蘇生の章2nd第五十三話 ヴァルハラ襲撃
四人の門下生との練習試合を終えた後、十分間の休息の時間を与えられたクリスたちは鍛錬場の控え室へと向かい、次の戦いに備えて休息を取っていた。クリスたちが休息を取っているなか、ディンゴとともに鍛錬場を訪れたヴァネッサは、教官に少しの間だけこの場を貸して頂けないかと頼み込む。鍛錬場ではボウガンの発射時の騒音で控え室にいるクリスたちに迷惑がかかるとのことで、教官は強化寮の地下にある弓・ボウガンを扱う門下生のための訓練場を貸してくれるとの許可を出した。教官から強化寮の地下の訓練場を使ってもよいとの許可を得たディンゴとヴァネッサは、強化されたボウガンの射撃テストへと向かうのであった……。
ディンゴがボウガンの試し撃ちを終えた後、休憩が終えたクリスたちは控え室を後にし、再び鍛錬場へと向かい、教官から特別練習試合の開始を宣言する。教官の開始宣言の後、クリスたちは最初に誰がオルトリンデと戦うのかを話している中、カレニアが最初に出るとクリスたちに告げた後、オルトリンデとの戦いに臨む。オルトリンデはカレニアが身構えるよりも早く襲いかかり、怒涛の連続攻撃で一気に窮地に立たされるが、カレニアはオルトリンデの連続攻撃を回避し、反撃の態勢に入るも、善戦むなしくオルトリンデに敗れてしまった。カレニアが練習試合を終えてベンチへと戻ってきた後、リリシアがベンチを後にし、オルトリンデとの戦いに挑むのであった……。
「さて…次は私が相手になってあげるわ。」
ベンチを後にしたリリシアがオルトリンデの前に来たそう告げた後、オルトリンデは冷たい表情でリリシアに答える。
「ヘルヘイム大監獄で私に勝てたのは貴様の持つ強大なる魔力あってのことだ…しかしここでの戦いは違う。この鍛錬場では術での戦いは禁じておるからな。術が使えん貴様など私の敵ではなかろう……。」
オルトリンデの言葉に怒りを感じたリリシアは、練習用の羽の扇をオルトリンデに突きつけながらこう答える。
「ずいぶんと言ってくれるじゃないの…術が使えなくたって私はあなたを倒して見せますわっ!!」
「ほう…ならばこの私が二度とそのような口が叩けぬようにしてやろう。」
オルトリンデが木刀を構えた瞬間、教官が特別練習試合の開始を宣言する。
「両者準備は済ませたようだな…これよりリリシアとオルトリンデとの特別練習試合を始めるっ!!」
教官が試合開始を宣言した後、オルトリンデは目にもとまらぬ素早さでリリシアの懐へと向かってくる。しかしリリシアはオルトリンデの動きを読み、大きく後ろへと移動する。
「なんて素早さなのよあいつは…。油断していたら一瞬でやられていた所だったわ。さて、そろそろ反撃開始よっ!!」
後ろへと大きく距離を離したリリシアは鍛錬場の壁を利用しての三角飛びで大きく宙へと舞い上がった後、扇を構えてオルトリンデに奇襲攻撃を仕掛ける。
「ほう…壁を蹴り上げての三角飛びで私に奇襲攻撃をしかけようという小細工など…私には通用せんっ!!」
オルトリンデは後ろへと後退し、リリシアの空中からの奇襲攻撃から身をかわす。オルトリンデはリリシアの攻撃をかわした後、再びリリシアの懐へと詰め寄る。
「くっ…一気に劣勢に立たされたわ。だが私はここで負けるわけにはいかないっ!!」
「攻撃を外したのが運の尽きだったなリリシアよ…今度こそ終わりにしてやろう……。」
リリシアの懐へと詰め寄ったオルトリンデは木刀を構え、突きのラッシュを繰り出す。怒涛となって繰り出される連続突きを、リリシアは華麗なステップでオルトリンデの攻撃を次々とかわしていく。
「ここは舞い踊るようなステップで奴の攻撃をかわし…隙ができたら横へと回避して背後から責めるしかないわ…。」
扇を構えてオルトリンデの連続突きを舞い踊るようなステップでかわすリリシアの姿は、まさに踊り子そのものであった。その姿をベンチで見ていたクリスたちの視線が、リリシアのほうへと集まる。
