蘇生の章2nd第四十二話 狂王の最期
ジーグルーネとヘルムヴィーゲを安全な場所へと逃がすためにその場に残ったリリシアは、危険度☆8クラスの重犯罪者である狂王ラダマンティスと対峙していた。リリシアはラダマンティスの利刀(サングゴム)から怒涛となって繰り出される斬撃をかわしながら、攻撃と術を織り交ぜた戦術でラダマンティスを攻めようとするが、驚異的な素早さでリリシアの眼前に詰め寄り、拘束する。ラダマンティスに拘束されている間、利刀で何度も魔姫の胸部を突き刺されたが、手のひらに集めた黒い塊を投げつけることで回避し、鉄扇を構えてラダマンティスに攻撃を仕掛けようとした瞬間、手に持った利刀がリリシアの右腕を捉え、切り落とす。右腕を切断され、苦痛の表情を浮かべるリリシアはラダマンティスから切断された自分の右腕を取り返した後、態勢を立て直すべく一時撤退するのであった……。
リリシアがラダマンティスと戦っている間、地下十階のとある独房へと逃げ込んだジーグルーネとヘルムヴィーゲのもとに、イザヴェルの工房で技師として働くヴァネッサこと戦乙女ヴァルトラウテが現れた。ヴァネッサはラダマンティスがなぜ脱獄できたかの旨を二人に話した後、リリシアと合流するべく独房を後にした瞬間、そこにリリシアの姿があった。リリシアとの合流を喜ぶ中、血に飢えた狂王ラダマンティスが利刀を構え、四人の前に現れるのであった……。
四人の前に現れたラダマンティスは利刀についた血を舐めながら、不気味な笑みを浮かべていた。しかしリリシアの右腕が元通りになっていたことに、焦りの表情を浮かべていた。
「き…貴様っ!!腕は確かに切り落としたはずだっ…なぜ元通りになっている!!」
「自己再生で右腕を接合した…。魔力が尽きそうになったけどね……。さて、そろそろ勝負といきましょうか…ラダマンティス!!」
自信満々なリリシアの言葉に、ラダマンティスは利刀を構えて怒りの表情を浮かべる。
「ほう…自己再生能力で右腕を接合したというわけか。魔力はいずれ尽きる……貴様の魔力が尽きたとき、俺によって肉塊となるのだ…ヒャヒャヒャッ!!」
ラダマンティスは不気味な笑みを浮かべながら、利刀を前に突き出してリリシアのほうへと向かってくる。その隙を見たヴァネッサはラダマンティスの背後に回り込み、鉄甲弓(ボウアームド)に矢を装填し、ラダマンティスの背中に狙いを定める。
「奴の背後は無防備状態…ならば渾身の一発を背中に撃ち込むっ!!」
ヴァネッサは鉄甲弓の引き金を引き、ラダマンティスの背中に矢を放つ。放たれた矢は一筋の閃光となり、ラダマンティスの背中を貫く。
「うぐぐっ……後ろから攻撃を加えるとは卑怯な…何ぃっ!?」
「援護ありがとう…ヴァネッサさん…。今度は私が相手よ…覚悟しなさいっ!!」
ヴァネッサの攻撃を受けて怯むラダマンティスに、リリシアの鉄扇の一撃が炸裂する。魔姫の鉄扇の斬撃を受けたラダマンティスは傷口を抑えながら床に落ちた利刀を拾い上げた後、全身に力を込め始める。
「ここまで俺を怒らせたのは貴様らが始めてだ……ならば私の本気というものを見せてやろう!!」
ラダマンティスが全身に込めた力を解放した瞬間、全身の筋肉が異常に隆起し全身の至る所に剣のような突起物の生えたトカゲのような姿へと変貌していく。
「ヘッヘッヘ……小娘相手にこのような姿になりたくなかったのだが、ここまで俺を怒らせたのだからな…。この姿の俺は全身凶器だ…不用意に触れようものなら体に至る所に生える刃がその体を無慈悲に引き裂く!!さぁ…始めようか!!絶望と鮮血の地獄のショーというものをっ!!」
その言葉の後、ラダマンティスは刃のように鋭い尻尾を振り回してリリシアたちを襲う。
「うぐっ……すこし掠っただけで皮膚が切れるほどの威力とはね…あの一撃をまともに受ければ腕や足なんて一発で切断されちゃうわ。みんな、ここは近接攻撃じゃ危険よ。術・遠隔攻撃じゃないとダメージを受けちゃうからね。」
全身凶器の生物と貸したラダマンティスに苦戦するリリシアは、近接攻撃ではなく遠隔攻撃で攻めるようにと戦乙女たちにそう伝える。リリシアの言葉を聞いた戦乙女の三人は、それぞれ術が使えるか使えないかの有無を告げる。
