蘇生の章2nd第四十九話 剣帝【シュヴェルトライテ】(終)
ヴァルハラを襲撃しにやってきたシュヴェルトライテを倒すべく、リリシアとオルトリンデは共闘を誓い、シュヴェルトライテと戦闘を繰り広げていた。シュヴェルトライテの黒刀から繰り出される刀術と練気のオーラに二人は苦戦を強いられたが、二人の連携攻撃によってオーラを剥がすことに成功した。黒き練気のオーラが消えた後、シュヴェルトライテは全身の練気を集め、地獄の鬼のような姿となってリリシアたちに襲いかかってきたのであった……。
シュヴェルトライテがリリシアの拘束術によって身動きが取れない隙に、オルトリンデは黒き練気の結界を破壊する作業にとりかかる。
「邪魔な結界だ…リリシアよ、私が結界を破壊する。貴様はシュヴェルトライテを押さえつけておけ。」
シュヴェルトライテを拘束するようにとリリシアに伝えた後、オルトリンデは上空に飛び上がりレイピアの切先を結界の上部に向け、閃光の剣技を放つ。
「我が切先に集められし聖なる魔力よ…閃光となって邪悪なる者を貫かんっ…レイジング・カノンッ!」
オルトリンデが覇気の帯びた咆哮をあげた瞬間、レイピアの切先に集められた聖なる魔力が一点に集中し、一筋の閃光と化す。切先から放たれた閃光は結界の上部を貫き、外の空気が結界の内部に充満する。
「やったわ!!奴が張った結界が破壊され、外の空気がどんどん結界の内部に入ってくるわ。」
外の空気が入ってくると同時に、シュヴェルとライテの練気の結界が徐々に消滅していく。
「くっ…結界が破壊されてしまったかっ!!まぁいい、この邪魔な鎖を引きちぎった後で奴らを始末してやる!!」
シュヴェルトライテは全身に渾身の力を込め、リリシアの放った闇の鎖を引きちぎろうとする。しかしリリシアが彼女の体を押さえつけているので、引きちぎることができなかった。
「は…放せ小娘っ!!」
「悪いけど今あなたを放すわけにはいかないわ…まずは鬼神状態を解除してさしあげますわっ!!」
その言葉の後、リリシアは手のひらをシュヴェルトライテの方へと向け始める。魔姫が手のひらを向けた瞬間、冷やかな魔力の波動がシュヴェルトライテの体を包み込む。
「な…何っ!!私の鬼神化がいつの間にっ!?」
シュヴェルトライテがふと気がついた時には、鬼神状態が解け普通の状態へと戻っていた。
「今あなたに放ったのは、全ての効果を消しさる凍てつく波動(コールド・ウェイブ)よ。変身能力や身体強化を無にし、元に戻す波動よ。」
シュヴェルトライテの鬼神状態が解けたのを確認すると、オルトリンデはシュヴェルトライテのほうへと近づき、聖なる魔力を集め始める。
「いいぞリリシア…私はシュヴェルトライテにかけられているジャンドラの洗脳術を浄化するので、貴様は引き続きシュヴェルトライテを拘束しておけ。」
リリシアに拘束するようにと伝えた後、オルトリンデはシュヴェルトライテの体に手を当てながら詠唱を始める。
「罪なき者の魂を蝕む邪悪なる存在よ…我が聖なる魔力をもって浄化するっ!!ソウル・リムーバーっ!!」
オルトリンデが詠唱を終えた瞬間、聖なる魔力がシュヴェルトライテの体の中へと注がれていく。光の魔力が注がれるたび、シュヴェルトライテは苦痛に顔を歪ませる。
「うぐぐ…やめろ……光は嫌いだっ!!これ以上光の魔力を私に……がはぁっ!!」
その言葉の後、シュヴェルトライテの口から悪霊のような物体が吐き出される。吐き出された悪霊は聖なる魔力によって、苦しそうな表情を浮かべる。
「これがジャンドラの洗脳術の正体だ。貴様はまだ知らないようだから教えてやろう…ジャンドラは気に入った人間に悪霊を送り込み、その者の性格・能力・魔力を洗脳改造し自分の戦力とする…。ずいぶん苦しそうではないか……悪霊め!!この私が消し去ってくれるわっ!!」
オルトリンデはレイピアを構え、悪霊を一刀両断する。悪霊が消え去った瞬間、シュヴェルトライテは正気を取り戻し、ふとあたりを振り返る。
「うぐぐ…私は一体何をしていたのだ。」
