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蘇生の章2nd第五十一話 教官の試練・門下生との戦い(2

 シュヴェルトライテとの戦いの後、クリスたち四人はヴァルハラの鍛錬場へと向かい、戦闘訓練を始めていた。鍛錬場に来たクリスたちの前に現れた教官の提案により、教官の門下生と練習試合を行うことになった。クリスは門下生の一人であるエミリアを指名し剣を使っての練習試合を行ったが、あと少しというところでエミリアに敗れてしまった。クリスが練習試合を終えた後、リリシアは門下生のエリサを指名し、扇を使った練習試合を行い、見事勝利を収めた。リリシアとエリサとの戦いの後、カレニアは門下生の一人であるアリアを指名し、戦いの準備を始めるのであった……。

 

 クリスたち四人がヴァルハラの鍛錬場で戦闘訓練に励む中、ディンゴはリリシアからもらった謎の部品を手に、謁見の間で休息を取っているヴァネッサのもとへと現れる。

「ヴァネッサ…この謎の部品、リリシアにもらったんだけど、こいつで俺のボウガンを強化できないかな?

ヴァネッサはディンゴの持っている部品を手に取り、何に使われている部品なのかを見定める。

 「何々……この部品、熱を溜めたり放出することのできる装置のようね。ヘルヘイムで製造されているボウガンには大体このような部品が使われており、万が一放てる弾丸が無くなってもこの装置に溜まった熱を熱線にして噴射できるというのよ。ヘルヘイムの奴らは一発逆転の『排熱弾』を巧みに利用し、かつてジャンドラが多くの軍勢を率いてフェアルヘイムを侵攻した際、フェアルヘイムの兵たちを一掃したと言われているほどよ。だが排熱弾は強力ゆえ、一度放てば装置に熱が溜まるまでには時間がかかる…まさに一発逆転の技ってことよ。」

リリシアが持ち帰った謎の部品の正体は、ヘルヘイムで製造されたボウガンに標準搭載されている排熱噴射機構のパーツであった。その部品はボウガンの発射によって発生した熱を溜め、最大まで溜まると熱線として放出できる部品であった。

「こいつはすごい部品だな…ヴァネッサ、早速だが改造を始めてくれないか。」

「この部品はあなたのボウガンとは型番が違うから、改造するにはその部品を一度分解し、あなたのボウガンに適した形にしなきゃいけないわ。まぁ私の技術力を持ってすれば、ボウガンの改造が時間は一時間もかからないわ。では今から作業に取り掛かるから、ボウガンを私に貸してちょうだい…。」

ヴァネッサの言葉の後、ディンゴは自身の武器であるボウガンをヴァネッサに手渡す。

 「ではよろしく頼む……俺は少しクリスたちの様子を見てくるよ。」

ヴァネッサにそう告げた後、ディンゴは謁見の間を去りクリスたちのいる鍛錬場へと向かっていく。ディンゴが謁見の間を去った後、ヴァネッサは謁見の間を去り、大広場へと場所を移し作業に入る。

「さて、まずはあの排熱噴射機構のパーツの分解から取りかかるわよ。この部品は慎重に分解していかないと、爆発を引き起こしかねないからね…。」

ヴァネッサがそう呟いた後、服の内ポケットから工具を取り出し、排熱噴射機構のパーツを慎重に分解していく。ヴァネッサが作業を始めてから数分後、排熱噴射機構のパーツの内部が全て取りだされる。

「排熱噴射機構のパーツの分解完了…次はボウガンを分解し、この部品が組み込めるスペースを確保しなきゃいけないわ。」

排熱噴射機構のパーツの分解を終えた後、ヴァネッサはディンゴのボウガンを丁寧に分解していく。分解されたボウガンの内部にわずかだが排熱噴射機構のパーツが組み込めるスペースを見つけ、次の作業に取り掛かる。

「あったあった!!このぐらいのスペースなら組み込むことができるわ。まずはこの耐熱鉄のカバーをボウガンのあいたスペースに合うような形にし、軽量化するしかないわ。」

内部を守る耐熱鉄のカバーを削り、わずかにあるスペースに見合った形に加工していく。加工が終わった後、ヴァネッサは排熱噴射機構のパーツをカバーの中に入れ、空きスペースの中に入れる。

