蘇生の章2nd第五十七話 要塞女帝【イングリッド】(2)
戦乙女と戦士たちがヘルヘイム大監獄へと向かう中、クリスたちはイングリッドが操る巨大な機械巨兵、アラゴンギガントに苦戦を強いられていた。その圧倒的不利な状況を打開すべく、リリシアはクリスたちの魔力を一点に集中させた闘気の球体を脚部に放ち、アラゴンギガントを転倒させることに成功した。アラゴンギガントが倒れた瞬間、リリシアとクリスは一斉に操縦席にいるイングリッドを外に出した後、ブリスベン要塞の中心部の破壊に成功した。中心部破壊した後、崩壊しつつあるブリスベン要塞から脱出するべく出口へと向かうクリスたちの前に、気を失っていたイングリッドが立ちふさがり、クリスたちに襲いかかるのであった……。
ブリスベン要塞の中心部を破壊され、怒り心頭のイングリッドはジャンドラの死霊の力を使い、邪悪なる悪魔を思わせるような禍々しい姿へと変身し、クリスたちに襲いかかる。
「ククク…まずは私のアラゴングレートを傷つけてくれた紫の小娘から痛めつけてやるぅっ!!」
イングリッドは鞭のようにしなる長い尻尾を振り回し、リリシアを攻撃する。一度は長い尻尾の一撃を回避するが、イングリッドは尻尾を伸ばし、リリシアの体を巻きつける。
「尻尾を振り回しても…私には当たらな……きゃあぁっ!!」
「フン…私の力を舐めてもらっては困るな…ジャンドラ様の計画の邪魔をした貴様らには地獄以上の恐怖を味わってもらうぞっ!!」
クリスたちにそう言い放った後、イングリッドは尻尾でリリシアを巻きつけたまま、大きく地面にたたきつける。イングリッドは痛みのあまり地面にうずくまるリリシアに追撃を加えるべく、手のひらに膨大な闇の魔力を集め、リリシアに止めを刺そうとする。
「私の計画を邪魔した者め…私の闇の魔力で葬ってくれるわぁっ!!」
イングリッドが闇の魔力を放とうとした瞬間、一瞬の隙をついてイングリッドの背後に回り込んだカレニアがイングリッドの尻尾を斬り落としリリシアを救出する。
「リリシア…大丈夫っ!!」
「うぐっ…背中にダメージを負ったけど、なんとか大丈夫よ。気をつけて、奴はかなり戦闘力が上がっているわ。私たちの手には負えないくらいに…ね。」
リリシアの言葉の後、カレニアがリリシアを元気づけるべくこう答える。
「何言ってるのよ…今は手には負えないかもしれないけど、今はイングリッドと戦うしかないのよ。私たちが力を合わせれば、勝てる可能性はゼロではないわ…諦めなければ勝機はきっとあるわっ!!」
カレニアの言葉の後、クリスたちのもとへと戻ってきた二人は再び戦闘態勢にはいる。
「くっ…一瞬の隙をついて尻尾を斬り落とすとはな。だが貴様らだけは生かしては帰さん…この要塞とともに滅びるがいいっ!!」
イングリッドがクリスたちにそう言い放った後、四枚の翼をはばたかせ大きく空中へと舞い上がる。空中へと舞い上がったイングリッドは手のひらから次々と光弾を放ち、クリスたちに襲いかかる。
「奴が空中に舞い上がったわ…このままでは崩れゆくブリスベン要塞とともにつぶされてしまうわ。ここは奴の動きを封じることさえできれば、なんとか地上に引きずり降ろせるのですが…。」
空中を飛びまわりながら攻撃を仕掛けてくるイングリッドに苦戦を強いられている中、ゲルヒルデがクリスたちの前に立ち、自信満々な表情でクリスたちにそう告げる。
「奴の動きを封じればいいのですね…ならば私に任せてください!!」
クリスたちの前に出たゲルヒルデは、イングリッドの動きを封じるべく術の詠唱を始める。ゲルヒルデが詠唱を始めた瞬間、彼女の周囲に魔法陣が浮かび上がる。
「聖なる魔力よ…悪しき者の動きを封じる円陣とならんっ!!パラライシス・サークルっ!!」
ゲルヒルデが詠唱を終えた瞬間、魔法陣から次々と円盤状の聖なる魔力が放たれる。放たれた円盤状の聖なる魔力はイングリッドを追尾し、徐々に壁際へと追い詰めていく。