「術は使えないけど、鉄甲弓に装填された矢に魔力を込めることは可能ですわ。」
「術なら昔エルザ様に教えてもらったのですが…たいした術ではないけど力になれるかな…。」
「守りの要と呼ばれる私は防御や治癒の術が得意です!!」
三人の戦乙女の言葉の後、リリシアは全身凶器と化したラダマンティスを倒す作戦を思いつく。
「よし!!作戦を思いついたわ。ヘルムヴィーゲ様は身体硬質化の術および治癒の術でサポートを、ジーグルーネ様はモーニングスターで奴の体に生えている突起物の破壊を、ヴァネッサ様は魔力の矢で遠距離射撃でラダマンティスを攻めるのよ。では作戦開始よっ!!」
リリシアが作戦開始の合図を送った瞬間、ヘルムヴィーゲが身体硬質化の術の詠唱を始める。
「私は戦乙女の中でも守り術に優れているのよ。私の身体硬質化は人間の皮膚を鋼のように変え、いかなる刃をも受け付けなくなる守りの術よ。守りの魔力よ…戦う者達に守りの力を与えん…メタル・コーティング!!」
ヘルムヴィーゲの守りの術を受けたリリシアたちは、徐々に身体が鋼のように硬くなり防御力が上がり、ラダマンティスの鋭利な攻撃を防げるようになる。
「おおっ…全身の皮膚がだんだん鋼のように硬くなっていくわ!!これならラダマンティスの一撃を受けても腕や足を切断されなくなるわ!!ジーグルーネ様、剣のような鋭さを誇る突起物の破壊に向かうわよ!!」
リリシアとジーグルーネは武器を構え、一気にラダマンティスのもとへと向かっていく。その二人を見たラダマンティスは刃のように鋭い尻尾を振り回し、リリシアとジーグルーネを切り刻もうとする。
「小娘が…全身凶器と知っていて自分から向かってくるとはな、ならば真っ二つにしてやるよぉっ!!」
「ラダマンティスの奴…また尻尾を振り回してきたわ…ここは跳んでかわすわよっ!!」
リリシアが尻尾攻撃をジャンプでかわすようにとジーグルーネに伝えた後、二人は鞭のように襲い掛かる尻尾をジャンプでかわした後、一気にラダマンティスのほうへと走っていく。
「私は尻尾の切断に入るから、あなたは奴の体に生える突起物の破壊に専念してちょうだい!!」
ラダマンティスの体に生える剣のような突起物の破壊をジーグルーネに任せた後、リリシアは鉄扇を構えてラダマンティスの尻尾の切断にとりかかる。尻尾に近づいた魔姫は鉄扇の乱舞を繰り出し、ラダマンティスの尻尾を集中攻撃する。
「攻撃手段を減らすためにも、なるべく早く厄介な尻尾を切断しないとね。ここは乱舞で一気に攻め、奴の尻尾を切り落とすっ!!」
リリシアの手に持った鉄扇の一撃が、ラダマンティスの刃のように鋭い尻尾を斬り飛ばす。尻尾を切られたラダマンティスは痛みのあまりその場に倒れこむ。
「ぐおぉぉっ…尻尾が……尻尾がぁっ!!」
「尻尾の切断完了!!みんな、そろそろ反撃開始よっ!」
ラダマンティスが激痛に悶え苦しむ中、リリシアたちはラダマンティスに攻撃を仕掛けるべく行動を開始する。
「まずは奴を拘束するのが先決よ。ここは鉄甲弓に麻痺の矢を装填し、急所に向けて放つわ。奴の急所は腹の柔らかい部分よ。柔らかい部位なら麻痺毒が浸透しやすいからね…。」
ヴァネッサは鉄甲弓に鏃に麻痺毒の塗られた弓を装填し、力いっぱい引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、麻痺の矢はラダマンティスの腹に突き刺さり、鏃に塗られた麻痺毒が体の中へと浸透していく。
「攻撃力の弱い遠隔攻撃じゃ、この俺は倒せ……何ぃっ…体が動かんっ!!」
ヴァネッサの放った麻痺の矢が効いたのか、ラダマンティスは倒れた状態で麻痺し、体の自由が奪われる。ヴァネッサが麻痺の矢を放った後、ジーグルーネに頭部を攻撃するようにと指示する。
「ジーグルーネ、今の隙にモーニングスターの一撃を頭部に食らわせてちょうだい。頭部に強力な打撃攻撃を与えれば、めまいを起こさせてさらに動きを奪えるわ!!」
