蘇生の章2nd第四十八話 剣帝【シュヴェルトライテ】(4

 

 ヘルヘイム大監獄からエルザを救い出すことに成功したリリシア達7人は、見張りの看守たちから逃げながらヴァルハラへと帰還し、無事にオーディンから与えられた任務を遂行した。長き戦いを終えたリリシアはセディエルからクリスたちがヴァルハラを襲撃してきたシュヴェルトライテによって深手を負わされたと聞かされ、必ず仇を討ちクリスたちの無念を晴らすと誓った。リリシアが休息を取っている中、シュヴェルトライテが再びヴァルハラを襲撃するべく、侵入者を排除するべく駆け付けた衛兵たちを斬り捨てながら広場へとやってきていた……。

 

 セディエルが何者かの気配を感知したとの言葉を聞き、リリシアはそれがシュヴェルトライテの魔力だと分かり、広場へと向かう。広場へと来たリリシアの前に、彼女を取り押さえようとした衛兵たちを斬り捨て、血塗られた黒刀を手に静かにたたずむシュヴェルトライテの姿が目に映る。二人が戦闘態勢に入り、シュヴェルトライテが先手を取ってリリシアに襲いかかろうとした瞬間、オルトリンデがシュヴェルトライテの斬撃を受け止め、戦いが一時中断される。リリシアに宮殿に戻るように伝えた後、リリシアは宮殿に戻ろうとするが、シュヴェルトライテの素早い猛攻によって逃げることができなかった。この状況下では逃げられないと判断したオルトリンデは、シュヴェルトライテを元の姿に戻すべく渋々リリシアと共闘を誓うのであった……。

 

 練気の結界によって逃げられぬ状態となった二人は武器を構え、シュヴェルトライテを迎え撃つ態勢に入る。シュヴェルトライテは構えた黒刀に練気を込め、オルトリンデに襲いかかる。

「まずはオルトリンデ…裏切り者の貴様を先に刀の錆にしてくれるっ!!

「貴様を超えるのはそうそう簡単ではないが、我が閃光の剣技で圧倒して見せようっ!!

シュヴェルトライテの斬撃を素早い身のこなしで次々とかわしながら、オルトリンデはシュヴェルトライテの懐に入り込み、レイピアの切先をシュヴェルトライテに突きつける。

「くっ…いつの間に私の懐にっ!!追い詰めたつもりでいるが…そうはさせんぞっ!!

オルトリンデの素早さに圧倒されるシュヴェルトライテは黒き練気の波動を放ち、オルトリンデをじょじょに後ろへと後退させていく。

 「ぐっ…せっかく奴の懐まで来ることができたが、奴の放つ邪悪な波動にはばまれて動けぬ…!!

オルトリンデが苦戦を強いられている中、リリシアが鉄扇を構えてシュヴェルトライテの方へと向かっていく。鉄扇を手に向かってくる魔姫に対し、シュヴェルトライテは居合の構えをとり視線をリリシアのほうにむける。

「オルトリンデ…今度は私が奴を攻撃するから、オルトリンデはは素早さで背後に回り込んでっ!!

「こちらから向かってくるとはいいカモだ。刀の錆になるがいい…紫の髪の小娘よっ!!

シュヴェルトライテのほうへと向かってくるリリシアを斬り捨てるべく、シュヴェルトライテは抜刀とともにリリシアを斬りつける。しかしリリシアはシュヴェルトライテの黒刀の居合抜きを受けたのにもかかわらず、無傷であった。

「な…何っ!!私の斬撃は確かに貴様に命中したはずだ!!なぜ無傷のままでいられるっ!!

「私があなたに立ち向かう前、防壁の呪文を唱えていたのよ。弱き攻撃・術を全て無に帰す黒きオーラ…ダークネスオーラよ。だがあなたの居合斬りのせいでオーラが破られちゃったじゃないの……。」

リリシアの言葉の後、シュヴェルトライテは居合の構えを解きリリシアの方へと近づいてくる。

 「くっ…小娘め、小癪な真似をっ!!よかろう…この私が直々に相手をしてや……っ!?

シュヴェルトライテが黒刀を構えようとした瞬間、オルトリンデが背後から不意打ちを仕掛ける。

「シュヴェルトライテ…覚悟っ!!

背後からオルトリンデの不意打ちを食らったシュヴェルトライテはすぐに態勢を立て直し、すぐさまオルトリンデに反撃を仕掛けるべく、地面に落ちた黒刀を拾い上げる。

「うぐぐっ…私があの小娘に気を取られている隙に不意打ちを食らってしまうとはなんたる屈辱…許さぬっ!!我が黒死邪刀術で貴様らを葬ってくれるっ!!