「気がついたかシュヴェルトライテよ。そなたは今までジャンドラの奴に操られていたのだ。だがもう心配はいらない。そなたはもう悪霊の呪縛から開放されたのだ。」
ジャンドラの洗脳術が解けて正気に戻ったシュヴェルトライテを、オルトリンデがそっと介抱する。
「オルトリンデ、今まで迷惑かけてすまない…ってそなたもジャンドラの洗脳術を受けていたのだったな…。話は変わるが、他の戦乙女は今はどうしているんだ?まさかあの戦いで全滅…してるのかっ!!」
「みんな大丈夫だ。ジーグルーネもヘルムヴィーゲも無事だ。洗脳術を受けている間、そなたは今までオーディン様を殺すべくヴァルハラを襲撃していたのだ。」
ヴァルハラを襲撃していたという事実を聞かされ、シュヴェルトライテは驚きのあまり言葉を無くす。
「まさか…洗脳術を受けている間に私がそんなことをしていたのかっ!?それがもしオーディン様の耳にでも入ったら私は…死罪になってしまうっ!!私の犯した罪は償っても償いきれぬほどだからな…多くの罪なき者をその黒刀で斬り捨て、さらにはそこの小娘の仲間までをも斬り捨ててしまったのだからな。オルトリンデ、私はこれからどうすればよいのだ…!!」
シュヴェルトライテは涙を流しながら、己の犯してきた罪を嘆いていた。その姿を見たオルトリンデは、シュヴェルトライテの方へと近づき、慰めの言葉をおくる。
「シュヴェルトライテ…そなたは悪くない…悪いのは全て死霊王ジャンドラだ。今から私と共ににオーディン様のもとへ向かい、私たちの犯してきた罪を謝罪しよう。もしそなたが罪を償ってもらうとなれば、私も罪を償おう…私とそなたはこのヴァルハラで共に剣の腕を競い合った同志だからな…。」
オルトリンデの言葉を受け、シュヴェルトライテはオルトリンデとともにオーディンのいる謁見の間へと向かっていった。
シュヴェルトライテとの戦いが終わり、謁見の間へとやってきたオルトリンデとシュヴェルトライテは、自分たちがしてきた罪を謝罪する。
「オーディン様…私はオルトリンデと共にエルザ様をヘルヘイム大監獄に投獄した後、ヴァルハラを襲撃し、多くの衛兵を斬り捨ててしまったことをお許しください……。」
シュヴェルトライテが自分が犯してきた罪を告白した後、オーディンはシュヴェルトライテの方を振り向き、聖槍グングニルをシュヴェルトライテの方へと突きつけながらこう答える。
「そなたのしたことは死罪にあたる罪…。我が妻をヘルヘイム大監獄に投獄し、さらにはヴァルハラを襲撃し多くの衛兵たちを殺した!!貴様はその刀で斬り捨ててきた衛兵たちの生命を一顧だにせず、まさに人を人とも思わぬ鬼畜の所業……このような筆舌に尽くしがたいほどの重罪を犯すとは誇り高き戦乙女の恥…その場で死んで償ってもらうぞっ!!」
「待ってくださいオーディン様っ!!その者は悪くありません…悪いのは全てヘルヘイムの将、死霊王ジャンドラなのです。シュヴェルトライテはジャンドラの洗脳術によって操られていたのです!!オーディン様お願いです…どうかシュヴェルトライテの罪を許してやってくださいっ!!」
オルトリンデが必死に弁解するも、オーディンの表情は揺らぐことはなかった。
「ククク…執行だっ!!死んでその罪を償うがいい……シュヴェルトライテよっ!!」
玉座から降りて制裁を加えようとした瞬間、その一部始終を聞いていたヴァネッサがオーディンの前に立ち、必死にシュヴェルトライテの無実を訴える。
「確かに…オルトリンデの言葉は正しいと思うわ。シュヴェルトライテはジャンドラの洗脳術によって精神を操作されていたとしか言えませんわ。だからってシュヴェルトライテを死罪にするのはいけないと思うわ……。どうかシュヴェルトライテの罪を許してやってください!!」
ヴァネッサの訴えに、オーディンはシュヴェルトライテに突きつけた槍を収める。ヴァネッサの言葉が決定打となり、シュヴェルトライテの無実が証明された。
