蘇生の章2nd第四十七話 帰還

 

 オーディンの妻のエルザ救出のためにヘルヘイム大監獄の最下層を目指すリリシア達6人の前に、突如としてヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラが現れた。ヴァネッサは鉄甲弓(ボウアームド)でジャンドラを迎え撃つ中、ジャンドラは全ての属性を凌駕する死の魔力の術で対抗する。二人の火花散らす戦いが長引く中、ヴァネッサは鉄甲弓を煌めきの光弓に変え、先読みの能力と巧みな弓術でジャンドラを追い詰めたものの、あと一息というところで逃げられてしまった。ジャンドラとの戦いが終わった後、リリシア達はエルザを救出した後、看守室にある転送陣で地上へと向かうのであった……。

 

 転送陣を使い地上へと戻ってきたリリシアたちは、ヘルヘイム大監獄を抜けてヴァルハラへと向かっていた。監獄の周辺を見回りしていた看守たちはエルザの姿を見るなり、驚きの表情を浮かべていた。

「あ…あれは最下層にとらえたはずのエルザではないか……となればあいつらが脱獄させたのか!!

「噂では紫色の髪をした小娘がラダマンティスを倒したっていうが…いま俺の目の前にいる奴がそうだ!!皆の者、奴らを取り囲めっ!!

看守たちの号令の後、見張りをしていた看守たちが一斉にリリシア達の前を取り囲む。

「くっ…エルザ様を脱獄させた罪として、看守が私たちを大監獄に捕えるために集まってきたわ。ここは強行突破といこうじゃないのっ!!

リリシアが術の詠唱を始めた瞬間、看守たちが武器を構えてリリシア達に襲いかかってくる。

「者ども、殺っちまえっ!!

「悪いけど…私は急いでいるの。あなたたちに邪魔されるわけにはいかないわ。炎よ、竜巻となりて周囲を薙ぎ払わん……ヒート・サイクロンっ!!

武器を構えた看守たちが襲いかかろうとした瞬間、リリシアの放った炎の竜巻が看守たちを次々と吹き飛ばし、道ができる。

 「リリシアの術のおかげで道ができた!!今のうちにヴァルハラへと戻るぞっ!!

オルトリンデの言葉の後、リリシア達は急いでヴァルハラの方へと向かっていく。

「待て貴様ら…ここで逃がすわけにはいかぬっ!!

「ほんとにしつこい奴らね…。私が後方を援護するから、あなたたちは先にヴァルハラへと向かってちょうだいっ!!

執拗にリリシア達を追ってくる看守たちに対抗するべく、ヴァネッサは鉄甲弓を構えて看守たちを攻撃する。ヴァネッサが看守たちと戦っている隙に、リリシア達は先にヴァルハラのほうへと走る。

「ヴァネッサ、後は任せた!!

「わかったわ!!あなたたちはエルザ様の護衛を頼むわ。心配しないで…私は絶対戻ってくるわっ!!

ヴァネッサに看守の相手を任せた後、リリシア達はヴァルハラの西出口へと向かい、オーディンに扉を開けてもらうようにと伝える。

「こちらリリシア…オーディン様、西出口の扉の開放をお願いします。」

「おお…リリシアか。エルザ様を救出したか…よかろう。西出口の扉を開けよう。」

オーディンが西出口の扉を開放した瞬間、ヴァネッサが急いでリリシア達のもとに現れる。

 「お待たせみんな…看守たちはみんなやっつけておいたからもう追手は来ないはずよ。さて、全員無事にヴァルハラへと帰還できたわ。」

ヴァネッサの言葉の後、リリシア達はヴァルハラへと帰還する。リリシア達が宮殿の中に入った瞬間、西出口の扉は固く閉ざされた……。

 

 ヴァルハラへと帰還したリリシアはオーディンの待つ謁見の間へと向かう。エルザを見たオーディンは目に涙を浮かべながら、エルザとの再会を喜ぶ。

「おお…我が妻エルザよ、無事でよかった……。」

「あなたたちのおかげで、無事にオーディン様のもとに帰ることができました…。」

エルザ様がリリシア達にお礼の言葉を述べた後、セディエルがシュヴェルトライテが襲撃したことをリリシアに告げる。その言葉を聞いたリリシアは、怒りの表情を浮かべながらこう答える。

「リリシア様…あなたがヘルヘイム大監獄へと向かっている間、ヴァルハラを襲撃してきたのよ。クリスたちは奴を止めるために戦ったのですが……善戦空しく奴に倒されてしまったの。クリスたちなら私が回復の泉に転送しました。」

「くっ…私がいない間に攻めてくるとは…。それにクリスたちを痛めつけたとなればもう許しはしないわ…次に会った時にはぎゃふんと言わせてやりたいくらいよっ!!