「見てクリス…身軽さを生かしたステップでオルトリンデの攻撃を回避しているわ!!」
「だが安心はできないわ…オルトリンデの攻撃を回避できても、壁際に追い詰められたら一気にたたみかけられるわ。隙を見て横に回避できれば別の話だけどね…。」
クリスたちがベンチでそう呟いた後、オルトリンデの連続攻撃をステップでかわしつづけるリリシアは徐々に壁際のほうへと追いやられ、窮地に追い込まれつつあった。
「しまった…このままいけば壁際に追い込まれてしまうわ。しかしこの窮地をうまく切り抜けることさえできれば、勝ちへの道が開かれるかもしれないっ!!」
リリシアがそう呟いた後、後ろへのステップをやめて攻撃の手薄な横へと回避する。オルトリンデの連続攻撃の範囲内から離れたリリシアはオルトリンデの背後へと移動し、扇の一撃を食らわせる。
「私も負けてはいられないわ…私だって、数々の戦いをくぐりぬけてきたのよっ!!」
リリシアの放った扇の一撃を受けたオルトリンデはすこしよろめいたものの再び態勢を立て直し、再び戦闘態勢を取る。
「くっ…貴様ごときに背後を取られるとは不覚だった……。だが勝負はここからだ、私は貴様を必ず倒……っ!?」
オルトリンデがリリシアにそう言い放った後、突如ヴァルハラに大きな爆音が響き渡る。その爆音の後、一人の衛兵が鍛錬場に現れ、ヴァルハラに何が起こっているのかを鍛錬場にいる者たちに告げる。
「た…大変ですっ!!ヴァルハラが何者かによって砲撃を受けた模様です!!砲撃の発射された方角はヴァルハラの西側…ヘルヘイム方面です。」
衛兵の言葉を聞いたヴァネッサは、クリスたちに謁見の間に戻るようにと告げる。
「どうやらヘルヘイムが本格的にフェアルヘイム侵略を企てたようね。みんな、オルトリンデとの練習試合の最中だが緊急事態よ、今すぐ謁見の間にもどるわよっ!!」
ヴァルハラが襲撃を受けたとの緊急事態を受け、クリスたちは鍛錬場を後にし謁見の間へと向かうのであった……。
謁見の間へと戻ったクリスたちは、オーディンが深刻そうな表情でクリスたちにヴァルハラ襲撃の旨を告げる。
「うむ…ヴァルハラがヘルヘイムの奴から襲撃を受けた…どうやら死の山にあるブリスベン要塞から攻撃を受けた模様だ。地上界の客人…それと全ての戦乙女に告ぐ。今こそヘルヘイムとの最終決戦の時だ…フェアルヘイムを守るため、我らは種として生き残りをかけて戦うしかないのだっ!!」
オーディンの力強い言葉に、謁見の間に集まった他の戦乙女と戦士たちがオーディンを賞賛する。
「オーディン様…万歳っ!!」
「ヘルヘイムの奴らを滅ぼす時…皆の者、命をかけてこのヴァルハラを守るぞっ!!」
戦士たちの賞賛に、オーディンは嬉しそうな表情で謁見の間にいる者たちにそう告げる。
「おお…ありがたいお言葉だ!!これだけの戦力があれば…ヘルヘイムの奴らからヴァルハラを守ることができるぞ。だが、攻撃の元を断たねばならぬ。ヘルヘイムへと赴き、ブリスベン要塞を滅ぼさなければ、ヴァルハラは再び襲撃をうけるだろう…しかしひとつ問題がある。ヴァルハラに砲撃を喰らわせたブリスベン要塞に行くためには死の山へと向かわねばならない。だれかブリスベン要塞へと赴いてくれる者がいればのことだがな……。」
ブリスベン要塞へと赴く者を募るオーディンの言葉を聞いたクリスは、私たちがブリスベン要塞へと赴くという旨を伝える。
「オーディン様、私たちがブリスベン要塞へと向かいます。必ずやブリスベン要塞を破壊し、ヴァルハラを守って見せますっ!!」
「私も賛成よ…フェアルヘイムの人たちができないことを私たちがやらなきゃ、ヴァルハラ…いや、それだけじゃないわ。フェアルヘイム…もっと悪く言えば地上界の存亡にもかかわることよ。オーディン様、私たちに任せてください。」
任を受けてくれるという言葉に、オーディンはクリスたちにブリスベン要塞の破壊を命じる。