「くっ…小娘め小癪な真似をっ!!だがこの場は逃げ続ければよ……うぐぐっ!!」
逃げ続けるうちに壁際に追い詰められたイングリッドに、ゲルヒルデの放った円盤状の聖なる魔力が命中する。円盤状の聖なる魔力がイングリッドの体に触れた瞬間、イングリッドの体が麻痺し大きく地面へと墜落する。
「でかしたぞゲルヒルデ!!よし、みんな今のうちに攻撃だっ!!やつの翼さえ破壊することができれば、一気に戦いが有利になるかもしれないぜっ!!」
ディンゴの言葉の後、クリスたちは麻痺して動けないイングリッドに攻撃を仕掛ける。クリスたちの一斉攻撃により、イングリッドの背中に生える四枚の翼は破壊され、空を飛ぶことが不可能となる。
「うぐぐぐ…ジャンドラ様の死霊の力で強化した私をここまで追いつめたことは誉めてやろう。だが、どの道貴様らは生きては帰れぬ…私の最後の力で貴様らを葬ってくれるっ!!」
そのことなの後、イングリッドは全身に魔力を込め最後の一撃を放つ態勢に入る。
「冥土の土産に貴様らに教えてやろう…私の最後の力とは全身に全ての魔力を込めて大爆発を起こす自爆技だ。その威力は…ジャンドラ様の魔力のざっと6倍以上だ。私の爆発に巻き込まれた者はむろん骨のかけらも残らぬ…この要塞もろとも消えるがいいっ!!」
自爆の態勢に入ったイングリッドは徐々に体が膨張し、今にも爆発しそうな状態であった。
「奴の自爆に巻き込まれたら…確実に私たちはこの世から消滅してしまうわ。ゲルヒルデ、結界をお願いっ!!」
「リリシア様、奴の体からは膨大な魔力が詰まっている状態よ。私の結界でも自爆の爆風は防ぎきれないわ…でももう時間がないわ。みんな、私の近くにっ!!」
ゲルヒルデは急いで全員を集めた後、結界の術の詠唱を始める。ゲルヒルデが詠唱を唱えている中、イングリッドの体にヒビが入り、後数秒で大爆発を起こしかねない状況であった。
「聖なる魔力の結界よ…仲間たちを守る結界とならんっ!!サンクチュアリ・フィールドっ!!」
ゲルヒルデが早口で術の詠唱を終えた後、クリスたちの周囲に結界が張られる。クリスたちの周りに結界が張られた瞬間、ついにイングリッドの体が破裂し、強大な爆発が巻き起こる。
「うぐぐっ…これほど強大な威力だと、結界が壊れてしまいそうだわ。けど、仲間たちを守るのが私の役目だから、ここは何としてでも防ぎきってみせるっ!!」
ゲルヒルデは魔力を結界に込め、結界の耐久値をさらに強化させる。しかし爆発とともに巻き起こった爆風の威力により、ゲルヒルデの結界の数か所にヒビが入りつつあった。
「ゲルヒルデの結界にヒビが…さすがにこの状況はやばそうね。ここは私もあなたに協力するわっ!!魔導の術…フェザー・バリアっ!!」
ゲルヒルデをサポートするべく、鉄扇を羽の防壁に変えてゲルヒルデの結界に上乗せする。広範囲の二つの結界が合わさり、結界はさらに強度を増す。
「ぐっ…このままじゃ魔力が持たない……ここはみんなの魔力を結界に込め、結界を強化するのよっ!!」
リリシアがクリスたちに魔力を込めるようにと告げた後、クリスたちは魔力を集め結界を強化する。リリシアの言葉の後、さらに強烈な爆風が結界に包まれたクリスたちを襲った……。
一方そのころ、大司教であるハバネロが玉座の間にいるジャンドラのもとに駆けより、今起こっている状況を説明する。
「ジャンドラ様!!イングリッドの生命反応が消えました…それと同時に、ブリスベン要塞も破壊されました。見張りの者の情報によると、死の山で巨大な爆発があった模様です。」
ハバネロから現在の状況を聞かされたジャンドラは、驚きのあまり目が点になる。
「まさか…イングリッドの奴、自爆を使いよったか!!追い詰められた時に使うようにいっていたが、まさか彼女をそこまで追い詰める者がいたとはな……まさか戦乙女がっ!!まぁいい、危険因子は少しでも取り除けただけでも好都合だ。大司教ハバネロよ、報告ありがとう。」