リリシアの言葉の後、オーディンはシュヴェルトライテのことについて話し始める。

 「ふむ…リリシアよ、シュヴェルトライテはさらに力を増している…奴はもう戦乙女ではなく…もはや鬼神だ。もとの戦乙女の姿に戻せなかったら極論……殺してもかまわん。奴は昔から戦い好きでな…他の戦乙女たちと腕を競いあっていたことでも有名だ。特にオルトリンデとは仲が良く、彼女とはよく鍛錬に励んでいたな。悲しいのう……シュヴェルトライテよ。」

オーディンの言葉の後、オルトリンデがオーディンの前に立ち、こう告げる。

「シュヴェルトライテは共に鍛錬を続けてきた私の友達だ。奴を元の姿にすることができるのは私しかいないのだ。オーディン様、どうかこの任は私にやらせてくれぬか……。」

オルトリンデがオーディンに一礼した後、謁見の間を去り自分の部屋へと戻っていく。オルトリンデが謁見の間を去った後、リリシアはクリスたちのいる回復の泉へと向かうため、セディエルを呼び出す。

 「セディエルさん…ちょっといいですか。クリスたちのいる回復の泉に行きたいのですが……。」

リリシアに呼び出されたセディエルは、回復の泉へと行く方法をリリシアに話した後、セディエルはっ回復の泉へとリリシアを案内する。

「回復の泉ですか…それならこの宮殿の地下にあります。では私が案内いたします。」

セディエルの案内を受け、リリシアはヴァルハラの地下にある回復の泉へとやってきた。回復の泉の水が満たされたカプセルの中に、シュヴェルトライテの襲撃でダメージを受けたクリスたちが入れられていた。

「リリシアさん、ここに置かれているのは負傷した人を素早く回復するためのカプセルです。カプセルの内部は回復の泉の水で満たされており、ちゃんと呼吸ができるようになっていますわ。」

セディエルの言葉の後、リリシアは治療中のクリスたちのもとに近づき、仇を必ず討つと告げる。

 「クリスたちの仇は必ず私が討ってみせるわ……私がエルザ様の救出に行ったばかりにこのようなことになってしまって…すまないっ!!

悔しそうな表情のリリシアがそう言った後、セディエルはクリスたちの傷の状態をリリシアに告げる。

「クリスたちの傷は明日には完治します…リリシアさんはそれまで少し休んでいてください。」

「そうね。ヘルヘイムの大監獄では戦いの連続だったから、魔力が残りわずかしかのこってないわ。私もこの泉で少し魔力を回復してから休もうかな…♪」

セディエルにそう告げた後、リリシアは身に纏うローブを脱ぎ回復の泉の中に入り入浴を始める。泉に浸かった瞬間、魔姫の失った魔力が徐々に戻ってくる。

「ふぅ…回復の泉だけあって、戦いで消耗した体力と魔力が回復していくわ…。」

「この泉の効能は体力・魔力の回復だけでなく、全ての状態異常を消しさる神秘の水よ。あ、そうそう…この回復の泉を作られた者から聞いたのですが、この泉の水を飲めば魔力が上がるという噂ですよ。」

泉の水を飲めば魔力が上がるという言葉を聞き、リリシアは手で泉の水をすくい、飲み始める。

「魔力が上がる…か。まぁ一応飲んでみる価値はあるわ。」

リリシアが回復の泉の水を飲んだ瞬間、体の奥底から魔力が沸き起こるような感じに襲われる。

 「泉の水を口にした瞬間、体の奥底から魔力がわいてくるような感じがしたわ…。さて、回復も終わったしそろそろ部屋に戻って休もうかな…。」

入浴を終えたリリシアがローブを身に纏った瞬間、セディエルは何者かの気配を感知する。

「リリシアさん!!ヴァルハラに何者かの気配を感知しました…!!

