蘇生の章2nd第五十話 教官の試練・門下生との戦い
リリシアの放った拘束術によって身動きのとれぬ隙に黒刀を奪われたことにより、戦いが一気にリリシア側に形勢逆転し、反撃のチャンスがまわってきた。リリシアにシュヴェルトライテを押さえつけるようにと伝えた後、オルトリンデは閃光の剣技で練気の結界の破壊に取り掛かる。一方シュヴェルトライテを押さえつけているリリシアは、全ての能力変化を消しさる凍てつく波動を放ちシュヴェルトライテの鬼神状態を解除し、元の姿へと戻す。リリシアがシュヴェルトライテの鬼神状態を解除させた後、オルトリンデは洗脳術を解除するべくシュヴェルトライテに聖なる魔力を込め、邪悪な悪霊の塊を外に出させる。シュヴェルトライテの体からジャンドラの悪霊が外に出たのを確認すると、オルトリンデはレイピアで悪霊を一刀両断し、熾烈な戦いに終止符が打たれるのであった……。
シュヴェルトライテとの長き戦いの後、少し前にヴァルハラを襲撃してきたシュヴェルトライテによってダメージを受け、回復の泉で傷の治癒をしていたクリスたちが謁見の間に戻ってきた。クリスたち四人はヴァルハラの鍛錬場へと向かい、戦闘訓練を始めるのであった。
「ここがヴァルハラの鍛錬場…意外と広いわね。この広さなら心おきなく武器の扱いの練習ができそうね……。」
クリスの言葉の後、一人剣の腕を磨くオルトリンデがクリスたちの前に現れる。
「ほう…貴様らもこの鍛錬場へと来たのか…。私の同志であるシュヴェルトライテは先ほどの戦いでダメージを受けているので、今は休息をとっている。私でよければ少しなら練習につきあってやるぞ…。」
練習に付き合ってくれるとの旨を聞き、カレニアはオルトリンデに是非とも練習に付き合ってくれとお願いする。
「私たち、もっと武器の扱いとかを練習したいので、是非ともお付き合いお願いします!!」
「よかろう。ひとつ言っておくが、私は練習といえども手を抜かぬぞ…。私はそろそろ鍛錬に戻るので、練習に付き合ってほしいときはいつでも私に話しかけるがいい。」
クリスたちにそう告げた後、オルトリンデは剣の鍛錬へと向かっていく。オルトリンデが訓練に戻った後、鍛錬場の教官がクリスたちのもとへと現れる。
「ガハハハハハッ!!我輩だ、教官だ!!諸君らよ、見慣れぬ顔だな。もしかしてこの鍛錬場を利用するのは初めてか?」
鍛錬場を利用するのは初めてかという教官の言葉に、クリスは少し緊張した表情でこう答える。
「ええ。初めてです。私たちは武器の扱い方などを練習するべくこの鍛錬場を訪れたのです。教官さん、是非とも私たちに武器の扱い方を教えてくださいっ!!」
「さんはいらない…我輩のことは教官でいいぞ。では早速だが、ここで素振りをしてみろ。我輩が諸君たちがどれだけ武器の扱いに長けているかを見てやろう……。」
教官の言葉を受け、クリスたちは武器を構えて素振りを始める。教官は素振りに励むクリスたちをじっくりと眺め、どれだけの力量があるかを見定める。
「ほほう…なかなかいい腕の動きで、武器の扱い方も熟知している…と言いたいところだが我輩には何か引っかかるところがある。そうだ、我輩の弟子と一戦交えてみないか?言っておくが、我輩の弟子たちはみな多種多様な武器を使いこなせる精鋭ぞろいだ。たかが練習試合といえども、油断する奴は私が許さんぞ!!」
弟子と戦わないかという教官の言葉を聞いたクリスは、教官に了承の言葉を告げる。
「分かりました。教官さ…いや、教官、私たちに稽古をつけてくださいっ!!」
「よかろう。では私は弟子たちを呼んでくるので、少し待っていてくれ。おっと、我輩がここに帰ってくるまで、訓練を怠らぬようにな!!」
クリスたちに訓練を続けるようと告げた後、教官は弟子を呼び寄せるべく鍛錬場の奥にある弟子たちの住む強化寮へと走っていく。しばらくして、強化寮から出てきた教官は数人の弟子を連れ、クリスたちのもとへと戻ってきた。
「待たせたな…今日は諸君たちに稽古をつけるべく、4人の我輩の門下生を呼んできた。さぁ、諸君たちよ、我輩の門下生と戦う人は誰と戦うかを指名するがいい。」
教官の言葉の後、クリスは門下生の一人の赤髪の女を指名する。