「よかろう…君たちにブリスベン要塞の破壊を命じる。必ずブリスベン要塞を破壊し、このフェアルヘイムに平和を取り戻すのだ。それと、そなたたちにこれを渡しておこう…こいつはテレパシーストーンといって、私と連絡を取るための通信手段だ…もしものときに使いたまえ。」
クリスはオーディンからテレパシーストーンを受け取った後、それを鞄の中に入れる。
「ありがとうございます。オーディン様、今から出撃に向かいます。」
「待て…出撃は明日の朝だ。真っ暗の中で死の山を進むのは危険だからな。朝のうちなら視界が開け、迷うことなくブリスベン要塞へとたどり着ける。私は戦乙女と戦士たちでヴァルハラを防衛する…何かあったらテレパシーストーンで私に連絡したまえ。可能ならば戦乙女の一人をそなたたちのもとへと向かわせる…今日は部屋に戻り、明日に備えて体力と魔力を養うのだ。」
オーディンの言葉の後、クリスたちは部屋へと戻り休息をとるのであった……。
クリスたちが謁見の間を去った後、オーディンは戦乙女と戦士たちを集めて会議を始めていた。
「さて、戦乙女と戦士たちには別の任務がある…ヘルヘイムの王宮へと続くルートを見つけ出し、ジャンドラの居場所を探るのだ。詳しいことはわからぬが、よろしく頼んだぞ。」
ジャンドラの居場所を探ってくれとの命を受けた戦乙女と戦士たちは、深く頭を下げて了承のサインを送る。
「分かりました。地図がなくては王宮がどこかわからぬ。そうだ!!ヴァルハラを抜けてすぐのところにあるヘルヘイム大監獄なら、ヘルヘイム全域が描かれている地図の一つは見つかるだろう…皆の者、明日の朝、ヘルヘイム大監獄の探索を行うぞ!!」
ヘルヘイム大監獄になにかありそうと睨んだオルトリンデは、明日の朝にヘルヘイム大監獄の探索を行うことを謁見の間にいる戦士達に告げる。
「なるほど…オルトリンデ様の言うとおり、あの監獄はヘルヘイムの施設だから何か手掛かりが得られそうだな。よし、そうと決まれば明日決行だ!!」
戦士たちの掛け声の後、オーディンがオルトリンデのもとへと近づきこう告げる。
「オルトリンデよ、なかなか粋なことを考えたな。だが一つだけ注意点がある。ヘルヘイム大監獄にはまだ収容されている受刑者と看守たちがいる。気絶させた後で探索を行うように…。」
オーディンの言葉の後、自室で休息を取っていたシュヴェルトライテが謁見の間に現れる。
「気絶させる…か。ならばその任、私に任せてくれぬか。」
「そ…その声は、シュヴェルトライテ!!そなたもヘルヘイム大監獄の探索の任に参加してくれるというのか!?」
ヘルヘイム大監獄の探索の任に参加してくれるかとの言葉に、シュヴェルトライテは頷きながらオルトリンデにこう答える。
「当たり前だろう…私たちは共に剣の腕を競い合った同志だ。私がそなたに協力しないわけがなかろう。」
協力してくれるとの言葉を聞いたオルトリンデは、嬉しそうな表情を浮かべながらシュヴェルトライテにこう答える。
「ありがとうシュヴェルトライテよ…ヘルヘイム大監獄の探索は明日の朝に決行だ。明日の朝、謁見の間に来てくれ。くれぐれも寝坊しないようにな。」
「わかった…明日の朝に謁見の間だな。では私はそろそろ部屋に戻る…オルトリンデ、そなたも明日に備えて体を休めておくのだぞ……。」
シュヴェルトライテはそう告げた後、明日の出撃に備えるべく自室へと戻っていく。シュヴェルトライテが去った後、オーディンが謁見の間にいる者たちに体を休めるようにと伝える。
「これにて会議を終了する…皆の者、明日の朝ここに集合だ。ひとつ言っておくが、くれぐれも寝坊をせぬようにな。これはフェアルヘイムの存亡にかかわることだからな……。」
オーディンの言葉の後、戦乙女と戦士たちは謁見の間を去り、明日の出撃に備えて休息を取るのであった。はたしてクリスたちはブリスベン要塞を破壊し、フェアルヘイムに平和を取り戻すことができるのであろうか……。