「ボウガンに適合したわ…あとはボウガンを元通りにした後で発射テストおよびパーツに熱が溜められているかを点検しなきゃいけないわ。テストを行う場所は…ヴァルハラの鍛錬場あたりがいいかもね。」

ディンゴのボウガンの改造が終了し、ヴァネッサはボウガンを元あった形に戻した後、試し撃ちをするべく鍛錬場へと向かっていった……。

 

 一方そのころ、ヴァルハラの鍛錬場ではカレニアとアリアが剣を交えていた。

「あの赤い髪の女の人、なかなかの剣の腕を持っているようね。突きと斬撃をうまく使い分け、私に攻撃をしかけるチャンスをうかがっている…だが、私は教官の門下生…もし負けたりでもしたら教官に何を言われるかわからないからね…。」

突きと斬撃を織り交ぜたカレニアの剣技に苦戦するアリアは、次々と襲い来る攻撃をかわしつつ後退していく。だが、それも長くは続かず、アリアは壁際に追い込まれてしまう。

「よしっ!!壁際に追い詰めることに成功したわ…さて、一気にたたみかけるわよっ!!

「し…しまった!!攻撃をかわしているうちに壁際に追い込まれてしまったみたいね…だが、この勝負は私が勝つ、ここで負けるわけにはいかないのよっ!!

窮地に立たされたアリアは鍛錬場の壁を利用し、大きく宙へと舞いあがる。空中へと舞い上がったアリアはカレニアの背後へと回り、木刀の斬撃を食らわせる。

 「この勝負…もらった!!

アリアの放った斬撃を受けたカレニアは、痛みのあまり背中を押さえながら地面にうずくまる。

「あと一歩のところだったのに…壁を利用して大きく飛び上がって私の背後に回るとは、さすがは教官のもとで厳しい訓練を積んでいる門下生の力…嫌というほど思い知らされたわ。」

カレニアの言葉の後、教官が勝利宣言を行う。

「勝負ありっ!!勝者…アリアっ!!

教官がアリアの勝利を称えた後、アリアはカレニアのもとへと向かい労いの言葉をおくる。

「確かにあなたとの勝負には勝ったけど、あなたの突きと斬撃を織り交ぜた連続攻撃には負けたわ…。」

カレニアに労いの言葉を告げた後、アリアは教官のもとへと戻っていく。カレニアとアリアの勝負が終わった後、教官は男の門下生を戦いの場へと送り出す。

 「ガハハハハハッ!!我輩の門下生は我輩直伝の訓練により鍛えられた戦いのプロフェッショナルなのだっ!!さて、そこの長い髪の娘さんよ、我輩の門下生であるロドニー君と練習試合をしてもらおう…さぁ、前に出るがいい。」

門下生のロドニーが戦いの場へと向かった瞬間、教官はゲルヒルデを指名し、練習試合を執り行う。ゲルヒルデは少し緊張した表情で、戦いの場へと歩いていく。

「よ…よろしくお願いします。教官…私は戦いでは槍を使っているので、槍を使っての練習試合をお願いします。」

「よかろう…では竹の槍を使っての訓練を行おう。ロドニー、竹の槍を二本持ってきてくれぬか…。」

教官の言葉を受け、ロドニーは練習用の武器が入っている箱の中から竹の槍を二本取り出し、教官のもとへと戻ってくる。ロドニーは竹の槍をゲルヒルデに渡した後、戦闘態勢に入る。

「おーい、そろそろ練習試合をはじめるんで、はやく槍を構えてくれよな。」

ロドニーの言葉の後、ゲルヒルデは竹の槍を構えて戦闘態勢に入る。両者戦闘態勢に入ったのを確認すると、教官が試合開始の声を上げる。

 「これより、ゲルヒルデとロドニーとの練習試合を行うっ!!

教官が試合開始を宣言した後、両者は竹の槍を構えて戦闘態勢に入る。

「わ…私、槍は最近使い始めたので不慣れですが、お手合わせよろしくおねがいします!!

「ふーん、なんだったら俺が練習試合の中で教えてやるよ。さて、そろそろ始めるぞ!!

二人が挨拶を終えた後、ロドニーは槍を突き出してゲルヒルデの方へと突進する。ゲルヒルデはロドニーの突進をかわしロドニーに槍の一撃を放つ。

「突進をかわした後が攻撃のチャンス…ここは突きで攻撃よっ!!