「私を指名してくれたわね。私の名はエミリアと申します。得意な武器はほぼ全ての武器よ。教官の弟子の実力…見せてあげるわっ!!」
クリスに指名されたエミリアは、木刀を構えてクリスの前に現れる。教官はクリスたちに練習試合のルールを教えた後、試合開始を告げる。
「さて、練習試合のルールを諸君たちに教えてやろう。まずひとつ、戦いは全て我輩が用意した木製の武器で行うこと、刃物での総部は一切認めん。二つ、練習試合といえども真剣に取り組むこと…ギブアップという無様なことだけはするな。まぁ私から言えることはそれだけだ。では、これにてクリスとエミリアとの練習試合を執り行う…両者武器を構えよ!!」
教官の言葉の後、クリスは木刀を構えて戦闘態勢に入る。両者緊迫した表情の中、先手を取ったのはエミリアであった。
「さて…あなたの実力、見せてもらおうじゃないのっ!!」
エミリアはクリスとの間合いを詰め、剣の一撃を放つ。クリスはエミリアの斬撃をかわし、素早い動きでエミリアの背後に回るが、エミリアはその気配を感じクリスの方へと振り返る。
「しまった!!背後にまわったがすぐに振り返られた……なかなかやるわねっ!!」
「甘いわね…だがなかなかいい動きよ。だが私も負けてはいないわよっ!!」
クリスの攻撃をかわしたエミリアは、素早い動きでクリスから距離を離し攻撃のチャンスを窺う。
「さすがは教官の門下生だけあって、戦い方は私よりも上手みたいね。だが、私は私なりの戦い方を貫くだけよっ!!」
クリスは大きく息を吸い込み気合いを高めた後、木刀を構えてエミリアのほうへと走っていく。クリスの方へと振り返ったエミリアは、剣を盾にして防御の態勢をとる。
「くっ…間合いを詰めることも戦略の一つというわけね。ここはあの人の攻撃を防御し、受け流したうえで一気にたたみかけるっ!!」
エミリアの言葉の後、クリスは一気にエミリアの眼前へと現れ、斬撃を繰り出す。しかしエミリアはクリスの斬撃をガードし、受け流そうとする。
「一気に私との距離を詰めてくるとはね…あなた、間合いのとりかたも十分熟知しているじゃないの…。だがこの勝負、私が勝ってみせる!!だって私は教官の門下生だものっ!!」
「私も負けられない…たとえ練習試合といえども、手ごわい魔物を相手にしている時と同じ感覚で戦わないと…一瞬の油断が敗北につながってしまうからねっ…!!」
両者激しい鍔迫り合いを繰り広げる中、クリスは渾身の力を込めてエミリアの木刀を受け流そうとする。
「くっ…門下生の私があなたにここまで追い込まれてしまうとはね、だが、ここで負けては教官に申し訳が立たないからねっ!!」
その瞬間、クリスの木刀が大きく宙へと舞いあがる。熾烈な鍔迫り合いを競り勝ったエミリアは、大きく態勢を崩したクリスに木刀を突き付け、勝利宣言を行う。
「教官の門下生である私をここまで追い詰めたことは見事だったけど、私の勝ちよ。」
「ま…参りました。」
クリスとエミリアとの練習試合が終了し、教官がエミリアの勝利をたたえる。
「勝負あり!!勝者…エミリアっ!!」
教官の言葉の後、エミリアは戦いに敗れたクリスに近づき、労いの言葉をおくる。
「がっかりしないでください…あなたは私にない特別な何かを持っているわ。その調子で経験を積んでいけば、きっと強くなれるわよ。」
「ありがとう…私、経験を積んできっと強くなって見せるわっ!!その時はまた私と勝負しましょう!!」
また勝負しようというクリスの言葉に、エミリアはクリスの方を振り返り笑顔で頷いた後、教官のもとへと戻っていく。
「クリスよ、戦いに敗れてしまったが…決して恥じることのない戦いだったぞ。我が門下生たちは諸君たちと戦いたくてうずうずしているぞっ!!さぁ、次に誰が出るのだっ!!」
教官が次の参加者を募る中、リリシアが手を挙げて教官のもとへと歩いていく。
「じゃ…じゃあ次は私が出ようかな。教官…この門下生の中で扇を扱える者はいるかしら?」
「ふむ…そなたの武器は扇か。しかし心配はいらない…我が門下生たちは多種多様の武器を使った訓練を行っているので、使い慣れた武器を使う者に応じて的確に対処できるのだ!!」