態勢を立て直したシュヴェルトライテは精神を集中させ、黒き練気を増幅させる。増幅された黒き練気は黒きオーラとなり、シュヴェルトライテの体を覆っていく。

「くっ…奴の戦闘力がまた上がったか。奴の黒刀から繰り出される『黒死邪刀術』は一発喰らえば致命傷は確定だ…怒涛となって繰り出される一撃をガードするよりも、的確にかわすことを優先して行動しろ。」

「わかったわ…なるべく奴の攻撃をかわしつつ間合いを詰めていくわ。しかし攻撃しようにも奴は私と同じ黒いオーラを纏っているわ。先ほど話した通り、オーラというものはすなわち魔力の防壁…一定量の攻撃で砕け散るものではなく、オーラの許容量を超える攻撃でしか打ち破ることのできぬ特殊なバリアのようなものよ。つまり、最大級の術などでしか破壊できないってことよ。」

二人のシュヴェルトライテを倒すための話し合いを終えた後、リリシアとオルトリンデは武器を構えてシュヴェルトライテの方へと向かっていく。

「まずは奴のオーラを打ち崩すのが先決よ。オーラを破らない限り私たちの攻撃はすべて奴に与えたれないからね……オルトリンデ、まずは私が最大級の術をぶつけるから、あなたはできるだけ奴をひきつけてちょうだいっ!!

「フン…私に任せておけ。リリシア、詠唱はなるべく早く的確に行え。言っておくが、舌を噛むような下手な真似だけはするなよっ!!

リリシアにそう伝えた後、オルトリンデは素早い動きでシュヴェルトライテをかく乱する。

「フン…素早さでかく乱するつもりだな…だが、私には通用せんぞっ!!黒死邪刀術…攻式四ノ型、黒き烈風!!

シュヴェルトライテは黒刀に込められた練気を風の刃に変え、オルトリンデを攻撃する。しかし放たれた風の刃はオルトリンデにかわされ、逆に練気を消費してしまった。

 「どうだシュヴェルトライテよ…貴様は私の瞬速についてくることができまい…貴様は私に攻撃できぬまま、閃光の剣技でじわじわと追い詰め、最後には貴様を討つ!!

オルトリンデは高速でシュヴェルトライテをかく乱しつつ、手に持ったレイピアの切先から放たれる光弾の一撃を浴びせていく。しかし切先から放たれた光弾は黒きオーラに飲み込まれ、攻撃が全て無力

と化す。

「どれだけ私に攻撃を繰り返そうと、私のオーラの前には無力だっ!!

「無駄ではない…貴様のオーラを剥がすための足掻きだ…。リリシア……何をしている!!早く詠唱を終えて術を放たんかっ……!!

オルトリンデがシュヴェルトライテをひきつけている中、リリシアは詠唱を終え術を放つ態勢に入る。詠唱を終えた瞬間、魔姫の周囲に紫色の風が発生し、リリシアの手のひらに集まってくる。

 「吹き荒れる闇の風よ…嵐となりて周囲一帯を切り刻まんっ!!アビス・トルネードっ!!

リリシアの手のひらに集まった紫色の風の魔力は竜巻となり、ゆっくりとシュヴェルトライテの方へと向かっていく。

「やっと術を唱えたようだな。なら私は一旦奴から離れるとするか…。」

オルトリンデがシュヴェルトライテから離れた瞬間、リリシアの放った闇属性の竜巻がシュヴェルトライテを巻き込み、勢力を増していく。

「貴様ら…いくら攻撃しようが術を放とうが無駄だ…私のオーラは全てを無にする練気の……何ぃっ!!

強烈な勢いで巻き起こる竜巻は、シュヴェルトライテの体を覆う黒き練気のオーラを吹き飛ばす。オーラが吹き飛ばされたことにより、

「奴のオーラが竜巻に飛ばされた……リリシアよ、どういうことか簡潔に説明しろ。」

「さっき言い忘れていたけど、竜巻の術を放った理由は一つよ。オーラというものは風に弱く、強風や竜巻にあおられればすぐに吹き飛ばされるという性質を持っているわ。オーラが破られた以上、物理および術の攻撃が通るようになるわ。」

竜巻が消えた瞬間、竜巻に飲み込まれたシュヴェルトライテは大きく地面にたたきつけられ、その場に倒れる。リリシアの術によってダメージを受けたシュヴェルトライテの前に、武器を構えた二人が前に立つ。

 

 「厄介なオーラはもう剥げた…!!シュヴェルトライテ、戦いはこれからよっ!!

