蘇生の章2nd第四十五話 剣帝【シュヴェルトライテ】(3

 

 オルトリンデが呼び出した恐竜型の召喚獣・アロダイタスに対抗するべく、リリシアはかつて自分と戦った七大魔王の一人・海竜リヴェリアスを召喚し、アロダイタスを迎え撃つ。強力な召喚獣同士の熾烈な戦いの末、リヴェリアスがアロダイタスを制し、オルトリンデとの長き戦いに終止符がうたれた。オルトリンデとリリシアとの戦いが終わり、二人の戦乙女はオルトリンデにかけられているジャンドラの洗脳術を解くべく解呪術(ディスペルスキル)を唱え、オルトリンデを黒き戦乙女から戦乙女に戻すことに成功した。だがその一方、ヴァルハラでリリシアの帰りを待つクリスたちの前に、黒き影が忍び寄りつつあった……。

 

 謁見の間に駆け付けた衛兵から黒き戦乙女の一人であるシュヴェルトライテによってヴァルハラが襲撃されているとの事実を聞き、クリスたちはシュヴェルトライテを足止めするべく謁見の間を後にし、広場へとやってきた。しかしクリスたちの目に見えたのはシュヴェルトライテによって斬り捨てられた衛兵たちの死体の山という惨状であった。その光景に驚くクリスたちの前に、黒刀を構えたシュヴェルトライテが現れ、クリスたちに襲いかかってきた。

「ここじゃ死体が邪魔で動こうにも動けないわ。みんな、奴の攻撃をかわしながら広い場所に移動しましょう!!

衛兵たちの死体が転がる中での戦いは不利だと判断したクリスは、シュヴェルトライテの斬撃をかわしながら広場の中央へと移動する。

 「逃がしはせんぞ貴様ら……我が黒刀の錆にしてくれるわっ!!黒死邪刀術、参ノ型…黒き風刃!!

シュヴェルトライテは黒刀から真空波を放ち、広場の中央へと向かうクリスたちに襲いかかる。

「真空波が飛んできたわ!!みんな、急いで回避の態勢をっ!!

回避の態勢をとるように仲間たちに伝えた後、全員は回避態勢に入りシュヴェルトライテの黒き真空波をかわしつつ、広場の中央へと走っていく。

「くっ…私の放った黒き真空波を全てかわしきるとは見事なり…だが私の黒死邪刀術をあまりなめないでいただこう……!!

その言葉の後、シュヴェルトライテは精神を集中し練気を練り始める。練気を練り始めた瞬間、シュヴェルトライテの周囲に黒き練気のオーラが発生し、黒刀の中へと吸い込まれていく。

「ふははははははっ!!我が黒き練気は刀に直接込めることで斬れ味・威力が倍増する。鬼神化を使ってまで貴様を葬る必要はない…まずは手始めに貴様らの魔力を奪ってやろう!!黒死邪刀術、弱式五ノ型…煌黒閃ッ!!

シュヴェルトライテが黒刀をクリスたちの前に突きつけた瞬間、刀の先から黒き練気でできた波動がクリスたちの方へと放たれる。シュヴェルトライテの行動を見ていたゲルヒルデは、急いで守りの壁を作りシュヴェルトライテの放った黒き波動を防御する。

 「なんとか間に合ったわ…。あの術を受ければ魔力を奪われてしまうからね。リリシア様がいない今、私たちで奴を食い止めなければいけないわ。みんな、全力で立ち向かうわよっ!!

ゲルヒルデの言葉の後、クリスたちは武器を構えて戦闘態勢に入る。

「ほう…よほど私に斬り捨てられたいようだな。まぁいい、貴様らの無力さを呪いながら死ぬがいいっ!!黒死邪刀術、攻式六ノ型…黒龍刃っ!!

シュヴェルトライテが黒き練気が込められた黒刀を振り下ろした瞬間、漆黒の龍の姿をした波動がクリスたちに襲いかかる。シュヴェルトライテの攻撃を防御するべく、ゲルヒルデは再び守りの術の詠唱を始める。

「なんとしても防ぎきってみせる!!サンクチュアリ・フィールド!!

ゲルヒルデが詠唱を終えた瞬間、巨大な壁がクリスたちを取り囲む。しかしシュヴェルトライテの黒き龍の波動はゲルヒルデの守りの防壁を打ち崩し、防御が崩される。

 「そ…そんなっ!?私のサンクチュアリ・フィールドが……破られたっ!!