教官がリリシアにそう告げた後、リリシアはエミリアとの別の女の門下生を指名する。リリシアに指名された女の門下生は魔姫のほうへと歩き、深く頭を下げて一礼する。
「ご指名ありがとうございます。私の名はエリサと申します。あなたが戦いたいというのなら、教官の門下生の力、見せてあげるわ。教官…武器の準備をお願いします。」
教官に練習試合で使用する武器の準備をするようにとの言葉を受け、教官は少し苦笑いを浮かべながら練習試合に使用するための武器を取るべく鍛錬場の倉庫へと向かっていく。
「ガハハハハッ!!すまぬなエリサよ。武器の準備をするのを忘れていたようだ。今から取りに行くので、諸君らは少しここで待っていたまえ……。」
鍛錬場の倉庫へと向かった教官は練習用の武器が入っている箱を取り出し、二人の前に戻ってくる。
「待たせたな…こいつが練習用の武器だ。剣や槍といった近接武器の他にも、ブーメランやボウガンといった遠距離武器も各種用意してあるぞ。」
エリサは武器の入った箱から羽の扇を二つ取り出し、その一つをリリシアに手渡した後、教官に練習試合を始めるように要請する。
「教官…戦いの準備が完了しました。練習試合の開始をお願いします。」
「お互いの準備が完了したようだな…ではこれより練習試合を開始する!!両者武器を構えて戦闘態勢に入るのだ!!」
教官が戦闘開始の声を上げた後、リリシアとエリサは扇を構えて戦いの構えをとる。
「行くわよ…たとえ練習試合でも私は気は抜かないわよ…。」
「教官…私の活躍、見ていてくださいっ!!」
鍛錬場に緊迫した空気が流れる中、リリシアが扇を構えてエリサのもとへと向かっていく。
「まずは私から行かせてもらいますわよっ!!」
リリシアがエリサのもとへと踏み込み、扇の一撃を食らわせる。しかしエリサは華麗な足さばきでリリシアの攻撃を次々とかわし、反撃の構えをとる。
「扇を扱う者の戦い方…それは身軽な武器を利用したステップで回避し、相手の一瞬の隙をついて攻撃することよ!!」
リリシアの攻撃を全てかわしきったエリサは、扇の一撃をリリシアに放つ。しかしリリシアも負けじとエリサの扇の連続攻撃を次々とかわし、相手との距離を徐々に離していく。
「さすがは教官のもとで訓練を積んできた門下生だけあって、武器の扱い、そして立ちまわりかたも私より上手のようね…。ここは一旦相手と距離をおき、勝つための作戦を練らなきゃね。」
エリサから距離を離したリリシアは、エリサに勝つための策を練り始める。作戦を練るリリシアに対し、エリサは扇を構え、リリシアの方へと投げつける。
「私を倒す作戦を考える暇など与えませんわよ…扇は近接攻撃だけでなく、飛び道具にも変化する武器よっ!!」
エリサの放った扇をかわすべく、リリシアは大きく宙へと舞い上がる。リリシアはエリサの攻撃をかわした後、大きく急降下を開始し、エリサの懐へと詰め寄る。
「悪いけど、私の勝ちね……!!」
その言葉の後、リリシアの扇の一撃がエリサに命中する。魔姫の扇の一撃を受けたエリサは大きく態勢を崩し、その場に倒れる。
「くっ…あなた、なかなかやるじゃない…あなたの勝ちよ、おめでとう。」
エリサとリリシアの勝負に決着がつき、教官が試合終了の声を上げる。
「勝負ありっ!!勝者…リリシアっ!!」
教官がリリシアの勝利をたたえた後、リリシアは嬉しそうな表情を浮かべながらクリスたちのもとへと戻っていく。エリサとリリシアとの勝負が終わった後、教官は次に出る挑戦者を募る。
「まさか我輩の門下生に勝ってしまうとはな……だが残り二人が諸君らの挑戦を待っているぞっ!!さぁ次は誰が出るのだっ!!」
「みんな、次は私が出るわ。私はあの髪の長い女を指名するわっ!!」
カレニアに指名を受け、教官の門下生の一人の長い髪の女が前に出る。
「ご指名ありがとうございます。私は教官の門下生の一人であるアリアと申します。是非ともお手合わせをお願いいたします。教官…試合を初めてください。」
試合を始めるようにとのアリアの言葉の後、教官は練習試合の準備を始める。教官が戦いの準備を終えた後、カレニアとアリアの戦い間もなく始まろうとしていた……。