蘇生の章2nd第四十話 暗闇にうごめく狂気
大監獄の地下五階・凍結地獄へと来たリリシアとジーグルーネは、凍角龍ホルレイシアを退けて地下六階へと向かっていた。一方イザヴェルの工房の親方を解放するべく動く大監獄を進むヴァネッサは、地下四階にいたランスロットからリリシアとジーグルーネがヘルヘイム大監獄に来ていることを知り、先を進むリリシア達と合流するべく行動を開始した。しかしその頃は地下牢獄の最下層(重犯罪者収容階層)へと赴いたヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラはかつてヘルヘイムで何人もの命を奪った☆8クラスの犯罪者である狂王ラダマンティスを解放し、手を組む代わりに看守どもを皆殺しにするようにと命じるのであった……。
リリシア達が地下六階へと来た瞬間、そこには看守たちの姿はいなかった。
「この階層には看守たちがいないわ。急いで先に進みましょう。」
リリシアがそう呟きながら先を進もうとした瞬間、目の前に武器を構えた一人の看守が現れる。
「侵入者だ……と言いたいところだが、ここには看守たちはいない。先ほど地下牢獄の最下層から危険度☆8クラスの犯罪者である狂王ラダマンティスが脱獄し、ランスロットから最下層である地下十六階に行けとの命令が下された。俺は最下層に行って無駄死にしたくないから、ここで囚人たちの世話係をやっているというわけだ。」
看守の言葉を聞いたジーグルーネは、驚きのあまり言葉を失う。
「狂王ラダマンティス……その名前はオーディン様から聞いたことがあるわ。ヘルヘイムの宮下町で何人もの人間を両手に構える利刀(サングゴム)で無残な肉塊にしてきた凶悪犯罪者よ。その後彼はヘルヘイム教皇庁の大司教ハバネロによって拘束され、ヘルヘイム大監獄の最下層へ投獄されたのよ。あいつが自由の身になれば、この監獄にいる者すべてを殺してしまう可能性があるわ。そうなったら……エルザ様までもが餌食になってしまいますっ!!」
エルザが殺されてしまうのではないかと悟ったジーグルーネの言葉を聞いたリリシアは、ジーグルーネの肩に手をかけてそう言う。
「凶悪犯が脱獄ですって……そいつはやばい話になってきたわね。ジーグルーネ様、早いとこエルザ様を見つけてここから脱出するしかないわ。凍結地獄の大型生物を倒した私たちは腕に自信があるが、奴に刃向かうのはさすがに無謀というものよ。もしラダマンティスとやらの姿を見かけたら、逃げるしか方法はないわ。さぁ、ラダマンティスよりも先にエルザ様の牢獄へと向かいましょうっ!!」
リリシアの言葉の後、ジーグルーネとともにエルザ様が囚われている牢獄を目指すのであった……。
一方そのころラダマンティスは最下層にいる看守を皆殺しにし、現在地下十一階へと来ていた。
「うおおぉっ!!まだまだ斬り足りねぇ……もっと斬らせてくれよぉっ!!」
利刀を構えて暴走するラダマンティスを取り押さえるべく、ランスロットからラダマンティスを取り押さえるようにと命を受けた看守たちが集結し、ラダマンティスを迎えうつ。
「武器をおろせっ!!さもなくば発砲する!!」
「最下層の看守をも手にかけよって、貴様だけは必ず私が殺してやるっ!!」
武器をおろせという看守の言葉にも耳を貸さず、ラダマンティスは利刀を構えて看守の方へと向かっていく。看守の一人は貫通弾よりも殺傷能力の高い突貫弾が数発装填されたボウガンの引き金を引き、ラダマンティスめがけて発砲する。
「武器をおろせというのが聞こえんようだな。ならば我がボウガンでハチの巣にしてやろう!!」
ボウガンから数発の突貫弾が発射され、ラダマンティスの方へと向かってくる。しかしラダマンティスはそれに臆することなく利刀の乱舞を繰り出し、次々と放たれる突貫弾を切り裂いていく。
「うぐぐ…ボウガンの弾すら切り裂いてしまうとは…ならば貴様を斬り捨ててくれ……ぐわあっ!!」
軍刀を鞘から引き抜こうとした瞬間、ラダマンティスの利刀が看守の一人の首を斬り捨てる。その後ラダマンティスは次々と看守たちを皆殺しにした後、死体に手をかけて何やら呪文をつぶやき始める。
「ただ斬り捨てるだけでは物足りねぇな。看守の死体を媒介にして手下を生み出すとしよう。屍よ…魔物として再び命を与えよ……デッド・リバースっ!!」