二人の言葉の後、リリシアの放った竜巻によってダメージを負ったシュヴェルトライテが立ち上がり、自分の体に眠る黒き練気を開放させ、鬼神化の態勢に入る。

「我が黒きオーラを破るとはなかなかの腕の持ち主だな……だが私が今から鬼神の姿となり、貴様らを完全に葬り去るっ!!

溢れんばかりの黒き練気がシュヴェルトライテの体を包み込み、その身を纏う鎧が徐々に地獄に住む鬼を思わせるような禍々しいものとなっていく。その異様な光景を見た

「また奴が鬼のような姿にさせてしまったみたいね…だが私たちは負けるわけにはいかないっ!!クリスたちの仇を取らなきゃいけないからね。」

「リリシア…シュヴェルトライテが鬼神の姿となった。あいつが鬼神の状態でいられるのは五分…五分間奴の攻撃を受けることなく逃げ切れればシュヴェルトライテはもとの姿に戻る。何せあの能力は少々危険が伴う荒技なのでな…五分以上鬼神の状態を維持し続けようなら奴の体が消滅してしまうのでな、奴はもとに戻らざるを得ない…リリシア、ここは奴の攻撃を回避することに専念しろ…隙ができたら攻撃だ。」

オルトリンデがリリシアにそう伝えた後、二人は素早い動きで回避行動に入る。

 「ほう…鬼神状態が解けるまで回避し続けるつもりか、だがそれは無理な話だ。我が黒死邪刀術・鬼神ノ型は全方位から貴様らに襲いかかる…つまり回避することなど不可能に近いっ!!

シュヴェルトライテは黒刀に練気を注ぎ込み、必殺の一撃を放つ態勢に入る。

「奴が黒刀に練気を注ぎ込み始めた。シュヴェルトライテはこの動作の後に強烈な一撃を放ってくるぞ。リリシア、私についてこいっ!!

オルトリンデが目にもとまらぬスピードで回避態勢に入ると、リリシアもオルトリンデの後についてくる。二人が高速移動で回避態勢に入る中、シュヴェルトライテは黒刀に込められた練気を開放し、気合いとともに黒刀を構える。

「逃がしはせんぞ貴様ら……黒死邪刀術、鬼神ノ型…黒雨!!

構えた黒刀の先から黒き練気が結界の上部に集まり、その練気が刃の雨となってリリシア達を襲う。高速移動で回避する二人は、刃の雨をかいくぐりシュヴェルトライテの方へと近づく。

 「くっ…全方位から攻撃する刀術か…だが私には通用しないっ!!いいかリリシア、刃の雨をかわしつつシュヴェルトライテのほうへと近づけ。刀術を放っている間は奴は動けないうえ無防備状態…奴が動けん今なら攻撃をぶつける絶好のチャンス…態勢を崩せばさらに効率よく鬼神でいられる時間が減らせるぞっ!!

上空から降り注ぐ黒き刃の雨をかわしつつ、両者はシュヴェルトライテの方へと近寄るべく移動を始める。オルトリンデの後を追うリリシアは鉄扇を構え、シュヴェルトライテの背後に回ろうとする。

「よし…いいぞリリシア!!そのまま背後に回り込んで攻撃を加えた後で奴を拘束しろっ!!

攻撃を加えた後で拘束しろとの言葉を受け、シュヴェルトライテの背後に回り込んだリリシアは鉄扇でシュヴェルトライテの背中を斬りつけた後、羽交い絞めにする。

 「き…貴様っ!!いつの間に私の背後にっ!!

リリシアに羽交い絞めにされているシュヴェルトライテは、リリシアから離れるべく体を大きく動かす。シュヴェルトライテを羽交い絞にしているリリシアは、その態勢のままで拘束術を唱え始める。

「羽交い絞めではあまり効果は期待できないわ。ここは拘束術で締め付けるしかないわ…ダーク・チェーン!!

リリシアが詠唱を終えた後、闇の鎖がシュヴェルトライテの体を締め付け、地面に縛りつける。鎖で拘束した後、リリシアはシュヴェルトライテの刀を奪い攻撃手段を奪う。

「いい活躍だったぞリリシアっ!!そのまま奴を拘束し、鬼神状態でいられる時間を少しでも奪えっ!!鬼神状態が解けた後で一気にたたみかけるぞっ!!

リリシアがシュヴェルトライテの刀を奪ったことで、圧倒的不利だった戦況は一気に形勢逆転するのであった……。

 

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