ヴァネッサからラダマンティスの頭部に打撃攻撃を食らわせるようにとの命を受け、ジーグルーネはモーニングスターを構えてラダマンティスの頭部へと走る。
「相手は危険度☆8クラスの重犯罪者…こんな奴を野放しにしていたら監獄から脱走して多数の被害者を出しますわ。だから、遠慮なくいかせてもらいます!!」
ジーグルーネはモーニングスターを振り上げ、力いっぱいラダマンティスの頭部へと振り下ろす。鉄球の重い一撃を受けたラダマンティスは、脳震盪を起こし気絶する。
「うわぁ…女なのに戦うときは派手にやるわね。さて、そろそろ止めの術を唱えようかな……。」
リリシアがそう呟いた後、ラダマンティスに止めの術を放つべく術の詠唱を始める。
「我が身に眠る魔力よ…鋼をも砕く闘気の球体とならんっ…フォーカス・ブラストっ!!」
詠唱を終えた瞬間、リリシアの手のひらから小さな球体がラダマンティスの方へと放たれる。あまりにも小規模で期待外れな術に、リリシアはただ唖然となる。
「魔力は十分に術に込めたはずなのだがこれほど小規模な術とはね…。魔力に長けた私がこんな術を使うとセンスが疑われてしまいそうだわ……。とりあえずこの術は失敗として、やっぱり赤き炎の術を使うべきだったわ…。」
先ほどの術が気に入らなかったのか、リリシアは気を取り直して赤き炎の術の詠唱に入る。
「我が身に眠る赤き炎の魔力よ…燃え盛る煉獄の炎弾となりて対象を焼き尽くさん……赤炎究極炎熱術、殲滅の獄炎球!!」
リリシアの詠唱の後、リリシアの手のひらにあらゆる物を焼き尽くす巨大な火球が形成されていく。魔姫はその大火球をラダマンティスに放った瞬間、先ほど放った闘気の球体が赤き炎の大火球を取り込み、超巨大な闘気の球体へと形を変える。
「ええっ!!私の放った大火球が…さっき私が放った闘気の球体に吸い込まれたっ!!だがその影響で闘気の球体が大きくなった…というわけはあの術は敵味方の術を取り込んで強さを増す球体なのね……。」
その言葉の後、大火球を取り込んだ超巨大の闘気の球体がラダマンティスの体を包み込む。魔姫の放った闘気の球体にラダマンティスの体を包み込んだ瞬間、すさまじいほどの魔力と衝撃に耐えきれず、ラダマンティスは跡形もなく消滅し、灰となる。
「ぐおおぉっ!!ジャンドラ様……無念な……ぎゃああああああぁぁっ!!!」
あたりに響き渡るほどの叫び声の後、リリシアの術を受けて灰となったラダマンティスは風に飛ばされていく。リリシアは戦乙女の三人に先に進むようにと伝えた瞬間、先ほどの戦いで魔力を使いすぎたのかその場に倒れこむ。
「はぁはぁ……なんとか撃破完了…みんな、先を進みっ……!!」
ヴァネッサが魔力を失い倒れたリリシアの額に手を当て、体力と魔力の状態を確かめる。
「体力は十分にあるが、魔力の波長が消えかけているわ。どうやらラダマンティスとの交戦中に魔力を使いすぎたんだわ。まぁしばらく休めば失った魔力は元通りになるわ。」
ヴァネッサがしばらく休むようにとリリシアに言った瞬間、リリシアは再び立ち上がろうとするが、魔力の残量が残り少ないせいか、またすぐに倒れてしまう。
「はぁはぁ…ここで休んでなどいられないわ。早くしないと、エルザ様が……。」
「あなたは良くがんばったわ。私が背負ってあげるから、しばらく休んでいてちょうだい。」
ヴァネッサは倒れたリリシアを背負うと、一行はエルザが囚われている牢獄へと向けて足を進めるのであった……。
一方転送術でヘルヘイムの王宮へと戻ったジャンドラは、ヘルヘイム大監獄にいるジャンドラの生体反応を探る。しかしラダマンティスはすでにリリシア達によって倒され、すでに生体反応は感じられなかった。
「ラダマンティスの生体反応が消えた!!どうやら奴と渡り合える奴がこの牢獄内にいやがる可能性がある……。いったい誰がラダマンティスを滅ぼしたのだ…!!まぁいい、肉体は滅んだが魂は消えてはいない…奴の魂を回収し私の反魂術を用いれば、強力なアンデッドに仕立て上げられるからな…ハハハハハッ!!」
ジャンドラは不気味な笑みを浮かべながら、ラダマンティスの魂の回収へ向かうべく再びヘルヘイム大監獄へと赴くのであった……。