ラダマンティスが術を唱えた瞬間、看守の死体が徐々に怪物のような物へと変貌を遂げ、命が吹き込まれる。看守の死体から生まれた魔物のその手には、ラダマンティスと同じく利刀が握られていた。
「フフフ…さぁ行けサングゴマーよ!!その利刀で看守たちを皆殺しにするのだ。後はあいつらに任せておけば、私は大監獄の上層にいる看守どもを皆殺しにできそうだ……ハハハハハッ!!」
サングゴマーは構えた利刀を振り回しながら、地下牢獄の看守を斬り捨てるべく階段を駆け上っていく。配下のサングゴマーが去った後、ラダマンティスは目を閉じて地下牢獄内の生体反応を探る。
「むむ…地下牢獄の上層に処女の生き血の気配がする……斬りてぇ…斬ってその生き血をすすってやりてぇ気分だっ!!」
処女の生き血の気配を感じ取ったラダマンティスは、利刀を構えて階段を駆け上っていった……。
一方エルザを捜索する二人は大監獄の地下九階へと来ていた。この階層も看守はラダマンティス討伐へと赴いており、看守の姿をした者は誰一人いなかった。
「ここも看守はいないようね。ジーグルーネ様、エルザ様の魔力は感じられました?」
「いや、ここにはエルザ様の魔力は感じられません。リリシア様、先を進みま……っ!?」
ジーグルーネがリリシアの方に振り返った瞬間、前方に利刀を構えた魔物たちの姿がそこにあった。
「敵襲みたいね…見たところ奴は看守じゃなさそうね…。私が見たところ、こいつは死体を媒介として生み出された魔物ね。とりあえず戦うわよっ!!」
二人は武器を構え、サングゴマーを迎え撃つ態勢に入る。二人が戦いの構えに入った瞬間、サングゴマーは利刀を構え、リリシア達の方へと向かってくる。
「キシャアアアアァッ!!」
雄たけびを上げながら向かってくるサングゴマーに対し、リリシアは鉄扇で対抗する。リリシアは両手に持った利刀から怒涛となって繰り出される連続攻撃を鉄扇で受け流しながら回避し、一気にサングゴマーの背後へと回り込み、鉄扇の一撃を食らわせる。
「まずは一匹撃破っ!!ジーグルーネ様、そっちはどう?」
「こちらも一匹倒したわ。戦っているときに気付いたけど、奴が刀を交差させている間に私のモーニングスターの一撃を食らわせたら、手に持っている刀を落として態勢を崩したわ!!奴が態勢を崩している隙に刀を奪って逆に斬りつけてやることも可能よ。リリシア様、その調子で魔物たちを全滅させるわよっ!!」
ジーグルーネの言葉の後、二人は絶妙なコンビネーションで襲いくるサングゴマーたちを全滅させることに成功した。サングゴマーを全滅させたリリシア達の前に、サングゴマーより大きな姿をした魔物が二人の前に現れ、そう言う。
「美しい小娘が二人いた……。斬りてぇ…斬りてぇ!!」
ジーグルーネはその魔物の姿を見るなり、リリシアの手をひっぱりながら逃げるようにそう言う。
「ま…まさかあいつは狂王ラダマンティスっ!!リリシア様、急いで奴から逃げましょうっ!!奴は自分でも制御できないほどの異常なまでの殺人衝動を心に秘めているわ。見つかれば確実に殺されてしまいますわっ!!」
異常なまでの殺人衝動を心に秘めるラダマンティスから離れるべく、二人は急ぎ足でその場を後にする。しかしラダマンティスは利刀を構え、執拗に二人の後をつけてくる。
「処女の生き血……啜りてぇっ!!斬らせろ…斬らせろぉっ!!」
利刀を構えながら襲ってくるラダマンティスから必死に逃げる二人は、姿を隠せそうな物陰に隠れてやり過ごす。二人が物陰に隠れている中、ラダマンティスは利刀を構えて地下十階へと続く階段を駆け下りていく。
「ふぅ…なんとか奴をやり過ごすことに成功したわ。それにしても何なのよあの異常なまでの殺人衝動は。私たちを見るなり『斬りたい』とか言ってくるから驚いたわ。」
「奴は地下十階へと移動したわ。エルザ様を救出するためには奴から逃げ続けなければいけないわ。リリシア様、奴と戦うときは逃げきれなくなった時よ。それ以外は絶対に奴に刃向かうという無謀な行為はやめといた方がいいわ…。ここで死んだら何もかもが終わりになってしまうからね。」
ジーグルーネがリリシアにそう言った後、二人はラダマンティスのいる地下十階へと続く階段へと向かうのであった……。
リリシア達が地下十階へと向かう中、先を進む二人と合流すべく大監獄を進むヴァネッサは地下八階へと来ていた。地下八階には看守が二・三人いるだけで、残りの看守はラダマンティスを取り押さえるために最下層へと向かっていた。
