蘇生の章2nd第四十一話 斬り裂き魔からの逃走

 

 地下九階に辿りいついたリリシア達の前に、ついに危険度☆8クラスの重犯罪者である狂王ラダマンティスが姿を現した。ラダマンティスは二人を見るなり、利刀を振り回しながら執拗に追いかけまわされたが、物陰に隠れることで難を逃れた。リリシアとジーグルーネがラダマンティスから逃げながら地下十階の中を進む中、目の前に黒き戦乙女の一人であるヘルムヴィーゲが現れた。彼女は黒き戦乙女のふりをして、ヘルヘイムの動向を探っていたのだ。ジーグルーネはヘルムヴィーゲとの再会を喜ぶ中、利刀を構えたラダマンティスが彼女たちの背後から襲いかかろうとしていた。その危機を察知したリリシアは彼女たちにその場から離れるようにと命じた後、ラダマンティスとの戦いに臨むのであった……。

 

 ジーグルーネとヘルムヴィーゲがその場から離れた後、リリシアは鉄扇を構えてラダマンティスと対峙していた。ラダマンティスは懐から砥石を取り出し、血ぬられた利刀を研ぎ始める。

「ケッケッケ……まずはどこから斬り落としてやろうか…。」

「くっ…こんなところであなたと戦うことになるとはね。まぁいいわ、私の魔力であなたを葬り去ってあげるわ…さぁ、かかってきなさい!!

リリシアが戦闘態勢に入った瞬間、ラダマンティスは不気味な笑みを浮かべながらリリシアの方へと近づいてくる。

「クハハハハハッ!!いいぜ…小娘のその輝く瞳、ぜひとも私のものにしたくなった。貴様を殺した後、その赤い瞳をくりぬき、俺のコレクションに加えてやるよっ!!

不気味な笑みを浮かべながら、ラダマンティスは両手に持った利刀を振り回し、リリシアに襲いかかってくる。しかしリリシアは怒涛となって繰り出される連撃をかわしつつ、ラダマンティスの背後に回り込む。

 「狂っている…奴は本当に狂っているっ!!私のことをただの肉の塊としか見ていない……!!

ラダマンティスの背後に回り込んだリリシアは鉄扇の一撃を食らわせた後、急いでその場から離れ様子を窺う。背中にダメージを受けたラダマンティスは少し怯んだものの、またすぐに態勢を立て直し再びリリシアに襲いかかってくる。

「痛ぇ……痛ぇよぉっ!!貴様だけは…貴様だけはここでバラバラにしてやるよぉっ!!

怒りに燃えるラダマンティスは素早いスピードでリリシアに詰め寄り、すさまじいスピードで利刀の乱舞を繰り出す。リリシアはラダマンティスの攻撃を受け流すべく鉄扇で応戦するが、そのすさまじい速度で繰り出される利刀の一撃に押され、大きく吹き飛ばされる。

「くっ……なんて威力なのよ。この私がここまで追い詰められているとはね……。」

「貴様は俺を怒らせた……腕の一本では済まさん…貴様の体すべてを切り刻んでやるっ!!

大きく吹き飛ばされたリリシアは急いで態勢を立て直し、術の詠唱に入る。少しでも術を放てるよう、早口で術の詠唱を試みるが、ラダマンティスの強襲を受け集中が途切れてしまう。

 「暗黒の球体よ…対象を包みこみ破壊せ……きゃあっ!!

地面に押さえつけられたリリシアの目に、ラダマンティスの利刀の鈍く光る切先が映る。リリシアを押さえつけているラダマンティスは利刀を構え、リリシアの体に突き刺していく。

「さて…最初に心臓を貫くのには惜しい。なのである程度傷つけてから止めを刺すっ!!

リリシアの体に利刀が突き刺されるたび、血しぶきがラダマンティスの体に降りかかる。魔姫は遠のく意識の中、猛烈な勢いで繰り出される拘束攻撃から逃れる方法を考えていた。

「うぐっ…連続で突き刺し攻撃を受けられては命が危ない。考えるんだ…奴から抜け出すための方法を……!!

「さて、そろそろ心臓に突き刺してやるよっ!!地獄に落ちな…小娘っ!!