ジャンドラの言葉の後、ハバネロは自分の持ち場へと戻っていく。ハバネロが玉座の間から去った後、ジャンドラは、イングリッドの死を悼む。
「ううっ…イングリッドよ、私の部下である君がいなくなると私は悲しい…だが、君は最後に戦乙女とかいう危険因子を道連れにしてくれた。これを契機に、フェアルヘイムを第二のヘルヘイムに変える夢に一歩近づいたというわけだ…ハッハッハッ!!!」
ジャンドラが高笑いを浮かべる中、邪光妃の異名を持つニルヴィニアが玉座の間に現れる。
「ほう…フェアルヘイム第二のヘルヘイムに変える作戦はうまくいっているようだな。だが私の理想は貴様とは違う。私はフェアルヘイムだけでは物足りぬ。下界も…我がものにしたいのだ。言っておくが、そなたには邪魔はさせんぞ。」
ジャンドラを敵視するニルヴィニアの言葉に、ジャンドラは冷たい笑みを浮かべながらニルヴィニアに言い返す。
「フン…好きにするがいいさ。私は貴様ごときには負けぬ。なぜならば私は、ヘルヘイムの将だからだっ!!」
「フフフ…私の理想と貴様の理想。どちらの理想が上かいずれ分かるだろう…私は淑女だから今ここで貴様と雌雄を決するつもりはない。ジャンドラよ、私は今から部下たちとともに宮下町の見回りに向かうぞ…。」
ジャンドラにそう告げた後、ニルヴィニアは玉座の間を去り宮下町の見回りへと向かう。彼女が去った後、ジャンドラは歯を食いしばりながら悔しがる。
「うぐぐ…あの女にここまで言われちゃ黙ってはおれんっ!!我がヘルヘイム王宮兵をヴァルハラに送り込み、今すぐにでも陥落させてやるっ!!あの女に先を越されてはヘルヘイムの将の一存にもかかわる…今すぐにでも計画を執行に移し、あの女を出し抜いてやるっ!!」
ジャンドラがそう呟いた後、ヴァルハラを襲撃する準備をするべく急いで兵士たちのいる詰め所へと向かうのであった……。
一方爆発に巻き込まれたクリスたちは、リリシアとゲルヒルデの結界によって消滅は免れた。だが、イングリッドの自爆によって発生した爆風に大きく飛ばされ、ブリスベン要塞のあった場所とは別の場所へと飛ばされていた。
「うぐぐ…二人の結界のおかげでなんとか死なずに死んだけど、一体ここはどこかしら…。」
クリスがあたりを見回した瞬間、そこには一面の銀世界が広がっていた。クリスの言葉を聞いたカレニアは、鞄の中からテレパシーストーンを取り出し、念のため一度オーディンに連絡を取ったほうがよさそうだという旨をクリスたちに告げる。
「そうね…一応テレパシーストーンでオーディンに連絡を取った方がよさそうね。変な場所に飛ばされたから、不用意に動くと何が起こるか分からないからね…。」
カレニアはテレパシーストーンに魔力を込め、オーディンに連絡を取り始める。
「オーディン様、ブリスベン要塞の破壊を完了しました。しかし脱出の際に爆発に巻き込まれ、一面銀世界の場所に飛ばされてしまいました。」
「うむ…ブリスベン要塞の破壊の任務遂行ご苦労であった。先ほどヘルヘイム大監獄の上層部の調査に向かった者がヘルヘイムの全域地図を持ってきたようだ。死の山の中腹から大きく飛ばされたとのなら、君たちは今デッドスノー雪原にいるということは確かだ。まずはここから東へと向かった所にエスカデの村がある。その村に到着したら、君たちにはそこで情報収集をし、そこで得た情報を私に報告してほしい。ではよろしく頼んだぞ…。」
オーディンはデッドスノー雪原の東にあるエスカデの村に向かうようにとクリスたちに告げた後、オーディンはテレパシーストーンの通信を切断しクリスたちとの連絡を断つ。イングリッドの自爆に巻き込まれ、見知らぬ土地へと飛ばされたクリスは情報収集をするべく、エスカデの村の方へと足取りを進めるのであった……。