「ラッキー、看守の数が少ないわ!!これなら楽に合流できそうね…。」
ヴァネッサが階段の方へと歩こうとしたその時、看守の一人がヴァネッサに近づき地下牢獄で起こっている出来事を告げる。
「侵入者だ…とか言いたいんだけど今はそれどころではない。危険度☆8クラスの重犯罪者である狂王ラダマンティスが最下層の牢獄から脱獄しやがったんだ。看守たちは看守長の命を受けて最下層に向かっているんだ。おっと、ここから地下へと向かうんなら奴に注意したほうがいいぜ。奴はとんでもない殺人衝動の持ち主だ。目に映るものすべてを斬り捨てる残虐非道な奴だからな……。」
ラダマンティスの名を聞いた瞬間、ヴァネッサは驚きのあまり表情をこわばらせる。
「な…なんですって!?オーディン様から昔に奴が大監獄に投獄されたと聞いたことがあるが、最下層の囚人がいとも簡単に脱獄するとは行きすぎた話だわ…。何者かがラダマンティスを脱獄させたとしか思えないわ…。ここから先は奴に見つからずに行動できるかが重要になってくるわ。まぁ私の先読みの能力があれば見つかってしまうことはほとんどゼロに近いけどね……。」
ヴァネッサが地下九階へと続く階段へと向かおうとした瞬間、大監獄の看守たちを皆殺しにするべく上層を目指すラダマンティスの配下魔物のサングゴマーの群れがヴァネッサの前に現れる。
「キシャアァッ!!」
「くっ…邪魔者が大勢現れてきたわ。悪いけど、邪魔するものはここで消えてもらうわ。」
ヴァネッサは鉄甲弓(ボウアームド)に矢を装填し、彼女の魔力を矢に込めながら引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、放たれた矢は無数の光の矢となりサングゴマーの群れを次々と葬っていく。
「ふふっ…ただ剣を振り回すだけの魔物なんて、単純すぎて相手にもならないわ。しかしここから先の階層から奴の気配とリリシアの魔力が感じられたわ。リリシア…ジーグルーネ…どうか無事でいてっ!!」
二人の無事を願いつつ、ヴァネッサは地下九階へと続く階段を駆け下りていった……。
地下十階へと到達したリリシア達は、ラダマンティスの気配を探りながらゆっくりと地下牢獄の中を進んでいた。
「ラダマンティスは地下十階のどこかにいるわ。もし見つかれば私たちはきっと殺されてしまいますので、気配を消しながら進みましょう。」
二人はなるべく魔力を消し、ラダマンティスに見つからないように薄暗い牢獄の中を進んでいく。しばらく進んでいると、二人の目の前に人影が現れる。
「目の前に人の影が見えました。まさか…ラダマンティスっ!?」
ジーグルーネの言葉を聞いたリリシアが鉄扇を構えた瞬間、そこには黒い兜をかぶった少女の姿が目に映る。黒い兜の少女はリリシアに襲いかかる気配はなく、魔姫の後ろにいるジーグルーネの方へと向かい、嬉しそうな表情を浮かべる。
「あ…あなたはもしかして……ジーグルーネ様ではっ!?」
「もう黒き戦乙女のふりはしなくていいのよ…ヘルムヴィーゲ。リリシア様…紹介するわ。このお方はヘルムヴィーゲという守りに長けた戦乙女よ。本当は大人の姿だが、奴らの動向を探るために力の一部を封印し、少女の姿になっていたのよ。さぁ、その黒い兜と封印の腕輪を外してもとの姿に戻りましょう……。」
ジーグルーネが力の一部を封印している腕輪を外そうとした瞬間、ヘルムヴィーゲの背後に利刀を構えたラダマンティスの姿が現れる。リリシアは二人にその場から離れるようにそう言うと、鉄扇を構えてラダマンティスの前に立つ。
「二人とも離れて…ラダマンティスが現れたわ!!ここは私に任せて、あなたたちは逃げてっ!!」
リリシアがラダマンティスを相手にしている間に、ジーグルーネとヘルムヴィーゲは急いでその場を後にする。二人を無事に逃がすためには、もうラダマンティスと戦うしか方法はないのだ。
「フフフフッ……見つけた…紫の小娘っ!!さて……どうやって痛めつけてやろうかな。まずは両腕を…そのあとに両足を斬り落としてやるよっ!!」
ラダマンティスは狂気の笑みを浮かべながら、血に染まった利刀を構えてリリシアの方へと向かっていく。はたして魔姫は危険度☆8クラスの重犯罪者である狂王ラダマンティスを撃破することができるのか……!?