「よかろう…ヴァルトラウテの発言に免じて、シュヴェルトライテの罪は許してやろう。ヴァルトラウテよ、シュヴェルトライテがそのような罪に及んだのは、全てジャンドラがしたことなのだな…。」
「ええ…。以前私がリリシアと共にエルザ様を救出するためヘルヘイム大監獄に来た際、黒き戦乙女だったオルトリンデも奴の洗脳術を受けていたわ。まぁあの時はジーグルーネとヘルムヴィーゲがなんとか洗脳術の解呪(ディスペル)に成功し、今はもとの戦乙女に戻っているわ。」
ヴァネッサの言葉の後、シュヴェルトライテが感謝の言葉を述べる。
「感謝するぞヴァルトラウテよ…そなたがいなければ私は死罪となっていたところであった……。」
シュヴェルトライテがヴァネッサに感謝の言葉を述べた後、オルトリンデはヴァネッサに感謝の言葉を告げた後、シュヴェルトライテとともに剣の鍛錬へと向かうべく謁見の間を去る。
「ヴァルトラウテ、我が同志の無実を証明してくれたことを心から感謝するぞ…。シュヴェルトライテよ、ヘルヘイムの奴らからこのヴァルハラを守るため、また剣の鍛錬をはじめようか…と思ったが先に一休みだな…シュヴェルトライテは先ほどの戦いで傷ついているのでな。」
「いいのいいの。私たちは同じオーディン様につかえる戦乙女でしょ!!困っている仲間がいたら助けるのが仁義ってものよ。じゃあ私は後1日ヴァルハラに滞在してからイザヴェルに帰るので、あなたたちも鍛錬のほうがんばってね。」
ヴァネッサが剣の鍛錬へと向かう二人を笑顔で見送った後、客人用の部屋へと向かい休息をとるのであった。
シュヴェルトライテとの激闘から数時間後、シュヴェルトライテの襲撃によって傷を負ったクリスたちが回復し、謁見の間へと集まっていた。
「リリシア様がヘルヘイム大監獄に行っている間、シュヴェルトライテがヴァルハラを襲って来ました。私たちは全力でシュヴェルトライテと戦ったのですが……なんとか奴を追い払うことはできたのですが、負けてしまいました。」
ゲルヒルデの言葉の後、リリシアはシュヴェルトライテを倒したことをクリスたちに告げる。
「みんな…無事でよかった。シュヴェルトライテなら私が倒しておいたわ…これでもう黒き戦乙女の奴らが私たちを襲って来ることはないわ。黒き戦乙女はジャンドラの洗脳術によって操られていただけなのよ。」
「私たちの仇を討ってくれてありがとう…でも私たちは奴に手も足も出なかった。これから先はあの人よりも強い敵が現れるから、私たちも力をつけなきゃいけないわ。」
クリスがリリシアに感謝の言葉を告げた後、鞄の中から大監獄の看守の鞄の中に入っていたボウガンのパーツを取り出し、ディンゴにそれを見せる。
「そういえば、大監獄の看守の一人がこんなものを持っていたわ。常に熱を放っているボウガンのパーツのような物だけど、これ単体では効果がないみたい…あ、ちょうどヴァネッサさんが宮殿の中にいるから、早速ボウガンの改造を依頼してきたらどうかしら?」
リリシアの言葉の後、ディンゴは物欲しそうな目で部品を譲ってくれと詰め寄る。
「そ…そいつはいい部品になりそうだ…リリシア、そいつを俺に譲ってくれっ!!」
「い…いいわよ。機械知識が皆無な私にとっては無用の長物だから、あなたにあげるわ。」
常に熱を放つ部品を手渡した後、ディンゴは嬉しそうな表情を浮かべながら謁見の間を去り、ヴァネッサのもとへと向かっていく。
「ありがとうリリシア…こいつがあれば俺のボウガンがさらに強化できるぜっ!じゃあ早速ヴァネッサに改造を依頼してくるぜっ!!」
ディンゴが謁見の間を去った後、ゲルヒルデは戦闘練習へと向かうということをリリシアに伝えた後、クリスとカレニアと共にヴァルハラの鍛錬場へと向かっていく。
「リリシア様、私はクリスさんとカレニアさんと一緒に少し戦闘練習に行ってくるわ。私たちも強敵に立ち向かえるよう、もっと強くならなきゃいけないからね…。」
「戦闘訓練か…じゃあ私も行こうかしら。私は少し術に頼りすぎている部分もあるからね…。」
リリシアの言葉の後、一行は戦闘訓練をするべく、謁見の間を去るのであった……。