堅牢な守りの防壁の術が破られ、ゲルヒルデは困惑の表情を浮かべる。シュヴェルトライテは黒き練気を纏ったペインヘルブレイドを構え、ゲルヒルデの方へと近づいてくる。

「貴様の防壁など…厳しい鍛練で身に付けた黒死邪刀術の前には紙切れ同然。さて…まずは貴様から止めを刺してやろう。安心しろ…この私が苦しまぬように葬ってやろう。」

近づいてくるシュヴェルトライテに対し、ゲルヒルデは両手に光の魔力を込めて術の詠唱を始める。

「ふん…また防壁を作り出すつもりか…無駄なことを!!

「それはどうかしら…守りが破られた以上ここは攻撃の術を放ち、あなたを攻撃します!!光の魔力よ…柱となりて対象に罰を与えんっ!!ホーリー・フィクサー!!

魔力を込めた詠唱のあと、シュヴェルトライテの周囲に大きな魔法陣が浮かび上がる。魔法陣が浮かび上がった瞬間、螺旋状の聖なる鎖がシュヴェルトライテの体を締め付ける。

「うぐぐっ…!!体が動かぬ…こやつ、拘束術を使いよったなぁっ!!

「よし!!ゲルヒルデのおかげで攻撃するチャンスができたわ。みんな、一斉に攻撃を仕掛けるわよっ!

カレニアの合図の後、クリスたちは一斉に身動きの取れないシュヴェルトライテに攻撃をしかける。ゲルヒルデはシュヴェルトライテを長い時間拘束できるよう、精神を集中し魔力を高める。

「さらに魔力を加えれば最低でも45秒…長くて一分ほど奴の動きを拘束できるわ。だがそろそろ限界みたいね…これ以上魔力を込めれば術が暴走し味方をも巻き込んでしまうかもしれないからね。」

ゲルヒルデが術に魔力を込めた瞬間、螺旋状の聖なる鎖が強度を増し、シュヴェルトライテの体をさらに締め付ける。シュヴェルトライテの身動きが奪われている隙に、クリスたちは次々と攻撃を仕掛けていく。

 「うぐあぁっ!!くっ…あの小娘のせいでここまで追い詰められてしまうとは!!反撃するにはまずこの聖なる鎖を振りほどかなければならん……だがもうすぐ術が解けるはず!!

シュヴェルトライテの言葉の後、ゲルヒルデの聖なる鎖の術が解け身動きが取れるようになる。

「あの小娘の唱えた拘束術で動けない間に大きなダメージを負ってしまった。こうなったら鬼神化を使うしかあるまいっ!!

クリスたちの攻撃を受けたシュヴェルトライテは自分の体の練気を集め、鬼神化の態勢をとる。鬼神化の態勢に入った瞬間、シュヴェルトライテの体が黒い霧に包まれ、徐々に禍々しい鬼のような形相へと変化していく。

「ちっ…あの時のように鬼神化を使いやがった!!あの眼に睨まれたら終わりだぞ…なるべく奴に睨まれないようにするんだ!!

ディンゴがクリスたちに鬼神の眼に気をつけるように伝えた瞬間、ディンゴはボウガンに弾丸を装填しシュヴェルトライテに照準を合わせ、引き金を引く。ボウガンから放たれた弾丸はシュヴェルトライテに命中したが、堅牢な鬼神の鎧にはじかれ、ダメージを受けなかった。

 「無駄だ、貴様らの攻撃など我が鬼神の鎧が無効化する…。私を再びこのような姿にさせてしまったことを……地獄で後悔させてやろうっ!!

怒りの表情を浮かべるシュヴェルトライテは鬼神の瘴気を放ちながら、スピードを上げてゲルヒルデの方へと向かってくる。

「しまった!!奴はゲルヒルデを狙っているわ。ここは私がシュヴェルトライテを食い止めるから、クリスは裁きの雷をお願いっ!!

カレニアはシュヴェルトライテの前に立ち、シュヴェルトライテの斬撃を受け流そうとつばぜり合いの態勢に入る。

「邪魔だ…立ちふさがるものは斬るのみっ!!

「ゲルヒルデ…ここは私が奴を食い止めるから、あなたは離れた場所でサポートをお願いっ!!

カレニアとシュヴェルトライテがつばぜり合いを繰り広げる中、ゲルヒルデは急いでその場を離れサポートに入る。一方クリスは精神を集中させ、裁きの雷を放つべく詠唱に入っていた。

 「聖なる雷よ…悪しき者を滅せよ!!波導究極雷撃術・裁きの雷っ!!