「私も感じたわ…このおぞましいほどの魔力を!!まさかシュヴェルトライテが再びヴァルハラを襲撃しに来たのかもしれないわ。ちょうどいい…魔力も戻ってきたし、クリスたちの仇を討ちにいくか……。」

リリシアはセディエルとともに宮殿の大広間に戻った瞬間、リリシアの予感は的中した。大広間にはすでに数人の衛兵が斬り捨てられ、血に染まった黒刀を手にしたシュヴェルトライテの姿がそこにあった……。

 

 「ほう…そこにいるのは紫色の髪の小娘ではないか……。貴様の仲間は私が手厚く葬っておいた。貴様の仲間は貴様さえいなければ雑魚同然…一応相手になってやったけど口ほどにでもなかった。」

仲間を侮辱され、リリシアは怒りの表情でシュヴェルトライテを睨みつけ、こう答える。

「よくも私の仲間を傷つけてくれたわね…クリスたちの仇、今ここで討たせてもらいますわよっ!!

リリシアは髪飾りを鉄扇に変え、シュヴェルトライテを迎え撃つ態勢に入る。戦闘態勢に入った魔姫を前に、シュヴェルトライテは不敵な笑みを浮かべながらリリシアを嘲笑する。

「笑わせる…その鉄扇で私と戦おうというのか。だが私の黒刀の鋭さの前には無力だな…はははははっ!!では遠慮なく行かせてもらおうっ!!

シュヴェルトライテが黒刀を構えてリリシアに襲いかかろうとしたその時、何者かがリリシアの前に立ちシュヴェルトライテの黒刀の斬撃を受け止める。

 「くっ…すでに戦闘をはじめていたか。リリシアよ、私と交代だ。ひとつ言っておくが、そなたの援護は受けぬ…私ひとりで十分だ。」

リリシアの前に現れたのは、切先の女王と謳われる戦乙女、オルトリンデであった。

「くっ…オルトリンデめ、なぜ私の邪魔をっ!!わたしと同じ黒き戦乙女ではなかったのか…裏切り者!!

「私は大監獄で紫の髪の小娘と戦乙女たちのおかげで、今まで犯してきた過ちに気付けたのだ。黒き戦乙女となった我が同胞…私の良き理解者である剣帝シュヴェルトライテを元の姿に戻すため、私はあなたを倒しますっ!!

オルトリンデの言葉を受け、リリシアは戦闘態勢を解き戦いの場から去り二人の戦いを見届ける。

「じゃ…じゃあ私はここで戦いを見届けるわ。」

「ダメだ。シュヴェルトライテの奴が貴様を狙ってくるかもしれんからな…貴様は宮殿に戻って休んでいろ…私ひとりで十分だ。」

オルトリンデがリリシアにそう伝えた瞬間、リリシアは宮殿の中へと戻っていく。しかしシュヴェルトライテは宮殿へと向かうリリシアに襲いかかり、逃げられないようにする。

「宮殿の中へと逃げるつもりか…だがそうはさせんぞっ!!

リリシアは背後から襲いかかるシュヴェルトライテの黒刀の斬撃を素早い身のこなしでかわし、シュヴェルトライテから距離を離す。

 「ちょっと、後ろから攻撃とは卑怯な真似をしてくれるじゃないの!!オルトリンデ…その戦い、私も一緒に加えさせてもらうわよ!!

一緒に戦うというリリシアの言葉に、オルトリンデは半ば不機嫌な表情を浮かべながらリリシアに答える。

「くっ…仕方ない。貴様と協力するのは今日だけだぞ。私は一人で戦いたかったのだがな……。」

「何言っているのよ、あなた一人の力では勝てないかもしれないのよ。だからここは私と協力して奴を討つしかないわ。さて、そろそろ戦いに戻るわよ。」

リリシアの言葉の後、二人は戦いの場へと戻ってくる。二人が戻ってきた瞬間、シュヴェルトライテは逃げられないように周囲に黒き練気の結界を張り、邪魔者を遮断する。

「今貴様らの周囲に黒き練気の結界を張った…これで貴様らはもう逃げることはできんぞ。二人まとめて我が黒刀の錆にしてくれるっ!!

シュヴェルトライテがそう呟いた後、黒刀を構えてリリシア達に襲いかかってきた。リリシアとオルトリンデは黒き戦乙女であるシュヴェルトライテを倒し、元の姿に戻すことはできるのであろうか……。

 

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