ラダマンティスが止めの一撃を放とうとした瞬間、リリシアは手に集めた黒い塊をラダマンティスの顔めがけて飛ばす。リリシアの放った黒い塊を顔面に受けたラダマンティスは、利刀を手放し無防備な状態となる。

 「よし!!シャドーボールが顔面に命中したことで心臓への一撃は避けられた。だが拘束中に何度も体を突き刺されたせいで意識がだんだん遠のいていきそうだわ……。ここは先ほど手に入れたエスパーの能力『自己再生』を使い、少しでも傷を回復させなきゃね…。」

リリシアは精神を集中させ、自らの傷を回復するべく瞑想を始める。リリシアが目を閉じて瞑想を始めた瞬間、ラダマンティスに突き刺された箇所がみるみるうちに塞がり、体力が回復する。

「自己再生の能力である程度体力が回復したわ。さてそろそろ戦闘再開よっ!!

ラダマンティスがリリシアの放った黒い塊を受けてもがき苦しんでいる隙に、リリシアは鉄扇の乱舞をラダマンティスに食らわせる。

「はあああぁぁっ!!

リリシアの手に持った鉄扇の鋭い刃が、次々とラダマンティスの体に襲いかかる。魔姫が止めの一撃を放とうとした瞬間、ラダマンティスの利刀がリリシアの右腕を捉える。

 「ヒヒヒヒッ!!腕一本…頂きっ!!

その言葉の後、ラダマンティスの利刀がリリシアの右腕を斬り落とす。ラダマンティスは斬り落とされた魔姫の右腕を拾い上げ、切断面から流れる血を舌で舐め、悦楽の表情を浮かべていた。

「生き血…生き血だぁっ!!処女の生き血…うまい…うますぎるっ!!

「うぐぐっ…私の血を舐めて喜んでいる……奴め、かなり狂っているっ!!しかし奴は腕から流れる血を啜っていて無防備状態。右腕が使えない今、ここは術で対抗するしかないわ。」

右腕を失い、痛みに苦しむリリシアは左手に赤き炎の魔力を込め、ラダマンティスに炎弾を放つ。

「処女の生き血……うまい…もっと飲みた…ぐおおぉっ!!

リリシアの生き血を啜っているラダマンティスの背中に命中し、手に持っているリリシアの右腕を手放す。魔姫はラダマンティスが怯んでいる隙に自分の右腕を抱え、急いでその場から去っていく。

「はぁはぁ……ここなら奴に気付かれなさそうね。まずは斬り落とされた右腕を接合しなきゃね。」

一旦戦闘から離脱したリリシアは、誰もいない牢獄へと逃げ込み右腕の接合を開始する。魔姫が目を閉じて瞑想を始めた瞬間、ラダマンティスに斬り落とされた右腕が接合され、元通りになる。

 「ふぅ…これで右腕が自由に動くようになったわ。二度にわたる自己再生で魔力を大幅に消費してしまったわ。さて、そろそろジーグルーネ達と合流しなきゃね…。まだ地下十階にジーグルーネ達の気配を感じるわ。ラダマンティスに見つからないように魔力を消して行動しないとね。」

自己再生で体力を完全に回復したリリシアは、ジーグルーネ達を探しに向かうのであった……。

 

 一方ラダマンティスの手から逃れたジーグルーネとヘルムヴィーゲは、地下十階の独房で身をひそめていた。突然の来訪者に、囚人は困り果てた表情で二人の方を振り向き、そう言う。

「おいおい、お前らは看守ではないが…早くここから出て行ってくれないか?

「今はそんなこと言っている場合じゃないわ。今地下十階には危険度☆8クラスの重犯罪者の狂王ラダマンティスが最下層の牢獄から脱走し、ここをうろついているのよ。外に出れば確実に殺されてしまうからね。誰からも中の様子が見ることができない独房なら、奴は絶対に襲ってきたりはしないからね。それにしても…リリシア様は大丈夫かしら?私たちを逃がすためにラダマンティスと戦っているのですが……。」

ラダマンティスが脱獄したことを聞いた囚人は、驚きのあまりただ茫然としていた。

 「ま…まさかあのヘルヘイム史上最凶最悪の連続殺人犯が脱獄したとはな!!しかし最下層は警備も厳重だし、そこに入れられた囚人は全て身体拘束で動きを封じられ、飯のときだけ外されるって話を聞いたことがある。しかしあそこからどうやって最下層の牢獄から脱獄したんだろうな…?

囚人の言葉の後、何者かが独房の扉を開けて中へと入ってくる。

「その件については説明は私が…お話いたしますわ。」

「あ…あなたはまさか……ヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラと互角に渡り合ったといわれる知略に長けた戦乙女、ヴァルトラウテ様では!?