クリスが詠唱を終えた瞬間、聖なる光がシュヴェルトライテの頭上に集まってくる。聖なる光は雷となり、シュヴェルトライテの体を貫く。

「いいわよクリスっ!!今の一撃で奴は刀を落とし態勢を崩したわ。攻撃するなら今がチャンスよっ!!

クリスの術を受けたシュヴェルトライテが黒刀を落とし態勢を崩している隙に、カレニアがサンブレードの斬撃を食らわせる。クリスの最大術を受けたのにもかかわらず、シュヴェルトライテは黒刀を拾い、再び戦闘態勢に入る。

「ぐっ…私が鬼神でいられる時間はあと2分…奴らの連携攻撃のせいで時間を無駄にしてしまった。だがこのまま引き下がるわけにはいかん…わが瘴気の波動で全てを吹き飛ばしてくれるわっ!!

再び立ち上がったシュヴェルトライテは黒き練気を瘴気の波動に変え、クリスたちを大きく吹き飛ばす。シュヴェルトライが放つ禍々しいほどの瘴気に、クリスたちは動くことすらままならない状態であった。

「やつの瘴気…イザヴェルの城跡で出会ったときとはまるで違うっ!!奴が放つ波動が体を通り抜けた瞬間、痺れるような感覚に襲われてしまいそうだ!!

クリスたちが禍々しいほどの瘴気を受けて動けない中、シュヴェルトライテは全身の練気を黒刀に込め、

「どうだ!!我が瘴気のおかげで動けないだろう…名残惜しいがそろそろ終わりにしてやろう……!!黒死邪刀術・鬼神ノ型、鬼神裂空斬!!

黒刀に込められた練気を解放した瞬間、黒き風の刃が発生し身動きの取れないクリスたちを切り裂いていく。シュヴェルトライテの攻撃を受けたクリスたちはその場に倒れ、力尽きる。

「そんな…私たちでは手に負えないほど強くなっているなんて……っ!!

「ほう…あの紫の髪の小娘さえいなければ貴様らなど無力だな。貴様らの戦闘力は所詮その程度だったということだ!!

シュヴェルトライテがクリスに侮蔑の言葉を放った瞬間、傷つき倒れていたはずのクリスが立ち上がり、武器を構えてシュヴェルトライテの方へ向かっていく。

 「リリシアがいなくても…私たちはあなたのような奴には負けないっ!!

最後の力を振り絞って立ち向かってくるクリスに対し、シュヴェルトライテは黒刀を構えて嘲笑する。

「ほう…まだ立ち上がれるだけの力が残っていたのか…だが、相手が悪すぎたなぁっ!!

「あなただけは…あなただけは私が倒すっ!!こんなところで負けてたまるかぁっ!!

クリスが剣を構えてシュヴェルトライテに立ち向かうが、クリスの斬撃はシュヴェルトライテにことごとくかわされ、黒刀の柄の一撃がクリスの首に炸裂する。

「がはぁっ!!

黒刀の柄の一撃を首に受けたクリスは、その場に倒れぴくりとも動かなくなる。

「あれだけのダメージを受けてなお私に立ち向かってこれた勇気だけは誉めてやろう…。小娘よ、貴様の勇気に免じて命だけは助けてやろう。だが次に会うときは今度こそ貴様らの命を頂くから覚悟しておくがいいっ!!

鬼神化が解けたシュヴェルトライテは黒刀を鞘に納刀した後、ヴァルハラを去りヘルヘイムの王宮へと戻っていく。セディエルとオーディンが駆け付けた時には時すでに遅く、クリスたちは完膚なきまでに倒されていた。

 「そ…そんなっ!!クリスたちが…全滅しているなんてっ!?

クリスたちが全滅しているという事実に、セディエルは驚きの表情を浮かべていた。オーディンは傷つき倒れたクリスたちを回復の泉に運ぶように命じると、セディエルはクリスたちの無事を確認する。

「無理もない…シュヴェルトライテは戦いに関しては戦乙女の中でも最も秀でた才能を持っている。しかしクリスたちのおかげでヴァルハラの危機は去った…だが奴がまたここに来るかもしれぬ。セディエルよ、その者たちを回復の泉に転送したまえ。」

「わかりました。天使の輪よ…その者たちを回復の泉へ転送したまえっ!!

詠唱を終えた瞬間、セディエルの天使の輪が光り輝き傷つき倒れたクリスたちは回復の泉へと転送される。シュヴェルトライテの黒刀の前に無惨に敗れたクリスたちは、その圧倒的な力の差と負けた悔しさを痛感するのであった……。

 

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