ゲルヒルデが放った槍の一突きを放った瞬間、ロドニーはステップを駆使して大きく回避する。

「なかなかいい突きだが、俺には当たらないぜ。そうだ、初心者のあんたにいいことを教えてやろう。槍は剣や扇と違い長く、回避方法が限られてくる。そこで役立つのが今俺が見せたステップだ。ステップを駆使すれば武器を構えたまま後ろに後退することができるんだぜ。さて、次は俺の番だぜ!!

その言葉の後、ロドニーは槍の先端に精神を集中させ、ゲルヒルデに狙いを定める。ゲルヒルデはロドニーのステップをまね、後ろへと下がっていく。

 「ロドニー君が槍を構えて集中し始めた…ということは何か攻撃を仕掛けてきそうな予感がするわね。ここはあなたが見せてくれたステップで、後ろへと下がるわっ!!

ゲルヒルデがステップで後退した瞬間、ロドニーは狙いすませた槍の一突きが放たれる。しかし対象がいなかったため、不発に終わってしまう。

「あーっ!!渾身の一閃突きがかわされてしまったぜ…そこの女、もうひとついいことを教えてやるぜ。俺が先ほど放った一閃突きは一撃必殺の技だが、相手にかわされてしまえば一気に態勢を崩してしまうので、まさに一発逆転の技だ。ひとつ言っておくが、ステップで後ろへと下がってばかりでは勝負にすらならないぜ。さぁ、全力でかかってこい!!

全力でかかってこいというロドニーの言葉を聞いたゲルヒルデは槍を突きだし、ロドニーの方へと突進する。ロドニーはゲルヒルデの突進をステップでかわした後、槍を構えて攻撃の態勢に入る。

「この勝負…俺の勝ちだっ!!必殺…三連突きっ!!

ステップでゲルヒルデの背後に回った瞬間、ロドニーの怒涛の三連突きが炸裂する。ロドニーの三連突きを全て背中に受けたゲルヒルデは、痛みのあまり地面にうずくまる。

「うぐぐ…どうやらこの勝負、私の負けね。」

「どうだ…これが槍の基本戦術だ。槍はステップでの回避と突きと突進の攻撃をうまく使い分けるのがポイントだ。唯一の回避方法であるステップを繰り出せる身軽さと、相手の動きを読み、的確にダメージを与えていく戦術が勝敗を分ける…ということだ。まぁ基本戦術さえ知っていれば、魔物相手でも十分戦えるだろう…。」

ロドニーがゲルヒルデにそう告げた瞬間、教官が勝利宣言を行う。

「勝負あり…勝者、ロドニー!!

教官がロドニーの勝利を称えた後、ロドニーは自分の鞄の中から一冊の本を取り出し、それをゲルヒルデに手渡す。

 「ほらよ…こいつは槍使い必携の書だ。こいつを読んで腕を磨くんだな。」

ロドニーから槍の戦術書をもらいうけたゲルヒルデは、困惑の表情を浮かべながらロドニーに答える。

「そ…そんな高価な本、私が貰ってもいいんですか!?

「いいんだ。俺は槍の腕を極めに極めたから、その本はもういらないのでお前にやるよ。この本には槍の基本戦術の他、二段突きや一閃突きといった初級の技のほか、双竜波や地獄突貫といった最上級の技の使い方が載っている…ではそろそろ私は戻るよ。最後に俺から一言…この本を読んで、しっかり修行にはげむよーに!!

槍の戦術書を読んで修行に励むようにとゲルヒルデに告げた後、ロドニーは門下生たちのもとへと戻っていく。ロドニーが教官のもとへと戻ったのを確認すると、教官は練習試合の終わりを告げる。

「以上をもって、門下生との練習試合を終了する!!門下生たちは強化寮に戻って戦いの疲れをいやすがいい…。」

「ありがとうございましたっ!!

クリスたちと門下生が挨拶を交わした後、門下生たちは強化寮へと戻っていく。門下生たちが去った後、オルトリンデは教官のもとへと近づき、クリスたちと練習試合を行いたいと伝える。

 「練習試合が終わったようだな。教官、少しその者たちと練習試合を行いたいので、少しこの場を貸してはくれないか…?

その言葉を聞いた教官は、首を縦に振り了承のサインを出す。切先の女王と謳われる戦乙女のオルトリンデはクリスたちを鍛えるべく、練習試合を執り行うのであった……。

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