にヘルヘイムの兵士たちの方へと近づいていく。突如ヴァルハラに現れたフランジの姿を見た兵士たちは、恐怖のあまり後ずさりをはじめる。

「こ…こいつらのことですっ!!こいつらが我が兵たちを……っ!!

「このお方は重牙公爵フランジ様だ…少しでも余計な真似をしたらお前らのような下級兵士なんて、このお方の大剣の一振りで消し飛ぶぞっ!!

ヘルヘイムの兵の言葉を受けたフランジは、ガレリアたちの方へと近づき大きな剣を突きつけながらそう言い放つ。

「強き者というのは貴様らのことだな…。貴様らはヘルヘイムの王宮兵たちをことごとく討ち滅ぼしてきたそうだな。戦場で倒れた兵たちの恨み、貴様らの命で償ってもらおうっ!!

フランジの挑発的な言葉の後、ガレリアは大剣を構えてフランジに宣戦布告する。

「貴様のような筋骨隆々の男を見ると、戦いを私とて戦闘意欲がわいてくるものだ…行くぞっ!!

その言葉の後、ガレリアは大剣を構えてフランジに斬撃を食らわせる。しかしフランジは斬撃を受け流すべく、巨大な牙大剣を盾にしてガレリアの一撃を防御する。

 「貴様、なかなかの剣の腕だな。おっと、私の大剣はヘルヘイムに生息する凶暴なデスザウラーの牙を用いたアトロシスファングだ。食物連鎖の頂点に立つデスザウラーの牙は強固な鎧をも噛み砕く凶悪な切れ味…それを大剣にすれば…重装兵の鎧など紙切れ同然だっ!!

フランジの全体重をかけた重い斬撃が、ガレリアを徐々に後ろへとのけぞらせる。しかし

「むむ…この私がここまで追い詰められるとはな。だが、私とて負けられんよっ!!この大聖剣ヴァレンティアにかけて、私は貴様を討つっ!!

窮地に陥ったガレリアはこの状況を打開するべく、構えた大剣に自らの魔力を注ぎ込み始める。するとガレリアの手に持った大剣が光を帯び、白く輝く巨大な剣と化す。

「な…なにが起こっているのだっ!!

「教えてやろう…私の持つ大聖剣ヴァレンティアのように、魔力ある剣は己の魔力を注ぎ込むことにより無限大の力を発揮できる。数多の魔物の牙や爪を用いて作られた貴様ごときの大剣とは大違いなのだよっ!!

フランジにそう言い放った後、ガレリアは鍔迫り合いに競り勝ち、フランジを大きくのけぞらせる。鍔迫り合いを制したガレリアは白く輝く大剣を構え、必殺の一撃を放つ態勢に入る。

 「我が剣に眠りし聖女帝ヴァレンティアよ…今こそあなたの力を解き放ち、悪を討つ光の斬撃とならんっ!!受けてみろ我が渾身の一撃をっ……神の斬撃(レギンレイヴ)ッ!!

ガレリアが魔力を込めて大剣を振り下ろした瞬間、天を貫くほどの高さと化した巨大な光の斬撃がフランジに叩き込まれる。フランジは大剣を構えて防御態勢をとるが、あまりにも巨大な一撃はその防御を打ち破り、神なる一撃がフランジの体に炸裂する。

「フェアルヘイムの重装兵に私を打ち破るほどの者がいたとはな…。敵ながら見事なり……ぐふっ!!

神なる一撃を受けたフランジは最後の言葉を残した後、跡形もなく消滅する。フランジとの戦いを終えたガレリアは、ヘルヘイム兵と戦っている仲間の応援へと向かう。

「こっちは終わった。今から私も君たちの応援に向かう!!

ガレリアが駆け付けた時には、ヘルヘイムの兵たちはすでに他の者たちによって倒されていた。

「ガレリア様…ヘルヘイム兵たちはすでに私たちが殲滅したわよ。とりあえず…オーディン様に任務完了の旨を伝えに行きましょう。」

「そうだな…これでヘルヘイムの兵力は格段に落ちたな。だが安心はしてはならん…奴らはヴァルハラを本気で攻め落とすつもりだから、またここに来るかもな…だから、今後もヘルヘイムの奴らを徹底的に叩く必要があるぜ。」

ヘルヘイムの兵の殲滅を終えたガレリアたちは、任務完了の旨をオーディンに報告するべく謁見の間へと向かうのであった……。

 