独房の中に入ってきたのは、イザヴェルの工房の親方を救うべくヘルヘイム大監獄に突入したヴァネッサこと戦乙女ヴァルトラウテであった。ヴァネッサは二人のもとに近づき、その真相を話し始める。

 「これはこれは…ジーグルーネ様にヘルムヴィーゲ様…久しぶりじゃないの。私はイザヴェルの工房の親方様を助けるためにここに来たのよ。しかしこんなところであなたたちに再会できるとは思わなかったわ……さて、ここから本題に入るわ。☆8クラスの重犯罪者である狂王ラダマンティスがなぜ最下層の牢獄から脱獄できた理由、それは単純な事よ。この監獄の中にいる誰かがラダマンティスを解放したに違いないわ。ここに投獄されている囚人を解放したり拘束できる人間は、この監獄内にいる看守しかいないってことよ。」

ヴァネッサの言葉の後、戦乙女の二人はそれぞれ自分の意見を出し合う。

「ヴァルトラウテ様の言うとおり、この監獄にいる誰かがラダマンティスを解放したという可能性もあり得そうね…。それよりリリシア様の身が心配だわ。早く探しに行きましょう。」

「オルトリンデ様とシュヴェルトライテ様もこの監獄に来ていたから、大監獄の看守ではないような気がするわ。一瞬だけど、ここに来る途中死霊王の気配を感じたのですが、気のせいかな?

ヘルムヴィーゲの言葉を聞いた瞬間、ヴァネッサは何かを思いついた表情でこう答える。

 「まさか…このヘルヘイム大監獄でジャンドラの気配を感じたですって!?では看守がラダマンティスを解放したのではなく、ジャンドラがラダマンティスを解放したってことになるわね。お手柄よヘルムヴィーゲ!!あなたを偵察に出した甲斐があったわ。さて、偵察の役目が終わったことだし、封印の腕輪を外す作業に取り掛かるわ。」

ヴァネッサはヘルムヴィーゲの腕にはめられている腕輪に手をかけ、封印の腕輪を彼女の腕から外していく。腕輪が外された瞬間、ヘルムヴィーゲは少女の姿から大人の女性へと変貌していく。

「ふぅ…ようやく大人の姿に戻ることができたわ。これで思い切りコルセスカを振るうことができますわ!!ヴァルトラウテ様、私も一緒に同行しますわ!!

「是非ともお願いいたしますわ!!まずはラダマンティスと戦っているリリシアを探しましょう。ラダマンティスはこの階層をうろついているから、早く見つけないと奴に切り刻まれてしまうからね…。」

ヴァネッサの言葉の後、三人は独房を後にしリリシアの捜索へと向かう。三人が独房の外に出た瞬間、その目の前にリリシアがいた。

「はぁはぁ…ジーグルーネ様、ようやく見つけた……ってなぜヴァネッサさんがここにいるのよ!?

「久しぶりじゃない…リリシア。イザヴェルの工房の親方が黒き戦乙女の奴らによって大監獄に投獄されたのよ。私は親方様を助けるために、セイントバードの力を借りてこの大監獄まで来たのよ。それにしても、ドレスに血がたくさん付いているけど、もしかしてラダマンティスから受けた傷なの?

ヴァネッサがドレスについている血のことについて尋ねると、リリシアはその旨について話し始める。

「確かに奴から攻撃を受けたわ。胸部を三回ほど突き刺されたうえ、右腕を斬り落とされたわ。まぁ私は自己再生を使えるので、すぐに接合したけどね…。」

「あれだけの重傷を負いながら、よくラダマンティスから逃げ切れたものね…。普通ならば殺されていたところだが、さすがは闇黒竜を倒しただけあるわ…。」

ヴァネッサがそう言った後、リリシア達の前にラダマンティスが不気味な笑みを浮かべながら現れる。ラダマンティスは砥石で利刀を研ぎながら、舌舐めずりをして獲物を睨みつける。

 「ヒヒヒ…ようやく小娘を見つけたぜ!!今度こそ切り刻んでやるぜ……!!

ラダマンティスの言葉の後、リリシアは鉄扇を構えてラダマンティスにそう言い放つ。

「私もそろそろ逃げ続けるのに飽きたからね……真剣勝負といこうじゃないの…ラダマンティス!!みんな、行くわよっ!!

武器を構えたリリシアがそう言った後、三人の戦乙女たちは一斉に武器を構えて戦闘態勢に入り、狂王ラダマンティスとの戦いに臨むのであった……。

 

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