 クリスたちが宿で一晩休息を取っている間、オルトリンデたちがシュヴェルトライテたちと合流し、閉ざされた部屋の地下道の探索へと向かうべく、シュヴェルトライテが調査開始の声を上げる。

「みんな集まったようだな…これより地下道の調査を始める。言っておくが、ここから先は我々にとっては未知の世界。いつどこで敵が現れるかわからないので、一時も気を抜くでないぞ…。」

地下道の調査を始めるとのシュヴェルトライテの言葉の後、一行は雄たけびを上げながら暗闇の地下道の調査へと向かう。

「ここから先は真っ暗闇で何も分からない…。ここは私に任せてくれ。」

オルトリンデは鞄の中から玉のようなものを取り出し、自分の魔力を込め始める。オルトリンデの魔力が注ぎ込まれた瞬間、光り輝く玉となってあたりを明るく照らし出す。

 「この玉は魔力を込めることによって暗闇を照らすライトボールだ。これは洞窟や地下道などの暗い場所へで効果を発揮する代物だ。これなら暗い地下道も安全に進めることができる。だが魔除けの効果は持ち合わせてはいない…気をつけろ。」

オルトリンデの言葉の後、戦乙女と戦士たちはどこに続くかも分からない地下道の奥へと向かっていく。しばらく奥へと進んでいると、目の前に干上がった魔物の死体が目に映る。

「魔物がいる…だが生命反応が感じられない。どうやら体中の血の抜かれているようだな。まさかこの地下道の先に吸血鬼のような化け物がいるとでも言うのか……!?

オルトリンデの言葉の後、地下道の天井から何やら不気味な姿をした魔物がうめき声を上げながら近づいてくる。

「血…血だ……もっと我に血をくれっ!!魔物の血は飽きた…人間の血が欲しいっ!!

その言葉の後、天井を這う魔物は人間の血の気配を察知し一行の前に現れる。

 「見つけた…活きのいい人間がっ!!早速血を頂くとするかぁっ!!

不気味な魔物が彼らの前に現れた瞬間、オルトリンデは戦闘態勢に入るようにと戦乙女と戦士たちに命令する。

「皆の者、武器を構えて戦闘準備をっ!!確かあの不気味な魔物はヘルヘイムの魔物図鑑に載っている第三種接触禁忌魔物の一つ、ブラッドサッカーだ。手足に生える鋭い爪は猛毒を持ち、奴に噛まれれば最後、全身の血を吸いつくされて干物にされてしまうぞ!!油断すればあっという間にあの世行きだぞっ!!

オルトリンデが仲間たちにブラッドサッカーが最も危険な魔物の階級である第三種接触禁忌魔物なので油断はするなとの注意喚起を促した後、ブラッドサッカーは長い舌を伸ばしてオルトリンデに襲いかかる。しかしオルトリンデはブラッドサッカーの舌をかわし、レイピアを舌に突き刺す。

「フン…これしきの攻撃で私は倒せんっ!!

「グギャアアアァッ!!

舌にレイピアを突き刺され、ブラッドサッカーはうめき声を上げながら舌に突き刺さったレイピアを抜こうとする。オルトリンデは他の者は手を出すなと戦乙女と戦士たちにそう告げた後、両手に聖なる魔力を集め術を放つ態勢に入る。

「接触禁忌魔物だろうと関係ない…そなたたちの手助けはいらない…私ひとりで十分勝てる相手だ!!

オルトリンデの言葉の後、両手に集めた聖なる魔力を一点に集め術の詠唱に入る。

 「我が聖なる魔力よ、聖なる炎となりて対象を焼き尽くさん…セイント・フレイム!!

詠唱を終えた瞬間、聖なる炎の渦がブラッドサッカーを覆い、焼き尽くす。悪を打ち払う聖なる炎はブラッドサッカーの体を焼き尽くすと同時に、体内に蓄積された血を蒸発させる。

「熱い…このままでは体中の血が蒸発して……グワアアアァァッ!!!

その言葉を最後に、ブラッドサッカーは完全に蒸発し跡形もなく消滅する。

「何が第三種接触禁忌魔物だ…口ほどにでもない!!皆の者、調査を再開するぞっ!

第三種接触禁忌魔物であるブラッドサッカーを打ち破った一行は、地下道の調査を再開するのであった。最下層の閉ざされた部屋から続く地下道の奥には、一体何があるというのだろうか……。

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